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6話 決着

「ゴア゛ア゛ア゛!」


 初めて見るはずの緋乃の尻尾攻撃。これに対し、和久は無理矢理に横っ飛びを行う。

 ガードレールを飴細工のようにぐにゃりと折り曲げながら、車道へと転がり出る和久。

 緋乃の尻尾は和久のいた場所を通り過ぎ、そのまま歩道の後方へと着弾。爆音と共に派手にアスファルトを粉砕し、その破片を盛大に撒き散らす。


「遅いよ!」

「!?」


 しかし、緋乃とてその程度は織り込み済み。

 車道へ転がり出た和久の側面に回り込むと、起きあがろうとしている和久の頭部に向かって後ろ回し蹴りを繰り出す。


「っせりゃあ!」

「ガッ!?」


 緋乃の履くブーツの踵が、勢いよく和久のこめかみへと突き刺さる。

 その衝撃に和久の巨体が宙を舞い、ゴロゴロと転がりながら歩道へと押し戻された。

 

「車道で戦ってちゃ、車が巻き込まれて危ないからね……。ほら、こっちだよ!」


 たまたま車が走行していなかったので助かったものの、ここは繁華街で、しかも今は休日の昼なのだ。

 いつ車が来てもおかしくないと判断した緋乃は、和久を挑発しつつ、近くにあった公園へとひとっとび。

 剥き出しの地面の上へと着地して、和久を迎え撃とうとする。


「ヴオ゛オ゛――!」


 緋乃が移動したのを見た和久は、雄叫びを上げつつ突進。

 さすがに少し慣れてきたのか、その走るモーションは先ほどの拙いそれに比べて、かなりマシになっている。

 そうして激しい足音を立てつつ、緋乃へと接近した和久はその丸太のような腕を振り上げ――緋乃目掛けて一気に振り下ろす。


「見え見えだね――そらっ!」


 上空より襲い掛かる巨人の拳。

 自身を圧し潰すよう放たれたその一撃を、緋乃は右足を一歩後ろに下げ、身体を捻ることで回避。

 そのまま捻った体を利用して、踏み込んできた和久の足目掛けて強烈なローキックを放ち――。


「グゴッ!」


 直撃。足を砕かれた痛みに悲鳴を上げつつ、その衝撃で体勢を崩す和久。


「まだまだ!」

「ギッ――!?」


 緋乃は骨を砕く感触に薄い笑みを浮かべつつ、その身体をくるりと一回転。

 大きな隙を晒す和久の脇腹目掛けて肘打ちを叩き込み、その巨体を吹き飛ばす。

 肘打ちを叩き込まれた和久は吹き飛ばされながらも、倒れてなるものかとばかりに必死にその足を踏ん張るが――。


「!?」


 自身を追いかけるよう接近してきた緋乃が、真正面にてその脚を天高く振り上げている姿を確認し。理性を失っているはずの和久の表情が、絶望と恐怖に歪む。

 そんな和久の表情を確認した緋乃は、相手が打つ手の無いことを――つまり勝利を確信。

 これでトドメだとばかりに、より一層の気を右足へと籠め――踏ん張ることで中腰になっていた和久の脳天目掛けて、一気に振り下ろす。


「堕ちろぉ!」

「――――!?」


 膨大な気が込められたことで光り輝く緋乃の踵が、和久の頭へと叩き込まれ。

 公園の地面にクレーターを作りつつ、和久を盛大に地面へとめり込ませるのであった。





「終わったよー。またまたわたしの勝ち。ぶい」

「ああ、うん……。倒したのはいいけど、ずいぶん派手にやったわね……」

「歩道にガードレールにこの公園。被害甚大だねえ」


 笑顔でVサインをする緋乃に対し、明乃と理奈の二人はため息を吐きながら、緋乃の戦いによって生み出された破壊痕へと視線を送る。


「あーあ、これはお巡りさんに大目玉食らうこと間違いなしね。あたしが協力してりゃ、もっとスマートに終わってたのになー」

「う……」

「そうそう、私や明乃ちゃんが適当に拘束して、緋乃ちゃんが顔面に何発か蹴りを入れればそれで終わってたのに」

「ううう……」


 最初は尻尾を振りながら得意気な表情を浮かべていた緋乃であったが、二人からの指摘を受けるたびにその表情は徐々に沈んでいき、尻尾も力なく垂れていく。


「で、でもでも、一応こっちは喧嘩を売られた被害者側な訳だし……? 悪いのはあの不良じゃないかなーって……」

「一方的に叩きのめしておいて何が被害者か」

「そもそも、緋乃ちゃんが喧嘩売りまくり買いまくりなのが問題な訳だしね」

「ふ、ふぇぇ……」


 何とか絞り出した反論もあっさりと切って捨てられ、本格的に落ち込み始めた緋乃。

