表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/136

24話 任務完了

「あれ? もう戻ってきたんだ。結構早かったね、奏」

「ぐぇー!」

「え、ああ、うん……。なんていうか、すごいね……」


 奏の接近に気付いた緋乃は、相変わらずその尻尾を大きく振り回し、男を石畳へと叩きつけながら――その顔に緩い笑顔を浮かべて出迎えの言葉を口にする。

 奏は緋乃の笑顔と、その背後で悲鳴を上げる男へと交互に目をやりながら困ったような声を上げる。


「ああうん。コイツ、思ったよりしぶとくてさ……。なかなか落ちてくんないの。これ以上絞めると首ちょんぱしちゃいそうだし、無駄に耐久力高いって困るよね~」

「あ、はは、ははは……」


 白い目で男を見やる緋乃に対し、乾いた笑い声を返す奏。

 そうして二人の少女が見る前で、男の反応が徐々に弱弱しくなっていく。


「お、もうすぐかな? ほらほら、早く落ちちゃえ、落ちちゃえ~!」


 緋乃はリズミカルにその腕を上下に振りながら、これまで以上の勢いで男を叩きつける。

 持ち上げ、叩きつけ、持ち上げ、叩きつけ――まるでメトロノームのような軌跡を描く男を前に、ご機嫌にダンスを開始する緋乃。

 そうしているうちに、ついに男は何の反応も返さなくなり……その体を包んでいた霊力も完全に消失した。


「よし、完璧! これにて緋乃ちゃん大勝利! ぶい! ところで、奏ってなんか縛るものって持ってる?」


 男が気絶したことを確認した緋乃は、にへらと笑顔を浮かべつつ、奏に拘束用の道具の有無を尋ねる。


「う、うん。トラップ用の鋼糸でよければあるよ……。私が縛り上げるから、緋乃はあの男が息を吹き返しても問題ないように、しっぽで手足を縛ってくれるかな?」

「わかった~」


 奏の要望を受け、緋乃の尻尾がしゅるしゅると男の両腕と両脚へと巻きついて締め上げる。

 そうして男の自由が完全に奪われたことを確認した奏は、胸元から極細のワイヤーを取り出すと、男を後ろ手に縛り上げていく。


「これでよし、と……。ふぅ……お疲れ様、緋乃。大変だったでしょ?」

「んにゃ? 別に大したことなかったよ? えっとね、戦闘開始してもこっちの隙をうかがってるのか、この人動かなかったからね。その隙にこう、脚の影に隠して尻尾を地面に撃ち込んでね……あいつの背後からどじゃーんって襲ったの……!」

「なるほど……」


 奏のねぎらいの言葉に対し、緋乃は笑顔を浮かべながら、どうやって男を倒したのかを得意げに口にする。

 緋乃の説明を聞いた奏は、感心したような表情をして頷く。


(まあ、嘘なんだけど。奏には悪いけど、わたしのギフトの、真の能力を明かすわけにはいかないからね~)


