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コンテスト短編 アニメイトバディ1

結成!乙女ゲー国外追放同盟〜逆行したコソ泥モブと前世持ちの悪役令嬢が結託、逆ハー阻止に奮闘す〜

作者: 花河相

最後まで読んでくださると幸いです。

「貴様はここから自由となる。帰ってくるんじゃないぞ」

「ふざけるな!」

 

 ふざけんじゃねぇ。

 俺はただ、物を盗んだだけじゃないか。


 なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ。

 俺、アレン=プロブレードはプライドの高い公爵令嬢に騙されてこんなことになった。

 あいつが平民女をいじめるからこうなるんだ。

 

「何を言っている?処刑ではなく、国外追放で済んだだけでもありがたいと思え、このコソ泥の分際で……な!」

「ぐふ」

 

 ……痛い。

 このやろう騎士の分際で俺を殴りやがった。


 俺はリベルタルス王国から遠く離れた辺境、国境近くの大森林に追放された。

 

 俺はある公爵令嬢から頼まれて盗みをしただけなのに。

 なんで巻き添い喰らわなきゃいけないんだ。

 それなのに……くそ、くそ、くそ!


「じゃあな、国の恥め……朽ち果てて死んでくれ」

「くぞぉぉぉぉ!?」


 絶対復讐してやる。

 俺をこんな目を合わせた連中に。


 汚く……しぶとく……生き長らえてやる。







 だが、サバイバルなんてしたことがない。そのせいで騎士たちに置き去りにされた3日後に限界がきた。

 ……あれからほとんど飲まず食わず。

 なんで水すらないんだよ。

 食べ物も食えるかわからないキノコや草木ばかり。食べても変な味するし、幻覚が見えてきた。


「……あ……れ?」


 飢えで限界になり、崖から足を滑らせ、体を地面に強打してしまった。

 意識が遠のき、体の力が抜け、今までの自分の人生がフラッシュバックされるように走馬灯が流れる。


 限界であった。 


「ああ……なんて惨めな人生だ」


 子爵家に生まれた。

 貴族は贅沢をするものだと思ったが、我が家は貧乏貴族というもので、平民と変わらない生活。

 

 小さい時から無駄に手先が器用で、影が少し薄いという以外取り柄がなかった地味なやつだった。

 だが、その地味さは俺の生活を変えるには充分すぎた。

 

 贅沢をしたいなら、奪えばいい。

 学園に入学後にこの考えが浮かぶ。

 

 小遣い稼ぎで人の財布をスッたり、人の視線を掻い潜り商品を盗んだ。

 奪うことで贅沢をした。

 

 だが、それがいけなかった。悪事をしたから公爵令嬢に目をつけられた。

 騙されいいように使われた。罪人となり国外追放になってしまった。

 

 ああ……なんて惨めな人生なんだ。


 今思えば両親は貧しいながらも領民を想い、一生懸命仕事をしていた。

 そういえば俺は両親に迷惑をかけるだけで、恩を返せなかった。


 ……なんでこんなことに。


 こんなことになるなら真っ当に生きればよかった。

 数少ない特技も活かしようによっては人のためにもなったのだろうか?


 もう今更だな。

 少しずつ意識が遠のく。

 後悔しても遅いのになぁ。

 やり直したい。真っ当になりたい。


 そう思ってももう遅い。

 ああ……ごめんなさい父上、母上。


 親不孝な息子に育って。


 もしもやり直せるなら……次は真っ当に。

 こうして俺は人生が終わりを迎えた。












「……見慣れた天井だ」


 おかしい。

 国境付近の森にいたはずなのに貴族学院寮内の自室で寝ていた。


「……全て夢だったのか?」


 体に異常はない。幻覚も映らないし、痛みもない。

 ……いや、それにしてはリアルすぎる。


 ふと、ベッドから立ち上がり姿見鏡を見る。

 黒髪黒目の地味な顔。……茶色の寝巻き姿。

 

「この服は俺が入学前に来ていたやつだ。……ということは今はいつなんだ?」


 夢ってのは半分以上記憶が残らないはずだが、鮮明に覚えている。


 今ある記憶を辿りながら考え、出入り口のドアにかけてあるカレンダーを確認する。

 

「過去に戻ってる?」


 逆行というやつなのだろうか?

