目覚めたら、女神様の胸の中 105
「気にやむ事はありません、新咲。貴方の心根が優しいのは貴方自身の個性なのですから、自らを誇ってあげて下さい。それに、私はそんな貴方の内面が表れた行動に惚れ込みこうしてその手を掴み取ったのですもの。むしろそのままでいて、邪魔な輩は周りの者が代わりに排除して差し上げますわ」
「い、いえいえいえ!!あの、それはすごく申し訳ないのでなるべく…ハイ、自分で対応できるようガンバリマス、ウン」
しどろもどろながらはっきりと決意が固まらないまま消極的に返事をしてしまったが、女神様はこちらのそんな返事にも深追いすることなく「無理はしないで下さいね」と優しく肯定をも返してくれたので、ほっと安堵しながら改めて、先ほどまで話していた転生特典について続きを聞いていこうと彼女を注視し話し始めるのを待つのだった。
「それでは先程の続きとして、一つ目の特典は『守りの結界』は変わらずに、対象となるモノへの与える規模を縮小させる事に致しましょう。新咲は相手が傷付くことを憂慮しているのですよね?」
「はい、そうです」
「でしたら、悪意の対象者を傷付ける事無く視界から除ける、という方法はいかがでしょう?受け入れて下さいますか?」
視界から除ける?
どういう方法だろうか。もしかしてその守りの力が発動したら、ぽーんと相手の身体が物理時に宙に舞ったりする方法などでは……!?
「っ、女神様!それは…」
「ぁあ、新咲落ち着いて。今回の仕様は前回の様な乱暴なものではなく、文字通り悪意を目の前から他の場所に移動するといった大人しい類いのものですから心配はいりませんよ。移動範囲も精々隣村や隣街といった具合で飛ばされた本人は傷一つ負うこと無く飛ばされた地に着地いたしますから安心して下さい。…新咲も、悪意に晒された後は対象が近くに存在しますと不安が募ってしまいますでしょう?自衛の一環としての手段だと思ってくだされば良いのです」
女神様にニコニコと説明されて、確かに悪意を体感した後にその存在がまだ近くに居たとしたら…うん、怖いと感じるだろうし恐怖に負けてしまうかもしれない。自慢じゃないが荒事には本当に慣れていないのだ。言葉ならまだしも手を出されたりしたら…などと考えると、女神様の提案は適度な処置に思えると納得している自分がいるのを感じて、肯定する事に抵抗はなかった。
あと懸念事項があるとすれば──
「……本当のほんとぉおおおっに、相手の方に心配は無いんですよね…?」
「ふふ、ぇえ!前回とは違って殺傷性もありませんし、新咲の安全も保証致しますわ」
「……わかりました」
曇り無い女神様の返答に、不信の心をいつまでも持つのも失礼かと考え直した私は「そちらの方法でよろしくお願いします」と決定的な返事をしてしまった。──彼女の考えを甘く見ていたとも知らずに。
「…………ふふふ、新咲は何て素直なのでしょうか。私の星では、隣村や街への移動で単独と言えば死あるのみ、ですのに。転生前の知識が無い状態で本当に助かりましたわ。例え集団で押し寄せたとしましても、私が生ぬるい処置で同じ箇所に複数人を送ろうとは思いませんから安心して下さいね。それに座標も、そんな輩に街中へと入られては迷惑となりますから鬱蒼とした森の中へと設定しておく事に致しましょう。運良く脅威から逃れられれば人里まで山一つ越えた距離ですもの。容易くたどり着けますし、森のモノたちも傷一つ無い新鮮な獲物に喜びを見出だす事でしょう。不逞の輩の結末としては十分な処置ですわね」
……などと、女神様が一人ほくそ笑んでいたとはついぞ知ることも無かった。