初めまして、異世界 50
まったく記憶にない事実に反論の言葉すら紡げない。確かにさっきまで考え事に集中していて周りを見ていなかった自覚はあるが、いくらなんでも障害物が目の前にくれば私だってすぐに気付くことが出来た筈…などとブチブチ言い訳を色々と考えていたのだがその抵抗がわかりやすかったようだ。バッチリしっかりこちらの不平不満が分かったキラに、やんわりと釘を差されつつも赤ちゃんのご機嫌をとるように宥められてしまった。
「…ご主人、さっきの真名の契約でご主人の考えてることは僕に筒抜けだから。自分で歩くのは諦めておとなしく僕の背中に乗って景色を満喫しよっ。ね、ご主人?」
「ぐぬぅ…!」
よもや飼い猫にあやされる事になるとはと別の意味で致命傷を負った私だったのだが、そういえば地球にいた時もキラは甲斐甲斐しい子だったなと懐かしさと愛おしさを感じてさっきまでの不平不満が遠退いていく。
それに、キラの様子を見ているかぎり本当に私と一緒にいられるのが嬉しいみたいで、ご機嫌でずっとしっぽを立てていたかと思ったら腕や腰に絡ませたり、こっそりとゴロゴロとのどを鳴らしながら静かに歩いている間も私が何かに興味を示したら逐一と立ち止まってそちらに歩み寄ってくれたので、キラの滑らかな毛の触り心地の良さと運ばれることも二回目ということが相まって自力で歩かなくてもたくさん楽しむ事が出来た。
「いろいろみれてすっごくたのしいね〜!…………………ハッ!ってちがーう!!じぶんであるけるんだから、あまやかしちゃいけませーーんっ!!」
「あー…気付いちゃったか。もうちょっと騙されてくれててもよかったのに、ご主人。身体が小さくなってもがんばり屋さんなところは変わんないな〜」
「ぅ……ぁ、ありがとう…」
「どーいたしまして!ま、ちょうどイイタイミングだったから此処からはご主人も歩いてだいじょうぶだよ〜。川辺ももう近いし余計な邪魔者の存在も周辺に感じられないし。…足元にだけは気を付けてね?」
「あ、ハーイ」
キラの忠告についさっきの自身が犯した失態を思いだし恥ずかしさで肩をすくめる。ついでにキラから降りる際にはサイラスさんに抱っこでも降ろして貰ったため、こちらの抵抗も何のそのキラの背中に乗る際にも同じことをしたのだから…と言われてしまい、自身の葛藤や恥ずかしさなども今は子どもの姿なんだから!と強引に自分を納得させつつも、もうどうにでもなーれ!と情緒が自暴自棄になってしまったことは言うに言えない正直な心境であった。