 

「……いや、そんなことはどうでもいい」


 今確認すべきことがある。それはいつかということだ。


「今は……入学前、3月」


 ああ……本当によかった。真っ当になれるチャンスがある。

 全てが始まる前。これならやり直せる。

 

 やることを整理しよう。

 まずは最初は平民から男爵になったあの令嬢と公爵令嬢に関わらないこと。


 次に真っ当に生きること。

 この時期にはまだ俺は悪事をしていない。

 勉強をしよう。人に親切にしよう。

 

 決意を改め、俺は貴族学院の入学式に備えるのだった。









 そう決意して早1ヶ月が経過した。

 俺はある違和感を覚えた。


 アリシアは栗色の髪を肩あたりで切り揃えている童顔が特徴だから、すぐにわかった。

 家名も間違えるはずがない。


 平民から貴族になったアリシア=アネスト男爵令嬢は前世と同様に入学早々から目立ち始めた。

 まずは第一王子ケイエス=リベルタルス殿下と仲良くなり始めた。ケイエス様には婚約者……前世で俺を国外追放になった元凶であるエリザベート=ノインテット公爵令嬢がいるのに常に一緒にいる。


 だが、ケイエス様が望んでいるらしく、アリシアと一緒にいる時、常に笑顔を絶やさない。

 容姿が整い、金髪碧眼が特徴的なケイエス様。異性からしたら、理想の容姿をしているが、いかんせん、我が強くプライドが高い。


 他人の意見を聞かない。

 だから、立場上毎回アリシアについて指摘しているエリザベートとは不仲だ。


 前の時間軸ではエリザベートはケイエスに好意を抱いていて、指摘を重ねるたびに言葉に棘が出始め、最終的に脅迫じみたことを言ってしまう。


 嫉妬だったのだろう。

 

 それにアリシアが怯え、ケイエスが庇うという流れを繰り返し、エリザベートとケイエスの仲はいっそう不仲に。

 結果エスカレートしていき、エリザベートはアリシアを虐め続け、最終的に国外追放となった。


 エリザベートはあの手この手でアリシアを虐め続けた。それに俺も巻き込まれたのだが。


 まぁ、少し話は逸れたが、話を戻そう。

 国外追放の運命を辿ったのが前世での結末。だが、今世は明らかに流れが違った。


 おかしいと思い始めたのは入学一週間ほどであった。

 現段階で俺は覚えている限り前世での出来事をメモした。だが、前回とは違う点がいくつかある。




「エリザベート!貴様、アリシアに嫌がらせをしているようだな。公爵令嬢として、恥ずかしくないのか?!」

「ええと……申し訳ありません。仰っていることがわかりません」

「とぼける気か!」

「ケイエス様、もうやめてください。私の勘違いかもしれません。エリザベート様は何も悪いことは」

「アリシア、無理するな……もういい。いいか、エリザベート。アリシアに手出しするのはこの私が許さない。行くぞアリシア」




「ひく……ひく……エリザベート様……酷いです」

「エリザベート……いい加減にしろ。アリシアから聞いたぞ。取り巻きを使って物を隠し、盗みをしたと。自分の手を汚さず……なんて卑劣な」

「いや、ですからわたくしは何もしておりません。なんのことだがわからないのですが」

「とぼけても無駄だ!目撃証言もある」

「えぇ……と」




 いやぁ……なんだろうこの温度差。

 聞いていて、声を荒げるケイエス、悲劇のヒロインぶってるアリシア、困惑するエリザベート。


 前世ではもっと感情的なやり取りになっている。エリザベートに限っては本当にわからないようだし、冷静だった。


 俺は野次馬に混ざって静観していた。

 だがまぁ、それでも俺には関係ない。

 

 勝手にしてくれ。どうなろうがどうでもいい。

 俺は第二の人生は真っ当に生きると決めたのだから。






 ……と、そう思ってさらに1ヶ月、前世と違い真面目に過ごした。


 先に言うが、俺は真っ当に生きていた。授業もしっかりと受け、予習復習は忘れない。


 小テストも平均以上で、自分で言ってはなんだが、優等生をしていた。


 はずなのに……おかしい。なんで俺は盗みの容疑をかけられているのだろう?