 表面上はニコニコと微笑みながらも、内心では奏に謝罪する緋乃。

 本当の戦いの運びは、まず男の初動を重力反転で潰し――その際に発生した隙をついて、尻尾で縛り上げるというものだ。

 しかし、緋乃は自身のギフトの情報を不用意に漏らすわけにはいかず、仕方なく嘘の情報を伝えることにしたのだ。


「ふぅ~ん……ん! なんだかんだで妖魔も倒せたし、怪しい人も捕まえたし。これで一件落着かな?」

「うん、そうだね。あとはこの男を引き渡せば――」

「その必要はない」


 もう気を張る必要はないとばかりに、伸びをしながら奏に確認を取る緋乃。

 奏はそんな緋乃に対し、まだ先ほどの衝撃的な光景が忘れられないのか、苦笑しつつも言葉を返す――のだが、そんな奏の言葉に被せるかのように男の声がかけられた。


「んぁ? あ、総一郎だ。どうしたの?」

「そ、総一郎さん……!? ご、ご無沙汰してます……!」


 声の主、総一郎を見た二人の反応は両極端であった。

 緋乃は親しい友人にでも話しかけるかのように、頭の後ろで手を組みながら気軽に声を発し。

 逆に奏は、自分たちの属する派閥の次期トップが相手ということで、ガチガチに緊張した様子だ。


「そう畏まらなくていい、白石奏。さて、今回の要件だが。緋乃に会いに来た……という冗談はさておき、そこの男を引き取りに来てな」


 気を失い、鋼糸で縛られた邪教徒の男へと目線をやる総一郎。

 その総一郎の言葉を聞いた緋乃が、疑問の声を上げる。


「まだ連絡もしてないのに、随分と早いね。もしかして、この人って有名人だったり?」

「ああ。そいつは妖魔を崇める邪教徒の、いわゆる幹部という奴でな。前々からマークしていたのだ……」

「確かに、あれだけの霊力を扱える男が、下っ端というのはおかしいですしね……」


 総一郎の回答を聞いた奏が、緋乃に変わり納得を示す。


「この男は元々、退魔師こちら側の人間でな……。かなりの腕前を誇っていたのだが、ある時に倒しても倒しても、何度でも湧いてくる妖魔という存在に対して疑問を抱き――何をトチ狂ったのか、気が付けば邪教の教えに染まっていた大馬鹿者だ」

「そうだったのですね……」

「ふーん。そういえば、人間こそが悪いのだーとか言ってたね。そのおじさん」


 総一郎より明かされる男の来歴。それを聞いた奏は男の高い実力に納得した様子を見せ、逆に緋乃はあまり興味が無さそうに気のない返事を返す。


「本来なら、この男が君たちに接触する前に、駆け付けられる予定だったのだがな……。別件で足止めを食らっているうちに……というわけだ。……遅れてすまなかった」

「はわわ……! あ、頭を上げてください総一郎さん! この男は緋乃があっさり倒して、別に何もなかったんですし……!」

「うんうん。元は凄腕だったのかもしれないけど、わたしにかかればあっという間だよ」


 別件とやらで到着が遅れたことを告げると、頭を下げてその詫びを入れる総一郎。

 そんな総一郎を見て、奏は慌てて総一郎へ頭を上げるように言い――緋乃もそれに同調を示す。

 謝罪対象である二人の少女たちの言葉を受け、総一郎はゆっくりと頭を上げた。


「感謝する。さて……それではこの男だが、俺が引き取っておこう。引き渡しや尋問やらの面倒事はこちらでやっておくから、二人は帰るといい。妖魔退治で疲れたことだろうしな」

「え、ええと……」

「え、ホント? えへへ、ラッキー。ありがとね総一郎。ほら、帰ろうよ奏」

「ひ、引っ張らないでよ緋乃……! ああもう……」


 総一郎の提案を受け、雲の上とも言える相手に仕事を押し付けてよいものかと、困惑した様子を見せる奏。

 そんな奏に反し、緋乃は嬉しそうな笑みを浮かべると奏の腕を引っ張り始める。


「フッ……。構わん構わん。そうだな、到着が遅れたことについての詫び、その一つとでも思ってくれ」

「そういうことでしたら……。はい、お任せします」


 奏と緋乃のそのやり取りを見た総一郎は、軽く笑い声を漏らしながら奏に一つの提案をする。

 その提案を受けた奏は、渋々ながらも、総一郎へ男を縛る鋼糸の先を渡して一歩引く。


「うむ、任せられた。もう時刻も遅いからな。あまり寄り道をせず帰るのだぞ」

「ふふっ、先生みたいだね。はーい、わかりました総一郎せんせー。じゃあ帰ろっか、奏」

「う、うん。それでは、これにて失礼します!」


 男への対処を総一郎に任せ、その場を後にする緋乃と奏。

 二人は総一郎の言いつけ通り、素直に家に帰る――なんて訳はなく、駅前の繁華街で軽く遊んでから帰宅するのであった。


「えへへ、こうして夜にゲーセンにいると、なんか不良になったみたいだね!」

「い、いいのかなぁ……。こんな……」

「奏、そっち逃げたよ! 潰して!」

「――ッ! 任せて! こんのぉ……落ちろ、蚊トンボ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