16話 模擬戦
「うわー……、すっごい……」
「ふふん、驚きましたか? これぞ我が大神家が誇る鍛錬場ですわ!」
「ははは、最初は驚くよね。私も初めてここに来たときは驚いたからなー」
六花と奏の二人に連れられ、郊外に存在する大きな建物へとやってきた緋乃は、その目を輝かせて感嘆の声を上げる。
緋乃の声に込められた賞賛の響きを感じ取ったのであろう。六花もまた誇らしげに胸を張り、機嫌の良い様子で緋乃に施設の紹介を始めた。
「あそこの建物が射撃場で、飛び道具や遠距離攻撃系の術式の試し撃ちの場所です。あちらの建物はいわゆるスポーツジムで、最新のトレーニング危惧が揃えてあります。そして中央に見えるのが模擬戦や試合などを行うためのドームですわ。他にも――」
「六花、六花。楽しそうに説明してるとこ悪いけど、緋乃が目を回してるよ?」
「はわわ……」
「あらあら。さっきまでの生意気な様子は、いったい何処へ行ったのかしらね?」
施設の予想以上の充実ぶりを聞いて、大神家の財力に恐れをなす緋乃。
そんな緋乃を見て六花はくすくすと笑うと、緋乃を先導するかのようにゆっくりと歩き始めた。
「さあて、呆けてないで行きますわよ尻尾娘。今日の目的は模擬戦ですから、こっちですわ」
「わ、わかった……」
六花の声により、飛び立っていた意識を現実へと引き戻された緋乃は、既に歩き始めていた二人を小走りで追いかけるのであった。
◇
「はああぁぁ!」
「てやぁ!」
ドームの中央。大きな円形をしたリングの上にて、奏の握る刀と緋乃の脚とが何度もぶつかり合い、火花を散らす。
高速で振るわれる緋乃の脚は、その華奢な見た目に反して理外の威力を持っている。
真正面からかち合えば、奏が握るような細身の刀など一瞬でへし折られ、その使い手ごと粉砕されることは間違いないだろう。
「くっ!」
「まだまだ行くよ!」
故に、奏は緋乃の蹴りを正面からは受け止めない。
たくみに刀を動かし、その刃の表面を滑らせるように、緋乃の脚を受け流す。
しかし、そうして蹴りを受け流しても次の瞬間には再び緋乃の蹴りが飛んでくる。
スピードに物を言わせて、試合開始と同時に無理矢理懐に飛び込んだ緋乃。そんな緋乃に対し、奏は苦しい戦いを強いられていた。
「まだまだぁ……!」
「しぶといね!」
そうして、何度緋乃の剛脚が振るわれただろうか。
受け流しきれなかった緋乃の蹴りが、何度もその肌を掠めたことで――奏の纏う制服はボロボロになっており、また奏自身も息を上げていた。
時折、奏も緋乃の隙を見つけては反撃を繰り出してはいるのだが、しかし奏の振るう刃はことごとく躱されて緋乃には届かない。
「――ッ! ここだ!」
「むっ!」
気力や体力の限界が近いのだろう。奏は一気に勝負に出ることにしたようだ。
緋乃の蹴りを半分ほど受け流した後、そのままその脚を力任せに大きく弾くと――そのまま一気に踏み込み、すれ違い様に緋乃の胴体を斬りつける。
「硬質化!? しまっ――」
「もらっ――たぁ!」
しかし、自身の胴を狙って放たれたその一撃。それを緋乃は硬質化した手刀で防ぎ、逆に奏の刀を歪ませる。
そうして攻撃を防いだ緋乃は、刀を振り切ったことで大きな隙を晒す奏目掛け――飛びかかりながら踵落としを叩き込む。
「――あぐぅう!」
弧を描くように振るわれた緋乃の踵は、とっさに掲げられた奏の刀を粉砕。
そのまま奏の身体を強烈に打ち付け、後方へと大きく吹き飛ばした。
「そこまで! 尻尾娘の勝ちですわ!」
「いぇい、緋乃ちゃん絶好調! ふふっ、これでわたしの二連勝だね」
そうしてリングの上から弾き出された奏を見て、審判役を務めていた六花が緋乃の勝利を告げる。
六花より自身の勝利を告げられた緋乃は、嬉しそうに笑みを浮かべながらガッツポーズ。
「あたた……。さすがは次元の悪魔を退治した最大功労者だね……。しっぽ抜きでもこんなに強いとは……」
「ぐぬぬ……。距離を取れば尻尾が飛んできて、近寄れば防御ごと粉砕する蹴りの連撃ですか……。でも、まさか奏でも歯が立たないなんて……!」
「ふふーん。可愛くて、セクシーで、超強い。それがこのわたし、緋乃ちゃんなのです……!」
そうして勝ち誇る緋乃に向け、悔し気な目線と声を向ける六花。
それを受けた緋乃はますます調子に乗り――。
「ええい、調子に乗るんじゃないわよ尻尾娘! リベンジよ! もう一度このわたくしが相手をして差し上げます!」
「ふふふ、調子に乗ってるのはどっちかなぁ? いいよ、もう一回返り討ちにしてあげる……!」
そんな緋乃の様子を見て、額に青筋を浮かべた六花が緋乃へとリベンジ戦を――奏の前に緋乃に挑み、あっさりと蹴り倒されて敗北したのだ――挑み、緋乃はそれを快諾。
その数瞬後、六花の小太刀と緋乃の脚が激しくぶつかり合った。