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31話 絆

『……チッ。もう少しでオレ様が()()()ってのに、使えねえ連中だ』

「も、申し訳ございません……。あそこにいるのは、金で雇った忠誠心の低い連中でして……」


 邪教徒のアジトである別荘。そこに突入する退魔師たちを、少しばかり離れた山の中腹より見下ろす大きな影がひとつ。

 そして、その影に対し、心底申し訳なさそうな声を上げる黒いローブ姿の男たち。


『フン、まあいい。奴らがこっちに気付いても、今からじゃ間に合わねえだろうしな』

「はい、それは勿論ですとも! あと少し、あと少しで儀式は終わりますので……!」


 その影、巨大な亀のような姿をした妖魔――否、妖怪は、男の言葉を聞くと、その()()()()()()()()()()を震わせた。


『ああ、いいぜ……。力が高まってくるのが感じられる……。お前たちに声をかけて正解だったな……』

「勿体ないお言葉です、滅亀(めつき)様」


 かつては全長2mほどの上級妖魔であった彼は、邪教徒たちに接触したことで、みるみるとその力を高め――現時点で既に妖怪の領域にまで上り詰めていたのだ。

 しかも、最新にして最強と謳われる機械型の特性を取り入れた、言わばサイボーグのような姿へと自身を作り変えるというオマケ付きで。


「この地の霊脈より集めた力と、我々上級術師の魂。これらを糧に、貴方様は妖怪の領域を超えた妖怪……即ち、伝承上の存在にすら匹敵する大妖怪として再誕なされるのです。そして、その暁には……」

『ああ、わかっているさ。人間どもの数を減らして、文明レベルを引き下げてやればいいんだろう? 安心しな、契約は違えねえよ。オレ様は、嘘ばかり吐くお前ら人間とは違うんだ』

「ありがとうございます……。どうか、どうかこの地球を食いつぶす害虫どもに、目に物を見せてやってください……!」


 感極まった様子で頭を下げながらも、同時にその裏で極めて高度な儀式を進行させ続ける男。

 滅亀はそんな男に対し、凄いのだか凄くないんだかよくわからん奴だという評価を下しながら、再び別荘の方へと目をやった。

 そして、ちょうどその時。滅亀が退魔師たちを誘い込む罠である別荘へと意識を向けたその瞬間。

 一人の美しい少女が、歩いて別荘の内部へと入っていく姿を、滅亀は目撃した。


『あれは、あの小娘は……。ククク……なんだなんだ、お前まで来たのかよ。わざわざ俺にやられるために出向いてくれるなんて、随分と気が利いてるじゃねえか……』

「どうかなされましたか?」


 楽しげな声を漏らす滅亀を見て、疑問の声を上げる男。


『ああ。前々から気にしてた奴が、ここに来ているのを見つけてな……。不知火緋乃って人間を知っているか?』


 滅亀より緋乃の名前を聞いた男は、すぐ合点がいったかのように頷くと口を開いた。


「ああ、あの少女ですか……。彼女も哀れなものですね。我々より先に、退魔師たちに目を付けられてしまい……その結果、彼らの犬として動く羽目になるとは。薄汚い人間ではなく、救世主たる妖怪として変生できる資質を持つ希少な存在だというのに、本当に残念です……」

(あの時は妖怪だと思っていたが、まさか人間だったとはな……。いや、放っておいたら勝手に妖怪化――いや悪魔化だったか? するらしいから、ほぼこっち側の存在と言っていいらしいが……)


 男の言葉を聞き流しつつ、思索にふける滅亀。

 かつて、初めて緋乃を目撃した際は、その体の奥深くより感じる妖気より、緋乃のことを人間に化けた妖怪だと誤認していた滅亀であったが――邪教徒たちと行動を共にしている間に、その誤解は解けていたのだ。


『そうだな、丁度いい。あの小娘にオレ様の力を注ぎ込み、巫女としてやるのも一興か』

「それは……素晴らしいことですね。退魔師に使い潰され、裏切られる未来。滅亀様のおかげでそれを回避できたと知れば、きっと彼女も喜ぶことでしょう」


 ぽつりと零した滅亀の言葉を聞き、男は嬉しそうな声を上げた。

 男のその反応を見た滅亀は、満足気に深く頷いて見せる。


(あの誰よりも強く、誰よりも美しい娘を完全にオレの所有物とし、屈服させる……。クク、最高じゃねえか。想像するだけでゾクゾクするぜ……)


 最も、その内心は、男の想像するような慈悲深い上位者のそれではなく。

 非常に俗物的な、下卑たものであったわけなのだが。






「ハァ……ハァ……。あと少し、あと少し……」

『…………』


 それからどれだけの時間がたっただろうか。

 時間にしてはそこまで経過していないはずだが、いつ退魔師たちにこちらがバレるのか。

 儀式が終わるまで、別荘の捨て駒たちが持つのか。

 不安と焦燥感に追われる男たちの放つ、重い空気が儀式の場を埋め尽くしていた。


「滅亀様……。私はですね、自然が大好きなんですよ……。草や花や動物たちが好きでね、昔は、それを危険に追いやる妖魔って存在が大嫌いだったんです……。だって、妖気で汚染された土地からは動植物が消えてしまいますから……」

