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本物になる


 目を開けるとみやびの家だった。

 おでこに冷えたタオルが置いてある。

 横を見るとみんなテレビでゲームをしていた。

 どこからかカレーのいい匂いがする。


「お腹すいた」


 僕のその言葉にみんなこちらを向く。


まこと:「お!起きた!」

あらし:「痛いの痛いの飛んでけーってやっとく?」

僕:「カレーの気分」

雅:「今うちの母親作ってるからもうちょい待て」


 あかりくんは心配そうに僕の頭の横に座る。


「怖かったね。ごめんね。一緒にいたのに」


 燈くんは全然悪くないのに。


僕:「僕こそごめんね。神様があんなに短気だなんて僕知らなくて」

雅:「短気にも程があったな」

嵐:「この年で漏らすとこだったー」

誠:「なんか目が違ったな。佇まいとかもさ……殺し屋的な?」


 みんなそれなりに怖い印象になったようだ。


「あれ。あのあと神様どっか行っちゃった?」


 燈くんは困った顔をしていた。


雅:「まあ、一悶着あったわな」





 回想。


燈:「永遠!大丈夫!?」

雅:「……おいおい先輩。ここまでする必要あります?」

神:「まさか一発で伸びるとはな」

嵐:「永遠〜!?おーい!ダメだわ……」

雅:「短い人生だったな」

誠:「殺すなよ!?まだ生きてるって!!」

雅:「先輩のこと神様だってこいつ言ってたんですけど、知り合いなんですか?」

神:「知らねえよこんなガキ。ていうか神って何」

燈:「永遠ちょっと変わってる子なんで。でも嘘つく子じゃないから、きっと意味がありますよ」

神:「……その指輪、どこで拾ってた?」

燈:「初等部1年の時からずっとつけてますけど」

神:「……それが本当ならヘルムは俺の方だな」

雅:「誰ですか?」

神:「アーティファクト狩りをしてる中世の甲冑をつけてる男だ。うちの学校の中等部の男子生徒……だと思う」

嵐:「アーティファクト?それうちの学校の七不思議じゃん」

誠:「だからあるんだって!人の心を読むイヤリングとかね!?」

雅:「ただのエスパーな」

誠:「だからエスパーはただごとじゃないんだって!!このやりとりよく覚えてんな!」

雅:「先輩が七不思議信じてるとか意外だわ」

神:「自分の目で見たものなら信じられるか?」


 神は永遠の指から指輪を取り、自分の指にはめ、瞬きするとそこには永遠がいた。燈が抱きしめている永遠と同じ、優しそうで、穏やかそうで、いつもの永遠が立っている。


神:「アーティファクトは持っていたら狙われるぞ。間違えて頭突きした礼に忠告だ。気をつけろって言っておけ」


 神はそうして街に消えた。





僕:「かっこいい〜!」

雅:「呑気だな……。いいのかよ。なんか狙われるってさ」

僕:「素直に渡すよ。それで解決!」

嵐:「なる〜!徳川家康はお前だったんか!」

僕:「わー!!」

誠:「時効だろ。みんなの記憶からは消えないけどさ、強烈すぎて」

燈:「刺す相手を間違えたって言ってたけど、あの先輩ヘルム殺しちゃったりしてないよね……?」

雅:「それで敵討ちに来たヘルムの仲間と勘違いしたって?そーいや夜中にバチバチにやりあってるとか前に言ってたな」

誠:「噂だけどな。でも本当だったかー。すげえな。夢見てるみたいだった。永遠が二人……」

燈:「このこと、秘密にしよう」

嵐:「アーティファクト狩りってのが本当にあるなら、それが取り得る最善だよなー」

雅:「永遠、貸せ」


 差し伸ばされた手に指輪を置く。

 指輪をつけた雅は瞬きの間に僕になる。また次の瞬きの間に燈くんが二人になる。


雅:「どう見える」

嵐:「これは奪い合う価値あるわー」

誠:「永遠からの燈だな」


 神様の力誰でも使えるんだな。持っているだけで特別になれる。


燈:「これは推測だけど、多分この指輪あの先輩とシェアしてるんだよ」

僕:「シェー……?」

燈:「最近なくなるって言ってたでしょ?なくなってる時は先輩の元へ、普段は永遠のところにいるんだよ」

僕:「お揃いじゃなくて二人のもの!?それもいいかも〜」

雅:「危なそうな先輩だったからな。もうああいう場面で話しかけない方がいい。いいな!?お前に言ってんだよ!」


 めちゃくちゃ僕に向かって言っている。


僕:「うんこしてる人と喧嘩してる人には話しかけません」

雅:「誰だよ余計なこと吹き込んだのは」

誠:「嵐じゃん?」

嵐:「にゃーー!?お前ーー!!」

雅:「頼むからうちで暴れるな」

燈:「指輪で繋がってるんだし。多分また巡り会えるよ。お願いだから自分から危ないところに行かないで」

 

燈くんにお願いされたら聞くしかない。


僕:「約束さんだよ〜」


 結論から言うと僕が中等部に上がるまでまた神様と会うことはなかった。

 それでもこの時の僕には、指輪を通して感じる神の存在だけでいっぱいだった。

 あの人は僕の神様じゃないんだろう。

 あの人が僕について知っていることなんて、僕の親と同じくらいなはず。話すことも、表情も、意思を示すこともない、入退院を繰り返す障害者。

 親でも育児放棄した僕を、神様もそのくらいの認識しかしていないのだろう。

 それでもいい。そんなことどうでもいいと思えるのが今の僕だ。

 あの人はかっこよかった。目があった瞬間視線を逸らすことができなかった。制服も派手に着崩してるわけじゃないのに僕らとは、他の人とは全然違った。他の人と違うのがかっこいいんじゃない。完成されている完璧さがかっこいいんだ。

