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11話 夜の語らい

「ふー、ちょっと長湯しすぎちゃったかな……」


 あれから恭二と情報交換を行い、今後の注意事項と有事の際の緊急連絡先を教えられ、改めて協力要請を受けたその日の夜。

 いつもより少々長めの入浴を終えて自室に戻った緋乃は、脱衣所から持ち出した着替え一式をベッドの上へと放り投げると、一糸纏わぬ姿のまま姿見の前へと立つ。


「うーん、我が身体ながら、惚れ惚れしちゃう美しさだね。これぞまさしく美の化身……!」


 他のクラスメイトや道ゆく女子たちに比べ、小さな顔と長い手足。

 余分な脂肪が一切ついておらず、まるで美少女フィギュアのようにほっそりとした体。

 もちろん、脇毛や腕毛に陰毛などといった余分な毛は一本も生えておらず――絹のようにきめ細かい肌が、LED蛍光灯の白い光を反射して光り輝く。

 誰に見せても恥ずかしくない、自慢の身体。それをじっくりと観察した緋乃は、満足気な表情を浮かべつつひとり頷く。


(後はもうちょっとで良いから、バストが大きくなってくれれば完璧(パーフェクト)なんだけど……。他人に揉んでもらうとおっきくなるって言うし――ていうか明乃は実際におっきくなったし、また揉み合いっこでも再開すべきかな? うん、そうしよう)


 そうして姿見の前にて悦に浸った緋乃が、決意を新たにしたちょうどその時。

 ベッド横の窓がガラリと開いたかと思うと、そこからパジャマ姿の明乃がスマホを弄りながら、ひょっこりと姿を現した。


「よいしょっと。緋乃ー、少しお邪魔する……わよ……」 


 そのままベッドの上に降り立った明乃は、緋乃のいる方向に向かって顔を上げ――姿見の前に全裸で立つ緋乃を目撃し、その動きを完全に停止した。


「にゅ?」


 驚愕からか目を丸くし、何度もその瞳を瞬かせる明乃。

 そんな明乃の様子を見て、可愛らしく首を傾げる緋乃であったが――自身の裸体をまじまじと見つめる明乃を見て、悪戯めいた笑みを浮かべる。


「いやん。明乃のえっち、変態、すけべー」

「あ、ご、ごめん。いやその、これはなんというか、すごく綺麗で、つい目を奪われちゃったと言うか……」


 緋乃は恥ずかしそうな表情を浮かべると、自身の身体を抱くように、両腕で胸元を隠しながら身体をくねらせる。

 そんな緋乃からの抗議の言葉を受けたことで、ふと我に帰った明乃が、しどろもどろになりつつも言い訳を口にする。


「えへへ……。さすがに面と向かって褒められると照れる」

「って何言わせんのよ恥ずかしい! ていうかそもそもなんで裸なのよ! せめて下着くらい着なさいよ!」


 明乃の繰り出した発言を聞き、頬をうっすらと染めながら照れる緋乃。

 そんな緋乃の反応を見て、明乃も自分が恥ずかしい台詞を口にしたということを理解したのであろう。

 明乃は顔を赤くし、両手をぶんぶんと振りながら緋乃へと責任転嫁を図ろうとする。


「のぼせちゃったからちょっと涼んでて、今から着ようと思ってたんですー。ちょうど着る直前に明乃が部屋に入って来たんですー。そんなことより、突然入ってくる明乃が悪い!」


 しかし、こんなことで誤魔化される緋乃ではない。

 明乃の勢いに押されてつい謝ってしまい、それを基点に言いくるめられ、釈然としない気持ちを抱えたまま眠りにつくこと数十回。

 いいかげんに学習した緋乃は胸を張り、毅然とした態度で明乃に反論を繰り出す。

 そう、元はと言えばノックもなしに部屋に入ってきた明乃が悪いのだから。だからわたしは悪くない。


「ぐぬぬ……それはそうだけど……。いやそれでも少しは隠しなさいよ……! マジで襲うぞコラ……!」


 正論で返された明乃は、悔しそうに唸りながらブツブツを何事かを呟くのみ。

 明乃のその様子を確認した緋乃は、この口喧嘩における勝利を確信。久々に明乃を言い負かしたことで気分の良くなった緋乃は、ゴキゲンな笑みを浮かべながら明乃に向かって両腕を差し出した。


「ふふん、完全論破。あ、そこにわたしのブラとショーツがあるでしょ? 取って取ってー」

「はいはい。ああ、これね。ハーフバックの総レースとか、相変わらず派手なの履いてるわねえ。ちょっと透けてるじゃないの」


 緋乃の言葉を受けた明乃は、ベッドの上に投げ捨てられていた黒いレースのショーツをつまみ上げると、顔の前で広げながらその感想を述べる。


「まあ、レースだし。そりゃ透けるよ。でもセクシーだし、わたしに似合ってるでしょ?」

「そうね……。ほんとに似合ってるからタチ悪いのよねえ……。見慣れてるあたしでも、見るたびにドキッとするもん。何度襲っちゃおうと思ったことか……」

「ふふん、でしょでしょ? 似合ってるでしょ?」


 明乃からショーツを投げ渡された緋乃は、明乃の冗談を――よく見ると目や表情から本気の発言だとわかるのだが、明乃に全幅の信頼を寄せる緋乃は気づいていない――笑顔で聞き流しつつショーツを履く。