 盗みは今世では一度もしていないのに。


『あの人が机の近くで彷徨いているところを見ました』


『あの人怪しいと思うんですよね』


 おい待てい!何言ってんだアバズレ女!


 あのアリシアはなぜか、盗みがあるごとに俺を指名し疑いをかけてきた。


 アリシアは同様に複数人の男性と関係を持とうとしている。宰相の息子、騎士団長の息子……挙げ句の果てに教師まで。

 まだ、前世と比べ、そこまで仲は良くないがアリシアの行動は前世とほぼ同じであった。


 アリシアは俺が怪しいとケイエスたちに進言し、証拠はないものの、俺は学院では盗人扱いを受けてしまった。


 俺に対する周囲への扱いは変わっていった。

 よく話していた学友とも距離を置かれた。

 

 いざこざに巻き込まれたくないのだろう。

 結果、俺は孤独になってしまった。


 現状どうしたらいいのかわからず、とりあえず気分転換をしたくて彷徨い、たどり着いた喫茶店でぼけーっとしていた。

 部屋で眠れず、おかげで寝不足だ。


「……どうしよう」


 俺は貴族といえ子爵。

 発言力がない。

 違うと否定しても上位貴族の発言は覆ることはない。

 

 権力って怖い。

 王族って国民を守るの義務だよね?なんで一個人の意見尊重して、周囲への影響考えないで権力行使してるんだよ。


 前世ではあまり考えなかったけど、流石にこれは異常だ。

 確かな証拠はないから、国外追放はないかもだが、このままじゃまずい。

 

 だが、いい考えが浮かばず、人気のない静かなカフェで一人、一杯のコーヒーとショートケーキを頼み気がつけば二時間が過ぎようとしていた。


 店内の客は俺ともう一人の茶髪の女の人だけ。特に目立つ服装でもなく、薄緑のロングスカートに白いエプロンを巻いている町娘のような服を着ている。

 その人も1時間前くらいに入ってきて、ボーっと紅茶を飲みながらため息をしていた。


 この人も俺と同じ境遇なのかなぁ、と少し同族意識が生まれるも、俺クラスの悩みじゃないなと変な優越感に浸っていたのは内緒。


 時刻は午後3時

 昼の時間はとっくに過ぎており、1日の半分も終わった。

 あー、また明日が来るんだなぁ。

 憂鬱だ。


「「はぁ……あ」」


 だが、タイミングよく、俺と女の人のため息が重なり、条件反射で顔を上げると目が合ってしまった。


「お……ど、どうも」

「え……ええ」


 お互いぎこちない会釈。

 目が合ってしまい、気まずい雰囲気になってしまう。

 一度会話のようなものを交わしてしまったので、どうにか再び一人考え事に浸りたいが、何か話をしなければという変な義務感に襲われてしまい、ついつい話しかけてしまう。


「……今日はいい天気ですね……いや、曇りでしたねぇ……あはは」


 気まずい雰囲気をどうにか変えたい一心話しかけたものの窓を見たら雲一色。

 もう、話しかけなきゃ良かったと後悔した。


「……小悪党モブ」

「……は?」


 話は終わり再び現実逃避に勤しもうと思い、再び俯いてしまった時、ふと女性の方から意味のわからない単語が聞こえたので思わず女性の顔を見る。


「……エリザベート=ノインテット公爵令嬢」

 

