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14話 遭遇

「ちょ、緋乃!? この馬鹿、いきなり全部取り込まなくても――!」

「むぅ、明乃は心配性だね。問題なさそうだから取り込んだだけなのに」


 いきなりゲルセミウムの残留魔力を全て取り込んだ緋乃を見て、明乃が慌てた声を出す。

 しかしそんな風に大慌てする明乃に対し、緋乃はのんびりとした様子で返事を返した。


「って大丈夫そうね……。はー、焦ったわぁ……。いやホントに大丈夫なの? ほら、後から湧き上がってくる力を抑えきれずに暴走とか、そんな感じの展開ってお約束じゃない」

「うーん……。いまのとこそれも大丈夫かな? いやまあ、確かに結構なエネルギーではあったよ? でもほら、わたしってすっごいたくさんの気を持ってるからね。このくらいなら余裕で制御可能だよ」


 えっへん、とその薄い胸を張る緋乃を見て、明乃が安堵のため息を漏らす。


「それよりほら、このあたりの雰囲気とかどう? 良くなった? わたしは元から居心地よかったからわかんなくてさ」

「ああ、そうね……。うん、嫌な感じは全部消えたし……問題なさげね!」

「えへへ、じゃあこれで依頼完了だね! お疲れ明乃!」


 いえーいと笑顔でハイタッチをする明乃と緋乃の二人。

 そんな二人の少女を、スタジアム外周部の森の中からこっそりと観察する一つの影があった。







(なんだあの化け物……アレ、本当に人間か?)


 茂みの中より、一匹の下級妖魔がハイタッチをする二人の少女を観察していた。

 その体長1mほどの亀のような姿をした妖魔は、本来ならば本能に呑まれて手当たり次第に人を襲うはずの下級妖魔にしては珍しく、始めから知性を獲得している希少な妖魔であり――知性を獲得した影響か、他の妖魔に比べると戦闘力が一段は劣る個体であった。


(いい感じに陰の気が溜まってる場所に来てみれば、あんな化け物どもに出くわすとはな……。オレ様も運が無いぜ……)


 自身が弱いことを理解している妖魔は、天敵である退魔師に見つからないよう、妖気を極限まで抑え――こっそりと陰の気の集まる場所へ赴いてはこれを回収。少しづつではあるが自身を強化するということを繰り返していた。

 故に、陰の気に満ちたこのスタジアム跡地へと惹かれてやってきたのだが……いざ到着してみれば、その場には退魔師と思わしき二人の少女が既にいた。


(赤髪の方もかなりやべーが、黒髪のちっこい奴はマジで別格だ……。ていうかやっぱあいつ人間じゃねーな。中から強烈な妖気を感じるし、他の人間に比べたら異様に顔や体の出来がいいし……それに尻尾まで生えてるしな。間違いない、うまく化けてはいるが妖怪だろう。……おいおい、人間を滅ぼすのがオレたちの在り方だろうが。退魔師に協力するとか何考えてんだよ)


 本能のまま人を襲う悪霊や妖魔と違い、高い知性を獲得した妖怪の一部には退魔師へ協力することで、その見返りとして討伐を免れたり――人間たちに混じってふらふらと遊んでいる変わり者が存在することは妖魔も知ってはいた。

 しかし、あくまで知識の上で知っていただけであり、実際に目にしたことはなかったのだが――こうして実際に目にすると、その裏切りにも等しい行為に対する怒りと、その身に秘める圧倒的な力に対する畏怖が湧き上がってくる。


(ちっこい黒髪の方は緋乃……とか呼ばれてたな。んで、あっちの赤い髪の奴が明乃と。……今に見てろよ裏切者め。今はまだ弱っちいが、力を蓄えて……オレ様もいつか、妖魔から妖怪になってやる。その時がお前らの最期……。いや待てよ、どうせなら子分としてあいつをこき使ってやるってのも面白そうだな……)


 見つからないように細心の注意を払いながらも、内心で来るべき未来を夢想する妖魔。

 その妖魔の耳(?)に、少女たちの声が届く。


「よし、じゃあ問題も無さげだし、言われたことは全部終わったし……帰りましょっか」

「だね。えっと時間は……12時ジャスト。どうする? どこかで適当にご飯食べてく?」

「いいわねー。じゃあ食べてから帰るってことで。それにしても、まさかこんな明るいうちから妖魔が出てくるなんてね~」

(よし、いいぞいいぞ! さっさと帰っちまえ!)


