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13.素人が似たような植物を見分けるのは大分無謀である

2700PV突破、ありがとうございます。

更新遅いながらも少しずつ伸びていて励みになります。


よろしければブクマ、評価、感想などよろしくお願いします。

うつら、うつらと意識が揺れる。夢と現実の狭間を漂う、一番気持ちいい瞬間。


ゆらゆら、ゆらり。


しかし、物理的にも揺られ、あやされている様な感覚に段々とそれが夢側から離れていくのを感じた。



うーん、あと五分………っていうか、これ。



「う、うぶぇ………」



ゆ、揺らさないで。ちょ、待って、気持ち悪くなってきた……おえぇ……。



どうやら私の三半規管はゴミだったらしい。乗り物酔いした時特有の気持ち悪さで吐きそうになる。頭がぐるぐるする。

この感覚、懐かしいけど一生味わいたくなかった。


どうにか抜け出す為に、重い瞼を持ち上げる。

その瞬間に明るくなった視界に、思わずもう一度目を瞑ってしまったのだが……



「───あら、起きたのね」



そんな声でパチリと目を開けた。同時に揺れも収まる。



「おはよう。よく眠れたかしら?」

「………お、お陰様で………??」



私の言葉にニコリと笑って返すのは、どこの天使だってくらいどえらい美人お姉さんだった。

そんなお姉さんの腕の中に、私は赤ちゃんのように収まっていたのだった。




*┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈*




「もう一杯いるかしら?」

「い、いえ、大丈夫です」

「そう?」



お姉さんの気遣いに答えながら、私は顔を上げた。

あの後気持ち悪くて吐きそうになってた私に、お姉さんはどこからともなく水の入ったコップを出してくれた。ありがたく受け取ったそれは仄かに柑橘系の香りがして、一杯飲み干したところでどうにか吐き気は収まってくれた。



「…ところで、お姉さんはどちらさまでしょう…?」



私の記憶の限りでは、こんな美人なお姉さんは知らない。会ったことも見たこともない。あんな場所に居れば当たり前だけど。



「? わたくしに言っているの?」

「は、はい」



な、何故そんなに不思議そうな顔をするんですか? まさか私が知ってて当然の方なんですか。知らないのがとんでもなく失礼になるような人…!?



「あのっ、ごめんなさ」

「ああ、でもそうね。貴女は知らないのかしらね?」

「…はぇ?」



え、あれ、大丈夫な感じ?



若干ポカンとしていると、お姉さんは頬に当てていた手を胸に移動し、片手で自分を指すようにして名乗った。



「わたくしは、ポラシュルニア。貴女は初めまして…かしら?」



ほんわりとした癒し系オーラを放つ美人お姉さんは、そう言って小首を傾げた。何と言うか、こう……天然っぽい感じがする。腰まで伸びるふわふわのミルクティー色の髪も相まって、ゆるふわ系小動物に見えてしまう。