 それはよく見慣れた顔だった。

 吊り目に緑色の瞳。見た目が少し違うが、普段は腰まで伸ばした癖のない、ツヤのあるピンクブロンドの髪が特徴のよく見慣れた人物がいた。

 見間違えるはずがない。


「そもそも……絡まなきゃ」

「はい?」

 

 気がつけば俺はケーキについているフォークを手に持っていた。

 腹の底から怒りが込み上げるのを感じる。

 無意識のことだったが、すぐにその理由がわかる。


 こいつが元凶であり、……そもそもエリザベートが取り巻きにアリシアを虐めさせなきゃこんなことに。

 

 この時の俺はストレスと睡眠不足でまともな思考回路ではなかった。

 だから、大胆な行動をしてしまった。


「な……なにかしら?」

「貴様さえいなければ俺は……平穏に」

「な……ま、まずは落ち着きなさい……だから、お願い……その右手に持っているものをテーブルに……置きなさい」

 

 エリザベートは俺の鬼気迫る表情に怯えている。

 ふ、護衛を連れていないのが悪いんだ。

 前世を含めて復讐だ。


「お命頂戴!」

「ちょ!いや!」


 俺は立ち上がり、最短距離で接近。左手で逃げられないようにエリザベートの右肩を掴んで右手のフォークを振り上げる。


「……いや……やめてぇ」

  

 エリザベートは泣きながら懇願してきた。

 ……あれぇ?誰だよこの可憐な少女は。

 思わず力が抜けてしまう。……いや、ただの演技かもしれない。


「お……お前がいじめなきゃそもそも」

「私なにもやってないもん。何が起こってるのかわからなくて……信じてぇ……うぇぇぇん」


 かわい……くない?!

 いや、なんだこの罪悪感は。

 いや。少し冷静になったけど、これって不味くないか?

 子爵が貴族階級トップの公爵の令嬢に危害を加えようとするなんて。

 ていうか。


「お前……誰だ?」


 様子がおかしい。

 こんな弱気なエリザベートは初めて見る。

 

 我儘で傲慢なはずのエリザベートが。


「お客さん……そういうのはよそでやってくれないか?」

「あ、はい」


 だが、思考が停止する中、血管が浮き出るほどお怒りの店主から声がかかり、泣いているエリザベートを連れて店を出た。









 それから俺とエリザベートは歩いて別の店へ向かい、落ち着き次第話を進めたのだが……。


 おとめげーむ?……悪役令嬢?……は?何言ってんの?

 

 わけがわからん。

 俺の行動が怖かったらしい、エリザベートはメソメソしながら語り始めた。

 

 話の腰を折るようなことはすべきじゃないと思い、聞き手に徹した。

 

 エリザベートは俺と同じように彷徨って辿りついたようだ。

 ある程度の経緯を聴き終えると俺自身のことも語った。


 嘘か真かはわからないにせよ、話すのが礼儀だろう。

 そう思い半信半疑で語ったのだが。


 エリザベートが言った乙女ゲームの世界というのは間違いではないように思えてきた。


 なぜか……それは俺が前世の時にあったことをずばり言い当てたからだ。

 馬鹿げている……だが、こと細やかに忠実にあった。

 

 しかも、前世でエリザベートの国外追放が言い渡されたとき(断罪イベント?)と言葉も一語一句全て知っていた。


 まだ確証はないものの、エリザベートを信じる事にした。

 さらには前世の俺について、特技や特徴すらも言い当てたのだ。これは誰にも語っていない。今世では俺以外知らないはずだ。

 

「逆はーるーと?」

「ええ。おそらくあなたが体験した前の人生はおそらく……アリシアの言葉、セリフを聞く限りはそれね」


 ……イカれてる。

 将来国の行末を担っていく立場の者が、平民出のアリシアに誑かされるなんて。

 

 話を進めていく上で俺が前世で体験したシナリオらしい。

 

 エリザベートは入学式からのアリシアの行動を見て、自身もそれを阻止するために妨害行動をしていたらしい。

 攻略対象と呼ばれる者たちの行動を阻んで話をしたり、アリシアとケイエスの二人の行動に冷静に対処したりと。


 だが、残念ながらそれはうまくいかず、シナリオ通り進んでしまった。


 現行犯で取り締まると彼女らは口を揃えて、こう発言した。

 

