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25話 逆襲の魔犬

「ええい、遅いですわね尻尾娘……! 既に妖力が集まってきているというのに……!」


 とある日の夕暮れ時、町外れの廃棄された遊園地の入り口にて。

 そこに腕組みをし、不機嫌な様子を隠そうともしない一人の美少女――大神六花がいた。

 六花は時折、遊園地の奥の方へと目をやっては、スマホの時計を確認しということを何度も繰り返していた。


「いよっとぉ! ごめーん、ちょっぴり遅れちゃった」


 そんな六花のすぐ近くに、カシンという小さな音と共にワイヤーが突き刺さったかと思うと、猛烈な勢いで緋乃が降ってきた。

 尻尾を伸ばして目標に突き刺し、それを一気に縮めることで高速移動するという、緋乃のちょっとした移動技だ。

 そうして六花のすぐそばに着地した緋乃は、寒風にジャケットをはためかせ、その尻尾を左右にゆらゆらと揺らしながら六花へと謝罪を兼ねた挨拶をする。


「遅いですわよ尻尾娘! 遅刻ですわ遅刻! いったい何をやっていたのですか!」

「ごめんごめん。なんか電車が遅延したとかでさ……。だから、わたしのせいじゃないよ?」


 緋乃の挨拶に対し、がぁーっという擬音が似合いそうな勢いで、怒りの言葉を吐く六花。

 六花のその怒りの言葉に対し、緋乃は遅れたことに関する言い訳を返す。

 

「まったくもう……! 貴女の脚力なら、電車なんかよりも普通に走ったほうが早いでしょうに……!」

「えー、でも疲れるからやだよ。ほらほら、これから妖魔とやり合おうってのに、体力を消耗するわけにはいかないじゃん?」

「貴女じゃ無ければ、その言い訳も通用したのですけどね。周囲に満ちる気を取り込むことによる自動回復能力。悪魔や妖怪が行う、呼吸とも呼べる基本技能。知らないとでも思っていたのですか?」


 総量のおよそ30%程度とはいえ、魂が悪魔化した緋乃の持つ、周囲の空間に満ちる気を取り込む力。

 もちろん、本家本元の悪魔のそれに比べると、回復速度はかなり遅いものの――それでも、普通の人間とは比べ物にならない速度で生命力()を回復できる。

 それを駆使すれば、緋乃は理論上はスタミナを消耗することなく走り続けられる訳であり――六花はそのことを指摘したのだ。

 

「えっと……えへへ……」

「笑ってごまかさない! こっちは、貴女がこの回復能力に物を言わせて、食事をサボってることだって知っているんですからね! まったく、ちゃんと食べなさい!」

「だってお腹減らないんだもん。あと食事はキライ。ていうかなんでそんなことまで知ってるの? もしかしてストーカー……?」

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……! こ、こいつはぁ……!」


 緋乃の自動回復は、気を激しく消耗するような行為さえ行わなければ、生きるために必要なエネルギーを余裕で賄える程度には強力な物であり……それに任せ、緋乃は滅多な事では食事を摂らなくなった。

 当然、緋乃の周囲の人間はそれを心配し――もちろん六花もその一員である――ちょうどいい機会だからと、そのことに関する苦言も呈する六花。

 しかし、六花のその発言を聞いた緋乃は反省するどころか、逆にその身を抱えて六花を挑発してくる始末だ。

 まあもっとも、これは味覚と嗅覚が機能していないことから、元から食事という行為を単なるエネルギー補給の手段としか見ていなかった、緋乃特有の問題ではあるのだが。


「まあ、そんなことより早く行こうよ。なんか向こうで妖気? ってのが集まってる気配を感じるし」

「はぁ……はぁ……。う、ふふふ……そうですわね……! 誰かさんのせ・い・で! 遅れちゃいましたもんね!」

「もう、ごめんってば。でも、いざ妖魔が湧いてきても六花なら平気かなって……」


 言い争いをしながらも、遊園地の奥から感じる妖気を目指して駆ける二人。

 そんな二人を、烏がカァカァと鳴きながら眺めていた。







 緋乃と六花が、遊園地の中央にある観覧車の元へとたどり着いたとき、ちょうど妖魔が歪みの中からその姿を現している際中であった。


「ふぅ、なんとか間に合った感じですわね。やれやれ、間に合わなかったときはどうしようかと――おや? どうしました尻尾娘。あの妖魔に何か?」


 這い出てくる妖魔を見て、安堵の息を漏らす六花。

 しかし、六花とは逆に緋乃はその眉を顰めており――それを見た六花が疑問の声を上げた。


「……いやまあ、別に? ただ、ちょっと前にさ。次元の悪魔事件の時に、あんな感じの魔物と戦ったからね……」


 緋乃は目の前にて唸り声を上げる、三つ首の大きな犬を見ながらため息を吐く。

 六花は知らないことではあるが、その妖魔の姿は、かつて緋乃が戦った異世界の魔物――ケルベロスに瓜二つであったのだ。


「魔物? ああ、魔法使いの連中が召喚した、ということですか。ふむ……」

(あ、なんかやな予感がする)


 緋乃の話を聞いた六花は、その手を顎に当てて考え込む様子を見せる。

 それを見て、緋乃の頭に嫌な予感――具体的に言うと、この妖魔の対処を押し付けられるという未来がよぎり……直後、その予感は的中した。


「なら、ここは尻尾娘に任せましょうか。一度戦ったのなら、対処法もわかるでしょうし……」

「えぇー、わたしが一人でやるの?」

「遅刻した罰ですわ、ば・つ! 大した妖気は感じませんし、貴女なら余裕でしょう? ま、ピンチになったら助けてあげますけど?」


 緋乃の予想通り、緋乃に妖魔の対処を押し付けようとする六花。

 その言葉を聞いた緋乃は当然、唇を尖らせて不満をあらわにするのだが――遅刻したという事実を前に出され、更にダメ押しとばかりに煽られたことで、六花の思惑に乗ってしまうのであった。


「むっかー。今のはかちんときたよ? いいよ、そんなに見たいなら見せてあげるよ。わたしの実力をね!」

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