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5話 水城家の妖魔事情

「妖魔退治のアルバイトぉ!? ちょ、二人とも何勝手に危ないことやってんの!」


 大神家への挨拶回りを終えた翌日の学校、その昼休み。封鎖されて誰もいないはずの屋上に理奈の声が木霊する。

 周囲に誰もいない場所で落ち着いて内緒話が出来るという屋上の環境に味を占めた緋乃たちは昼休みになるとちょくちょく屋上へ侵入しており――今日もまた侵入していたのだ。


「いや、あたしは止めたわよ? でも緋乃が……」


 明乃から緋乃と共に、妖魔退治のアルバイトを始めたことを聞いた理奈は明乃に対し、何故止めなかったのかと非難の眼差しを送り――それに対し、困ったような声と表情で言い訳をする明乃。

 それを見て、即座に緋乃の我儘が発動したのだということを悟った理奈は、頭を抱えながら愚痴を漏らすのであった。


「あーもう、ちょっと目を離すとすぐ悪い大人に寄り付かれて……! お金に困ってるなら私が工面してあげるし、何なら雇ってあげるのに……!」

「いや、お小遣い目当てってのもあるけど、それより鍛錬目当ての割合が大きいよ? 妖魔だったら殺しても問題ないんだし、人間には出来ない技を試したりとかいい鍛錬になりそうじゃない? ふふっ、わたしってば冴えてるね」


 理奈の思わず零したのであろう呟きに対し、得意気な顔を浮かべながらアルバイトを受けた理由を説明する緋乃。

 そんな緋乃を見て、理奈は大きなため息を吐く。


「そんな適当な理由で危ない橋を渡らなくても……」

「まあ、安心しなさいよ理奈。あくまであたしたちがやるのは雑魚散らしのお手伝い。強い妖魔はプロが対処するってことになってんだし、そもそも気が乗らなかったりしたら別に依頼受けなくてもいいんだから!」

「わたしたちは学生で、将来有望だからかなり甘くしてくれてるんだって。なんかゲームでよくある、冒険者ギルドの討伐クエストみたいだよね」

「まあ、もう受けちゃったのなら仕方ないけどさ……。でも、本当に気をつけてよ?」


 明乃と緋乃の二人がかりの説明を受け、渋々といった様子で納得を示す理奈。

 なんとか理奈の説得に成功した緋乃と明乃は、ほっと一息を吐くのであった。




「そう言えば、妖魔ってどこにでも湧くらしいけど……ここら辺の妖魔退治ってどうなってんの? もしかして理奈がやってたり?」


 話題がそれから始まったからということもあり、その後も妖魔やその最終進化形態ともいえる妖怪についての話をする三人であったが、ふと緋乃が自身の住む町の妖魔退治の状況についての疑問を口にした。


「ううん、そんなことしないよ? ここら辺はそもそも妖魔が発生しないからね。……まあ、たまーによそから紛れ込んでくることがあるから、その時は近くにいる魔法関係者が出張るって形を取ってるけど」

「妖魔が発生しない……? あれ、でも妖魔って自然災害みたいなもんで勝手に湧いてくるって……」


 明乃や緋乃が野中から聞いた話では、妖魔とは人々から湧き出る負の思念と大気に満ちる陰の気が混ざり合った結果自然発生する悪霊が進化し、実態を得た存在であり――人が住んでいる場所ならどこにでも発生する可能性があるとのことだった。

 しかし、理奈が言うには自分たちの住むこのあたりでは妖魔が発生しないらしい。

 教えられたことと食い違う、それを聞いた緋乃が疑問の声を上げると、理奈が笑いながらそのカラクリについて教えてくれた。


「ふふん、普通はそうなんだけどね。私たちは優秀ですので、このあたり一帯にちょっとした仕掛けをして、いわゆる陰の気が溜まらないようにしてあるんだよね。だから悪霊が発生しないってわけ。そして、悪霊が発生しないってことはその進化形態である妖魔も当然出てこない」

「ふーん。なら、他のところもそれ真似すればいいのに……」


 理奈の説明を受けた緋乃が、思わずといった様子でその感想を漏らす。

 しかし、その緋乃の感想に対し理奈は難しそうな顔をしながら首を横に振った。


「いやー、それは難しいと思うよ? うちの場合はポストや電柱やらに色々と細工をして、市の全域を巨大な魔法陣に見立ててこれをやってる訳だけど……これまた維持管理が面倒なんだよねえ。ぶっちゃけちゃうと、悪霊が発生してから人を派遣した方が安上がりだから、そろそろやめないかって話が上がってるくらいで……」

「下手にシステムやらを構築して原因を無くすより、人間使って対処した方が安上がりって事ね。なんか、世知辛いわねぇ……」

「ホントにね……」


 理奈の話を聞いた明乃が、やるせない表情を浮かべながら肩を落とす。

 それを見て、三人の間にしんみりとした空気が流れるのであった。







「お、メールだ。もしかして……」


 その日の夜。食事と風呂を終え、寝巻に着替えた緋乃がベッドに腰掛けながらスマホを弄っていると、ちょうど一件のメールを受信した。

 僅かばかりの期待を胸に、緋乃はメールのアプリを起動。するとそこには、送信者として特殊事象対策課の文字が記されていた。


「おお、もう来たんだ……。ふふっ、いいね。わくわくしてきちゃった……」


 緋乃が微笑みながらそのメールを開くと、そこには妖魔退治についての実地訓練を行うので次の土曜日は開けておいて欲しいという旨が書かれていた。

 それを見た緋乃は笑みを深くすると、すぐさま了解の返信を送り、ベッドにごろんと横になる。


(たしか目安としては、格闘家に置き換えるとアマチュア以上プロ以下くらいだっけ? まあ大した相手じゃないけど……遠慮なくこの尻尾や蹴りを叩き込めるってのはワクワクするね)


 顔の前へと持ってきた尻尾を優しく撫でながら、緋乃は土曜日の実地訓練について思いを馳せるのであった。

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