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僕の作品 2


ここは月明かりだけがある夜の道。


燈:「僕は……この世界にいたら息が詰まる……」

永遠:「世界はわかたれている。魔法を使える人がたくさんいる世界、魔法が使えない人が多いこの世界。燈くんは魔法が使えるんだし、向こうの世界に渡った方が能力を存分に発揮できるんじゃない?」

燈:「でもみんな言ってるじゃん!向こうは悪魔や獰猛な生き物が平然と街に現れたり、治安が悪くて魔法による殺傷は日常茶飯事で怖いところだって!」

永遠:「僕は向こうの世界を見たことがないけど……。案外向こうでもこっちの世界のことをそんな風に言ってると思うな。地獄のようなところだってね」

燈:「……どうしたらいいんだ……」

永遠:「魔法の有無は差別の対象。この世界に燈くんみたいな魔法使いがいるのを気に食わない人間がいる。向こうの世界の方が迫害される心配はないと思うけど」

燈:「……手紙が来たんだ。世界を渡る方法が書いてあった。親にも誰にも言うなって書いてあった。気に食わなければ元いた世界に戻ることもできる、あなたは生まれるべき世界を間違えただけで、本来こちら側の人間だって書いてあったんだ。あっちには、僕の力を必要としてくれたり、僕を認めてくれる人がいるかもしれない」

永遠:「(僕には君が必要だし、認めてるんだけど。まあ親や兄弟、クラスメイトから差別されまくってきたし、僕のことなんてただ気にかけてくれる友達なんだろうけど)……気になるんだね」

燈:「(頷く)。一緒に行ってくれない……?」

永遠:「……僕は手紙をもらってないよ」

燈:「……他の世界を見てみたい。お願い!ついてきて欲しい!満月の夜、月が雲に隠れる時、同封された小瓶の液体を飲み込み、ナイフで指先からの血を地面に落とす。月が雲から現れた時、世界への扉が開く!」

永遠:「……わかったよ。じゃあ行こうか。今から」

燈:「え!?今?」

永遠:「思い立ったが吉日でしょ。空を見て。今日満月だよ」

燈:「…………うん。だね」

永遠:「心の準備はいい?」

燈:「……行こう!」


 月が雲に隠れ暗くなった辺りが暗くなったところで小瓶の中身を半分づつ飲み、ナイフを指に突き立てる。月明かりで明るくなった時、指の腹に溜まった血を同時に地面に落とす。

 すると徐々に辺りが眩しく、目を開けることもできなくなり、それでも2人で互いの手をしっかり握っていた。



 目を開けるとそこは大きいホールだった。天井から吊るされる豪華なシャンデリア、天井の光を反射するピカピカな床、たくさんの大輪の花が飾られて、なんとなくわかった。

 僕らは世界を渡ったんだ。

 ここはもう、僕らが今までいた世界じゃない。

 ここは魔法使いの世界だ。

 ホールには僕らみたいな子供が他に3人いた。


けん:「侵入者だ!」

ごう:「招かれざるものが入り込んでいる!」

拳:「誰だ!」


 大人たちの怒号に僕らは萎縮する。


真里亞まりあ:「鎮まりなさい!」


 1人の大人のその言葉に、静まり返る。


真里亞:「驚かせてしまってごめんなさいね。たまにあるのよ。招かれざるものがこの扉から入ってきてしまうことが」


 永遠のことか?と燈は焦る。永遠はいつも通り平然としていた。


真里亞:「皆様ようこそ。魔法使いの世界へ。歓迎するわ。今までの世界は……息が詰まることが多かったでしょう。肩身が狭くて……自分を理解してくれる人なんかいなくて……」


 その言葉に、みんな共感するような、救世主を見るような目でその人を見ていた。


真里亞:「これからはそんな思いはしないわ。ここにあなたたちの家族はいなくても、これから新しい家族ができるわ。1人ではないの。王立の学校で魔法を学び、一人前の魔法使いになれることを約束します!」


