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17話 和解(真)

「はーっ……! はーっ……! あの尻尾娘、ちょっと強すぎませんこと……!」

「つ、強いとは、聞いていたけど……。まさか、ここまで……、なんてね……!」


 汗をだらだらと流しつつ、息も絶え絶えの状態でリングの外に寝転がる六花と奏。

 あれから、六花と奏の二人は何度も緋乃に模擬戦を挑んだのだが――結局、一度も緋乃に勝つことは出来なかった。


「尻尾自体も、極めて、厄介ですが……。それよりも、本体が、強すぎますわね……。げふっ、ごほっ!」

「ああ……。あんな、華奢な体のどこに、あれだけの気が、あるんだか……。はー……」


 息を整えながら、緋乃の異様なまでの強さに文句を言う二人。

 しかし、その二人の表情には清々しいものがあり、緋乃に対するマイナスのイメージは感じられない。

 純粋に、強者としての緋乃を称えているのだろう。


「はい、スポーツドリンク買ってきたよ」

「あ、ありがとうございますわ尻尾娘……」

「ありがとう、緋乃……」


 そのまま仰向けに寝転がっていた二人の元に、数本のペットボトルを抱えた緋乃が戻ってきた。

 六花と奏は緋乃から差し出されたそのペットボトルを受け取ると、礼を言って飲み始める。


「もう。あの程度でへばっちゃうなんて、二人ともだらしないよ?」

「貴女がおかしいんですわ尻尾娘! わたくし、これでも退魔師としてはかなり上の方なのですのよ!」

「私も、近接戦闘()()なら最上位クラスにも匹敵~だなんて言われてたんだけどね……。はは、ちょっと自信なくしちゃうなあ……」


 緋乃の発言に対し、バンバンと床を叩きながら激しく抗議する六花と、苦笑する奏。

 一方、緋乃はというと、六花の発言に対し懐疑的な目を向けていた。


「何ですかその目は! さては疑っていますわね……! いいですか! 妖魔というのは、様々な種類がいるのです! この前、貴女と共に退治した蜂型妖魔のように、近寄ることのできない相手と遭遇することも珍しくはありません! 故に、我々退魔師にはどんな状況下でも戦える万能性を求められるのです! わたくしは確かに近接戦闘の腕前において、貴女や奏に一歩劣るでしょう! しかし、総合的な戦闘能力では――」

「えっと……。長い。もっと手短に纏めて?」


 口から火を吐くような勢いで緋乃に詰め寄る六花であったが、あいにくと緋乃は長い話を聞く事が絶望的に苦手であり――六花の言い訳の大半はその耳に入っていなかった。

 冷や汗を流し、誤魔化すような笑顔を浮かべながら、要約した説明を要求する緋乃。


「ぐぬぬぬぬ……! ええい、顔とスタイルと戦闘力が極上だからと調子に乗ってぇ……!」

「いや、そこまで行ったら誰だって調子に乗るんじゃないかな……?」


 その緋乃の要求を煽りと受け取ったか、緋乃に対する怒りの言葉を口にしながらその眉を吊り上げる六花。

 そんな六花の発言に対し、隣の奏が冷静に突っ込みを入れる。


「もう一戦ですわ、覚悟しなさい! ――と言いたいところですが、もうそろそろ時間です。リベンジはまた次の機会にとっておきましょうか」

「そうだね。電車で一時間はかかるし、わたしもそろそろ帰ろっかな……」

「じゃあ、今日は解散だね。うん、いい経験になったよ。ありがとう、緋乃」


 緋乃がドームに設置された時計へと目をやれば、時刻は16:00を示していた。

 秋の夕暮れはつるべ落としともいい、急速に暗くなるので、早めに解散することにした三人。


「尻尾娘」


 ボロボロになった制服を着替えている六花と奏を尻目に、緋乃はスマホを弄っていた。

 そんな緋乃に対し、奏よりも一足早く着替えの終わった六花が話しかけてきた。


「んゅ? どうかしたの?」


 首を傾げ、自身の名を呼んだ理由を尋ねる緋乃。

 そんな緋乃を見て、六花は数秒ほど悩んだ様子を見せ――結局、話すことに決めたようで、ゆっくりと口を開いた。


「最近、貴女のことを悪く言う噂が退魔師の中で広まっています。少し前までのわたくしのように、魂を侵食されてしまった貴女のことを……汚れた存在と見なすものも少なくはありません」

「……うん、知ってる」


 六花の言葉に対し、少し落ち込んだ様子を見せながらも頷く緋乃。

 それを見て、六花も申し訳なさそうな表情を浮かべたが――すぐに真剣な表情へと切り替えた。


「今、仕事が急激に増えたことで、退魔師たちはピリピリしています。ですので、攻撃的な人間に出会うかもしれませんが――あまり気にしないように。全ての退魔師が、あなたを疎んじている訳ではありませんから。奏やお兄様……あと、わたくしのように……。……いいですわね!?」

「……う、うん!」


 六花の口から出てきたのは、予想外にもほどがある慰めの言葉だった。

 最初はその目を丸くして驚いていた緋乃であったが、徐々にその顔に笑みが生まれ――最終的に満面の笑みとなると、元気よく六花へと返事を返す。

 その緋乃の返事を聞いた六花は満足気に頷くと、ボロボロになった制服の入ったカバンを手に歩き出す。


「忘れ物はないですわね? それじゃあ、帰りますわよ?」

「私は大丈夫だよー」

「うん、わたしも大丈夫。……誘ってくれてありがとね? 楽しかったよ、六花」

「……こちらこそ、ありがとうございましたわ。いい勉強になりましたもの」


 緋乃の礼を受けた六花は、その頬を軽く染めると、小さな声で緋乃に対し礼を返した。

 照れくさそうに礼を言うその姿を見た緋乃は、嬉しそうな笑みを浮かべると――六花の腕に抱き着いて、その隣を歩き出す。


「こら、離れなさい! 歩きにくいじゃありませんの!」

「えへへ、六花って素直じゃないねー」

「誰が素直じゃないですって!」

「おやおや、さすが緋乃だね。もう六花の本質を見抜くとは。六花はいい子だよー、私みたいな刀を振るうことしか能のない人間にも優しくしてくれるしね」


 口では文句を言いつつも、無理矢理に振り払ったり、嫌がる素振りを見せない六花に対してからかうような言葉をかける緋乃。

 そんな緋乃と六花を見て、奏がくすくすと笑いながら二人の後を歩く。

 日が傾き、薄暗くなってきた秋の空に――少女たちの声が木霊した。

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