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9話 紹介

「よし着いたっと。それじゃあお邪魔しま――」

「こらこら緋乃、入るのなら玄関から入りなさい。塀を飛び越えようとしないの。親しき仲にも礼儀ありあり、よ」


 緋乃たちが繁華街にて、トラブルに巻き込まれたその翌日。

 刹那より「伝えたいことがある」と呼び出された緋乃は、明乃と共に刹那の屋敷へと訪れていた。

 現在の時刻は午後13時。雲一つない青空の下、いつものように塀を飛び越えて刹那の屋敷にお邪魔しようとしていた緋乃。

 しかしそんな緋乃の行動は明乃によって咎められ――緋乃は渋々と屋敷への入口である門扉の前へと移動して、インターホンのボタンを押した。


『おうおう、緋乃ちゃんが玄関からとは珍しいの。なんにせよ、待っておったぞ二人とも。鍵は開いとるから、入ってきておくれ』

「わかったー」

「お邪魔しまーす」


 そうして刹那の許可を得た緋乃たちが屋敷へと上がれば、笑顔の刹那が玄関で待ち受けていた。


「いやー、突然呼び出してすまんの! よう来てくれた! 感謝するぞよ!」





「以前、緋乃ちゃんが戦ったハゲとやらについてじゃが……この男で相違ないかの?」


 居間に通され、座敷机を前に座った緋乃たちの前に、刹那がお茶と共に一枚の写真を差し出した。


「うん、こいつこいつ。こいつであってる」


 緋乃は差し出されたその写真を手に取り確認すると、間違いないと頷き同意。

 興味深そうな顔をして、緋乃の持つ写真を覗き込んでいた明乃にその写真を手渡した。


「へー、これが緋乃の言ってたヤクザの用心棒ね。なんていうか、見るからに強そうな顔とガタイしてるわね……」


 緋乃より大まかな事情を聞いていたものの、男の風貌についてはサングラスハゲとしか聞かされていなかった明乃。

 刹那からもたらされた写真により、初めてその詳細な外見を知った明乃は、眉を顰めながらその感想について語り出す。


「うん、戦った時はお互いに様子見モードだったけど、それを考えてもかなりの腕前だったよ。わたしでもギフトと尻尾抜きなら危ないかもね」

「いやそれめっちゃ強いじゃないのよ。さすがは中国拳法ね、恐るべし……」

「そうかな? 逆に言えばギフト解禁しちゃえばまあ普通に倒せるだろうし、明乃も念動力(サイコキネシス)使えば普通に倒せると思うけど」


 男の戦闘能力について、好き勝手に語り合う緋乃と明乃。

 刹那はそんな二人の会話を、茶を啜りながら微笑ましそうに眺め――二人の会話がひと段落したところで改めて口を開く。


「この男じゃが、名を李金龍(リー・ジンロン)というらしい。極輪拳と呼ばれる拳法の使い手で、裏社会では名うての凶手として名を知らているんだとか」

「ふーん、裏では結構な有名人なんだ。まったく知らなかった……」


 刹那からの説明を受けた緋乃が、感心の声を漏らしながら出されたお茶へと手を伸ばす。

 味覚が機能していないため、本当は水の方が良いのだが――だからといって、用意されたものに手をつけないのは悪い気がすると、なんとなしに茶を啜る。


「蘭花とかいう、一六歳になる異能者(ギフテッド)の娘が一人おるようでの。昨日の緋乃ちゃんの喧嘩騒動も、この親娘が裏で糸を引いておったようじゃな」

「ああ、やっぱりあのお姉さんか。なるほどね」

「状況的に考えて、あの人が一番怪しかったものね……」


 刹那の言葉を受け、蘭花を元から疑っていた緋乃は答え合わせの結果に満足し、うんうんと頷き――明乃もまた納得の声を漏らす。


「あれ? 昨日の騒動を知ってるって事は……警察に口利きしてくれたのってやっぱり刹那さん?」


 そこでふと刹那の言葉より、緋乃は昨日の騒動解決後に、警察のお世話になりかけていた自分を救ってくれた存在について思い出す。

 明乃たちと話し合った結果、大神家の誰かか刹那じゃないかという結論が出たので――目の前に本人がいる今ならちょうどいいとばかりに、さっそくそのことについて聞いてみる緋乃。


「うむ、気分転換に空の散歩をしとったらたまたま見かけての。まあ放っておいても理奈ちゃんが何とかしたじゃろうが……こういう役目は、元から我儘で自分勝手と悪名高い儂の方が適任だと思ってな」

「あはは、自分で言っちゃうんだ……。でもありがとう刹那さん。おかげで助かっちゃった」


 緋乃の質問に対し、刹那より帰ってきたのは肯定の言葉。

 すかさず緋乃は、それに対する礼の言葉を口にする。

 刹那のおかげで、無駄な時間を食うことなく、あの後も明乃と理奈との三人で楽しく遊ぶことができたのだから。


「よいよい。緋乃ちゃんのためならこの程度……いや待てよ。そうじゃな……そんなに感謝しておるというのならば、儂の嫁に――」

「あ、それはまた今度で」

「しょぼーんじゃ」

「ふふ、残念ね刹那さん」


 緋乃の礼の言葉に対し、にんまりと笑いながらいつもの求婚の言葉(持ちネタ)を繰り出す刹那。

 しかしそれは、もう聞き慣れてしまった緋乃には全くと言っていいほど通じず――ほんの僅かな動揺すら誘えずに一刀両断。

 大げさに肩を落として見せる刹那と、そんな刹那を、心なしか上機嫌な様子で慰める明乃。

 女三人寄れば姦しいとのことわざ通り、三人の笑い声が屋敷にこだまするのであった。





「さてさて……話がけっこう逸れてしまったの。少しばかり話を戻すぞい。ええと確か……金龍の話じゃな。そうそう、裏社会で名を知られた金龍。この金龍を雇っていたのが黒門会という、大陸系の新興暴力団だったのじゃ。じゃがのう……」


 真剣な表情で金龍の雇い主、その組織の名を告げる刹那。

 しかし、黒門会というその組織名こそ出しはしたものの、何か引っかかるところでもあったのだろうか。

 眉を顰めながら、そこで言葉を詰まらせて考え込んでしまう。


「じゃが、どうしたの?」

「何か問題でも?」


 言葉を詰まらせてしまった刹那に対し、疑問の声を上げることで続きを促す緋乃と明乃。

 二人からの催促を受けた刹那は、嘆息しながら居間の出入り口へと目線を向け――。


「いや、なんでもない。……ま、ここから先は専門家に説明させた方が良さそうじゃの。待たせたの、小僧。入ってきてよいぞ!」


 そうして刹那がパンパンと手を鳴らすと、襖がサッと開き、廊下から一人の若い男が姿を現した。

 新品のスーツをビシリと決めた、中肉中背のその青年は、ぽかんとする緋乃と明乃の二人へと笑顔を向ける。


「二人ともこんにちは。夏の新世代大会以来だね。直接顔を合わすのは、これで2回目かな? 僕は竹山恭二(たけやまきょうじ)。いやー、あの時は本当に助かったよ。ありがとう」


 朗らかな笑みを浮かべつつ、三人の座る座敷机に近寄りながら軽く頭を下げ、緋乃と明乃の二人に礼を述べる恭二。

 そんな恭二に対し――。


「……誰?」


 緋乃の心無い言葉が、グサりと突き刺さった。

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