 その言葉に涙するものもいた。


真里亞:「疲れたでしょう。さあ!あなたたちを学校の寄宿舎まで送ります!今日はそこでしっかり休んで、明日からしっかりこの世界を学ぶのです!」


 僕らは大人に言われるがまま移動車に乗り、なんの疑問も持たずに出された料理を食べ、部屋で寝た。

 僕は永遠に何も言えなかった。誰かが聞いているかもしれない。そんな気がして。

 永遠は何も言わなかった。いつものように、堂々としていた。







 冒頭シーンの読み合わせが終わり、クラスメイトたちは驚いた様子だった。

 教室の机を全て端に寄せ、真ん中の大きく空いたスペースで登場シーンがある人だけ前に出て大体の動きとセリフの練習中だ。


「いいね。物語の登場人物の心情が手にとるように伝わるよ。あたらしい世界に行く、挑戦するときはみんなドキドキして一歩を踏み出せない。そんなとき誰か自分を認めてくれたり、背中を押してくれる誰かがそばにいてくれることで物語は動き出す。ちょっと休憩して、次のシーンもやろうか」


 先生の話が終わると、僕は燈くんやクラスメイトたちから詰め寄られた。


「お……!お前誰だ!あの無口はなんだよ!キャラ付けか!」「堰を切ったように話しだしたよね!夢見てるのかと思った!」「2人ともすごいなりきってる……。私も頑張らないと……」「今日の練習は犬飼の無言で終わると思ってたから俺まだ台本読んでないんだけど」


 みんな僕たちを賞賛してくれたけど、僕はドキドキしてなんて返していいかわからなかった。


「本当にすごいね、永遠。驚いたよ……。永遠じゃないみたい」


 僕は嬉しかった。永遠は燈くんと一緒の世界に行くよ。燈くんのためならそれで死んでもいい。優しい燈くんが大好きだよ。

 燈くんに頭をよしよしと撫でられ、ご満悦で次のシーンに移る。








 広大な土地、校門から校舎までにある美しく咲き誇る花壇、嫌なこと全てが吹き飛んでいきそうな大きな噴水、木の影にひっそりあるベンチ。絢爛豪華な校舎は長い廊下、日が気持ちよく差し込む中庭、国内最高レベルの蔵書量を誇る図書館。最高の環境が用意されていることは誰の目から見ても一目瞭然だ。


れい先生:「今日は見学へようこそ。この学校は優秀な魔法使いを大勢輩出している伝統校なんだ。きっと君たちの中に眠っている力を最大限引き出してくれるよ」

永遠:「すごーい!楽しみ!ね、燈くん!」

燈:「……うん……」


 運動場ではジャージを着た生徒たちが走ったり、瞑想したり、運動したりしている。


怜先生:「ここでは体作りをしているだ。身体は資本!力を使うにはまずこのクラスでいい成績を収めなくては!」

永遠:「なぜその必要があるのです?」

先生:「魔法は他人を助け、守るためにある。自分で扱えなかったり人を傷つける使い方をすると魔法は自分を傷つけ、死に至らしめることがある。体力や筋力が一定以上あれば魔法の暴走を抑えられることが科学的に立証されているんだよ!」

