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22話 邪教徒

「ふぅ……。よし、勝った!」

「やったね緋乃! 凄いよ、あの妖魔を一人で片付けちゃうなんて!」


 妖魔が完全に黒いもやとなって消滅するのを見届けた緋乃が、喜びの声を上げると同時に、駆け寄ってきた奏が緋乃へと抱き着いて喜びを露にする。


「えへへ、一人じゃないよ。奏が削ってくれたからだよ。ほら、最後のあの妖魔の一斉射撃。奏の活躍のおかげで、武装を出してから発射するまでの間にタイムラグが出来て――」

「ふふふ、ならそういう事にしておこう。でも本当にありがとう、私一人じゃ絶対に勝てなかったよ……!」


 嬉しそうにその顔へと笑みを浮かべながらも、自分一人の手柄ではないと主張する緋乃。

 その主張を受けた奏はより強く緋乃をその胸に抱きしめ、頭を撫で回す。


「それより奏は大丈夫なの? ほら、妖魔の自爆をもろに……」

「ああ、それなら大丈夫だよ。そこまで大した爆発じゃなかったし、受けた妖気ももう大体は中和できたしね……」

「そっか、ならよかった」


 さすがにいつまでも抱きしめられているのは恥ずかしくなったのか、奏の手からそっと抜け出した緋乃は、つい先ほどまで苦しそうにしていた奏の様子を思い出して心配そうな声をかける。

 奏はそんな緋乃の心配に笑顔で答え、その答えを聞いた緋乃も笑顔を浮かべた。


「それより、私としては緋乃がようやく私のことを友達と認めてくれたみたいで嬉しいよ」

「……んゅ? なんかあったっけ?」

「呼び名だよ。よ・び・な。ほら、六花とか総一郎さんは呼び捨てなのに、私一人だけがさん付けだったからさ。ちょっとだけ寂しく思っていたんだよね……」


 肩を竦め、大げさなリアクションを取りながら寂しさアピールをする奏。

 そんな奏からの指摘を受けた緋乃は、予想外といった様子でその目を丸くする。


「あ、そういえば慌ててつい……。ふふっ、でもそういう事だったんだね。なら遠慮なく、気軽に奏って呼んじゃうよ?」

「うんうん、ぜひそうして欲しいかな。私は友達が少なくてね。だから緋乃みたいに可愛い子から優しく丁寧にされると、一瞬で堕ちちゃうのさ」


 顔を見合わせ、あははと笑い合う緋乃と奏。

 そうして最上級クラスの妖魔を討伐した喜びに浸る二人の耳に、がさがさと落ち葉を踏みしめる音が聞こえてきた。


「き、貴様等……。報告を聞いて駆け付けてみれば……。な、なんという……なんということを……!」

「おじさん、誰? ここは危ないよ、早く帰ったほうが――」

「いや、待て緋乃。コイツはまさか……」


 緋乃が音の聞こえた方へと振り向いてみれば、そこには全身をすっぽりと覆う黒いローブを着た男が一人、拳をわなわなと震わせていた。

 緋乃は男の様子と、その明らかに堅気の人間ではない格好に不信感を抱きつつも、一応はといった様子で男に警告をする。

 しかし、警戒の表情を浮かべた奏がそんな緋乃に待ったをかけた。


「何ということをしてくれたのだ! この退魔師共め!」

「えっ……。退魔師ども?」

「やはり……」


 緋乃が奏に対し、何故止めるのかと振り返ろうとしたのとほぼ同時に、男の怒声が境内へと響き渡った。

 男の怒声に対し、緋乃は困惑の声を上げ――逆に奏は納得したかのような声を上げる。


「『やはり』って、奏はこのおじさんの事知ってるの?」

「ああ、直接見るのは初めてだが……、一応聞いたことがある……。妖魔を神やら救世主やらと崇めている邪教があるっていう噂をね。まさか本当にいたなんてね……」

「妖魔を……崇める……?」


 緋乃の質問を受けた奏は、男を睨みながらその正体を告げる。

 男の正体を告げられた緋乃は、信じられないものを見るかのような目線を男に送るが、男は意に介した様子も見せずに鼻を鳴らした。


「フン、邪教だと? 真理から目を逸らし続けている愚か者が……」

「本当、みたいだね……。じゃあまさか、さっきの妖魔は……」


 男の様子から、奏の発言が真実であることを理解した緋乃の脳裏に、男の言葉がよみがえる。

 男は報告を聞いて駆け付けたと言い、更に妖魔を倒した緋乃たちを罵倒した。

 つまり、男はたまたまここに居合わせた訳ではなく――。


「その通りよ小娘。我々があそこまで育て上げたのだ。苦労したぞ? ある時は陰の気に満ちた場所を見つけては退魔師よりも早く駆け付けて妖魔様に捧げ、ある時は霊脈の警備の隙間を掻い潜り、妖魔様に捧げ……。始めは我々を警戒し、襲い掛かってきた妖魔様であったが、何度かそのようなことを続けているうちに、こちらを信用してくださるようになってな……。だが、それをお前たちが……!」


