表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/136

15話 相談

 緋乃がスタジアム跡地を汚染していたゲルセミウムの残留魔力を吸収したその翌日の昼時。

 緋乃は明乃と理奈に対し、一緒に遊ぼうとの提案をしたのだが――あいにくと、明乃も理奈もそれぞれ用事があるとのことで断られてしまい、一人不機嫌そうに駅前に続く道を歩いていた。


「二人とも最近おかしいよ……。都合よく何度も何度も揃って忙しいとか、絶対わたしに隠れてなにかやってるんだ……」


 ぶつぶつと親友たちへの不満を呟きながら、ゲームセンターへの道を独り歩む緋乃。

 そんな緋乃からは凄まじいまでの負のオーラが放たれており――普段、緋乃が一人で歩いていれば間違いなく声をかけてくるであろう男たちも遠巻きに見守っていた。


「決めた。今日は明乃の家に押し入って、無理矢理にでも一緒に寝てやるんだから。わたしをのけ者にして寂しい思いをさせたんだ、そのくらい――」

「あら? 尻尾娘じゃありませんの。奇遇ですわね」


 しかし、そんなご機嫌斜めな緋乃に対して話しかける猛者が現れた。

 顔合わせの際に緋乃と喧嘩まがいの模擬戦をして敗北し――つい最近仲直りを果たした少女、大神六花である。


「なんだ六花か……。なにか用?」

「まあ、なんですかその言葉遣いは! せっかくこのわたくしが、一人寂しく歩いていたあなたに声をかけてあげたというのに――」


 かつて六花側から喧嘩を吹っ掛けてきて、それを返り討ちにしたという経験からか――六花に対してぞんざいな対応を取る緋乃。

 当然、そのような対応をされた六花は怒りをあらわにして緋乃へと突っかかる……のだが。


「や、一週間ぶりだね緋乃。随分と機嫌が悪いようだけど……何かあった?」

「あ、奏さん。うーん……ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど、いいかな?」

「――ってちょっと! わたくしの場合と随分対応が違いません!?」


 六花の背後からひょっこりと姿を現した奏。その奏に対する緋乃の反応を目の当たりにした六花が吼えた。


「もう、うるさいよ六花。六花と違って、奏さんには助けられたし――それにほら奏さんはなんていうか、丁寧だからね。緋乃ちゃんは雑な相手には雑な対応を、丁寧な相手には丁寧な対応を返すのです」

「な、ななな……! この尻尾娘が……!」

「あ、あはは……。どんまい六花」


 胸を張りながら六花と奏に対する対応の違いを口にする緋乃。

 それを受けた六花は怒りにその拳を震わし――奏はそんな六花を宥めながら苦笑するのであった。







「――なるほど。自分を差し置いて、何かこそこそしてる友人たちが気に食わないと」

「うん、そうなの! 毎週のように用事があるやら忙しいやら、示し合わせたように二人で用事を被せてさ……!」


 ほどよく混雑し、客同士の話し声やら店員の声でざわめく喫茶店にて、緋乃は奏と六花に二人の親友に対する不満をぶちまけていた。

 上品に紅茶を口に運びながら、緋乃の愚痴に相槌を打つ奏。


「呆れた……。別に休みは二日あるんだし、一日くらいいいじゃないの……」

「よくない! ぜんっぜんよくない! 今までわたしたちはね、子供の頃からずっと、ずーっと一緒だったんだよ! それを急に私だけのけ者にするなんて……!」


 白けた目で突っ込みを入れてくる六花に対し、緋乃は机を叩きながら猛抗議。その頬を膨らまし、不満をあらわにする。


「今も子供じゃない……」

「六花、しーっ。ややこしくなるから黙っててね……」


 頬を膨らませる緋乃を見た六花が、思わずといった様子でその感想を漏らす。

 しかし、それは奏に諫められ――また小声だったことが幸いし、緋乃の耳には届かなかったようだ。


「なるほどね。でもまあ、そういう事なら、本人たちに問いただすのが一番の解決法じゃないかな?」

「うっ……。でも……、いざ聞いて鬱陶しがられたら怖いし……」


 奏からのアドバイスを聞いた緋乃は、目線を落とすと自信のなさそうな声を出す。

 そして急に弱気を見せる緋乃を見て、六花がその目を丸くし――奏の後を引き継ぐかのように緋乃へとアドバイスを送った。


「ま、二つに一つですわね。勇気を出してその用事の理由を問いただすか、大人しく我慢するか。……でもまあ、そんなに仲がよろしいのなら、相手を信頼して待つというのも悪くない手ですことよ?」

「信頼……?」

「ええ。固い絆で結ばれた親友だというのなら、何の意味もなく貴女を除け者にしたりはしないでしょう。何か、本人には言えない、きちんとした理由があるはずです。ですので――」

「説明されるまで大人しく待ってろってことだね……」


 六花は緋乃の言葉に対し、深く頷くことでその言葉が正解であることを示す。

 奏と六花。二人からのアドバイスを受けた緋乃は、その目を閉じてしばらくの間悩み続け……。


「わかった。わたし、待つことにするよ。……アドバイスありがとうね、奏さん。あと六花も」

「わたくしはついでですか? まあいいでしょう。今更、貴女に敬語で話されても気味が悪いですしね……」

「ふふふ、助けになったようなら何よりだよ。ああ、それと――私に関しても呼び捨てでかまわないよ。六花に話すみたいに、気軽にしてくれると助かる」

「うん、わかった。ありがとね、六花、奏。おかげでスッキリしたよ……!」


 悩みの晴れた緋乃は、その顔に満面の笑みを浮かべると、六花と奏の二人に向けて礼を言う。

 一方、礼を言われた二人はその緋乃の笑顔に対し、まるで心奪われたかのように硬直し――緋乃がその首を傾げたことで我に返る。


「え、ええ! どういたしまして……!」

「う、うん。助けになったようでよかったよ」


 軽くその頬を染め、緋乃へと言葉を返す六花と奏の二人。

 そんな二人に対し、緋乃はニコニコと嬉しそうな笑顔を向ける。


「ところで、緋乃ってこのあと暇だったりするかな? これから私たち、ちょっとした鍛錬をするつもりなんだけど……せっかくだし緋乃もどう?」

「えっ、うん。まあ暇といえば暇だけど……いいの?」


 悩みが晴れ、雰囲気の明るくなった緋乃に対し、奏は鍛錬に付き合わないかと誘いの言葉をかけた。

 奏からの誘いを受けた緋乃は、確認するかのように六花へと疑問の声を向ける。


「ええ、別に構いませんことよ? ふふふ、感謝しなさい尻尾娘。今日は特別に、大神家の鍛錬場に足を踏み入れることを許可しますわ!」

「あ、うん。ありがと……?」


 緋乃の上げた疑問の声に対し、六花は鷹揚に頷くと緋乃の鍛錬への同行を許可する。

 こうして、思わぬ形で緋乃の午後の予定は決定した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