目覚めたら、女神様の胸の中 103
何やらじーん、と感動している様子の女神様に食い気味に返事を貰ったことで圧倒されてしまったが、一応肯定的に受け入れて貰えたようで幾分ほっとしてしまった。…が、まだ終わりではないのだからと気持ちを引き締めて、緊張を緩和させる為に深呼吸をする。
第一関門の提案をすることは受け入れて貰えたものの、これから伝える内容によっては女神様の望みと合わずに承諾してもらえないかもしれないのだ。
不安と緊張によるドキドキとした不整脈と必死に戦いながら気持ちを鎮めようと努力する傍ら、自分の要望はきちんと口にしなければ相手に伝わらない…と、先程痛感した事実をまるで呪文のように自らを奮い立たせるために言い聞かせると、意を決して彼女へ、過剰防衛は望んでいないことをしっかり伝えるべく「オブラートは消し去ること!」と脳内でメガホン片手に叱咤激励する自分の声援を受けながら、第一声をたどたどしく発するのだった。
「あの、ぇええと…女神様が私の安全を考慮して一生懸命転生の際に持たせてくれる特典を思い付いて下さったのは本当に有難いですし、嬉しいです。ありがとうございます!…ですが、私は過剰な防衛のせいで相手が傷付くことに耐えられません…。手を出されたならまだしも思考しただけで……は、やはりやり過ぎだと思いますし、生まれた国が平和だったことも起因しますが暴力は見るのも聞くのも、知る事すら痛く感じます。…実際、仕事上でクレームを受けた時とか言葉で心が痛むこともありましたし。それに、考える力を持っている生物として思考する能力がある以上、一定の年齢を過ぎた者で倫理に反する考えをしたことが無い、という事はまず以てあり得ないでしょう。それでも…理性でもって行動を制する事が出来るのが、女神様にとっての愛の心と同じように思考者の愛の形なのだと思います。──ですので是非とも…」
「わかりました。新咲、私は貴方に望まない力を授けるところだったのですね。……貴方の全てへの赦しの心に、私、深く強く心を動かされました……っ。本当に新咲、貴方という方は…!全宇宙に見て欲しいくらいに尊さと愛しさで私の胸はいっぱいです!!ああ、こんなにも素晴らしく博愛に満ちた存在が私と同じ、いえっ!私よりも愛に満ちた女神で無いことに疑念しかありませんわ!!何故新咲が神として生まれていなかったのでしょうか…っ。…ぁあ、でもそうですわね、貴方が神として生まれていたのなら私達は出会わない存在となる可能性が高かったか、と──…止めましょうか、この嫌な想像は。例え話であったとしましても、私にとって迎え入れたくない世界の話ですもの。新咲が素晴らしい神であることは、私が知っているだけで良いことといたしましょう」
「へぁ!?いや、それは…」
「許して下さいませ、新咲。貴方が私の世界上にいないと考えただけで私の胸は張り裂けるどころかこの世界から消失してしまう程なのです。そして、その傷を治すことが出来るのは貴方次第なのですから…」
「ふ、ぐぅぅううう…!な、なんて断りづら…いや、何でもありません!!ああもう、好きにして下さい〜!」
「……やりましたわ!これがコウシキで推し認定、となるのですね……!!」
女神様が目元を潤ませつつ片手で口元を塞ぎながら悲哀な表情を浮かべてこちらを一瞥するので、美人が悲しむ姿に弱い私はヤケクソ気味にオーケーの返事をしてしまったのだが、早まっただろうか。
こちらの返事を聞いた途端、直ぐ様目を輝かせて何事かを呟く彼女に、変わり身が早い…とがっくりしながらも内心で元気になってくれたことにほっとした自分は、とりあえず当初の希望の意味合いが通じて受け入れて貰えた事に二重の意味でようやく安堵の心地を味わえるのだった。