………出るところは出ているので、間違いなく()()()()だという認識は出来るのだが。



「? どうかしたの?」

「……いえ何でも。………あ、えっと、初めまして、ですね?」



下に向けていた視線を元に戻し、ポラシュルニアさんに答える。

するとポラシュルニアさんは両手を顔の横で合わせて、「ああ、やっぱりそうなのね」と言った。



「それはごめんなさいね。驚いたかしら?」

「いえ…」

「それなら良かったわ。ああ、そうだ。少し聞きたいことがあるの」

「? 何ですか?」

「あのね。わたくしの名前って、呼び辛いかしら。貴女はどう?」

「はい?」



まさかの質問に、すぐには答えられずに止まる。

もっと他にも色々あるだろうに、なぜそれなんだ。というか、改めてここどこだ。


そんな私の内心の疑問を無視するようにして、ポラシュルニアさんは続ける。



「前にね、お友達に呼び辛いと言われてしまったの。けれどその子以外は普通に呼ぶのよ? 不思議でしょう?」

「な、なるほど…? まぁ、確かに少し舌を噛みそうな感じが…。呼び辛いと言えば、呼び辛い……の、かな」



そう答えれば、ポラシュルニアさんはさして驚いたような表情もせずに「あら」とだけ答えると、すぐに笑顔になって言葉を続ける。



「ああ、そうなのね。貴女もなのね。けれど大丈夫よ」

「えっと…?」

「ふふ。お友達からね、愛称を貰ったの。ポルアっていうのよ。うふふ、可愛いでしょう? だから貴女もそう呼んで?」



嬉しそうに、楽しそうに彼女は語る。余程その友達のことが好きなのか、それとも単に愛称が嬉しかったのか。

そして、その前の質問の意図は一体なんだったのか。


ぐるぐると疑問が頭の中を巡る中、ニコニコと楽しそうな彼女に何も返さないのは気が引けて「ポルア、さん?」と返せば、彼女は周囲に花が咲きそうなほど可憐な笑みを浮かべる。



くっ、お姉さんなのに少女みたいで可愛い…! これが美人の魔力…!?



「……あら」



私があまりの可愛さにやられていると、不意にポラシュルニアさん改めポルアさんは声を上げる。

何事かと彼女を見れば、ほんの僅かに眉尻を下げていた。



「残念ね。折角会えたのに、もう時間みたい」

「へ? それはどういう…」

「でもね、大丈夫よ。だから次に会う時には、貴女の名前を教えてね。ちゃんと貴女の口からよ。人伝てになんて寂しいもの」

「いや、私は」



名前なんてないのですが。

そう伝えようとして、ポルアさんに頭を撫でられたことで止まった。ニコニコと優しく撫でてくる姿に、母親の面影を見た気がした。前世では全く覚えていない、今世では会ったこともないもないのに。


どうにも出来なくなってしまい、されるがままで撫でられ続けていると、そのままポルアさんは続ける。



「ふふ。心配しなくていいのよ。わたくしにはわかるの。次に会う時が楽しみね」



どういうことかと問う前に、私の体は段々重くなる。熱が出たりして、怠くて立っていられなくなるようなあの感覚だ。思わずペタリと座り込んでしまう。


あれ、いや。


私は立っていたんだっけ。座っていたんじゃ。いや寝てた?

そもそもここは。中、外、わからない。いるのは彼女と私。じゃあ他は?

何かある。何もない。ない、ある。ある? ない。

何でこの空間に、疑問を持たなかった?


何もわからない。わからなくなる。


そのまま意識が遠のいていく。

それが落ちる寸前、ポルアさんが何か言っていたのが微かに聞こえたが上手く聞き取れなかった。



「またね、────。また────ましょう」




*┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈*




「ミネ!?」



道に響くような、その声に振り向く。前に大声を出すとどうとか、と言っていたのは一体何だったのか。全く気にしていないではないか。



「大丈夫か…!?」



駆け寄って容体を見ているのであろう彼は、しかし何も出来ないようだ。

当然だ。ここよりはまともな暮らしをしている連中でも、路上で人が倒れていたとして声掛けか医者を呼ぶしか出来ない無能だ。しかし無能が基本であるので、さしておかしなことではない。

上流階級と呼ばれ鼻高々にしている者らも、半分程度は無能なのだから。


学ばないから無能のままなのだ、人間は。全く嫌になる。



「なあっ、ミネは…!」

「はァ…そんくらいのことで騒ぐなっつゥの。お前らにとっちゃ、んなこと日常茶飯事だろォが」

「っお前な…!」



全く、喧しい。幼子の声は頭に響く。



人型であったなら、イブレイルは今如何にも嫌そうな表情をしていたことだろう。梟の姿であっても雰囲気だけはそんな感じなのだが。


そんなイブレイルは、面倒だとでも言いたげな投げやりな口調で続ける。



「気絶してるだけだろ。意識がある内は苦しいんだから逆に良かったんじゃねェの」

「気絶…」



そう呟き小さく息を吐くと、彼は彼女に衝撃を与えぬよう仰向けにして横たえ、擦り切れた布を腹にかけた。

それから僕を見上げて指示を仰ぐ。



「……………草はとってきた。多分あってる…はず。けどこの後どうしたらいいんだ? 多分、あの言い方だと薬になるんだろ」

「そんなの本に書いて───あァ~…」



そんなのもの本に書いてあるだろう。そう言おうとして、まだ字を習い始めたばかりだと思い出す。いくつかの単語を読めるようになっただけでは、絵本と呼ばれる種類の子供向けの本でも厳しいだろう。