 「全てエリザベート様にやれと言われた」と証言したらしい。

 


 エリザベートはアリシアをよく思わない連中と、ケイエスと婚約できなかった婚約者候補の人たちが結託して、エリザベートを蹴落とすためにそうしたのでは、と推測している。

 いわゆる嫉妬というやつだ。

 

「それで、これからどうするつもりなんだ?ここまで細かく話したんだ。何か意図があるんだろう?」

「……信じてくれるの?」


 どんだけ心細かったんだよ。声が弱々しくなりすぎでしょ。

 俺にとってエリザベートは雲の上の存在の人物だが、敬語はやめてほしいと言われたのでタメ口で話している。俺もその方が気が楽だし。


「ああ。話を聞いていて、感じていた疑問が解消した。信じるに値すると思ったからな」

「そう」


 エリザベートは安心したのか、大きく深呼吸をする。

 話していて、いくつか気づいたことがあるが、エリザベートはすぐ感情が表に出やすい。

 また、一度信じたら心を許してしまうらしい。

 それは貴族としては致命的だ。


「話を戻そう。……これからどうするつもりだ?俺もお前も致命的ではないが、現状はよろしくないぞ」

「……そうね」


 俯き、緊張しているのか顔がこわばるエリザベート。

 本当にどうするつもりなんだよ。


「あなたが協力してくれればという条件付きだけどね」

「俺のこのままやられるのは嫌だから協力は惜しまないが。具体的にーー」


 どうするつもりだ。

 ……そう言おうとするが、協力承諾のことを言った瞬間、ガバッとエリザベートは席を勢いよく立ち上がり、テーブルに体を乗り上げ俺の右手を両手で掴む。


 うわ、驚いた。


「逆ハールートを逆手に取ればいいのよ!私は乙女ゲームを全ルートをコンプして、イベントCGも回収率100%!!」


 

 近い近い!

 顔近すぎだろ!

 てか、後半何言ってんのかわからん!


「わ…わかった。えーと。俺は何をすればいいんだ」

「それは……」


 あれ、急に口どもる。

 言いづらいことなのか?


「とりあえず言ってくれ。それから考える」

「ええ。……あなたには特技を活かして欲しいの?」


 特技というと。


「盗みをするということか」

「ええ……あなたに汚れ役を任せてしまうことになるかもーー」

「いいだろう」

「え?」


 俺はエリザベートの言葉を最後まで聞かなかった。

 前世と同じ、俺はエリザベートに使われることになる。汚れ役を引き受けることになる。


 断ることもできただろう。罪を重ねて前世と同じ運命の可能性もある。


 だが、俺はそれ断らなかった。

 俺の右手を両手で掴むエリザベートは震えていた。

 自信に満ち溢れているような発言だが、震えから断られることへの恐怖が入り混じっている。


 その、一致しない言動をするエリザベートを見て俺は見捨てることができなかった。

 今まで通り静観しているだけではダメだと思った。


 それに、このまま乙女ゲームの主人公の思い通りにさせるのは絶対に嫌だしな。


「ありがとう!」


 コロコロ表情が変わるなぁ。

 吊り目で少し怖い印象があるが、今世の彼女は可愛らしい表情をする。

 性格が違うとここまで印象が変わるとは。



「うふふふ。覚悟なさいアリシア、ケイエス。散々私をコケにしたこと。……後悔させてあげるわ。うふふふふ」


 ……エリザベートは前世とは別人のはずなんだが。

 なのになんだ、この悪どい笑みを浮かべる彼女は。その迫力は前世のエリザベート以上かもしれない。


「うふふふ。どうせ私は地位を失うかもしれないけど、安いものだわ。……徹底的に追い詰めてあげる。道連れにしてあげるわ」


 ああ。これが悪役令嬢というものなのかとしれないな。

 こんなやつを敵に回したアリシアたちは一体どうなるのやら。

 それに俺はこれからどんなことをさせられるのやら。


 まぁ、それは全て……エリザベートのみぞ知ることだ。


 こうして、俺と悪役令嬢は手を組んだ。


 その日から行動を開始した。

 

