僕の作品 3
今日も先生の部屋に行く。先生は「今日のお菓子は奮発しちゃった」とケーキを冷蔵庫から取り出した。
「永遠が頑張ってるから、高いお店で買っちゃったんだ。好きな方を食べて」
僕はモンブランにした。
「永遠は選べるようになったね」
先生は嬉しそうだった。
「差し出される人生から、自分で勝ち取る人生もある。親が敷いたレールに乗る人もいれば、険しき道を選ぶ人、自分の夢を追う人、選ぶっていうのは自由で、とても怖いことだ。でもその選択の余地があることは、良いことだ」
先生は選んだのだろうか。教師になることを。
「そうだ。もうそろそろ本番だね。明日は衣装をして通し稽古だ。頑張ろうね」
「……うん」
先生の後について長い廊下を歩く。
怜先生:「次は魔法の実技授業をしてるクラスに行こう」
永遠:「疲れた?さっきから黙り込んでるけど」
燈:「……少し……」
怜先生:「じゃあ先に食堂に行こうか。今はまだどのクラスも授業中だから静かに昼食が取れるよ」
誠が早弁している。
永遠:「あ!さっきの子だ!一緒に食べていい?」
誠:「(頷く)」
永遠:「わぁ!美味しい!」
燈:「本当だ。食事が口に合わなかったらどうしようかと思った」
誠:「……?2人とも他の国から来たの?」
燈:「(ギクッ)」
永遠:「国っていうか、世界が違うかな」
燈:「ちょっと!」
誠:「……そんな気がしてた」
燈:「えぇ!?僕ら……浮いてる?」
誠:「……もしかして……非魔法士」
永遠:「バレちゃったかー!」
燈:「否定してよ永遠!少しは隠してよ!」
永遠:「あ、でも燈くんは違うよ。僕だけがこの世界の爪弾き者なんだ」
誠:「……初めて見た。非魔法士も魔法の有無だけで人となんら変わりないのに、どうして生きる世界を分けたのかな」
永遠:「違う理で生きているんだよ。僕はこの世界に来てから夜ずっと鼻血が止まらないし、息苦しくて仕方がない」
燈:「そうなの!?言ってよ!」
永遠:「ここは、僕が生きていける世界じゃない。身をもって痛感したよ」
燈:「早く帰ろう!」
永遠:「まだ帰らない!ここに来たのは自分の目で見たかったから。燈くんが生きていく世界が、今までの地獄となんら変わりないのなら、僕は1人で僕の世界に帰るわけにはいかないからね」
燈:「……僕は……ここなら息をしていられる」
永遠:「それを聞けて安心したよ。誠くん、僕のこと、みんなには秘密にしてくれる?」
誠:「……うん。言わないよ。この世界で息ができないのは僕も同じだから。僕が勉強できなくても父さんも母さんも何も言わないけど、魔法実技の点が最下位で……。父さんも母さんも僕に冷たいんだ。兄さんも……最近はめっきり口を聞いてくれない……。魔法主義のこの世界で魔法が使えない人間は雅くんが言っていたように……いらない人間なんだ……」
燈:「そんなことない!向こうの世界で永遠は僕にとって唯一息が出来る処だった!君にとっての運命と君はまだ出会えていないだけだよ!」
誠:「その人を待つのさえ……僕は疲れ果てたんだ……」
永遠:「出会っても別れが寂しだけかもしれないしね」
燈:「……!それは……僕たちのことを言ってるの……?」
誠:「別れが寂しい・・・僕からしたらそれも贅沢な悩みだよ……。そんな風に後ろ髪ひかれながら旅立てるのなら……それは幸せ以外の何者でもないだろう……?」
永遠:「別れた後の方が大変なんだ。だってそこから全てが始まるんだから。だからこそ、こんなところで躓いていられないんだよ」
誠:「そのステージすら立てずに消えていく人もいるんだよ……」
永遠:「僕らはもう自分で自分の道を決める権利がある、もう何もわからない子供じゃないんだ。どんな結末も自分の始末の範疇でなくちゃダメだ」
燈:「手厳しいな……」
誠:「強い君たちが羨ましい……。でもそれって2人が一緒だからそんなこと言えるんだよ。僕みたいに1人になって……同じように怖いもの知らずでいられるかな……」
燈:「……(無理だ……永遠がいない世界なんて……)」
永遠:「もし君がこの世界で生きていくなら、見るといいよ。燈くんのかっこいい生き様を」
燈:「ハードル上げないでくれない」
食堂に嵐、奏、恭弥、凛がやってくる。
嵐:「お!いたいた!お前らも街を見に行こうぜ!案内するからさ!」
永遠:「行く行く〜!」
燈:「体調は!?」
永遠:「治った」
燈:「嘘でしょ!?」
嵐:「ほれ行くぞー!」
街に行く。露店がたくさん。歌ってる人がいたり、通りすがる人たちを楽しませている大道芸人がいる。
嵐:「逸れるなよ!5人ともまだ連絡手段ないし」
奏:「この世界にも可愛いアクセサリーたくさんある!あの店も可愛い!」
凛:「本当ね!学校の制服も可愛いし、街も意外と近いし、私この世界気に入っちゃった!」
嵐:「まだまだこんなもんじゃないけどな!」