永遠:「身体が資本ってそういうことなんですね」


 永遠はみんな誰かと行動しているのに、一人ぼっちでいる子に気づき声をかける。


永遠:「こんにちは!君はどんな魔法が使えるの?」

まこと:「…………」

永遠:「僕は炎をバーンと出せるんだ!燈くんはぬいぐるみに魂を吹き込んだり死んだ虫やペットを生き返らせたりできるんだよ」

誠:「…………」

怜先生:「おやおや。恥ずかしがり屋さんなんだ。気を悪くしないでおくれ」

永遠:「いいえ。僕が急に話しかけて驚かせてしまいました。ごめんね」

誠:「…………」

先生:「少しこのクラスで身体を動かしては!」

永遠:「いいね!ね、燈くん」

燈:「…………え」


 みんなと走る。燈くんがかけっこで1位。永遠は誠と一緒に最下位。


あらし:「お前意外と遅いな!」

永遠:「えへへ。僕はこうなることが分かっていたけどね」

啓斗けいと:「それにしてもお前やるな!ここでは今まで俺が一番だったのに!」

燈:「……いやぁ……」

永遠:「負けちゃったね。でも人には向き不向きがあるから、足が遅い者同士他に巻き返せるものを見つけていこう!」

誠:「……他に……」

永遠:「僕は今の所まだ見つけてないんだけどさ!これから生きていたら何かしら見つかるかなって。そのためにいろんなことにチャレンジしていこうね!」

燈:「永遠……あまり能天気の布教しない方が……」

永遠:「先生!次お願いします!」



怜先生:「このクラスでは今魔法の基礎知識の勉強中のようだね。君たちも少し見学するのはどうかな」

永遠:「じゃあ一番後ろの空いている席にお邪魔しますね」


 2人で教室の一番後ろの席に着く。


ゆう先生:「かつて一つの世界に魔法を持つ者、持たざる者がいた。その違いに遺伝関係は認められず生得的であった。その違いは格差と不幸をもたらした」

みやび:「魔法を持つ者の方が高い地位を得るのは当然の権利でしょう。不幸だなんて被害者ぶる言い方だ。呪うなら持たずして生まれた自分を恨むべきだ」

れん:「魔法だけが全てじゃない。魔法より突出した才能があれば平等に評価できなければ格差が生まれる」

雅:「魔法を超える奇跡なんてそうそうない。それにあったところで人は学力か魔法の有無でしか人を比べられない。そして比べて競争に勝った奴だけが国にとって必要な人材だ。働かない、働けない、施しを受けるだけのやつ、生きていく価値があるのか」

なぎさ:「それは年金や生活保護で生活している人間に「お前は死んだほうが国のためになるって言ってる様なもの」

雅:「言っているのさ。まぁ年金暮らしはいいよ。それまでしっかり働いてきた者の当然の権利さ。この世界の生活保護を受けている人間の大半が非魔法士だ。働こうと思えば職はいくらでもある中、病気や貧困を理由に怠惰を貪る」

恋:「人は助け合わなければならない。互助、共助、自助、公助、それだって当然の責務だ」

雅:「おいおい、生活保護の人間が何をしてくれるってんだよ。異臭を放つ以外で頼むぜ」


永遠:「みんな自分の意見をしっかり持ってるね。柔軟性にかけるような人もいるけどさ」

燈:「……永遠ならここでも自分の意見を言えちゃうんだろうな」

永遠:「燈くんはどう思う?」


雅:「何コソコソ話してんだよ!お前はどう思うんだよ!」

燈:「っ!……えっと…………」

永遠:「僕は死んでもいいと思うよ」

雅:「気が合いそうだな」

永遠:「生きていく覚悟がないなら」

雅:「……なんだって?」

永遠:「なんてね。何もなくたって良いんじゃない。それでも生きていて良いんだよ」

雅:「税金がドブに捨てられても構わねえってか。自分が捨てた金には興味ねぇのか」

永遠:「君は何を期待しているの。何も持っていない人間から何かを得たいの?期待するに足りる人間ならともかく。底辺にいる者がどう足掻いているかなんてどうでも良いことでしょう」

燈:「なんか……言い方ひどくない……?」

雅:「いいや。死ぬべきだ。底辺にいる人間ほど恐ろしい存在なんてない」

恋:「異臭がそんなに嫌かよ」

雅:「何もない人間は失うものもない。どんな罪も恐れず、どんな罰が降るかも厭わない。持っている者がどんな苦労してきたかも知らず簡単に奪う。与えられてばかりで全て自分のものだと思い込む。懸念は早々に詰むべきだろう」

永遠:「殺される前に殺そうってことか。でも中にはこれからやり直そうと思っている人もいるでしょう。君の不安を消すために消えていい命なんてない」

雅:「なら身近な人間で置き換えてみるのはどうだ。何も持たない人間が今お前の横にいるやつを殺したら。お前はそんな奴のために今まで税金をいう金を通して生かしてやってたんだぜ。自分の行いの愚かだと思わないか」

渚:「税金は何もそれだけに使われるものじゃない。本当に必要な人に届いている金もある」

雅:「そうか。ならお前は自分を許せるか。そして、殺した奴を許せるか」

永遠:「僕は燈くんを殺したやつを殺すよ。許せないから」

雅:「ほらな。自分が被害者になるとわかるとみんなそうなる」

永遠:「違うよ。殺されるかもしれないから殺すんじゃない。殺されたから殺すんだ」

燈:「僕は永遠に人を殺す業を背負って欲しくない」

雅:「お前はどうだ」

燈:「…………」

雅:「お前はそのチビが殺されても良いのか」

燈:「良いわけない!」

永遠:「罪を犯すことは弱さだ。自分を落ち着かせることができること、自分が間違っていないか問い直すことができること、犯した罪を反省すること、もう二度と過ちを犯さない覚悟、それで罪の重さが変わる。それができないことが弱さだ。誰もが弱さを持っている。だから誰でも罪を犯せる。特別なことじゃない。弱さがみんなを不幸にする。だから誰よりも弱い者に手を差し伸べなければならないんだ。そういう社会にするために生活保護は必要な制度なんだと思うよ」


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