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33話 接戦

『こ、小娘ぇ――!』

「嘘!? かった!」


 ドリルへと変形させた尻尾と、重力操作の異能を組み合わせた、緋乃のとっておきの一撃。

 しかし、緋乃が自信を持って放ったその一撃は、滅亀の甲羅を貫きこそしたものの――その体を貫通するまでには至らなかった。

 その予想よりも圧倒的に高い防御力に対し、緋乃は思わず驚愕の声を上げてしまう。


(ええい、まさかわたしの尻尾を止めるなんて……! まあいい、刺さるには刺さったんだ! なら――)


 絶対の自信を持っていた必殺技が、思うような効果を発揮しなかったのだ。

 その事実を前に、ショックを隠せない緋乃であったが、すぐに気を取り直すと次の手を打つ。

 ほんの少しだけ尻尾をたわめると、そのまま空中で体勢を変更。素早く右脚を滅亀の方へと向け、その足首へと尻尾を巻きつける。


(よし、あとはこのまま……)


 あとは、尻尾を全力で縮めるのみ。そうすれば、緋乃の身体は右足を先にして――要は飛び蹴りの形で――滅亀へと猛スピードで突撃できる。

 移動と攻撃を兼ねた、現状況において最良と思われる一手。しかし、緋乃がいざそれを実行しようとしたその時。


『許さんぞ!』

(うそっ!? や、やだ、なにそれ!)


 滅亀の甲羅部分より、数十本もの鋭いトゲが次々と生えてきた。

 先端が鋭く尖ったそのトゲは、一本当たりが緋乃の脚にも匹敵する大きさであり、まともに食らってしまえばただでは済まないだろうことは明らかだ。


『死ねぇ!』


 そうしてその大量のトゲは、滅亀が叫ぶと同時に、上空の緋乃目掛けて勢いよく発射された。

 激しい炸裂音と共に発射されたそのトゲは、まるでミサイルのように、煙の尾を引きながら緋乃へと迫る。


「ぐっ! このぉ――!」


 トゲの速度は速く、迷っている時間などない。緋乃は即座に迎撃を選択した。

 右脚を胸に当たるくらいに持ち上げると、トゲに向かってその足裏を全力で叩きつける。

 そうしてトゲを粉砕すると、素早く右脚を持ち上げ、再びトゲに向かって全力で叩きつける。

 渾身の気を込めた、右足による蹴りの連打。嵐のように襲い掛かる大量のトゲに対し、緋乃は必死に蹴りを繰り出し続けた。


「うりゃあああぁぁ!」


 直径10cm以上はある先端の尖った砲弾が、音よりも早く飛んでくるのだ。

 しかも、この砲弾は気と相殺し合う妖気によって形成されているときた。

 もし仮に、緋乃が迎撃ではなく、気のバリアによる防御を選択していれば。確実に緋乃は重傷を負って戦闘不能になっていたことであろう。

 そうして緋乃は、ひたすらにトゲを蹴り壊し続け――なんとかこれを切り抜けたと、そう思った次の瞬間。


『くたばりな!』

「ふう、あぶな――きゃああぁぁぁ!?」


 なんとか窮地を脱したかと思った緋乃の目に、まるで津波のように押し寄せる真紅の奔流が映る。

 そう、緋乃がトゲの迎撃に必死になっている間に、妖力のチャージを済ませた滅亀が妖力砲を放ったのだ。

 チャージ時間の関係上、退魔師たちに向けていたそれに比べれば遥かに劣る威力ではあるものの、退魔師一人を葬るには十分以上の威力であり――真紅の閃光が悲鳴を上げる緋乃を飲み込み、派手に爆煙を巻き上げた。




「は、はひぃ……。今度こそダメかと思ったぁ……」


 爆煙の中、なんとか追撃の妖力砲を凌ぎ切った緋乃は安堵の息を漏らす。

 緋乃は砲撃が直撃する寸前。全身に気のバリアを纏うことで、これを防ぐことに成功したのだ。

 とはいえ、防御が間に合ったのは本当にギリギリのことであり。

 緋乃自身ですら、よく間に合ったものだと自分の反応速度に驚いていたりするのだが。


(今のは本当に危なかった……。でも、何とかしのげたし、今度こそこっちの番だ!)


 緋乃は早鐘を打つ心臓を抑えながら、素早く呼吸を整えると、今度こそ滅亀へと強襲を仕掛けんとその体制を整える。

 右足の先を滅亀へと向け、飛び蹴りの姿勢を取ると、その尻尾を一気に縮め――。


「く、ら、えー!」

『グヌウウウ!?』


 滅亀の甲羅へと、流星のように飛来した緋乃の右足が突き刺さる。

 その衝撃で、尻尾が突き刺さったことでその強度を落としていた甲羅は大きく凹み、また同時に大きなひびが入り――滅亀は悲鳴を上げながら吹き飛んでゆく。


「これぞ名付けて流星脚ってね! さぁ、どんどん行くよ!」


 即興で今叩き込んだ蹴りを流星脚と名付けた緋乃は、蹴りの反動で抜けた尻尾を縮めながら地面へと着地すると、吹き飛んだ滅亀をダッシュで追いかける。

 そうして滅亀との距離を一瞬にして詰めた緋乃は、その右足に気を集中させ、今だ体勢の整っていない滅亀へと強烈な前蹴りを放つ。


「吹っ飛べぇ!」


 緋乃の履くブーツの底が、滅亀の腹部分へとめり込んで、新たなひび割れを作り上げる。

 その衝撃で再度吹き飛び、転がる滅亀であったが――。


『ガアアァァ!? お、おのれ――!』

「おおっと! 甘いっ!」



 やられてばかりではいられまいと、地面を強く叩くことで無理矢理に体を起こした滅亀は、即座に地面より岩の槍を生やす術を行使。

 かつて、霊脈を維持管理する退魔師の男を不意打ちで葬った術式だ。

 滅亀はその術式を以って、自身へと更なる追撃を加えようとする緋乃を串刺しにせんとするのだが――緋乃はその術をあっさりと回避すると、そのまま滅亀の懐へと潜り込み、その脚を天高く突き上げた。


