1.異世界転生したのに孤児で裏路地暮らしで最底辺ってマジ??
こんにちは。作品を乱立しては打ち切りさせていくクソ野郎です。
書かなきゃと思って書いてた作品は全て死んだので、今回は自分の好きなように書き殴ります。
対戦よろしくお願いします。
よければブクマ、高評価、よろしくお願いします。
ぐぎゅるるるるるるる〜〜〜
とある国、とある町中。そこの低級層が暮らす裏路地に、それなりに大きな音が響く。間違いなく生物の鳴き声ではないそれは、腹の虫が鳴く声だった。それも切なくではなく、デカい声で「腹減ったんだが!?!?」と大主張してくるような。
「うぅ……お腹空いた………」
その声と共に起き上がったのは、やせ細った幼女だ。むくりと起き上がり、その小さな姿とは裏腹に、先程元気すぎるほど主張した腹を摩っている。
あーあ、お腹の音で起きるなんて……最悪だぁ。
どうもこんにちは、よく居る孤児です。お腹空いてます。
起きてると空腹を意識してしまうので寝てたのですが、その空腹のせいで起きるとか最悪の寝覚めです。自分の腹を恨みます。ええ。
ところで私の恨み言を聞いてほしいので勝手にベラベラ話します。
実は私、元日本人で所謂「異世界転生」ってやつをしたはずなんですね。何ではずなのかと言うと、今まさにこの状況のせいです。
だっておかしいでしょ?おかしくないですか?普通異世界転生って言ったらすごいスキルで無双とか、スキルが無くてもすごい貴族とか、なんかそんな感じなんでしょう?
私は詳細まで知らないけど、世間一般ではここ十年そんなんが流行っていたからさすがに触りくらいは知ってます。しつこいくらいにそういう新作が出てたり、CMもそんな感じだし。
でも、だからこそおかしいなって思うんですよこの状況が!!ねぇ!?なんで!?そういうタイプなんですか!?ニュータイプ!?それともこういうのもあったんですか!?こんなことならちゃんと見ときゃよかった!!!
………と、毎日思う次第です。どうせ孤児なら、日本なら児童保護施設とかそういうのがきっと守ってくれたのに。
しかも元日本人で多分異世界転生で、日本の生活を知ってるだけで自分の名前もどんな生活してたかも覚えてないんですよねこれが。何でだよ〜〜〜!!おかしいだろ〜〜〜!!
そして恐らく私はごく一般的な日本人だったんでしょうね。どんな物があってどんな使われ方をしてたかは知ってても、作り方?とかそんなの知るわけないんですね。つーかそこらに都合よく詳細やら作り方を知ってる一般異世界転生者がいてたまるかってね。なんで知ってんだよ。もうそれは偶然やランダムじゃなくて意図的に選ばれてんだろ。
私は便利な物があるから利用してた。ただそれだけ。その仕組みにも何も興味なんてあるはずなく、それはつまり何々の作り方とかいうのも学校の特別授業的なのでやる以外には知識なんてあるはずもなく。それすらも記憶の彼方なのを考えると多分少なくとも中学卒業してからかなりの年数が経ってるんでしょうね。社会人だったのかな。ははは。
と、いけないいけない。また現実逃避しちゃった。しなきゃやってられんですけどねこんな生活。よく死なないなと我ながら思います。
とにかくそんな感じなんで、生活水準はゴミ。比喩じゃなく泥水啜って土食って生きてるような、一番弱い立場。少しでも気を抜いたら、別の誰かに利用されてはい、サヨナラ。だからこうして裏路地で身を隠して生きてる。………腹の音はもう仕方ない。
ここらは同じような人間が沢山集まっている、言わばゴミ溜め的な場所。多分もっと良い暮らししてる人間も居るんだろうけど、私は見たことない。ここから出るためには外(ここも外ではあるけど)を出て歩かなきゃいけないし、それはつまり大々的に狙ってくれと宣伝しているようなものだ。そんな危険なこと出来るわけない!
「おい、ミネ。お前うるせーよ」
唐突に聞こえてきた声に体を強ばらせたが、「ミネ」という呼びかけでその緊張を多少ほぐす。私をそう呼ぶ人間は、仲間ではないことが殆どだが危害を加えてくるわけでもない。
………ところで、うるさいってことは心の声が口に出てた?それはまずいってやつなのでは?