正直面倒だ。主でもない人間の幼子に対し、何故そこまでしてやらなければならないのか。その主でさえ、死んでしまえばまた次の主の元に行くだけという程度なのに。


……ああ、いや。しかし…そうか。今の主は転生者という奴だったか。それを失うのは少々惜しいな。


それに。



「仕方ねェな。貸せ」

「! ああ!」



彼の手から離れた本は、僕の目の前まで飛んできて止まる。浮遊したまま独りでにページが捲られ、薬草のページが開かれる。

そこには薬草となりえる植物の特徴、効能、利用方法が簡単な説明で書かれていた。申し訳程度の、時間が無い中で描き留めたスケッチのような絵と共に。



「『ゼリ草、タミ草を一掴み。ナゲ草は量に応じて適量。タミ草は茎を除いて葉だけを使う。』」

「………なあ、それってこれであってるか?」

「あ?」



彼が袋から出した草を両手に質問する。

僕の見る限り、そのどちらもタミ草ではある。が、少々関係の無い雑草が混じっているようだ。



「チッ。そこからかよ」

「だってそんな絵じゃわかんねーよ。似たような草いっぱい生えてんのに」



若干眉を寄せる彼に、確かにと少しばかり同意する。補助となる情報を知らなければ理解は難しいだろう。これだけでどうにかしろと言うのも酷な話だ。


さて、どうするか。そうなると薬草の仕分けから始めなければならない訳だが。



「面倒くせェなァ、おい」

「し、仕方ないだろ。最初だけ教えてくれたら後はオレがやるから」

「はァ、馬鹿か。何の予備知識もない素人がそれだけで完璧に見分けられるかっての。間違った仕分けの結果、間違った材料で作って薬がパァってのがオチだろ」

「………だったら最後まで教えてくれよ」

「最初っから教えないとは言ってねェだろ」

「!」



彼はそれまでの不満げな表情を明るくさせ、「ほんとか!?」と問う。何故教えて貰えないと思っていたのか。


別に、教えるのが嫌な訳では無い。僕だって、学ぶ姿勢のある人間は嫌いではないのだ。ただ面倒だというだけで。


それに。それに、だ。




人が知識を得れば得るほど、ご主神(しゅじん)の力は強くなる。




だから、僕は積極的に人に学ばせたい。

人にものを聞くだけでは、質問に対し一問一答で終わってしまうことが多い。質問者は勿論それを求めているのだろうが、それでは困るのだ。もっと多くの知識を得てもらわねば。

だからまずは本を読ませる。

きっと、答えを得る過程で他の箇所も読むだろう。だから余分に知識が増えるのだ。そうした分だけ、学んだ分だけ、知を司る我が主神は力を得る。

神の力の強さとは、その神が司るものに由来する。信仰も関係してくるが、そんなものはたかだかブーストにしかならない。


それぞれの神が司るものが廃れれば、それだけ神の力は弱くなる。司るものが消えてしまえば、その時、神は───考えたくもない。

実際にそういう話は聞いたことがない。だからどうなるかもわからない。が、可能性があるなら最大限回避すべきだ。



「じゃァ、まずそれな。お前が今手に持ってる薬草。それがタミ草だ。生命力が強く、土壌が腐っていても生えてくる。見た目の特徴は見ての通りギザギザとした歯。効能は葉、茎、根が痛み止め全般。花は特に頭痛に対して効果を発揮する。匂いは青臭い。


それからゼリ草。それは特に腹痛に対し特に効果を発揮する。腹痛と言っても胃腸に対してだがな。胃腸の働きに作用する。見た目の特徴といえば細く長い葉で、裏が白っぽいところだな。それ以外は少なくとも素人には見分けられん。


