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9話 面倒事

「ふふっ。最近はなんだかんだで明乃も理奈も忙しくて時間が合わなかったから、三人でお出かけってのも久々だね!」

「久々って言うほどだっけ? せいぜい二週間しか開いてないじゃない。平日は一緒に遊んでたんだし……」

「二週間も開いてれば久々だよ! それに平日と休日はなんていうか、別腹なんだから。まったくもう……」


 とある土曜日の午前11時。緋乃、理奈、明乃の三人は仲良く駅前へと遊びに来ていた。

 肌寒くなってきたことで秋物を着用している明乃と理奈に対し、緋乃はショート丈のキャミソールにホットパンツと相変わらずの軽装ではあるが――周囲から浮いて見えることを恐れてか、ジャケットを着用するようになっていた。

 もっとも、それでも肩を露出するように軽く着崩しているあたりに、緋乃の見せたがりな癖が出ているのだが。


「ふんふふ〜ん♪ ふんふ~ん♪」

「ふふ、ずいぶんご機嫌だね緋乃ちゃん」

「なんか、厄介な妖魔の退治を手伝ったら報酬がたくさん貰えたらしいわよ?」

「へー、それでなんだ……」


 二週間もの長い間――長いといっても、緋乃にとってだが――共に土日を遊べなかった反動と、またつい先日、六花と共に蜂型妖魔を退治した際に貰えた報酬が予想よりも遥かに多かったことから、機嫌よく鼻歌を歌う緋乃。


「そうそう! 巨大蜂の軍団を退治したらね、すっごくいっぱい報酬が貰えちゃって……! いやー、退魔師っていいね。わたし、WFCで優勝したら退魔師になろっかな~」

「蜂……ああ、なるほどね。飛行型の妖魔に対処できる人は希少だからねー。っていうか飛行型の軍団ってかなり危険度高いやつじゃん! 危ない依頼は受けないって言ってたじゃない!?」

「ふふん。まあ確かに少しだけ厄介だったけど、わたしにはこの尻尾があるからね。隙を見つけて串刺しにして、あっという間におしまいってわけ。終わってみれば楽勝だったよ」


 緋乃は太ももに巻きつけていた尻尾をほどくと、理奈に見せつけるかのようにそれを顔の前まで持ち上げてふりふりと動かす。


「なるほど。対処が難しいから、その分報酬も高いってわけね。ちぇー、あたしもその依頼受けときゃよかったなー」


 元から高額報酬の依頼だったことに加え、本来なら六花と分け合うはずだった報酬を――当の六花が顔合わせの際の非礼の詫びとして受け取らなかったために――丸丸手に入れることのできた緋乃の懐はかなり暖かくなっているのだ。


「ふふっ、明乃と理奈にはいろいろと迷惑かけちゃったし……。お詫びといっては何だけど、今日は二人にプレゼントをしちゃうよ?」

「おお、さすが緋乃ね! よっ、大統領!」

「緋乃ちゃんからのプレゼント……! ええと、どうしよう! いつも着けれるアクセサリー? いやいや、せっかくだしここは――」


 緋乃のプレゼント発言を受け、喜びを露にする明乃と理奈の二人。

 この世で何よりも大事な親友たちに喜んでもらえたことから、緋乃の笑みがより一層深くなるのであった。







「えへへ、ありがとうね緋乃ちゃん。この指輪、宝物にするよ……!」

「いやー、本当にありがとね緋乃。このお財布、前々から気になってたのよね~」

「ふふっ、いいのいいの。二人にはいっつも助けてもらってたんだもん。ちょっとしたお返しだよ。……これからも、ずっと一緒にいてね?」


 夕方の帰り道にて、仲良く並んで歩きながら自宅への道を歩む三人。

 理奈は左手の薬指に嵌めたシルバーリングを眺めながら、明乃は可愛らしい財布を取り出しながら笑顔で緋乃へと礼を言う。

 そして、それを聞いた緋乃は嬉しそうに微笑みながら二人へと言葉を返す。

 三人ともが笑顔であり、楽しげなオーラをその全身から漂わせていた。


「ん……。なんだろ、通知来た」

「あれ、緋乃も来たの? あたし達に同時にってことは……」


 三人が歩いていると、ふとポケットの中に入れているスマホが振動したことに気付く緋乃。

 思わず独り言を呟く緋乃であったが、それを聞いて明乃も自身のスマホに通知が来たことを明かす。


「ああ、やっぱり依頼かぁ。むぅ……。今日はもうそんな気分じゃないし、パスかなー」

「あたしも面倒だしパスしよ――ってこれ菊石市じゃない。結構近いわね……」

「あ、ホントだ、お隣さんか……。うっわー厄介……」


 緋乃がスマホを取り出して通知内容を確認すれば、そこには明乃の予想通り妖魔発生予兆のお知らせと討伐を依頼するメールが来たことを知らせる文字が。

 面倒臭そうな声を出し、依頼を拒否するメールを返信しようとする緋乃であったが――自身と同様にスマホを確認していた明乃の声を聞くと改めてメールの内容をしっかりと確認し、心の底から嫌そうな声を出す。


「へー、どれどれ……。あちゃー、割とランク高いじゃんこれ……」


 緋乃が依頼を受けるべきか無視すべきか迷っていると、横からひょっこりと理奈の顔が現れて緋乃のスマホを横から覗き込む。

 そうして理奈は妖魔の情報に目を通すと困ったような声を上げ――それを聞いた緋乃は理奈に対し質問を飛ばす。


「コレって地味に強い系? ほっといたら不味かったりするの?」

「中の上……。いや、上の下って所かな……? まあ所詮は妖魔だしそこまでヤバいって訳じゃ無いけど……ほっといたら死人が出るし、退治にもそれなりのレベルが要求される相手だねぇ」

「ふーん。じゃあ、面倒だけど受けておこっか……。わたしなら走ればすぐだしね」


 理奈の言葉を聞いた緋乃は、ため息を吐きながらスマホを弄り、依頼を受諾する旨を示した返信を送る。


「せっかくだしあたしも付き合うわよ、緋乃」

「じゃあ、私もついてこっかなー。一人だけ先に帰るってのもアレだしね~」


 嫌々依頼を受ける緋乃を見て不憫にでも思ったのか、それとも妖魔のレベルが意外と高いということを知って持ち前の正義感を発揮したのか。明乃と理奈も緋乃へ同行する意思を示す。


「明乃……理奈……。ふふっ、ありがと。じゃあ、行こうか?」

「ええ!」

「うん!」


 それを聞いた緋乃は頬を緩ませるとその身体に気を纏い――明乃と理奈と共に、妖魔の発生が予想される菊石市へ向けて一気に駆け出すのであった。

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