雪が降る夜
深い雪で覆われた森の奥に、モミの木でできたお家がありました。窓には二つのぬいぐるみが座っています。ぬいぐるみは共にウサギで、この家の主が作ったものでした。片方はピンク色で、もう片方はクリーム色です。ウサギたちは主がすやすやと眠る頃、こっそりお家を抜け出ては雪と遊ぶのでした。
ある日の午後、そのお家に誰かが訪ねてきました。ウサギたちが窓を覗き込むと、玄関ポーチにターコイズのフードを被った小さな女の子が立っていました。今日は軒に氷柱ができるほど寒い日です。主は玄関口の手箒で女の子の雪を払い、お家の中に入れました。
「ありがとうございます。迷子になってしまって、助かりました」
リリと名乗った女の子は、暖炉の前で濡れたケープを乾かします。主もロッキングチェアに座り、冷えた体を温めました。主は、どうして女の子が一人で森を歩いているのか訊きました。
「お姉ちゃんとはぐれたんです。もしかしたら、先におばあちゃんの家に着いたかもしれません」
森の中は、既に薄暗くなっています。主はリリに一晩泊まるよう提案しました。部屋を綺麗に掃除して、シーツを取り替えます。どうやらこの部屋をリリに貸すようです。
すっかり日が暮れると、主はリリに熱いスープと風呂を与えました。そして、リリをベッドに移動させ、自分はロッキングチェアで裁縫を始めました。主は手先がとても器用です。女の子のケープがほつれていたので、綺麗に縫ってあげているのでした。
作業を終えた主は欠伸をして、なんだか眠たそうです。少しすると、すやすやとした寝息が聞こえてきました。
「サラ、母さんが寝たみたいだよ」
「女の子は?」
「女の子も夢の中さ」
「動いても大丈夫かな? ミラ」
ウサギのサラとミラは小声で相談し、窓枠から飛び降りました。サラはクリーム色の体をベッドの上に乗せ、リリが瞼を閉じていることを確認します。ミラは主のいる暖炉まで跳ねてゆき、長いピンクの耳をそばだてます。主も女の子も、すっかり眠っているようです。
サラとミラは窓辺に戻り、施錠を解いてお家を抜け出しました。屋根から落ちる雪のせいで、足元の積雪は周りより高くなっています。サラはそこに尻をつき、滑り台のように雪の降り積もった地面まで降りてゆきました。
「ミラ、早く早く」
ミラもサラの跡を追い、ついと滑って下に到着します。
「サラったら本当にせっかちなんだから」
上空からは、しんしんと雪が舞い降りています。サラとミラは一緒に、目の前の美しい銀世界へ走ってゆきました。ウサギたちはぬいぐるみであることも忘れ、駆け回ったり雪玉を投げ合ったりして目一杯はしゃぎました。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうものです。気がつくと雪は止み、辺りが白けようとしていました。
「今夜も楽しかったね」
「うん、楽しかった。そろそろ帰って、濡れた体を乾かさないと」
二人はお家に帰ると、小鳥のさえずりが朝を知らせるまで眠りにつくことにしました。
朝玄関ドアを叩く音で、主は目覚めました。主は寝惚け眼をこすりながら、ドアを開けます。サラとミラが起き抜けに窓を覗くと、そこには年配の女性と、リリよりは年上の少女がいました。
「朝早くにすみません。実は昨日、孫がこの辺りでなくしものをしまして」
少女は下を向いています。話を聞いた主は、何をなくしたのか訊ねました。年配の女性は、緑色のケープを着せた女の子のぬいぐるみだと答えました。肩のところがほつれており、昨日縫ってあげる予定だったといいます。
主はもしかして、と部屋に走ってきました。ベッドに、昨晩泊めた女の子はいません。いつ部屋からいなくなったのか、サラとミラも気づきませんでした。
すると、玄関から歓声が上がりました。主が声のほうを見ると、少女がターコイズの鮮やかなケープを着たぬいぐるみを掲げて喜んでいました。きっと、探していたぬいぐるみだったのでしょう。年配の女性は首を傾げ、独り子を呟きます。
「おっかしいねえ。全然ほつれている箇所なんてないじゃないか」
主はフフッと笑って、二人を見送りました。少女は窓辺にいるサラとミラにも、とびきりの笑顔で手を振ります。
「今度はリリちゃんと遊んでね」
少女が再び前を向いて歩いてゆくと、女の子のぬいぐるみがウサギたちにウインクしました。サラとミラは、今度遊ぶときはあの女の子も誘おうと決めました。