ギギギ、と。壊れた機械人形のようにして声の方を振り返る。
「………あ。の、ノムじゃん。うるさいって、何が?」
「腹の音。ちっこいのに、なんで腹の音だけそんなデケーんだよ。おかげてオレまで目が覚めただろ」
あ、なんだそっちか。
不機嫌そうにこちらを見るのはノムと呼ばれる少年だ。
ところで私と彼の「ミネ」と「ノム」は名前ではなく呼称だ。
この世界では名無しのことを「ノミネ」と呼ぶらしい。
裏路地の孤児の中でもノミネは私と彼くらいで、周囲も最初は私と彼両方をノミネと呼んだ。けどそれだとわかりづらいから、先に裏路地に居た方を「ノム」、後から裏路地に来た方を「ミネ」と呼ぶようになった………というのをついこの前聞いた。名前じゃなかったんかいと心の中で盛大なツッコミを入れたのを覚えてる。名前だけは持ってると思ってたのに、それすら無いと聞かされた私の心情、どうしてくれよう。
「それは悪かったけど、仕方ないじゃん。嫌ならご飯ちょうだい」
「やだね。オレのだし」
「ケチ。」
「つーか最初から飯なんてねーよ、ばーか」
イラァ。
「あっそ。じゃあいいや」
ご飯をくれないなら興味はない。さっさと寝よう。どうにか寝れたら一時的に空腹を感じずに済む。
「おい」
「なに?ご飯ないんでしょ?」
「今はな。起こされたのはムカつくけど、丁度よかった」
含みのある言い方をするノムを、じとっとした目で見る。言いたいことがあるならハッキリ言ってほしい。
ノムはニヤリと笑うと、普段よりも楽しげに言った。
「良い調達場を見つけたんだ。ほんとはオレ一人で行こうと思ったけど、同じノミネだから特別につれてってやる。オレ一人じゃ余るような量だしな」
調達場、という言葉にピクリと反応する。
ここでの調達場というのは、裕福な家や店が廃棄する食べ物の余りや野菜クズのことだ。私たち裏路地の人間にとったら立派な食事になる。
まぁ、私は行ったことないんだけど。
「いいの?」
「ああ。けどその代わり、また新しい話聞かせろよ?」
ノムの言う「話」というのは、私が知っている童話や昔話のことだ。食べ物を調達できない私が食料を得る唯一の手段。それが、ノムが食べ物を持ってきてくれる代わりに物語を語って聞かせることだった。
ノムは知りたがりで、初めて知り合った時に「面白い話してみろ」と幼女の私に無茶ぶりしてきたので童話のひとつを話したら、それ以来ご飯と引き換えに物語を要求するようになった。
おかげでノムの語彙力は、裏路地ではそれなりに高い。私は言わずもがなで、語って聞かせる内に舌の筋肉が発達したのか子供特有の舌っ足らずさは少ない。
「それくらいお易いご用よ!」
ご飯の為なら何のその。
私はノムと共に、久々に根城の裏路地を出ることになったのだった。
*┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈*
ノムはおかしな裏道を沢山知ってた。
子供しか通れないような小さな穴や、上手いこと登れるようになってる壁。軒下なんかもあった。
栄養失調気味のやせ細った幼女にはキツいとこもあったけど、呆れながらもノムが手を貸してくれたおかげでどうにかなった。息は切れ切れだけどね!めっちゃ疲れたよ。けど、ご飯の為なら頑張れる。
そうして進むにつれて騒がしくなり、今はあの裏路地じゃ絶対に有り得ない騒がしさの場所にいる。人目はないけど、すぐ近くに沢山の人がいるんだとわかる。
ずっと限られた少人数としか関わってこなかったから、ちょっと怖い。
「もうつくぞ。……ほら、そこ!」
小声でそう言うノムと同じ方向を向くと、夢のような光景が広がっていた。
良くてもごみ捨て場に野菜の皮か残飯を纏めたものだろうなと思っていたのに、ちゃんと形の残った「食べ物」と認識出来るものが沢山捨てられていたのだ。
「う、わぁぁ…!?」
あまりの光景に、神々しさすら感じる。多分今、この世界で生まれてから一番幸せな顔してる。
ずっと目を奪われたまま動かないからか、隣のノムが私を小突く。
「ボーッと見てないで、さっさと行こうぜ!」
「ハッ!?………うん!」
我に返った私とノムは、そこで一生分腹を満たすようにひたすら食べ物を口に放り込んだ。運良く雨水が溜まっていたのでそれを二人で分けながら、無言で頬張った。夢中だったというのもあるが、音を立てれば人が来るかもしれないし、いつ家主がここに来るかもわからない。だからなるべく早く腹を満たしてお土産のご飯を持って去ろうという共通認識が、私たちにはあった。裏路地の人間の共通認識、とでも言おうか。裏路地の常識だ。
腹を満たした後は、用意のいいノムが大きめの袋に沢山のご飯を詰めていた。さすが、手馴れている。私は今日の胃袋を満たすことしか考えてなかったのに。
「そろそろ戻るぞ」
「わかった」
ノムの掛け声によって、私たちはその場から撤収した。
まだ残る食べ物に、ものっっっすごーーーーーーく未練があるけれど、目の前の欲に飛びついて命の危険に晒されるのは勘弁願いたい。調達場と言うくらいなのだから、またこういう機会があると信じて帰る。
行きと同じ道を通って、裏路地に帰る。
初めての調達場は裏ではあったけどここより遥かに綺麗だったから、いつも以上に汚く見える。
「ふぅ〜……。初めてお腹いっぱいになったかも……」
二人で壁に背を預けながら休憩する。パンパンになった腹部を摩りながら、空腹じゃない幸せを堪能する。
ここで起きた時は空腹で死にそうだったのに、今じゃ食べ過ぎで死にそうだ。このまま死ねるなら幸せかもしれない。いや死なないけどね!!ここまで生き残ったのに死んでたまるか!!!
