目覚めたら、女神様の胸の中 12
目の前に彼女が居るというのに、私の視界にはもう視線の先にある車の姿しか目に映らなくなっていた。
(──何だろう何だろうっ、この嫌な感じ。不安もあるんだろうけどそれだけとは違う、もっと辛くて切羽詰まって気持ち悪い感じ。これってっ!?)
次第にブルブルと手のひらや肩が微かに震え始め、呼吸の乱れと心臓の音が比例するように強くなっていく。そして、それらすら凌駕する程に、今の私には焦る気持ちが強く強く内に涌き出ていた。
(っ…このまま此処にいたくない…!!)
見れば車は、先ほどの荒々しさが嘘のようにノロノロ運転へと変わっていたが、私はその様子を見て安堵するのとは逆に震えがもっと酷くなり、傍目から見ても分かるほど怯えているのが目に見えていた。
(怯え…?……ああ、そっか。そうだ、この気持ちだ。私が今感じてるこの感情、それは──)
────恐怖、だ!
「っ、は、離して…離してくださいっ!このままじゃここにあれが…っ!!」
「…新咲、大丈夫。私が貴方を護ります。ですから真実を見据えて」
「いや…嫌…っ、ここに居たくない…っ!」
気持ちを自覚し、鈍っていた感情を恐怖と認めてしまったならば、後はがむしゃらに抵抗をするだけだ。
必死になって彼女の手から逃れようと身を捩るが、びくともしないどころか逆に繋がれた手を引かれて正面から抱き締められ、両手で隙間なく拘束されてしまった。
「っ…何で、このままじゃ貴方も…!」
「──優しい子。さぁ、全てを思い出して」
「ひっ!!」
拘束を解くのに気を取られているうちに、気付けば──いつの間にこちらへと向かっていたのか──もう車が、先ほどと違いスピードを上げて数十メートルと差し迫っていたので、私は逃れられない状況に恐怖でひきつった悲鳴しか上げられず、なす術もない状態で立ち尽くすしかなかった。
(怖い怖い怖い怖い、こわい……!!!)
心の中は悲鳴で一杯なのに、不思議と目の前の光景から目がそらせない。
いよいよ車は数十センチと迫り、終わりの時が訪れるのに耐えきれず私は、ぎゅうと目を瞑り視界を遮断して、少しでもその時が来る恐怖を軽減できるようにと祈らずにはいられず。
──一拍置いて、ドン、とくぐもった音が聞こえた頃には、私の意識は再び暗闇へと落ちていった。