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18話 うごめく影

「あー、あと一時間でようやく交代か……。ふああぁぁ……。あー、ねみー」

「だなぁ……。にしてもアレだな。妖魔がぽこじゃか湧いてくるせいで忙しいってのは分かるけどさ……だからといって見回り組の人間削りすぎだろ。霊脈の維持管理も、俺たち退魔師の大事なお仕事だろ?」


 周囲を山に囲まれ、人の気配が微塵も感じられぬ森の中。道なき道を歩く、二人の男の姿があった。

 二人は退魔師であり、この地に流れる霊脈、その本流ともいえるであろう場所の管理及び警備を割り当てられた者たちだ。


「なんでも、妖魔退治で金がかかるからってことで、警備の予算がガッツリ削られたらしいぜ?」

「オイオイ、噂では聞いてけどマジかよ~。元からギリギリ回ってねえぞコレってレベルだったってのにさらに削るか? 上は頭おかしいんじゃねえの?」

「ほんそれ! この前はマジヤバかったんだぜ! 後藤っているじゃん? あいつと一緒に見回りに行ったらさ、霊脈の真上に下級の妖魔が陣取ってやがってよ! いやー、俺と後藤の到着があと一日遅れてたらマジでやべーことに……! こう、生まれて初めて血の気が引くってやつを感じたぜ……」


 霊脈を妖魔に占拠されれば、そこから吸い上げた力でその妖魔が鬼のように強化されてしまうだけでなく――その地に流れる霊力が汚染されることで、草木は枯れ果て、妖魔や悪霊の発生率が激増するという最悪のオマケまでついてくる。

 故に、霊脈の維持管理は退魔師にとって重大な仕事の一つであるのだ。


「知り合いから聞いた話だと、どこの霊脈もそんな感じらしーぜ。ったく! それもこれも魔法使い連中が悪魔だか妖怪だかを呼び出したせいだ! いつの間にか勝手にやってきて、勝手に縄張り主張しやがって……!」


 語気を荒げた男が、たまたま足元に転がっていた石ころを蹴り飛ばそうとその脚を振りかぶった瞬間。

 突然、目の前の地面が勢い良く盛り上がったかと思うと、その中から先端の鋭く尖った岩が飛び出し――石を蹴ろうとしていた男の胸を貫いて、その命を奪い去った。


「う、うわあああぁぁぁ!? お、おい前田! しっかりしろ前田ァ!」


 胸を地面から生えてきた岩の槍で貫かれて磔にされ、ぶらぶらとその足を揺らす男。

 そんな男の惨状を見て、その同僚である男が腰を抜かしながら叫びを上げる。

 しかし、胸を貫かれた男はピクリとも動く様子を見せず――。


「く、くそったれぇ……! どこだ! どこにいやがるクソ妖魔! 仇を――ごっ!?」


 同僚の死を悟った男は、その仇を取らんと下手人である妖魔の姿を探す。

 懐から一枚の呪符を取り出した男は、きょろきょろと周囲を見回し――背後からの強襲を受け、勢いよく吹き飛ばされた。


「ぐ……。こ……の……!」


 地面を転がりながらも、憎き妖魔へ一矢報いんとその手に握る呪符へと霊力を込める男。

 そんな男の視界を、赤黒い閃光が覆い尽くすのであった――。







『へっ、どうやら霊脈の警備が手薄になってるってのはマジらしいな。警備がこの程度とはな……』


 妖力の砲撃で気を失った男を岩の槍で串刺しにし、止めを刺しながら独りごちる一匹の妖魔。

 かつて、ゲルセミウムが現れたスタジアムの跡地にて、緋乃たちを観察していた妖魔だ。

 その体長は2mほどとかつての倍ほどの大きさとなり、発する妖気も以前とは比べ物にならないほど大きくなっている。


(いや違う。こいつらがあまり大したことないのは確かだろうが、オレ様も確実に強くなってきているんだ。コソコソと逃げ隠れては力を貯め込んできた甲斐があったってもんだぜ……!)


 男たちの死体を森の奥深くに向かって勢いよく放り投げ――男たちからの連絡が無いことを不審がった退魔師たちの応援が来ても多少の時間が稼げるよう、証拠隠滅を図りながら内心で悦に浸る妖魔。


(だがまだ足りねえ。あの裏切り者の力はこんな程度じゃないはずだ……。何しろヤツは妖怪だ。いくら力を蓄えたとはいえ、まだまだ妖魔にすぎねえオレ様じゃヤツの足元にも及ばねえハズだ……)


 妖魔は目を閉じ、かつてスタジアムで見た緋乃の戦いぶりを思い返す。

 今の自分より少し下とはいえ、侍の姿をした近接特化型の妖魔の渾身の一撃を平然と防ぎ――その刀を逆にへし折った圧倒的な防御力。

 反撃として繰り出された貫手は一撃で侍妖魔の鎧を貫き、そのまま爆散させた。

 極めつけには先端に鋭い刃の付いた尻尾だ。文字通りに目にも止まらぬスピードで、数百mは離れていた悪霊や大木を貫くという、理不尽極まりないスピードと破壊力。

 奴が尻尾を構えてから、一瞬たりとも目を離さなかったというのに、気が付いたらいつの間にか大木が粉砕されていた。

 もし自分があの尻尾に狙われたら……と思うと、とてもではないが助かるとは思えない。


『だがそれも、妖怪と妖魔という妖力差があってのこと……! そうだ、妖怪にさえなれれば話は変わる。変わるんだ……! ククク、待ってろよ裏切者のクソ妖怪! この調子でもっともっとオレ様は強くなる……。そして、あの時滅せられかけた礼をたっぷりとしてやる……!』

 

 かつて、緋乃が取りこんだ悪魔の力。

 それを妖怪の持つ妖力だと、緋乃のことを人類の敵対者でありながら、人類に媚びを売った裏切者の妖怪だと誤認したまま、妖魔は霊脈目掛けて走り出す。

 全ては、あの時目撃した至高の輝き――緋乃を言う存在を引きずり下ろし、屈服させるという最高の未来を味わうために。

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