『…………』


 儀式に生命力を捧げているからであろう。苦しそうに息をしながらも、自分の心中を吐露する男の言葉を、滅亀は黙って聞いていた。


「しかし、私が退魔師として活動しているうちに、人間の自然破壊やら環境汚染の問題がどんどん出てきて……ある日、ふと思ったんです。『妖魔よりも人間の方がこの星を汚してないか?』『技術の進歩を言い訳に、やりたい放題している人間こそ真の悪なのでは?』『倒しても倒してもキリがなく湧いてくる妖魔は、もしかして人間を排除しようとするこの星の意志なのでは?』と……」

『それで、オレたちを保護する側に回ったってことか』


 滅亀の反応を聞いた男は、軽く頷いて同意を示す。


「滅亀様、大変身勝手なお願いだとはわかっているのですが……。天敵がいなくなり、調子に乗った人間は、言い逃れのできない完全な悪ですが――自然と共存していた頃の人間は悪くないのです。ですので、文明のレベルを下げた後は……」

『皆殺しはやめて飼い殺しにしろってか。面倒な要求だな……』


 殺すのはいいけど滅ぼすのはやめて欲しい。人類の敵対者である妖怪に向けるには、あまりにふざけた言葉だ。

 男の言葉を聞いた滅亀は、思わずといった様子で呆れた声を漏らす。


『……だがまあ、一応は覚えておいてやるよ。一応、な』

「滅亀様……!」


 しかし、それでも男たちには借りがある。

 せいぜい上級妖魔どまりだった自分を、妖怪まで押し上げてくれたのは彼らなのだから。

 滅亀のその返事を聞いた男は、消耗にその顔を歪めながらも、何とか笑顔を作り出すと明るい声を上げた。


「ありがとうございます、滅亀様。これで、安心して逝けます……。それでは滅亀様、ご武運を!」

「ご武運を!」

『……!』


 この場の代表である男が、滅亀の活躍を祈る言葉を口にすると同時に、儀式を行っていた他の男たちも一斉に同様の台詞を吐く。

 その直後、滅亀を囲む結界が強い光を放ったかと思うと砕け散り――滅亀は、自身へと大量の力が流れ込んできたのを感じ取る。


『ぐ、おお……。おおおぉぉ――!』


 大量の陰の気を流し込まれたことで、それに合わせて滅亀の身体が巨大化していく。

 滅亀の体が赤い光に包まれ、その中で一回り、二回りと徐々に大きくなっていく滅亀。

 それと同時に、制御しきれなかった妖気がその体から溢れ――周囲の木々が枯れていき、まだ山に残っていた鳥たちが一斉に飛び立った。


『ふぅ、なんて力だ。これが大妖怪の領域、か……。まさか、こんな強大な力をオレ様が手にすることになるなんてな……』


 やがて光は治まり、その中から、文字通りに倍の大きさとなった滅亀が姿を現した。

 その大きさ、およそ12m。大型のトラックに匹敵する巨体を得た滅亀は、自身の中から湧き上がる圧倒的な力に酔いしれる。

 そうして、そのまま数秒ほど呆けていた滅亀であったが、ふと我に返ると、倒れ伏した男たちへと目をやった。


『それもこれも、こいつらのおかげ、か。……文字通りに、自分たちの全てをオレ様に捧げたんだ。少しくらいは、言うこと聞いてやるか。……ありがとよ』


 男たちに対する感謝の言葉を口にした滅亀は、その目を光らせながら、その視線を別荘へと向けた。

 結界が砕けたことで、滅亀の妖気を感じ取ったのであろう。別荘周辺にいた、突入部隊のサポート役と思われる退魔師たちが、一斉にその目を滅亀のいる山へと向けてきていた。


『だがまあ、その前に。あの邪魔者どもを排除しなくちゃなあ……!』


 滅亀はその口を開くと、口内に妖力を集中させる。

 一か所に集中させ、高めた妖力による砲撃。妖魔時代から使っていた、滅亀の必殺技だ。

 もっとも、大妖怪と化した今。その威力は、かつてのそれとは比べ物にならないほど上昇しているのだが。


『挨拶代わりだ、喰らいな! こんにちわぁ!』


 妖気が急激に高まったことや、また激しい赤光を見て滅亀が遠距離攻撃を行おうとしていることを理解したのだろう。

 慌てふためく様子を見せる退魔師たちを尻目に、邪教徒のアジトである別荘へと滅亀の妖力砲が放たれ――巨大な閃光が別荘を飲み込んだ。

二章ラストバトルです

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