 緋乃の問いかけに対し、男は誇らしげな表情を浮かべながら、自分たちこそが妖魔を育て上げた犯人であることを告げる。

 しかしその誇らしげな表情は徐々に怒りのそれへと変わっていき、最終的には怒声を上げて緋乃たちを睨みつける。


「えっと……。ごめんなさい?」

「異常者に謝る必要なんてないよ緋乃。妖魔は私達人類にとっての敵であり、この世界を汚す邪悪な存在なんだから」


 男のそのあまりの剣幕に押され、つい謝ってしまう緋乃であったが、そんな緋乃を奏が諫める。

 しかし、奏のその言葉を聞いた男は、怒りの形相を引っ込めると今度は嘲りの表情を浮かべた。


「邪悪? 妖魔様が? ふ、ふふふ……ふははははは! 傑作だ、これは傑作だ!」

「何がおかしいんだか……。妖魔の発する妖気は草木を枯らし、大地を干からびさせる。これを世界の敵と言わずに何と言うんだ」


 奏の言葉に対し、うんうんと頷いて同意を示す緋乃。

 人間の発する悪意や嘆きといった負の感情と、大地の穢れやらなんやらといった澱み。それらが混じり合った結果生まれるのが悪霊であり、その発展形である妖魔は例外なく悪であると――ただし、そこからさらに進化して妖怪にまで至ると、高い知性を獲得することで邪悪な本能を抑え込めるようになり、また事情は変わると――そう習った緋乃にとって、男の発言は理解不能なものであった。


「やれやれ……物事の表面しか捕らえられぬ愚か者めが。だから貴様らは阿呆なのだ。いいか、よく考えてみろ。確かに妖魔様は存在するにあたって妖気を撒き散らし、自然を破壊するかもしれない。……だがしかし! 自然破壊という点で見れば、我々人間のそれの方が圧倒的に深刻ではないか。それに、妖魔様が進化して妖怪という頂にまで至れば、振りまいた妖気を回収して何もなかったことにできるのだ……!」


 自分自身の発言に酔っているのか、男は大げさな身振り手振りをしつつ自分たちの正当性を主張する。

 しかし、その男の演説を聞いた奏は冷めた目を男に向ける。


「お話にならないね。何もなかったことにできる? いくら撒き散らした妖気を回収したところで、その間に汚染された大地はどうなるのさ? それに――」


 呆れた様子を見せながら反論を口にする奏。しかし、そんな奏の言葉に被せるかのように男が大声を上げる。


「ええい、慌てるな! まだ話の途中だろうが! 最後まできちんと聞けい! ……まあいい、せっかちな貴様に合わせて結論から述べてやろうじゃないか。いいか、つまり妖魔様とは、妖怪様とは! 自然を汚し、この星を滅びに導く人類という害虫を消し去る為に、この世界が生み出した――いわば世界の免疫機構! その証拠に、人間がまだ原始的な生活をし、自然と共にあった頃には彼らはそこまで存在しなかったのだ!」


 言いたいことを言い切れて満足したのか、男は目を閉じ、その体を震わせて悦に浸る。

 相変わらず奏は冷たい目線を男に向けているが、しかしその男の演説を聞いた緋乃は興味深そうに頷いた。


「へー、そういう考え方もあるんだ。面白いね」

「緋乃!」

「ひうっ……! そ、そんな大声出さないでよ奏。ちょっとびっくりしちゃったじゃない……」


 緋乃の発言を聞いた奏が咎めるように大声を出し、すぐそばでその怒声を聞いた緋乃が身を竦ませる。

 友人と思っていた相手に怒鳴られたショックから、軽く涙目になる緋乃。


「あ、ごめん……。でも緋乃が変なこと言うから……」


 怯えた様子を見せる緋乃を見て、冷静さを取り戻したのだろう。奏が申し訳なさそうな表情を浮かべつつ緋乃へと謝る。


「ほう、お前はそこの白いのと違って話が分かるようだな。そうだな。貴様はつい最近退魔師に組するようになったようだから真実を知らぬのも無理はない。……どうだ? 今からでも自身の非を認めるというのなら、我々の仲間として受け入れてやっても――」

「ならないよ? 勘違いしないでよね。わたしはただ、そういう考え方もあるんだなーって感心しただけ。妖魔は見つけ次第滅するべしって考えに変わりはないよ?」


 そんな緋乃たちの反応を見て、勧誘のチャンスとでも思ったのか――得意気な顔で緋乃へと手を伸ばす男であったが、緋乃はその申し出を一蹴すると構えを取る。


「ねえ奏。とりあえず、今回の黒幕って事で――こいつをボコって捕まえればいいんだよね?」

おじさんの言ってることはぶっちゃけ出鱈目。

まあ邪教にハマるような人ですし。

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