21話 螺旋の力
「あ、ありがと緋乃……。助けられちゃったね……」
これまで、緋乃からは尻尾を利用した攻撃しか受けていなかったからだろうか。
緋乃の飛び蹴りをまともに食らった妖魔は大きく吹き飛び、神社横の雑木林へと投げ出されていた。
「当然でしょ! それより奏は大丈夫なの!? モロに爆発食らってたけど……!」
「う、うん……。骨とかは折れてないし、妖気さえ抜ければ、平気かな……」
そんな妖魔を尻目に、倒れた奏の心配をする緋乃。
奏は緋乃から差し出された手を取ると、それを支えに、何とかといった様子で立ち上がる。
「ふふ、なんだか、緋乃には助けられてばっかだね……」
「ここから先は、わたしがやるよ。奏のおかげでミサイルポッドは潰せたし、足も斬り落としてくれたからもう楽勝だよ」
緋乃が言い終えると同時に、雑木林の中から妖魔が這い出てくる。
その胴体部分は緋乃の尻尾攻撃と先ほどの飛び蹴りにより大きく凹み、さらに奏に斬られた足の部分からは妖気が漏れ出ていたりと、まさに満身創痍といった状態だ。
「生物型と違って、逃げ出そうとしないのは賢いね。逃げてくれたら、簡単に始末できたのに」
妖魔の口に妖力が集中するのを見ながら、緋乃が呟きを漏らす。
もちろん、いつ妖力弾を撃たれても良いようにと、尻尾を構えることも忘れてはいない。
そうして互いに距離を開けたまま睨み合う緋乃と妖魔。
「来ないのなら――おっと!」
自分から動く様子を見せぬ妖魔に対し、緋乃が仕掛けようとしたその瞬間。
妖魔はその腹部を持ち上げると、尻の先端より白い糸のようなものを吐き出した。
緋乃は即座に飛びずさり、その糸を回避する。
「なるほどね。でも、こんなものがわたしに――」
一瞬前まで自身のいた地点に着弾する糸を見て、この糸が高い粘着性により相手に絡みつき、その動きを封じることが目的の捕縛攻撃であるということを見抜いた緋乃。
しかし、糸へと目を向けていた緋乃がいざ妖魔へと目線を戻せば、まるで投網のように糸が大量に撒き散らされる光景であり――そのあまりの糸の量に緋乃が慌てた声を出す。
「――っちょ! 多い多い!」
「緋乃ー!」
糸に囲まれた緋乃を見て、絶体絶命のピンチとでも思ったのだろう。
戦う緋乃の邪魔にならないよう、離れていた奏が大声を上げる。
しかし、奏の声を聞いた緋乃はニヤリと悪戯めいた笑みを浮かべると――その青い瞳を輝かせ、自身の持つギフトを発動させる。
「なっ、糸が……!」
「これぞ秘儀、糸返し――なんてね」
緋乃へと覆いかぶさるように飛んできた糸が、突如妖魔に向かって猛スピードで飛んでいき、その全身へと降り注ぐ。
緋乃が自身へと降り注ぐ糸の軌跡上に、妖魔の方向に目掛けて働く高重力場を作り出したのだ。
そして糸は緋乃の作り出した重力に従い、妖魔目掛けて高速で落ちていったというわけだが――緋乃の真のギフトを知らぬ奏や、また緋乃が超能力者であるということを知らぬ妖魔にとっては予想外の一手であったのだろう。
驚愕に目を見開く奏に対し、おちゃらけた声を返しながら――緋乃はその尻尾を操り、動きを封じられた妖魔へと攻撃を加える。
「ちっ……。わかっていたけど無駄に硬いね……」
上下左右、縦横無尽に駆け巡る緋乃の尻尾はあらゆる方向から妖魔を襲う。
まずは距離を詰める勢いをそのまま利用した真正面からの一撃。しかし予想以上に硬い装甲に阻まれる。
ならば次は重力を味方につけた一撃だと、緋乃は弾かれた勢いを利用して尻尾を天高く伸ばし、そのまま真下に向けて撃ちおろす――が、この一撃も装甲を大きく凹ませはしたものの、貫通には至らない。
正面も上も駄目なら横だと、今度は右側面から尻尾を撃ち込む。弾かれた。左側面から撃ち込んだ。弾かれた。
(うーん、中々貫けないなぁ。全力攻撃をするにはちょっと距離が短すぎるし……。わたしの超必殺技ならたぶん一撃だけど、あれは周辺被害が馬鹿にならない上に滅茶苦茶目立つから使うなって言われて――お、いいこと思いついちゃったかも?)