「でもこんなの履くなら、脚をブンブン振り上げるのやめなさいよね。横で見ててギョッとするんだから。ほい、ブラね」

「ん、ありがと」


 そうして緋乃がショーツを履き終わったタイミングを見計らい、明乃はブラジャーを投げ渡す。

 緋乃は放物線を描いて飛んでくるブラジャーを受け止めると、明乃に礼を言いながらそれを身に着けていく。


「別にちょっとくらいなら見られてもへーきだし。パンモロは品がないからアウトだけど、多少のパンチラは逆にわたしの神秘性を引き上げるからセーフって感じで」

「自分のパンチラを神秘的とか言う人間初めて見たわ。自信に満ちすぎでしょ」


 得意気な顔で持論を語る緋乃に対し、辛辣な突っ込みを入れる明乃。

 そのやりとりがツボにはまったのか、緋乃と明乃の二人はどちらともなく顔を見合わせ、あははと声を上げて笑い合う。


「あー笑った笑った。はい、パジャマ。……それにしてもあれよねー。ちょっと前に悪い魔法使いに目をつけられたかと思えば、今度は秘密結社かぁ。緋乃ってば、悪い奴らからモテモテねぇ」

「うーん、嬉しくないモテ方だね……。どうせモテるなら、金持ちで優しくてわたしより強いイケメンに――いや今のやっぱ無し。わたしより強いとか無し。死ぬほどムカつくからなーし」


 明乃から手渡されたパジャマを着ながら、自分の発言に対しセルフツッコミを入れる緋乃。

 しかし、緋乃のその台詞を聞いた明乃は、動揺を隠せない様子で口を開く。


「あ、あれー? 緋乃ってば、以前、恋愛ごとには興味無いって言ってなかったっけ……?」

「うん、無いよ。ただ、モテるなら変な組織よりそっちの方が良かったなーって」

「そ、そうよねー。あ、あはは。ちょっと驚いちゃったじゃないのよ……」


 目を泳がせ、少しばかり震えた声で緋乃の発言の真意を問う明乃であったが――緋乃の言葉を聞き終えると同時に、ほっと一息を吐く。


「ま、今はそんなことよりも強くなりたいし……それに、この騒動をさっさと解決しなきゃね」

「そうね……。とはいえ、相手の規模も構成員も、何から何まで不明。唯一わかってるのは、金龍とかいう暗殺者の親子と、それを雇っている暴力団モドキが手先ってことだけかぁ」


 緋乃の発言に対し、真剣な表情で頷く明乃。

 しかしすぐにその表情は浮かないものとなっていき、ため息を吐いてしまう。

 だが、無理もない。こちらは相手の組織について、何も知らないのだから。

 知っている事といえば、ユグドラシルとかいうその組織が、肉体強化薬や改造手術といった、科学の力をメインとしていることくらいか。

 恭二や刹那といった大人組の予想では、彼らは後天的に悪魔化した肉体を持つ緋乃を捕らえ、研究しようとしているのではないかといった話だ。


「まあ、情報に関しては刹那さんたちがなんとかしてくれるとして……問題は中国親子だね。戦闘(バトル)担当の下っ端みたいだし、そのうちまたぶつかるはず。まあ父親の方はともかく、娘に関してはわたしたちなら普通にボコれると思うよ。……まともに相手してくれれば、だけどね」


 だが、しかし。犯罪者の思考回路など、常識ではかれるはずもなし。

 緋乃は組織についての思考を切り上げると、既に判明した敵である金龍父娘について語りだす。


「遭遇した刹那さんが言うには、透明化のギフトだっけ? 単純だけど、厄介な能力よねえ……」

「だね。姿を隠して奇襲したり、戦ってて少しでも不利になったら簡単に逃走できちゃう。わたしの目を盗んで不良に薬を盛ったのも、ギフトを使ってやったんだろうね」


 金龍と遭遇して戦闘した刹那曰く、戦闘中に突然、金龍の姿が消えたらしい。

 しかしただ姿が見えなくなっただけであり、呼吸音や足音に気配はそのまま。

 気配が増えたことより、娘の蘭花がギフトを使って割り込んできたのだということに気づいた刹那が、隠形状態での攻撃に警戒していると――二人はそのまま逃げて行ってしまったとか。


「理奈にはもう知らせたけど、明乃も気を付けてよね? わたしの大親友ってことで、人質として狙われちゃうかもしれないんだし」

「それはこっちの台詞よ。緋乃こそ連中の一番のターゲットなんだから、気を付けること。また調子ぶっこいてる隙に、洗脳とかされないようにね?」

「うぐぅ……。ぜ、善処します……」


 夏休みに遭遇した事件の際。圧倒的に格下の相手に油断していたら、その相手がとっさに繰り出してきた洗脳術にかかってしまい、無力化された経験が緋乃にはあった。

 そこを明乃に突かれてしまった緋乃は、渋々と明乃の注意に従う声を上げる。


「でも、本当に明乃も気を付けてね? 先に宣言しとくけどさ。わたし、明乃と理奈の二人に何かあったら――この世界、消すからね?」

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