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片翼の悪魔  作者: 紀國真哉
第二章 エンジェル
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第11話 ルーキーの暴走

「なぜ我々を襲うのだ。お主らは何者なのだ。虫であるお主らが人間と言葉を交わすなど叶わぬことだが、我々を殺しに来る以上、私はお主らを迎え撃たねばならぬのだ。来るが良い、天使と呼ばれる者たちよ」


 ユキムラは、自身の専用の武器である「ギフトソード」の柄を握り、ゆったりを腕を伸ばして刀身を水平に構えた。

 それを合図のように、小型が次々とユキムラめがけて飛んでくる。その翅だけをバラバラに切り刻むと、文字通り翅をもがれた胴体が地面に落下する前に、クロウとタカノリが火炎放射器で焼き切る。すでに三人のフォーメーションは出来上がっていた。

 

 ルーキーのタカノリは、B.A.T.の基本装備の火炎放射器と、「パイオネーター」で戦っていた。

 パイオネーターの銃身には、剣を装着するためのスリットが数か所あり、その剣には強い毒が塗られている。エンジェルの胴体に切りつけることが出来れば、数秒で神経を麻痺させる毒だ。

 そしてパイオネーターのマズルからはブルーフレイムと呼ばれる青い炎が発射される。これは酸素が少ない場所でも高温で燃える炎で、かつ対象物が発生させる汚染物質等を炎の中に取り込めるという、現場の環境に配慮したものだ。

 パイオネーターの扱い方は訓練校で習い、また、マスターしなければ卒業資格を取得できないため、タカノリもパイオネーターの操作には慣れた手つきだった。


 さきほどの全体集会の際、エイジに気を取られていたせいで恥をかいたタカノリは、この初陣で、ルーキーの誰よりも成果をあげたいと思っていた。特にエイジだ。ブリクサ班はかなり離れた場所で戦っているため、エイジがあのチームの中でどんな活躍をしているのかわからないが、エイジは一軍のトップであるブリクサ班に配属されたのに、自分は二軍にいる。その事実からも、エイジがどれだけ期待されてB.A.T.に入隊したのかがうかがわれ、タカノリはそれが悔しくて仕方がない。


 エイジもタカノリも、同時期に訓練校に入学し、一年間の教習を受けてB.A.T.に入隊した、似た者同士のはずだった。ぐんぐんと成績を上げてきたエイジに焦りを感じたこともあったが、タカノリは、必ずトップデビルになるのだという信念でここまで来た。


 それに、エイジは入校当時からブリクサにこだわっていた。B.A.T.に入隊するには、最低一年間の訓練が義務付けられている。

 最短の一年で入隊資格を得られる者もいれば、何年かかっても課題をこなせない者もいる。そんな中で、エイジは第一軍のトップであるブリクサ隊長のもとで活動するのだと豪語し、本当に最短でブリクサ班に配属された。

 エイジとブリクサの間に、なにか個人的な事情があるのかと考えたこともあったが、やはり自分と同様、エイジもただB.A.T.トップの男の許で活躍したいのだと、タカノリはそう思った。互いの夢や目標について語り合ったことも、ましてや訓練校で衝突したこともないが、タカノリは何故かエイジが気に障って仕方がないのだった。


「まずはエンジェルの処理数だ。実力の差を見せてやる」


 赤い脚をモゾモゾと蠢かしながら落下してゆく小型のエンジェルたちを一通り焼き切ると、タカノリは約百メートル前方から、ゆっくりと近づいてくる通常型二体に目を遣る。


「ユキムラ隊長! 俺とクロウさんであの二匹をやります! いいでしょうか」

「武器の準備は万全か。配属初日から通常型と一対一で戦うのは危険なことだ。私が援護する。危機を察知したらすぐに離れるのだ。それは恥ずかしいことではない」

「了解!」

「はい! 行って参ります」


 クロウに続き、タカノリもボードを発進させた。


「俺は右の奴をやる。タカノリは左を頼む!」

「はい! 任せてください!」


 火炎弾、火炎放射器、パイオネーターをボードの前方に並べ、タカノリはふたたびパイオネーターを手に取った。そこから放たれるブルーフレイムは、火炎放射器のそれのように広範囲に広がるのではなく、炎の威力としては若干落ちる。

 だがブルーフレイムの発射中には、同時に猛毒が塗られた剣を突き刺すことができるのだ。まれに、火炎放射器で焼いただけでは絶命しない個体もおり、タカノリはとにかく、「通常型を何体仕留めた」という実績がほしく、確実にエンジェルを処理できる方法を選んだ。


「目ぇつぶんなよ!」


 まずブルーフレイムを浴びせて、翅や胴体の表面をあらかた焼き、毒で息の根を止める作戦で、タカノリは通常型と対峙した。



 ほっそりした長身ながら、その腕力・握力が異常に強いクロウは、自身の乗るボードめがけて突進してきた通常型を、正面からがっしりと掴んだ。

 個々の潜在能力についてはいまだ未知数のエンジェルに対し、接近せずとも処理できる火炎弾や火炎放射器を使用するのはセオリーだが、クロウは自身の特徴を生かしたこの戦い方を好んでいた。特にサイドスーツを装着したいま、その腕力・握力はともに常人の数十倍には増強されているはずだ。


 左手でその頭部を掴むと、そこにピンと立っている触角をもぎ取る。あらゆる感覚を奪われたエンジェルは混乱し、太い胴体を振って逃れようとする。クロウの腕を斬り落とそうと翅を立てるが、その翅の先端を指先でつまみ、クロウはまるで手紙を破るように上から下へと、引きちぎった。暴れるエンジェルの頭部を掴む指にさらに力を込めると、それはメロンが破裂するように、内容物をまき散らしながら弾けた。


 クロウは、決してカリタのようにわざわざ残酷な殺し方をしたいわけではない。ただ、様々な方法で戦い、より多くのデータを収集し、それを現場からの情報として共有したいと思っているだけだ。

 クロウに限っていえば、一対一での戦いならこの方法が一番早く、武器を無駄に使うこともないと確信していた。



 タカノリが撃ったブルーフレイムは、敵の翅をボロボロに焼き、胴体の表面には穴が開くほどの熱傷をいくつも負わせていた。エンジェルはもがき苦しんでいるが、しきりにタカノリのボードに向かって赤い腕を伸ばしてくる。それは、まるでタカノリの武器を奪おうとしているかのようだった。


「こいつ……!」

「どうした、タカノリ、俺はもう終わる。すぐに加勢するから待ってろ」

「いえ、大丈夫です! でもなんか、こいつ動きが妙なんです!」


 タカノリの攻撃を受けた通常型エンジェルは、胴体に穿たれた穴から体液を溢れさせながらも、真っ黒い眼で懸命に前を見据え、そして腕と口吻をしきりに動かしている。その様子を見て、タカノリは恐怖と共に生理的な嫌悪感をもよおし、不気味さと違和感に身体が震えるのを自覚した。


──こいつは他の個体と違うんじゃないか? だとしたら捕獲対象か。


 タカノリに迷いが生じた一瞬だった。すでにボロボロになっているエンジェルは、口吻を長く伸ばし、タカノリの握るパイオネーター銃身の下部に、それの先端を触れさせて動かした。タカノリもクロウも、隊長のユキムラでさえ気づかないくらい、静かに。


「おい! 待ちやがれ!」


 すでに飛べるような翅などもっていないはずだが、それは北西の方角に旋回しながら飛び立った。確実に仕留めようとする直前の出来事に、タカノリも驚いて急発進する。そしてすぐに追いついたエンジェルの背後から、至近距離でパイオネーターのトリガーを弾いた。

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