緋乃の尻尾攻撃は互いの距離が開いていれば開いているほど破壊力の増す攻撃であり――それでも10m程度の距離があれば、過剰とも言える攻撃力を発揮できるのだが――現在の距離では妖魔の装甲を貫けないと判断した緋乃は、新たな思い付きを実行に移すために尻尾を引き戻す。
(変形しろ~、変形しろ~。わたしの尻尾よ、全てを貫く最強の矛と化せ……むんっ!)
思い描くは、あらゆる障害を貫き抉る、男の子ならみんな大好きな究極兵器。
緋乃の尻尾は主からの念を受け取ると、そのイメージに従って先端部分の刃を変形させていく。
ダガーナイフを思わせるようなその鋭い刃が捻じれていき――ついには、まるでドリルのような刃へとその姿を変えた。
(お、これはいい感じじゃない? あとはこれを回転させて……。うんうん、回転速度もいい感じだし、一発成功とはさすがわたしだね……。ふふ、わたしってば、もしかして悪魔としての才能もあっちゃったりするのかな?)
そうして変化した刃は緋乃の意志に従い、根本の部分から高速で回転。
キュイーンという音を響かせる尻尾を見て、満足気な笑みを浮かべる緋乃。
と、それと同時に妖魔に絡みついていた白い糸が消失。緋乃の嵐のような攻撃が止んだこともあり、自由を取り戻した妖魔が緋乃を睨みつけるかのようにそのカメラアイを赤く光らせる。
(なるほどね。そりゃ妖力で編んだ糸なら、消すのも自在だよね……。でも、これならあのまま尻尾で小突き回して、糸を消す余裕を与えない方がよかったかな? ――いや、あのまま突っついてても奴の装甲は抜けないと思うし、こっちの方が正しいハズ)
ほんの一瞬ではあるが、自身の選択に軽く後悔する緋乃。
だが、その後悔も一瞬のこと。すぐに気を取り直すと尻尾に力を籠める。
「わたしの新必殺技の実験台になれることを誇るがいいよ……!」
先ほどのドリルのように回転する尻尾を見たのか、それとも尻尾の先端の形状から推測したのか。
妖魔はその口に素早く妖力を溜めると、緋乃目掛けて連続で発射する。
それと同時に、胴体の凹みが急速に治っていき――背中からはミサイルランチャーが、腹の部分からは大口径の砲台がせり出してきた。
「無駄な抵抗を……! 食ら、え――!」
緋乃は素早く飛び退いて連射される妖力弾を回避すると、着地と同時に、先端の刃を高速回転させた尻尾を妖魔目掛けて勢いよく伸ばす。
緋乃の新たなる力、ドリルと化した尻尾は自身目掛けて連射される妖力弾を貫きつつ、そのまま堅固な装甲を誇る妖魔本体へと突き刺さり――ついにその装甲へと穴を開ける。
そうして妖魔の装甲を突き破った緋乃は、あえて尻尾を貫通させずに妖魔の体内に止めておき――。
「はじけろぉ!」
尻尾の先端に向けて膨大な気を一気に流し込むと、これを起爆。
内部からの破壊にはその鉄壁の装甲も何の意味をなさず――むしろその装甲が仇となり、妖魔は体内から破壊し尽くされて消滅するのであった。
人間に使ったらエグいことになる技。
破壊力としてはブレバス>重力操作を併用した長距離尻尾攻撃>その他
といった感じです。