「なぁ、早く話してくれよ。連れてってやったんだから」
「む?いいけどー、ちょっと休憩……」
「は、や、く!」
「うえっ、揺らさないでよ!わかったから!」
もーっ、仕方ないなぁ!ご飯の恩はあるから話くらいするけど、今世で初めてはち切れそうなほどお腹いっぱいになったんだから苦しいんだよ!?
「えー、では………───ある冬のことでした。とある街で父親と一緒に馬車に乗っていた少女は───」
今日連れてってもらった先で食べたのは、半分だけ食べられていたり、一口齧られただけの美味しそうなパンだった。腐りかけてすらいないそれらは、間違いなくパンの味だった。日本で食べてたパンとは少し違うけど、そんなの裏路地暮らしをする内に記憶から薄れていったのであてにならない。もしかしたら同じようなものだったかも。
そのパンでふと思い出した話を、ノムに語って聞かせる。世界的に有名とはいえ、結構色々覚えてるあたり私って記憶力がいいのかも。パンの味は忘れちゃうのにね。まぁ、土を食って上を凌ぐ生活してたらそうなるか。
「───そうして女の子は、少女が去っていくのをずっと見送っていました。───おしまい!は〜っ、疲れたぁ」
私、めちゃくちゃ話したよ。かなり簡易的にしたり端折ったりしたけど、それでも元の話が童話なんかと比にならない長さだからすっごく時間かかったよ!
多分所々抜けてたりちょっと違うとこがあるんだろうけど、大体の流れはこんなだったはず。要点抑えてるし大まかな流れは変わってないから許される、よね?ノムはこの話知らないだろうし。
「今日の話、すっげえ面白かった!」
普段から私が語り聞かせる間は静かに聞いてる彼だけど、今日は語り終わってもずっと喋らないから何かと思ってたら、キラッキラした目で急にしゃべりだした。ビックリした。あと何か、あの、圧がすごいんだけど、あの、ちょっと、あの?
「そ、それはよかった」
「お前やっぱすげーよ!お前と知り合いになれてよかった!」
小声ではあるけど確かな勢いをもって感想を口にするノム。頑張って話したから喜んでくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと近い。近いし近い。あと近い。ぐいぐい来ないでほしい。
「お前の話にちょいちょい出てくる『学校』ってやつ、やっぱ面白いな。オレも行ってみたい。今日の話のは嫌な奴出てきてちょっとアレだったけどさ」
「学校出てくる話のたびにそれ言ってるよね。そんなに勉強したいの?」
「お前はしたくねーのかよ?」
「生きるのに役に立つ勉強なら……」
元々勉強がめちゃくちゃ好きってわけでもないし。生きるのに役立つ勉強なら生き残るために喜んでやるけど、そうじゃないならちょっと……って感じだ。
「ふーん?絶対面白いのに、変なの」
「ノムの方が少数派だと思うけどなぁ」
「そうか?」
「そうだよ、絶対そう。………あ、もうそろそろ夜になるよ。隠れなきゃ」
「ほんとだ。結構長く話してたんだな。気づかなかった」
楽しんでる方は短く感じるのかもしれないが、楽しませる側としては相応の時間だ。
私たちは立ち上がり、静かにいつもの隠れ場所に移動する。
裏路地の中でも弱い人間。特に仕事も出来ないような子供は、夜になると人目に付かない場所に隠れて息を殺すように休む。ヤバイ人間っていうのは大抵夜に活動するもんで、それはつまり夜は危険ってことになる。子供を攫って売り飛ばす奴らとか、そうじゃなくても何かに巻き込まれるとか。
だから私たちは夜は必死に隠れて、比較的安全な昼間に眠る。子供がそんな昼夜逆転生活してたら成長に害を及ぼしそうだけど、土食ってゴミ食って空腹凌いで生きてる時点でそんなの今さらだ。
「今日はお前の腹の音でヒヤヒヤせずに済みそうだ」
「そ、それは仕方ないじゃん」
「同じ空腹でもオレはそんなにデカくない」
ぐ、そう言われると何も言い返せなくなる。羞恥心なんて腹の足しにもならないのでとっくの昔に捨てたけど、それでも女子にその物言いはないのでは?幼女だけど。
「………いつかここを出たら、そんな音一生鳴らさなくて済むように毎日お腹いっぱい食べるんだから」
「そうかよ」
何その顔!馬鹿にしてるでしょ!ムキーッ!
くっ、めちゃくちゃムカつくけど、普段から沢山助けてもらってるし今日は特にお腹いっぱいにさせてもらったから許してやろう……ムカつくけど!
こうして、痩せ細って汚れた幼女と怪我だらけで汚れた少年の二人のノミネは、息を殺しながら朝日が昇るのを待つのでした。
あらすじに記載してる部分まで連続更新です。
次話まで一時間ほどお待ちください。