目覚めたら、女神様の胸の中 11
「ええ、いつでも大丈夫ですよ」
こちらも準備をいたしますので──と、空いているもう片方の手でこちらの側頭部に触れたと思ったら、瞬き一つの間に辺りの光景が先ほどと一変してしまっていた。
「っ、こ、れは…!?」
色とりどりの花たちが消え去り、現れた光景──それは、別段特筆すべき所もないなんの変哲もない、建物や道路や橋といったいつもの私が見ている普通の光景だったのだが。だが、だからこそ普段私が仕事で通い慣れていた通りだと一目で分かり、慣れ親しんだ景色に何時間ぶりかわからないが、郷愁のような思いがじんわりと込み上げてきていた。
「ここって…私がよく歩いていた仕事場への通り道、ですよね」
「ええ、新咲、貴方にとっての日常の場所であった所です。…そして、最期の場所となってしまった」
「……え…?」
『さいご』ってどういう意味だろう──と戸惑っていると、突然視線の向こう側から荒々しい音を立てながら1台の車が右に左にとフラフラしながらこちらへと向かってくるのが見えてきて。
「っ…!?」
その、何だか嫌な感じのする車から目が離せないでいると、徐々に徐々に息が上がり自分の心臓の音が強く脈打っているのを感じ取れ、冷や汗が止まらなくなってしまっていた。
(な、なんでっ、こんなに不安になってるんだろう?ちょっとフラフラしてるけど走ってる車とは少し離れた所にいるし。別にこっちに向かってるわけじゃない…よね?)
ひしひしと嫌な予感が消えないまま──それでも、それを否定したくて現状を呟く。