11話 事後処理
「――という訳なんだ。君たちの獲物を横取りするような真似をして、申し訳ない。すまなかった」
「いえいえ、頭を上げてください白石さん。元はといえばあたしたちが遅れたのが悪かったんですし、おかげで被害が出ずに済んだんですから!」
緋乃たちは、依頼を受けた自分たちよりも先に妖魔と戦っていた、白い髪の少女――白石奏より事情を聞いていた。
話を聞くところ、別の地域に発生した妖魔退治の依頼を終えた奏は、帰宅するためにたまたまこの菊石市を通りがかったところ偶然にも妖魔の気配を察知。
発生地点は住宅街に近く、このまま放置すれば退魔師の到着よりも先に妖魔が暴れて被害が出ることは免れないと判断した奏は――依頼を受けてはいないのだが独断で討伐を決行。
そうして奏が妖魔を片付けるその直前、緋乃たちが姿を現したというわけだった。
「そう言ってもらえると助かるかな。それと最後の一撃に感謝を。不知火さんの援護が無ければ、手痛い一撃を貰うところだった」
「ん、間に合ってよかった。ふふ、すごいでしょ? わたしの尻尾」
「ああ、凄まじい一撃だったよ」
礼を言う奏に対し、微笑みながらそれを受け止める緋乃。
奏は緋乃の背後でふりふりと左右に揺れる尻尾へと興味深そうに目をやっていたが、ふと気を取り直すと真剣な表情へ戻る。
「依頼の報酬に関しては、すべてそちらのものだから安心して欲しい。最後のしっぽ攻撃で抉れた地面の修繕も、私の方で直しておくから安心してくれ」
「え、いいの? わたし、最後に尻尾撃ち込んだだけで実際にはほとんど白石さんが……」
「ああ、これはあくまで君たちの受けた依頼なわけだしな。私はただの乱入者。むしろ、怒られてもおかしくない立場なわけであって……」
「むぅ……。でも、白石さんも怪我しちゃってるし……」
奏の言葉を聞いた緋乃が、納得のいかない表情を浮かべる。
それを見て奏はくすりと微笑む。
「怪我に関しては私の未熟だ。実際、不知火さんなら無傷で倒せただろう相手だしな……。ああ、それと私のことは気軽に奏と呼んでくれ。年齢は私の方が上かもしれないが――退魔師としての腕前なら、不知火さんの方が遥かに上なのだから」
そこまで口にすると奏は緋乃が何かを口にする前にくるりと背を向け、抉れた地面へと数枚の呪符を投げ込む。
そのまま奏が何言か呪文を呟いで印を結ぶと、抉れた地面がもこもこと盛り上がり――数秒後には、元の状態へと戻るのであった。
「抉れたのがただの地面で助かったよ。落ちこぼれの私には、アスファルトやコンクリートを再現するなんてことは出来ないからな」
「え? ふつ――」
奏の口から洩れた落ちこぼれという言葉に対し、緋乃が反応しかける。
普通に強かったと思うけどなんで? と思わずその理由を問いただしそうになる緋乃であったが――いくらなんでも失礼すぎると、ギリギリのところでなんとか踏み止まる。
「――げふん。あの、奏さん。わたしのことも気軽に緋乃って呼んでもらえれば……」
「わかった。それじゃあ今日はありがとう、緋乃。また縁があれば、その時はよろしく頼むよ。では、私はこれにて」
思わず漏れてしまった声をごまかすため、慌てて呼び名に関する話題を口にした緋乃。
幸いにして奏は緋乃の失言未遂に気付いた様子はなく、そのまま緋乃に対し改めて礼を言うと一礼して去っていった。
「ふう……。礼儀正しい人で良かったね、緋乃ちゃん。鋭い雰囲気の美人さんだったから、遅い! とか怒られると思ってドキドキしちゃったよ~」
「でも話してみれば優しそうだったし、報酬も全部くれたし、緋乃が尻尾で吹っ飛ばした地面も直してくれたし……良い人だったわね~。あとこう、刀でスタイリッシュに戦って格好良かったし!」
「うん、確かにカッコよかった。たなびくコートにきらめく銀閃――ちょっと憧れちゃうね」
奏の姿が見えなくなったことを確認すると、理奈と明乃が笑顔で緋乃へと寄ってきて口を開く。
素手で居合斬りの真似をしながら奏の格好良さを褒める明乃に対し、緋乃も深く頷いて同意を示す。
「さてと……じゃあ、わたしたちも帰ろっか? もうかなり暗くなってきちゃったし」
「うっわ、もうこんな時間じゃない! 早く帰らないとお母さんに怒られる!」
「あはは、じゃあまたダッシュで帰らないとね」
「ふふふっ……」
緋乃の声を聞いた明乃がスマホで時間を確認し、そのまま慌てた声を上げる。
そして、それを見た理奈が笑い声を上げ――緋乃もその声につられて笑い出す。
そうして三人は大急ぎでそれぞれの自宅へと戻るのであった。