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23話 邪教徒との戦い

「ふ、ふふ、くはは……! くははははははは!! やれやれ、真実を受け入れぬばかりか、このオレを捕まえるだと……!? なかなか面白い冗談じゃないか、小娘ぇ……!」


 緋乃の言葉を聞いた男は楽しげに笑い出すが、すぐにその笑みを引っ込めると怒りの表情を浮かべ――乱暴にローブを脱ぎ捨てるとその体に霊力を纏った。


「これは……! こいつ、かなりやる――!」


 男のその膨大な霊力を感じ取った奏は、慌てて折れた刀を構えようとする。

 しかし、奏が体勢を整えるその前に、その腕は緋乃に抑えられてしまった。


「緋乃?」

「奏は下がってて。ほら、さっき妖魔にやられたばかりで、まだ本調子じゃないでしょ?」


 訝し気に眉を顰める奏に対し、緋乃は雑談でもするかのような軽い調子で答えた。


「……駄目だよ、緋乃。確かに緋乃は強いよ? でも、緋乃はあくまで一時的な民間協力者であり、事態が落ち着いたら普通の生活に戻れるんだ。だから、こんな面倒事に関わる必要は――」

「ああもう、今はそういうのはいいから! いいから、下がっててぇ……!」

「あ、こらっ! 駄目! ひ、緋乃――!」


 しかし、緋乃のその言葉を聞いた奏は下がるどころか、逆に緋乃を押しのけて前に出ようとする始末だ。

 緋乃はそんな奏に対し、呆れと苛立ちが入り混じった声を上げると、奏の腕を掴み――そのまま無理矢理、奏を神社の敷地外へと投げ飛ばしてしまった。

 飛行能力を持たぬ奏は、叫びながらも放物線を描いてそのまま遠くまで飛んでいき――そんな様子を、口をぽかんと開けて眺める男。


「ク……ククク。ず、随分と乱暴な逃がし方だな……。一瞬だが呆けちまったぜ……。ていうかめっちゃ遠くまで投げたなオイ……」

「ご心配ありがとう。でも、ちゃんと山なりに投げたから大丈夫だよ。……さて。それじゃあ、奏が戻ってくる前に始めよっか……!」

「いや、そういう訳じゃあないんだがな……。……まあいい、返り討ちにしてやるよ!」


 男はそう啖呵を切ると、懐から匕首、或いはドスなどとの俗称で呼ばれる短刀を取り出して構えを取る。

 20mほどの距離を開け、緋乃と男が互いに睨み合う。

 緋乃と男の間に、緊迫した空気が流れ――ふと、一際強い風が吹いた瞬間。

 男の体が一瞬沈み込んだかと思うと、猛烈な勢いで緋乃目掛けて一気に駆け出し、その距離を一気に詰めようとしてくる。

 それを見た緋乃の青い瞳が薄い輝きを帯び――。







「緋乃の馬鹿……! なんで一人で……もう!」


 緋乃に村の外れまで投げ飛ばされた奏は、全力で神社へと駆け戻りながらも悪態をつく。


(あの男の纏う霊力、尋常じゃなかった。間違いなく最上級クラスの実力者。しかも相手は人間なんだ、いくら緋乃でも……)


 奏の脳内に、トドメを刺すのを躊躇った隙に男からの逆襲を食らい、倒れ伏す緋乃の姿が浮かび上がる。

 奏はすぐさま、ぶんぶんと頭を振ってその不吉なイメージを吹き飛ばすと、走るスピードを更に上げた。


(あんなに可愛くていい子を、私の友達を……危ない目に合わせるわけにはいかない! 待ってて緋乃……!)


 奏には、友達と呼べる存在が少ない。

 退魔師として生まれた奏は、その幼少期を鍛錬に費やしていた上に、一般家庭の子と仲良くなることで、彼らを非日常に巻き込む可能性を恐れていたためである。

 またそれだけではなく、奏は霊力を扱うことが苦手で、霊術どころか呪具すら満足に扱えないという有様であった。

 故に、家族以外の退魔関係者からは、出来損ないの娘と白い目で見られており――同年代の退魔師の子供たちからは馬鹿にされ、いじめられていたのだ。


(剣術と出会って、それなりの腕前を身に着けてからは、いじめられることはなくなったけど……。それでも、みんな私を避けていた。六花がいなかったら、私はきっと折れてた)


 しかし、そんな奏に手を差し伸ばした変わり者がいた。大神六花である。

 今から6年ほど前のこと。当時、近接戦闘の鍛錬に力を入れていた六花は、同年代でありながらかなりの腕前を持つという奏の噂を聞きつけると、白石家に押しかけてきたのだ。

 生意気盛りである六花と、当時擦れていた奏は何度も衝突し、その度に模擬戦という名の殴り合いを繰り返し――気が付けば、互いのことを親友として認識していた。


(緋乃。私の、二人目の友達。どうか無事でいて……!)


 しかし、人間とは強欲な物。一人友人ができれば二人目が、二人できれば三人目が欲しくなってくる。

 六花とはその仲を深めたものの、生来の気真面目さが災いして一般人にも、そしてかつていじめていたという気まずさから退魔師にも友人が出来ず、飢えていた奏。

 そんな奏の前にふと現れた、奏の事情を何も知らない無垢な少女。それが緋乃だ。

 もしかしたら、あの娘なら自分の友達になってくれるかも。

 そう、僅かばかりの下心を込めて緋乃に接してみれば、彼女はあっさりと自分のことを受け入れてくれ――そしてつい先ほど、互いに気軽に接することのできる、本当の友人になれたのだ。

 奏は、ようやく得た新たな友人の為に、全力で誰もいない村を駆け抜ける。

 道路を走り、公園の中央を駆け抜け、空き地を突っ切り――息を切らしながら、邪教徒の男と緋乃が戦っているであろう神社の階段を駆け上がる奏。


「はぁ……! はぁ……! 緋乃――!」


 そうして必死に戻ってきた奏の目に、信じられない光景が映った。

 そのあまりにもな光景を目にしたことで、奏は息をのみ、その目を見開く。


「おごぉ!? あごぉ! ぐぉー!?」

「ふぁ~あ。しぶといね……。さっさと気絶してよ~。ほらほら~」


 その首を緋乃の細い尻尾で締め上げられ、くぐもった悲鳴を上げながら、びたーんびたーんと石畳に叩きつけられる邪教徒の男。

 そして、その光景を欠伸をしながら眺め、やる気のなさそうな声を漏らす緋乃。

 予想していたのとはまるで異なる光景を目に、奏の口から思わず言葉が漏れ出てしまう。


「えぇ……」

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