黙ってみんなについていく恭弥に永遠は話しかける。
永遠:「君はどう?この世界、気に入った?」
恭弥:「……何が違う?」
永遠:「違いか……。まあ向こうの世界にも街はあるし、可愛い制服もあるし、アクセサリーも売ってるよね」
嵐:「おいおい!あるだろ違い!この世界には非魔法士はめっちゃ少ないし!それだけでもマシだろ!?」
恭弥:「ああ。マシだな」
永遠:「帰りたいの?」
恭弥:「いいや。客観的な意見が聞きたかっただけだ」
たくさんの人が行き交う中で、露店の店主のお兄さんが「安くするよ」と燈の目の前に粉の入った袋を差し出した。
燈:「……何?」
千秋店員:「これは天上だよ。大人気商品だ。若者はみんな持ってるよ」
誠:「(燈に耳打ち)ドラッグだよ!だめだ!」
店員に睨めれ萎縮する誠。
千秋店員:「……うちの商品にケチつけようってかい……?」
永遠:「僕らお金持ってないんだ。客は選んだほうがいいよ」
千秋店員:「確かにな。自分のことばかり話してくる客に言いたいよ。お前に興味ねえってな。店員にケチつけて困らせようとするやつに言いたいよ。お前なんか来なくても商売になるから帰り道に死んで二度と来んなってな」
永遠:「同感だ。みんな死ねばいいよね」
その言葉に店員は何も言い返さず、僕らが去るのを睨みながら黙って見ていた。
直後「う……っ!」という声の後、頭を抱えて天を見上げながら「ああああああぁぁぁ!」と叫ぶ千秋店員。
その様子を見て周りの人たちが口々に言う。
「何?どうしたのかしら」「ドラックのきめすぎだろ」「あの店主魔法の才能があってないようなものだからな」「一緒に堕ちてくれる人を探してるのか」「いいや。才能ある奴が堕ちていくのを見てくだらないプライドを保っているのさ」
_____何もない人間は失うものもない。どんな罪も恐れず、どんな罰が降るかも厭わない。持っているものがどんな苦労してきたかも知らず簡単に奪う。与えられてばかりで全て自分のものだと思い込む。懸念は早々に詰むべきだ。
どうして今雅の言葉を思い出すのだろう。
店員はその場に倒れ込む。
永遠はすかさず店員の元に駆け寄る。
永遠:「大丈夫?嵐、病院は?」
嵐:「もう呼んだ!すぐに救急隊が来る。持病か?」
凛:「違うと思うよ。この人魔力が乱れてる。自分の中にある力が暴走して自分を傷つけてるみたい」
永遠:「そういえば先生が体が資本だって言ってたね。この人体力不足?」
嵐:「それも違うと思う。多分……先生が言ってた侵入者だよ。二つの世界の道が開かれる時にたまに紛れ込むんだよな」
永遠:「それまたなんで?だから非魔法士はいらない子なの?」
嵐:「いや。侵入者は魔法使いの死者のことを言うんだ。この世界では、死んだ魔法使いは魂を体に封印してから埋葬する。じゃないと魂が一人でに動いて力を行使したり、他の体に取り憑いて暴走させたりする。だから一人一人が厳重に管理されてるんだよ。でもたまに自殺や他殺された魔法使いがこの世界に迷い込み、壊れた体から力が漏れ出し、魔法使いに暴走を誘発する。だから侵入者は見つけ次第殺すことになってるんだ……」
奏:「この世界に来た私たち5人の中に……侵入者はいるのね」
永遠:「死んでるのに動くの?ゾンビになるの?世界を渡って生き返っちゃってない?見分けられないの?」
嵐:「世界を渡る時に広大なエネルギーが使われる。そのエネルギーで魔法使いは体を修復できる。親に虐待されて背中にタバコを押し当てられた火傷があった奴だって、この世界に来たときに治ったって言ってたし。たまに自分が死んだことに気づいてないでこの世界に来る魔法使いもいるんだよ……」
凛:「それじゃあ……どうしようもない……」
嵐:「体を乗っ取られるのは魔法使いとして未熟な人だって言われてる。雅ならきっと「自業自得だ」って言うんだろうな」
永遠:「間違いないね」
侵入者は永遠のことじゃなかったのか。じゃあ・・・誰?
体育館での練習後、嵐くんは僕を抱き上げクルクルと回った。僕は目が回った。
「何いじめてんだ」
雅くんが若干止めに入ってきた。
「いじめてなーい。なんか最近よく笑うじゃん?話すじゃん?抱っこしたら嬉しそうじゃん?すごくね?劇って人まで変えちゃうの?」
「確かにすごいわ。幽霊にジャックされてるって言われた方が納得するわ」
雅くんは僕の頭をぐりぐりと撫でながらそう言う。
褒められて・・・る?
「僕……成長期!」
その言葉に「だよなだよな。これからでっかくなるなる!身長も!」「お前の場合成長が極端に速すぎてこえーわ」と言う二人。
ハキハキ話す。笑顔で、心の底から笑う。
諸星久遠の専売特許だったはずなのに。
なんでだろう。
声もでる。
今の僕は、犬飼永遠。
台本のセリフのない、犬飼永遠。
「僕……今ならなんだってできる!」