口づけ
「めっちゃ寝れた。客間のベッド変えたんだな」
前回寝起きが悪すぎて何回殴り蹴られたことかわからない神様こと白花堆紀が、今朝は自発的に起きてきた。
「ああ。この前お前が泊まった後、じいちゃんが、『また来てくれるんだろう。これ良くないか母さん』とか言って200万円のベッド買ってたな」
「200万!? 言えよ! めっちゃフツーに借りてたじゃねーか!」
「いや。白花のために買ったと言っても過言じゃないし」
「たまに泊まるだけのやつに200万使ってんじゃねーよ!」
「うちの家族にまともな金銭感覚あるやついるのかな……」
白の言葉に、燈くんは「永遠もお財布持ってないもんね。クレジットでいくらでも払うよね」と言う。
僕は算数が理解できない。573円ですーって言われても10円玉何枚出せばいいかわかんない。1万円札出せば大抵の買い物がなんとかなるってことだけはわかる。
「ベッドもクレジットで払える?」
僕の素朴な疑問に堆紀と白たちは、
「流石に上限じゃねーの?」
「永遠のはじいちゃんのに紐付いてるから上限とかないんじゃね?」
「この馬鹿にそんな大金使わせて良いのかよ」
「お前よか金かからねえよこいつ」
「おい誰がベッド買えって言ったよ」
僕らが昨日泣いていたことなんて露知らず、呑気にそんな会話をしていた。
ブーはソファで寛いでる堆紀の膝の上で腹を上にして寝ていた。
プーは燈くんの肩に乗っていた。
「堆紀はいつの間にか白と仲良しになってる。なんで?」
僕のその質問に堆紀は、「仲良し? どこが?」と真顔で答える。
僕の気のせいだったのかな。
「堆紀!ぎゅー!」
僕がそう言い堆紀に抱きつくと、「またバレッタ付けてんのかお前! その手に乗るか!」と突き離される。
白はいつでもぎゅーってしてくれるのに。ブーは可愛がられてるのに。
「僕……ブタ以下?」
「お前は甘やかされすぎ。たまに見ててウザいわ」
僕がしょぼんとすると燈くんは「そんなことないよ。永遠は可愛いよ」と頭を撫でながら言ってくれる。
白は「ははっ」と笑っていた。
何が面白いんだろう。
「お前の周りって人間としてできてるやつ多いよな。俺には無理。お前の面倒見れる気がしねえ」
突き放すような言葉に悲しくなるより腹がたった。
「僕はなんだってひとりでできる! もう僕一人で寝れるし!」
「昨日の夕方床で寝てただろ。夜は燈と一緒に寝てたし」
「僕は一人暮らしを初等部からやってるんだ!」
「ほとんど指輪の家にいるだろ」
「僕は毎日床をピカピカに磨いてるんだ!ブーたちが遊び回れるように!」
「偉いな」
「僕は一人でも大丈夫なんだよ!面倒見られるほど子供じゃないんです!」
「わかったわかった」
全然響いてない。
確かに料理とかできないし、朝起きれないし、勉強できないけど。
言うほど他の子と変わらないと思うんだよね。
「堆紀兄は誤解してるんだよ。永遠が手を繋いで欲しいのも、ぎゅうって抱きしめて欲しいのも、誠のせいだから」
なんで誠くん?