んで、最後にナゲ草。葉だけじゃ他と見分けづれェが、花は鳥の巣のようになっている。

そいつは薬草同士を混ぜ合わせる時の繋ぎになる。繋ぎと言っても物理的にじゃねェ。属性の問題だ。この世の全ての物には属性ってもんがある。特に生物は五大属性の何れかに属するが、そいつは珍しく無属性だ。だから重宝されている。別の属性の物を合わせて効能を得る時、必ず間に無属性の物を挟まなきゃなんねェからな。何の繋ぎもなく混ぜれば、何の効果もないただのすり潰した草になっちまう。


以上だ。これらを踏まえてやってみろ」


「は…、は? 本気で言ってんのか?」



口を開けたままの阿呆面を晒して、彼はそう呟く。

何を言ってるのだ、こいつは。



「たった今教えてやったろ」

「そ、んなんで出来る奴いねーよ」

「はァ?」

「つーか! 文字教える時はあんな上手いのに、何でこっちはそんな感じなんだよ!」



僕に指さし喚く彼に、耳を塞ぎたい気持ちになる。この姿だとそれが叶わないのが難点だ。



「うるせェなァ。すぐにでも何かしたそうだったから、急ぎで教えてやったんだろォが」

「あんな一気に言われてもわかんねーよ!」

「はァ〜あ。これだからガキは」

「ガキとか関係ねーだろあんなの!」

「っだァ、喚くんじゃねェよ」



全く、騒々しい。何と面倒な。しかし、これ以上騒がれるのもまた面倒である。

面倒なことに変わりないのなら、比較的静かになる方を選ぶとしよう。



「はァ〜………ったく、仕方ねェな。ちゃァんと教えてやっから、頭叩き込めよ」

「! わかった」



その言葉の後、彼はすぐに薬草を片手に「これはタミ草であってるか?」と質問してくる。

それに対し一言肯定を返せば、彼はそれを端に避け、同じ様にタミ草を分け始めた。最初に全て分けてしまえば、後が楽だと考えたのだろう。僕も同じ考えだ。


彼が間違える度に声を掛け、それは別の植物であることを伝える。そのついでに量にして一文程度の説明を挟んでゆけば、彼は次第に間違いの回数を減らしていった。

中々成長が早い、のだろうか。文字の勉強をする際はここまでではなかったというのに。

…そうか。彼は座学よりも実践で身に付ける人間か。そこに転がる小さな主とは逆だな。


次々に仕分けられる薬草。それからすぐに最後の一本が仕分けられ、綺麗に纏まったそれら見たら些か気分が良くなった。優秀な人間は好ましい。



「お、終わった…!」



彼は息を吐いて後ろに倒れ込む。人の集中力は長くは続かないという。その割によくやった方ではなかろうか。


では、次だ。



「よォし、終わったな。んじゃァ次は調合だ」

「は!?」



俊敏に起き上がると同時に彼は声を上げる。



「当たり前だろォ? 病人に草のまま食えってか。つゥか、それ以前に調合しねェと薬にはなんねェよ。ま、気休め程度にはなるかもなァ」

「う……、……っ、やってやるよ」



彼は両拳を握り締め、僕を真っ直ぐに見据える。

そこで腐らずに物事に向かう姿勢は評価に値する。



「よし。じゃァまずは綺麗な水を出して薬草を洗え」

「綺麗な水なんてねーよ。水自体貴重なのに」

「あァ? そういやァお前らそこに溜まった雨水飲んでたなァ…」



自然の水が望めないのであれば、それは仕方あるまい。ならばもう一つの方法だ。



「じゃ、魔法だな。それで水を出せ」

「はぁ!? できるわけねーだろ!」

「お前何にも出来ねェなァ」

「限度ってもんがあんだよ!」



ああ、煩い。

しかし、こうして騒ぐ姿を見てみると……成程。この二人、案外似ているではないか。普段は主の方が騒ぎ、彼が宥めるのが常だが。



「じゃ、どォすんだよ」



僕の質問に、彼は暫し逡巡した後に答えた。


そうか。そう一言返し、僕は彼へと更に言葉を続けた。

話が少し前から(かなり前から?)ごっちゃになってますが、その内回収するので気長にお待ちください。

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