 このままでは不味い。ただでさえ、この地域担当のお巡りさんからは喧嘩の件に関してよく小言を貰っているのだ。

 歩道や公園に関してはともかく、ガードレールをぐにゃぐにゃにしてしまったのはかなり痛い。絶対に怒られる。

 やったのはわたしじゃなくて、暴走した和久(あのバカ)なのに怒られちゃう。


「た、たすけて理奈……」


 ガミガミと交番で怒られる自分自身を想像した緋乃は軽く涙目になりつつ、上目遣いで理奈に擦り寄りながら助けを求める。


「んふふふふ~。え~? どうしよっかな~?」

「お、お願い理奈! ぱぱーっと魔法であのガードレールを直しちゃって!」


 ニヤニヤと笑みを浮かべつつ、顎に手をやる理奈へと緋乃は縋り付く。

 色々と顔が効く刹那に頼むという手もあるが、刹那に対してはつい先日に別件でお願いをしたばかり。

 あまり借りを作りすぎるのもよろしくない気がするので、ここは気心の知れた理奈に――理奈の要求であれば、たとえそれがどんな無理難題でも受け入れる自信があるからでもある――なんとかしてもらおうと必死に頼み込む。


「まったく、緋乃ちゃんは仕方ないなー。でもその代わり、後で私のお願い聞いてよね?」

「ありがと理奈! 大好き、愛してる! 何でも聞くから言って言って!」


 とはいえ、緋乃に対しては人一倍甘い理奈。

 迷ってみせたのも、緋乃の困った顔が見たいからという理由ににすぎず――すぐに緋乃の頼みを聞く姿勢を見せる。


「ふひゅひゅ、ねえねえ今の聞いた明乃ちゃん?」

「えーえー、聞こえてた聞こえてた。だからそのムカつく顔やめなさい。はったおすわよ」


 満面の笑みを浮かべながら放たれた緋乃の言葉を聞き、だらしない笑み――というか、率直に言えばキモい笑み――を浮かべながら隣の明乃へと向き直る理奈。

 明乃はそんな理奈に対し、額に青筋を立てながら拳を見せつける。


「おっと怖い怖い。そーだねー。最近、なんかライバルが増えたし……ここらで一発キメて、絶対的な差をつけておきたいところだけど――」

「りーなー? ()()()()()、わよね?」

「わ、わかってるって明乃ちゃん。そんな大した要求はしないよ。だからその拳を収めて欲しいなーって……」


 緋乃を見ながらブツブツと独り言を呟く理奈であったが、小さな声で呟かれたそれを耳ざとく聞き止めた明乃が真顔で拳を震わせたのを見て、慌てて弁明を入れる。


「そうだね、まあ緋乃ちゃんへのお願いは後にして、警察が来る前にさっさとあのガードレールを直し――」

「ヴガア゛ア゛ア゛ア――!」

「――うびゃあああああ!?」


 そうして理奈が公園から出ようと一歩踏み出した瞬間、本日何度目かの咆哮を上げつつ、意識を取り戻した和久がしつこく立ち上がる。

 まさか息を吹き返すとは思っていなかったのだろう。完全に予想外の方向からやってきたその大声を受け、女の子がしてはいけない表情をした理奈が汚い叫び声を上げる。


「い、生き返った!? どんだけタフなのよ、こいつ!」

「はぁ、はぁ……。め、めっちゃビビったぁ……! マジでビビったぁ! ちょっぴり心臓止まったよぉ!」

「あはは、理奈かわいい。……でも、さすがにしつこいね。心が広いことで有名なわたしも、さすがにちょっとイラっとしてきちゃったかな?」


 和久の予想外の復活を受け、驚きを露にする明乃と、胸を押さえて息を整える理奈。

 そして、そんな二人の反応を見て微笑んでいた緋乃であったが――すぐにその表情から笑みが消え失せ、再びその身から闘志を発散する。


「ウグ、オオオ、グオオオオオ!!」

「ええい、仕方ない! あたしが拘束するから、緋乃は適当にアイツを気絶――」

「ううん、その必要はないよ明乃」


 こちらへ向かい、懲りずに突進してくる和久を目に両腕を前に突き出す明乃。

 しかし緋乃はそんな明乃の腕に手を当てて、腕を下ろすように促す。


「ちょっと緋乃……」


 この期に及んでまだタイマンに拘るのかと言わんばかりに、口を尖らせる明乃。

 しかし、明乃が緋乃に対する文句を口にしようとしたその直前。


「もう終わりだから。――はい、どーん」


 地面から勢いよく飛び出してきた緋乃の尻尾が、突進する和久の胴体を撃ち抜いた。

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