初めまして、異世界 53
「──ハクロウ、なにご主人を泣かしてんの…?そんなにそのアホ面爪で引き裂かれて即土に還りたいワケ?…ほらご主人も、今の僕達より前の僕らに心が傾いてても大丈夫だから気にしないでいーんだよ。メガミが言ってたんだっ!ご主人は転生したばかりで最初は魂がまだこっちに馴染まないから向こうの記憶に引きずられることも多いけど、徐々に徐々に変化していくから心配はしなくていいよって!僕もハクロウも最初は同じだったから、だいじょーぶ。ご主人もゆっくり気楽にこっちに馴染んでいったらいーと思うよっ」
「………そっか、めがみさまが……ありがとう、キラ」
「どーいたしましてっ!…さて、じゃあそこのクソ犬、カクゴはイイか?」
「え、いや俺は特に何も…!ご主人はエライって褒めただけワギャーーーッ!!」
「この鈍感クソヤロウめ!!!」
私が地球での二匹への郷愁に引きずられている間、キラはハクロウの不意の言葉にというよりも私の不安定さに気遣いを向けないハクロウの大雑把さに苛立ちを募らせていたようだ。
まばたきする間もなくキラの猫パンチ──といっても、身体が比較にならない程大きくなったため殴打に近いパンチ──がハクロウの頭に炸裂している合間も悪気はなかったのだからと仲裁に入ろうとしたら、ハクロウも同じことを女神様から聞いていたらしくその上で「メガミが『支えて上げて下さい』って言ってたのに向こうの事を思い出させる発言をしたんだから、これは当然の罰」と、こちらの仲裁空しくさらに連打で叩かれてしまっていて。その間私は近くにいると危ないからとサイラスさんに手を引かれるまま数メートル先で離れて見届ける形とさせられてしまったのだった。
ちなみにサイラスさんにも「こんなに愛らしい子に涙を流させるとは……」と、大っっっ変!怖いお顔を垣間見せられてしまいあわや得物を手にしそうな雰囲気を感じ取ってしまったために、だいじょうぶだから!なみだながしてないから!…と鬼気迫る表情でハクロウのもとに向かおうとするその足を止めるのに、だいぶ苦労を要したのは余談でしかなかった。
「つ、つかれた〜………」
「大丈夫か?無理ならまた抱き上げて…」
「ご主人っ、また背中に乗っていーよ!」
「ごめんなさいつかれてませんっ!あるきますー!!」
「………いててててて、あー…ご主人もダイヘンだな……」
「お前が言うな」
「鈍さは罪とするからな」
「キャン!」
ハクロウの言葉に二対一の構図が出来上がってしまったところで、喧嘩は終わりと言わんばかりに私は水場への案内を急かすと見せかけてハクロウを庇うべくよしよしと撫でて慰めるのだった。