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2話 仁義なき戦い

「刹那さんやっほー、遊びに来たよ」

「んぁ? ……おお、緋乃ちゃんか。よう来たの!」


 廃デパートにおける戦いの翌日。学校の授業を終えてから速攻で帰宅した緋乃は、刹那の屋敷へと足を踏み入れていた。

 何らかの術を使ったのか、それとも金に物を言わせて大量に大工でも雇ったのか。どうやったのかは不明だが、緋乃の家のすぐそばにと、極めて短期間で建った大きな和風の屋敷。

 そこへ玄関からではなく、大ジャンプから庭の木へと伸ばした尻尾を巻きつけ縮め、庭に直接乗り込んだ緋乃を――事前に刹那より、いつでも気軽に上がっていいし、何なら勝手に寝泊まりしてもええぞ? と許可は貰っている――刹那が出迎える。


「ほれほれ、こっちじゃこっちじゃ。……おー、よしよし、相変わらずサラサラでいい髪じゃの」

「えへへ、色々と気をつけてるからね」


 刹那が手招きするまま、縁側に腰掛けた刹那の膝の上に、背中を預けるように座った緋乃。

 そんな緋乃の頭を撫で回しながら、刹那は緋乃が訪れた理由を尋ねる。


「で、今日はどうしたのじゃ? 儂の嫁になる決心でもついたかの?」

「いやあ、それはまだちょっと……。なんていうか、相手が誰にしろ、誰かと愛し合う自分が想像できないというか……」


 妖怪らしく欲望に忠実で、男女問わず美しいものを手元に置いて愛でたがる傾向の強い刹那。

 緋乃は以前、そんな刹那から求婚を受けたことがあったのだが、とある事情により保留としていたのだ。


「前世の記憶、か……。儂もかつて、何人かそういう者に出会ったことがあるが……なかなかに難儀なものじゃのう」


 その事情とは、前世の記憶を引き継いだことによる違和感。

 女として男を愛する感情を、ほんの僅かに残った男の感性が邪魔をする。

 ならば女を愛するのかと言われれば――男相手よりも違和感を感じないとはいえ――やはりこれも違うような気がする。

 まあどちらを選ぶにせよ、前世の影響が完全に消え去ってからだと緋乃は考えていた。

 現時点では自分の好みが前世に引きずられているのかいないのか、判断がつかないからだ。

 これまで、誰にも言ったことのない緋乃のその心の内を唯一知る刹那は――相手が性別を弄れるという人あらざる者かつ、優奈()明乃(親友)たちと違って距離の離れた存在だったので言いやすかったのだ――緋乃の頭を撫でながらため息を吐く。


「うん、まあね。でももうちょっとすれば、この違和感も完全に消えて無くなると思う。だから、惚れた腫れたとかそういうのは、その後かなーって」

「それは残念じゃ。……ま、気が変わったらいつでも言うがええ。こう見えて、儂は今までに何人も娶ってきた経験のあるテクニシャンじゃからの。儂の嫁になれば、人間では考えられぬ極上の快楽を教えてやるぞい?」

「あはは……。それはまあ、興味が無いといえば嘘になるけど……また今度ということで」


 緋乃が前世持ちで高い下ネタ耐性を持つと知るが故に、ニシシと笑いながら堂々と下ネタを叩きつけてくる刹那。

 そんな刹那に対し緋乃は苦笑すると、刹那の膝上から退いてその横に座り直し――今回、刹那の家を尋ねたその理由を口にした。


「それより刹那さん、刹那さんに聞きたいことがあってね……」

「ん、なんじゃ?」

「あのね、昨日の夜のことなんだけど――」


 そうして緋乃が語るのは、昨晩の廃デパートで起きた出来事だ。

 初めは大人しく緋乃の話を聞いていた刹那であったが、話が禿頭の男との戦いまで進むと驚きの声を上げる。


「なんと、緋乃ちゃんと互角とは。意外じゃのう……」

「む……。まあ、いちおう本気ではあるけど、全力ではなかったからね? 相手もそれは一緒だけど、隠してる実力はこっちの方が上なんだから」

「ああうん、わかっとるわかっとる」


 刹那の呟きに対し、少しばかりムキになった緋乃が言い返す。

 そんな緋乃を見た刹那は、苦笑しながら緋乃の頭上へと手を伸ばし、ゆっくりとその頭を撫でた。

 はじめは不機嫌そうに頬を膨らませていた緋乃であったが、刹那に優しく頭を撫でられているうちにその表情も緩んでいく。


「それでね、その時戦ったハゲについて、刹那さんなら何か知ってるかなーってここに来たんだけど……」


 刹那の反応より、たぶんこれは知らないだろうなということを察しつつも、それでもほんの少しの可能性にかけて緋乃は問いを投げかける。


「うーむ。緋乃ちゃんには悪いが、儂は人間たちの小競り合いにはあまり興味がなくての~」

「そっかぁ……」


 しかし、やはりというべきか。刹那より帰ってきたのは謝罪の言葉だった。

 がっくしと肩を落とす緋乃。しかしそんな緋乃を見て、刹那は得意げな笑みを浮かべる。


「これこれ、そう落ち込むでないわい。まあ確かに儂はその男について何も知らんが、儂の知り合いなら知っておるかもしれん。ふふん、儂のコネを舐めるでないぞ?」


 自信満々といった様子でその豊かな胸を張る刹那。


「おお……!」


 そして、そんな刹那を見た緋乃の目が期待に輝く。


「とはいえ、儂も忙しいからの~? 特に今は、あの大神の小僧どもがバタバタしておってそのしわ寄せがこっちに来ておるし……。いくら未来の嫁である緋乃ちゃんの頼みとはいえ、の?」