 ケイエスルートを完遂させるために、アリシアの補助をしつつ、逆ハールートを阻止すべく、陰から妨害した。


 好感度とやらを稼ぐためのアイテムを先に入手したり、時にアリシアからスッたり。

 アリシアの部屋に侵入して、乙女ゲームの攻略メモとやらを盗みに入ったり、ケイエスとアリシアの二人のシナリオとなるシーンを盗撮したりと。

 

 ネチネチと、アリシアの首を徐々に絞めていく。


 エリザベートも公爵家を頼り、かげから俺をバックアップしてくれた。権力、財力を使い、俺が必要なもの、頼んだものを揃えてくれた。

 また、俺のやっているのは犯罪行動なので、合法的に行動できるようにしてくれた。


「どうなっているの……おかしいわ。完璧なはずなのに。シナリオもしっかりと。……でもなんでアイテムがないの?」


 学院生活でのアリシアは時折呟き、焦っていた。

 だが、違和感を感じるも、気のせいだと割り切って行動していた。

 

「うふふふ。覚悟なさい。後悔させてあげるわ……。アレンくん、頑張りましょうね」

「あ……はい」


 時は流れ断罪イベント前日、最後の打ち合わせでエリザベートと密会していた。

 本当に最近、彼女は悪役令嬢が板についてきたなぁ。

 前世のエリザベートとは比べもんにならん。









 

 そして当日。


「挙げ句の果てに殺人未遂という大罪まで。私は次期国王として……罪人を捨ておけない!……ここに私、リベルタルス王国第一王子、アデル=リベルタルスの名の元に宣言する!……エリザベート=ノインテットとの婚約破棄すると……そして、数々の大罪を犯したお前には厳正な処罰を与える」


 

 エリザベートは予定通り断罪され、婚約破棄を言い渡される。

 公の場での発言により、これでもう撤回はできない。

 

 エリザベート曰く「ケイエスと結婚なんてごめんだわ!」とのことだ。家同士で決められた政略結婚、一度決められた婚約はよっぽどのことがないと破棄できない。

 だから、ケイエスの暴走を利用して婚約破棄したらしい。


 俺はパーティ参加者の群衆の一人として様子を伺いながら映像用の水晶と拡声器を起動させる。

 

「……今すぐにでも、お前を捕まえて牢屋にぶち込みたいくらいだが……お前にはまだすべきことがある。エリザベート!アリシアに謝罪しろ!」

「なるほど、殿下のおっしゃりたいことはわかりました。では、わたくしからも一言言わせていただきます」

「さっさと言え」

「皆さん!お聞きください!」


 今だ。エリザベートの言葉と同時に拡声器と映像水晶を起動。空中にある映像が映し出される。

 それは、ケイエスルートのシチュエーション。


『もう!ケイエス様、褒めても何も出ませんよ!』

『全て真実を言っているだけだ。アリシアは謙虚だな』



『これ似合うんじゃないか?』

『そんなこと。地味な私じゃ』

『お前は美しい。今まで会った女性の中で一番だ。自信を持て』

『ケイエス様』




『ケイエス様、わたし不安です。私が王妃になるなんて』

『大丈夫だ。私がお前を支える。二人でより良い国を作ろう』


 

 なんてものを見せられているのだろう。

 

 

 一番重要なのは最後のシーンなのだが、エリザベートの指示で指定するシーンを流したのだ。

 ケイエスとアリシアがいちゃつくだけのシーンを見せられる群衆たち。


 ふと、エリザベートを見ると……ああ、悪い笑みを浮かべてる。

 ……なるほど。二人を辱めるためか。

 