『――グガァ!?』


 緋乃の踵が滅亀の胴体へと突き刺さり、その圧倒的重量を誇る巨体を宙へと浮かす。

 そうして右脚一本で滅亀を持ち上げた緋乃は、渾身の気をそこへと送り込む。

 放つのは勿論、近接戦闘における緋乃の必殺技。手や足で掴み上げた相手に、ゼロ距離で気の爆発を叩き込むという、膨大な気を保有する緋乃だからこそ許された絶技。


「はじけろぉ!」

『グオアァァ!?』


 緋乃が気合の叫びを上げるとともに、白光が駆け抜け、轟音が響き渡る。

 正真正銘、本気の一撃。人間に向かって放てば、相手を跡形もなく消し飛ばしてしまうであろう禁忌の一撃だ。

 しかし、今回技を受けた相手は人間ではなく妖怪。それも妖怪の中でも最上位クラスの、大妖怪と呼ばれる存在。

 人間とは別次元の耐久力を誇る相手であり――現に、緋乃の必殺技を受けたことで吹き飛び、そのボディを欠損こそしたものの、まだまだ戦闘に支障はない様子だ。


『お、おのれ……!』

「ふぅ……、しぶといね……」


 爆撃を叩き込んだ緋乃は、素早くバックステップをして滅亀との距離を取る。

 トゲの迎撃に始まり、これまで全力で攻撃を繰り出し続けていた反動が押し寄せてきたのだ。

 10m程の距離を開け、深呼吸をし、息を整えながら滅亀を観察する緋乃。

 こちらに対する恨み言を言いつつも、受けたダメージを再生していく相手の様子を見て、緋乃はうんざりとした声を上げる。


(でも、連続攻撃自体は結構効いたみたいだね。最初は物凄かった妖気が、一回りは減った気がする。まあ、こっちも結構消耗しちゃったけど……)


 純粋な気の大きさでは緋乃よりも滅亀の方に軍配が上がるものの、今戦いを有利に進めているのは緋乃の方だ。

 巨体ゆえの小回りの利かなさもあるだろうが……恐らく、強者との戦闘経験も足りないのであろう。

 ただし、純粋な火力と耐久力という面では自身を圧倒しているため、油断はできないと緋乃は気を引き締める。


(わたしの気の回復速度は人間よりも圧倒的に速い。でもそれはあっちも一緒……いや、純度100%妖怪のあっちの方が回復速度は速いはず。持久戦は不利、速攻で決めに行かないといけないんだけど……さてさて、どう仕留めたものかな?)


 重力操作のギフトを併用した、必殺のドリル尻尾は分厚い装甲で止められた。

 連続蹴りも気の爆撃(ホワイトアウト)も、奴に対し相当のダメージを与えはしたようだが、今一歩威力が足りない。

 超必殺技(ブレイジングバスター)なら仕留められるとは思うが、隠蔽という概念を遥か彼方へと投げ捨てたあの技を使うのは少し躊躇われる。できれば最後の手段にしたい。


(いや、貫通こそできなかったけど、わたしの尻尾は奴の装甲を貫くことには成功したんだ。もう一度ぶっ刺して、尻尾経由で気を流し込んでやれば――)

≪緋乃! 聞こえてる!? 聞こえてたら右足で足踏み二回!≫


 緋乃が次なる攻め手を決めた瞬間。突如、その脳内に明乃の声が響く。


(この声、明乃? え、どうして明乃の声が――)

≪さっさと返事ィ!≫

(ひゃ、ひゃい!?)


 予想外の声に混乱する緋乃であったが、怒声を上げられたことで、すぐに我を取り戻した緋乃は、身を竦ませつつも素早く足踏みを二回繰り返す。


≪よし、聞こえてるわね! 戦闘中だから手短に言うわ! 3・2・1(さん、にい、いち)で援護するから、タイミング合わせて伏せなさい! いくわよ!≫

(うわあい、すっごい強引だあ!? 事情の説明とか、もっとしてよ!)

≪さん! にい!≫


 緋乃のジェスチャーを確認したのであろう明乃は、満足気な声で援護を行うことを告げると、そのまま一方的にカウントを開始しだした。

 どうやらこのテレパシーは一方通行のようであり、明乃の側に緋乃の声は届いていないようだ。

 それを理解した緋乃は、二つ目のカウントを聞くと同時に大慌てでその場に伏せた。

 ――どんな攻撃をするのかは知らないけど、なんとなく不味い気がする。

 背筋に悪寒が走るのを感じつつ、明乃の指示に従った緋乃の瞳に、突如謎の行動を取った自身へと困惑する滅亀の様子が映り――。

 

≪いち! ちぇすとおおおぉぉ!≫


 直後。周囲の木々を断ち切りながら、明乃の念動力(サイコキネシス)により形成された、見えない刃が滅亀へと襲い掛かった。

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