 自分とはこうだ、とはっきり示されたみたい。

 僕が誰かの真似っこしてるだけの人間だからこそ、あの人がかっこいいと思うんだ。

 流されない、確固たる自分。

 


僕:「明日からあの人になろうかな〜」

嵐:「え、キンチョーだわー。恥ずかしいポーズして写真に撮って弱みにぎろー?」

雅:「ダメに決まってんだろ。なるほど、道徳がない人間の手に渡る恐ろしさを垣間見たわ」

嵐:「ジョーダンに決まってるっしょ」

僕:「……まるで『真鍮と金』だ」



______大人たちは魔法を持っている人間が社会を壊すことを恐れている。君はそんなことしないだろうが、仮に君が他の人間になりすまして店で物を盗んだら、その罪は誰のものになる?防犯カメラに写っているものが全てだとしたら、永遠は無罪になるかもしれない。そして代わりの誰かが罪を被ることになる。それは今の社会を壊すことになる。そんなありもしない恐怖に怯えて、大人たちは君のような魔法使いをこう思っているんだよ。秩序を乱す危険人物。その認識は常識となり、みんなが君を恐れる。いつ自分に被害が来るのかわからない。その恐怖は迫害を呼ぶ。みんな君に畏怖し、君を1人にする。

 

雅:「先生がそんなこと言ってたのか。先生はアーティファクトを持つものに警告したかったんだな。見かねる行動を起こすものは退学処分か?」

嵐:「劇の中じゃ死者すら完璧に管理する世界だったよなー」

誠:「先生はわかってるのかな」

僕:「知ってるんじゃない?だって僕が____」


 僕が諸星久遠だってことも知っていた。一度も僕の口からアーティファクトのこと言ったことないのに。

 そう言いかけて僕はやめた。

 このメンバーでも諸星久遠として結構遊んできた。でもそのことについてまだ燈くんにもちゃんと言ってない。

 ここでボソッと言ったんじゃ芸がない・・・気がする。


雅:「なんだよ」

僕:「なんでもないっす」

雅:「なんだこいつ。いじめるか」

誠:「やめたげて」



 その日はみんなでカレーを食べて解散した。

 次の日僕のおでこはパンパンに腫れ、みんなに笑われた。

 こんな立派なたんこぶ見たことがないと。というかたんこぶ自体初めて見たとみんな喜んでいた。



 




 僕は白に買ってもらった筆を下ろした。

 初めて自分で絵を描いた。子供の頃から誰かが隣で僕の手に筆を握らせて描いていた。僕の名前で親に渡した作品に僕の意思はなかった。

 あれは僕の作品じゃない。

 描いてみると難しい。赤い絵の具を出しても、僕が欲しい赤じゃない。画用紙に載せると水の分量で色の出が全然違う。もっと、闇よりも暗い場所で、月明かりだけがある。それをどうやって表現したらいいのか。


「……うまいな」


 僕が机に向かって描いている絵を見た白の感想。


「本当!?才能ある??」

「写真だわ」

「適当に煽ててるんじゃないだろうな」

「お前の才能に投資する。好きなだけ絵の具も筆も買ってやる。そう思わせるくらい、めっちゃうまい!」


 髪をわしゃわしゃと笑顔で撫でられめっちゃ嬉しかった。


 でも本当はもっとイケメンなのに、もっと血に鮮度があって、月明かりがおしゃれな感じだったのに・・・。

「どうしたらいい?」

「専門家に相談だな」



 次の日中等部の美術室に行った。

 初等部のクラブ活動には美術はないのだ。

 なので白に連れて来てもらった。

 あわよくばここでまた神様に会えるかな、とかドキドキしながら行った。

 中等部は入ったことがない。

 なんか画材が重くて白に手を引かれながら適当に行ったからよく覚えてないが綺麗な校舎だった気がする。

 美術室のドアを少し開けて中の様子をみる。

 先生らしき人が机に向かって書類をめくっていた。


 なんて言ったらいいんだろう。

 たのもー?

 なんか違う気がする。


「早く入れよ」


 白は待ちきれずドアをひき、「失礼しまーす」と入っていった。


「先生、ちょっと診て欲しい患者がいるんですよね」


 白は何を言っているんだろう。


「僕の専攻は美術なんだけどね。急患なら保健室の方が適任じゃないかな」

「こいつなんですけど」


 僕が手に握りしめていた絵を先生に見せる。


「どう思います?」


 先生の見ていた書類の一番上にのせる白。

 先生はそれをまじまじとみる。


指輪さしわくんの絵じゃないね。タッチが明らかに違う」


 ちなみに指輪さしわは白の苗字だよ。


「そうです。こいつが描いたんですけど」

「いいね。素晴らしい。とてもよくかけているよ」

「でも納得いかない……と言うより技術的に無知なんで、なんか色々お聞きしたいんですよね。初等部生なんですけど……放課後とか暇な時教えてやってくれません?」


 先生は絵を机に置いて僕を真っ直ぐにみた。


「もちろん。放課後は毎日部活動でこの教室にいるよ。好きな時にいつでもおいで。君の才能は本物だよ」


 誰かに認めてもらうこと、本物になること、でも僕には足りないもの、わからないこと、できないこともある。


「もっと上手に描けるようになりますか!?」


 先生はふふっと笑った。


「なるよ。君の目にはそうするために必要な努力をする覚悟がある。そういう子ほど伸びるんだ。沢山描くんだ。描けば描くほど、上手くなるよ」


 僕が描きたいのは、神様、あなただ。いつかただの障害者だなんて言わせない。僕にしかできないものを見せてやる。


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