 この会場にいる人たちはケイエスが婚約破棄を独断でした。アリシアという国家転覆罪を目論む悪女に騙された、みたいな解釈をしている人が多い。

 また、笑いを堪えている人たちもちらほら見える。


 アリシアは本当に何が起こっているのかわかっていないのか、先程までにやけていたが、口がポカンと空いていた。


 何その顔面白い。


 俺とエリザベートは協力してケイエスルートを完璧に近く再現をした。


 エリザベート曰く「逆ハールートってすっごく難しいのよ。少しのミスも許されないの」とのことだ。


 妨害を重ね、結果アリシアは王子ルートのみに切り替えた。

 そして、エリザベートの指示をもと、ケイエスルートを忠実に再現して違和感を持たれないようにした。


 もしも、俺やエリザベートのような悪役のことを少しでも考慮して、別の未来を用意していたならば、このようなことはしなかった。

 だが、蹴落としてでも自分の幸せを優先した。アリシアは俺のことをゲームの世界のキャラクターと扱った。

 アリシアは考えなかったようだ。この世界の住民は生きているのだと。


「おかしいわ!何よこれ!こんなの……こんなシーンないわ!この後悪役令嬢が断罪されてハッピーエンドのはずでしょう!」


 今どういう気持ちだろう。

 疑問、焦燥、怒り、困惑。

 今アリシアの心の中はさまざまな感情が入り乱れていることだろう。


「お、落ち着くんだアリシア!」

「私は主人公なのよ!なんでよ!どうなってんのよ!許さない!」


 ああ……なんだろうこの気持ち。

 他人を顧みず自分の願望を優先したやつの末路……過去の自分を見ているようだ。


 周囲からの視線が冷たい。誰も今のアリシアに手を差し伸べようとしない。

 過去の俺と一緒だ。


「うまくいったな」

「ええ。そうね」


 とりあえず、役割を終えた俺はエリザベートに近づき話しかける。

 結果は想定通り、いや、むしろアリシアの取り乱しようには驚いた。

 今、アリシアはエリザベートに飛びつきそうなのをケイエスに止められている。

 

「アリシア行こう!」

「放して!なんでこうなるのよ!」


 ケイエスはアリシアを連れて会場を後にする。

 俺とエリザベートは、その姿を背後から見ながら二人揃ってこう呟く。


「「ざまぁ」」……と。


 だめだ。口角が勝手に上がってしまう。嬉しすぎる。やっと悲願を達成したのだから。

 

 その後、パーティは微妙な雰囲気のまま中断という形で終了した。


 














 そして、断罪の日から一週間が経過した。

 

 アリシアは修道院に追放、ケイエスは王位継承権を剥奪された。

 二人の処遇は俺とエリザベートが事情聴取をされた時に、やり直しのチャンスを与えてほしいと言ったのが一番の理由かもしれない。


 やっぱり、どんなことがあっても、やり直しのチャンスが一度もないというのは辛いからな。


 ……更生してくれればいいけど。

 

 ま、今は考えないようにしよう。せっかくエリザベートが誘ってくれたのだから楽しまねば。


 現在俺とエリザベートは高級レストランの個室にいた。

 高級赤ワインを片手に。

 

 初めて会った日から俺とエリザベートは陰で行動を続けていたため、ゆっくりとしている時間はなかった。だから、国外追放回避を祝って開催した二人だけの小さなお疲れ様会。


「あなたと会えて本当によかったわ。あなたと会えなかったら今頃どうなっていたかしら」

「それはこちらのセリフだよ。でも、今は過程の話はよそう。この場は祝いの場なんだから」

「それもそうね……ふふ」


 俺とエリザベートお互いに微笑む。

 

「国外追放回避を祝って」


 やっとこれからゆっくりできる。


 「「乾杯!」」


 カチンッというグラスが当たり、お疲れ様会は始まった。


 今日は平穏で充実した1日だった。

 願わくはこんな日常が続きますように。

読んでいただきありがとうございます。



もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


評価ポイントはモチベーションになります。


よろしくお願いいたします。


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