 軽くウィンクをしながら、言外に報酬を要求する刹那。

 その刹那の言に対し、緋乃は突っ込みを――特に未来の嫁という部分に――入れたくなるのだが、お願いをする側の立場であるがゆえにそれをすることはできず。

 あえてその部分は聞かなかったことにして、報酬の話へと移る。


「……なにをすればいいの?」

「くふふ、そう警戒するでないわい。儂にしかできないことならともかく、今回は別にそういう訳じゃないしの。うーむ、そうじゃのぅ……。緋乃ちゃんのコスプレ撮影会、というのはどうじゃ?」

「なんだ、それくらいなら別にいいよ」


 着替えてポーズを取って撮影される程度なら、どんなに長くても数時間もあれば終わるだろう。

 一週間くらい召使いやら小間使いをやらされることを覚悟していた緋乃であったが、刹那の口から出てきたのは予想以上に軽い要求。

 その程度ならお安い御用と、緋乃は二つ返事で引き受けることにした。引き受けてしまった。


「よし、言質はとったぞい? むふふ、とびっきりに可愛くて際どい衣装を用意しておくから、楽しみに待っておれよ?」

(あれ? もしかして早まっちゃった系?)


 ニタニタと笑いながら不穏な言葉を漏らす刹那を前に、自分のミスを悟る緋乃であったが――いまさら「やっぱ無し!」と言い出すわけにもいかず、ただおろおろと狼狽えるのみ。


「ふっ、安心せい。ちゃんとRー18にはならんよう気をつけるからの。ただ、ギリギリのラインを攻めるだけじゃ」

「それは……、安心していいのかな……?」


 したり顔を浮かべる刹那に対し、喜んでおくべきなのか抗議すべきか、どう反応するか迷う緋乃。

 しかしちょうどその時、居間の方より来客を告げる呼び鈴が鳴る。


「んゅ?」

「おやおや、お客さんじゃのう。どれどれ……」


 呼び鈴を聞いた刹那は、両こめかみにそれぞれ人差し指を当てながら目を閉じる。

 おそらく、外にいる適当な烏と視界の共有でも行っているのだろう。

 そのままほんの数秒ほど目を閉じていた刹那であったが、ふとその目を開くと薄く微笑んだ。

 

「ほほう、これはこれは……。くふふ、ちょっとお客さんの対応に行ってくるから、そのまま待っとっておくれ」

「うん、いいよー」


 パタパタと玄関の方へと歩いていく刹那を尻目に、緋乃は縁側に腰掛けたまま、ぼーっと空を見上げて物思いにふける。


(あのハゲに関しては刹那さんに任せておけばいいとして……。やっぱり、一流の格闘家が相手だと尻尾も普通に弾かれちゃうね)


 思い返すのは昨晩戦った拳法使いとの戦い、その戦闘内容だ。


(いや、あの時は横薙ぎに振るったから駄目だったんだ。やっぱり突き……もしくはドリルモードっでいけば、そう簡単に防がれることも――)

「あー、いたいた! やっぱりここにいたわね緋乃!」

「えへへー、お邪魔してまーす」


 そうして昨日の戦闘を思い返しながら、緋乃が一人反省会を行っていると、その耳に聞きなれた声が飛び込んできた。

 思考を打ち切り、声の聞こえてきた側へと目線を向ける緋乃。するとそこにいたのは、赤い髪と水色の髪をした二人の幼馴染であった。


「明乃に理奈……どうしたの二人とも? 刹那さんに何か用事でもあった?」

「いや別に? ていうかこっちの台詞よそれ。急に用事があるから~って一人で先に帰っちゃって」

「明乃ちゃんが、多分ここにいる気がする。もしいなければ探して貰えばいいって言ってね……」


 首をかしげる緋乃に対し、責めるような口調で詰め寄る明乃と、それに同調を示す理奈。

 一緒に遊ぶつもりだったのか、どうやら緋乃が先に一人で帰ってしまったことが不満だったらしい。


「まあまあ、明乃ちゃんも理奈ちゃんも、そうカリカリするでない。せっかく大勢集まった事じゃし、皆でゲームでもやらんかの? マ〇カーなんてどうじゃ?」

「お、いいねいいね。マ〇カーやろうよ。わたしの華麗なテクニックが炸裂しちゃうぞ?」


 そんな二人を宥めるかのように、二人の後から部屋に入ってきた刹那が声を上げ、これ幸いとそれに全力で乗っかる緋乃。


「はあ、仕方ないわねぇ……」

「えっと……私もいいんですか、刹那さん?」

「よいよい、緋乃ちゃんの友達なら大歓迎じゃ。理奈ちゃんについては、明乃ちゃんからも話は聞いておるしの。共に同じ目標を持つ者同士、仲良くしようではないか」


 二人はまだ緋乃に対して文句を言いたそうな顔をしていたが、刹那に免じてか、大人しく引き下がることにしてくれたようだ。緋乃は内心でほっと胸をなでおろす。


「にしても、アイテムごり押し妨害特化のどこが華麗なテクニックよ」

「わたしのおかげで誰かが一位から転落して悔しがる……。わたしはそれに幸せを感じるんだ……」

「うーん、最高に可愛い笑顔から最低の発言をありがとう緋乃ちゃん」

「成程のう、緋乃ちゃんは荒らし特化か……。なら儂が取るべき手段は……」


 その後、四人はときおり奇声や歓声を上げつつも、遅くまで仲良くゲームに興じ。

 日が完全に落ち、辺りが真っ暗になってからさらにしばらくして、ようやく解散するのであった。

ちょっとリアルが忙しいので更新頻度落ちます、すいません……。

今週は週2で、来週からは週3投稿行けたらいいなーと。

(追記)刹那さんの身長を165cmから170cmに上方修正しました。

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