「あのアホセブンとか言われてるやつの一人か」
神7なんだけどなあ。
「誠はね、永遠が笑わないし話さないから、人の温もりが足りないんじゃないかって、注入してあげようって言い出したのがきっかけでね。それからみんな永遠を見かけたら抱きしめたり、移動教室の時とか登下校の時とか会ったら手を繋ぐようにしてたんだ。永遠はそれを『知り合いにあったらハグして手を繋ぐ』って勘違いして学習してるんだよ」
「異様だったわ。前に永遠の隣に6人くらい横に並んで手を繋いで登校してるのみたわ」
「それは……雅の命令は絶対だからね」
雅は僕のためにも命令を下してたんだなあ。
さすがはボス。
でも別に僕一人でも大丈夫だし、そんな勘違いしてないし、ただ燈くんがしてくれるみたいに堆紀にも抱きしめて欲しいだけだったんだけどなあ。
「本当に異様だわ。お前らのクラス男同士でも女同士でも頬にキスとか平気でしてるよな」
「それは……どうしてだろうねえ……」
燈くんは白を切るように視線を逸らした。
牡丹ちゃんの燈くんへの告白以来、教室でのフレンチキスは当然のようにクラスに横行し、カップル同士じゃなくても友人の頬にキスする光景もよく見られるようになった。
それもこれも牡丹ちゃんと自習時間クラス全員で見た海外ドラマの影響である。
「朝起きた時燈くんがほっぺにチューしてくれたけど、白はしてくれなかった」
「ごめん。俺生粋の日本人でさ」
「僕も日本人なんだけど。でも白はぎゅーはしてくれるよ。でも堆紀は何もしてくれないの」
「どっちかはしないとな」
白の裏切りに堆紀は、「は? そういう所だわ」とツンツンしていた。
「そういう……してもらって当たり前、与えられることが当然見たいな所だよ」
ブーは堆紀のに頭を撫でてもらえて嬉しそうに「ブー!」と鳴く。
挨拶じゃん、みんなしてる流行りみたいなものじゃん。
確かに僕は教室で班決めとか困ったことないし、移動教室とかどこ行って良いかわからないけどいつもみんなとちゃんと授業受けてたし、授業が終わったことに気づかなくてずっと教室にいても誰かかしら声をかけてくれた……。
あれ……。
僕もしかして……ずっとみんなに助けてもらってたのかな……。
そういうみんなの優しさに……ありがとうって言ったことあったかな……。
「燈くん……! 僕……! 早く学校に行ってみんなに会いたいよ!」
「あー……。今日土曜日なんだよなあ……」
燈くんとのあの夜のことを思い出して、初めて夜眠れない事が多くなった。
その度に白のベッドに侵入した。白が一緒にいるといつもすぐに眠れた。
燈くんはあれから元気だったけど、僕はあの時なんの慰めの言葉も出てこなかった。
一緒にいることしかできなかったけど、一緒にいれて良かった。
あれから数日が経った。
学校に行く途中雅に会って、学校まで二人で手を繋いで歩いていたことがあった。
後ろから何か落ちたようなバンっと言う音がして、振り返ったらカバンを落とした莉里ちゃんがこちらを呆然と見ており、しばらくして、
「うああぁん!!浮気されたー!」
と、泣いていた。
してないしてない。あなたの彼氏がいつ誰と浮気するのよ。
莉里ちゃんはこのヤローと言わんばかりに雅に突進し、雅が「落ち着け! よく見ろ!」と、僕の方を指さすが、莉里ちゃんは涙ながらに僕を見て、「私より小さくて可愛い!!浮気されて当然だって言いたいわけ!?」と逆上。
「違うわ!!なんでわからないんだよ!永遠だろ!!」
苦しい言い訳してんじゃねえぞと言わんばかりの顔で、もう一度僕の顔を見た莉里ちゃんは、僕に気づき一変する。
「あれ! 永遠じゃん!」
まるで今の今まで気づいてなかった様子。
最近まで旅行に行ってて学校で会ってなかったから、莉里ちゃんは僕がジャージから高等部の制服になってることを知らなかったのです。
「え!! やば!! 超可愛い!! 女の子じゃん! こんなの超絶可愛い女の子じゃん! 一緒に写メとろ?」
「お前俺に言うことあるだろ」
「おかえりのチュー?」
莉里ちゃんは怒り顔の雅にキスすると、雅は「じゃねーよ! 人をどついといてよく自分の罪をなかったことにできるな!」と怒鳴るが、莉里ちゃんは全然意に返さず、「こんなに可愛いのに気づくはずないじゃん! 知らなかったんだよ!? 私は悪くない!」と僕のことを抱きしめる。
雅はその光景にはどうでも良さそうな反応だが、怒りは収まらず「んなこと言うから調子乗っていつまでたっても女装なんだよ!」と言う。
「女装の何がいけないの!? 着る服なんて個人の自由でしょ?」
「校則破って白い目で見られるのはこいつなんだぞ!」
「別に校則守れる奴が偉いわけないじゃない。卒業して法律破る奴も、人の迷惑になるような奴だっているわ。でも永遠は可愛いだけ!」
「お前はこいつが可愛いだけだろ!」
「我が子のように愛しい……!」
そう言いながら莉里ちゃんは僕の頬にチューしていた。
雅は呆れて何も言わなかったが、その後ちゃんとラブラブしてたので安心してほしい。
雅と莉里ちゃんの喧嘩のやりとりは側から見ていて微笑ましかった。