 退魔師の娘とそのパートナーらしき妖怪の少女の会話を盗み聞いた妖魔は内心で喝采を上げる。

 二人は限界まで妖力を抑えた自分には気づいていないようであり、そのままこの場から立ち去るようだ。

 喜ぶ妖魔の前で二人の少女がくるりと背を返し、スタジアムから出ようと一歩歩み出し――。


「む? なんか嫌な気配しない?」

「ほよ?」

「――ほら、あっちの森の方から」

(――やっべ!?)


 自身の隠れている茂みの方へ鋭い目を向ける赤髪の退魔師。

 その言葉を受けた妖怪の少女もその目を鋭くし、太ももに巻き付けていた尻尾をしゅるしゅると解き――まるで蛇が鎌首をもたげるかのように、その尻尾の先端についた鋭い刃を、妖魔の隠れる茂みへと向ける。


(くそ、ラスト一匹だ! 頼むから引っかかってくれよ!)


 ぐぐぐ、と妖怪の少女の尻尾に力が籠められるのを確認した妖魔は、大慌てでその口を開き――その中から、一匹の悪霊を解き放った。

 このような状況に遭遇した際の囮にするために、妖魔は悪霊をその腹の中に隠し持っていたのだ。

 解放された悪霊はその勢いのまま茂みから飛び出ると――退魔師の少女たちを見つけ、二人から逃げるように飛んでいく。


「――やっぱりいたわね!」

「さすが明乃だね。危うく見逃すところだったよ――っと!」


 ふよふよと飛んで逃げる悪霊を確認した少女たちが声を上げると同時。

 妖怪の少女の尻尾が勢いよく放たれ――目にも止まらぬ速度で、逃げる悪霊を撃ち抜いた。


(速い! なんて速度だよあの尻尾! しかも威力もやべえ! くっそ、腐っても妖怪って事か……!)


 妖怪の少女の放った尻尾による攻撃は、悪霊を一撃で霧散させるだけに飽き足らず、そのままその背後にあった森の大木を次々と貫いて粉砕していく。

 その尋常ではない速度と威力を目の当たりにした妖魔が内心で驚愕の声を漏らす。


「あ、コラ! ちょっとやりすぎよ!」

「いっけな。威力出しすぎちゃった。てへ、失敗失敗」


 ちろりと舌を出しながら反省の意を示す妖怪の少女。

 そんな少女の頭に、赤髪の退魔師はコツンと軽く拳骨を落とすと戦闘態勢を解いた。


「よし。これで今度こそ、本当の本当にお仕事完了ね」

「気配は……もうないね。うん、ありがと明乃」


 妖魔が囮として放った悪霊を倒したことで、少女たちはこの場の問題はすべて解決したと思ってくれたようだ。

 妖怪の少女も戦闘態勢を解くと伸ばした尻尾を引き戻し、そのままくるくると太ももに巻き付けていく。


「どーいたしまして。じゃあさっさと帰りましょ? 尻尾の件で怒られると困るし~」

「ぐぬぬ……。こんなはずじゃあ……」

「緋乃はもうちょっと尻尾の手加減も練習しないとダメね。理奈に言って、また森を使っていいかを――」


 仲良く会話をしながら、背を向けて去っていく二人の少女。

 遠ざかっていく少女たちのその背を見て、妖魔は安堵のため息を深く吐くのであった。


『ハァー……。あ、あぶねえところだった……! クソッ! この屈辱は忘れねえ……。早く、早くオレ様も強くならねえと……!』

緋乃ちゃん、妖魔に同胞と誤認されるの巻。

魂が変質してるからね。しょうがないね。


気:本人の生命エネルギー。

魔力・霊力:周囲から取り込んだ生命エネルギー。魔力も霊力も呼び名が違うだけで同一のもの。

妖力:妖怪の使う魔力。負の力に染まっており、生物に対して高い効果を発揮。


といった感じでしょうか。ちなみに、悪魔も妖怪も呼び名が違うだけで似たようなものです。

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