3話 怒れる少女
「は、はあぁぁぁ!? いきなり現れて何言ってんのよアンタ! 初対面でしょうが!? 緋乃もなんか言って――って魂抜けてる!」
「ほあぁ……」
突如行われた総一郎から緋乃へのプロポーズ。
それを目の当たりにした明乃はの中から事前に受けていた注意を完全に忘れ――総一郎に対し大声を上げていた。
「あ、コラ明乃君、声のボリューム――」
「うっさい! 野中さんは関係ないでしょうが! 黙ってて!」
「ガハハハハ! 元気が良くていいじゃないか」
次期当主とも呼ばれる男に対する、暴言とも取られかねない明乃のその発言。
それを聞いた野中は大慌てで明乃を咎める声を出すのだが、怒り心頭といった様子の明乃により大きい声で怒鳴り返されてその身を竦める。
なぜ怒鳴られたのかがわからないと困惑する総一郎に、突然の求婚に呆ける緋乃。あたふたと慌てる野中に、怒る明乃。
一瞬で混沌の渦に巻き込まれた応接室。それを見て、この騒動の仕掛け人の一人――大神一心は爆笑するのであった。
◇
その後、落ち着きを取り戻した明乃は野中と一心へ詰め寄り、今回の顔合わせの真の目的が総一郎と緋乃を合わせる事だったということを知った。
そうして再び椅子に座り、テーブルを挟んで向かい合う五人。
「へー、つまりアレね? この顔合わせって緋乃に一目惚れしたこのお兄さんの要望でセッティングされたと? んで実際に会ったら思いを抑えきれずに告白通り越して求婚まで行っちゃったと?」
「あ、明乃君……。もうちょっと丁寧な言葉を……」
総一郎をじろりと睨みながら、不機嫌さ全開で声を上げる明乃を野中が咎めるのだが――当然のごとく明乃はそれを無視していた。
ちなみに緋乃はまだ情報の整理がついていないのか、呆けた様子で総一郎の顔を眺めている。
「まあ、そういうことになるな。コイツは女嫌いで割と有名だったんだが、緋乃君にだけはやけに興味を示すから話を聞いてみりゃあ――いきなり惚れたとか言い出してきおってな。面白いから一回会わせてやろうかと思ってな」
「別に、女が嫌いというわけではない。こちらの顔色をひたすら伺い、媚びへつらうことしかしてこない弱者が好かんというだけの話だ」
「いやー、我が家の立場とお前の能力でそりゃ厳しいだろ。普通は委縮するわ」
総一郎の言葉に困ったような声を出す一心。
日本に住まう退魔の一族の中でも最高峰の勢力を誇る大神家。
その次期当主であり、本人もまた百年に一人の天才と称えられる総一郎へ対等の態度を取れる相手などいるわけがないと一心は口にするのだが、ちょうどそこで復帰した緋乃がその総一郎の言葉へと反応した。
「じゃあ敬語とかそういうのやんなくていいの? やった、わたしアレよくわかんないから苦手なんだよね」
「ああ、構わん。その自然体が心地良い。ますます惚れてしまうな」
「えへへ、また一人わたしの虜にしてしまった。うーん、わたしってば罪な女……!」
総一郎からのお墨付きを得た緋乃が早速調子に乗るが、今回は相手側がそれを望んでいるということもあり咎めるものは誰もいなかった。
そうして調子に乗っていた緋乃であったが、すぐにそのご機嫌な表情を引っ込めて困ったような表情を浮かべる。
「えと、それで告白の返事なんだけど……」
「別に無理して今すぐ結論を出さなくても構わないぞ? 我ながら、あれは少し急ぎすぎたと反省している。柄にもなく緊張していたようだ……」
「少し……?」
総一郎の呟きに対し、訝し気な声を挟む明乃。
しかしこれ以上話がこじれることを恐れてか、明乃のその突っ込みに反応するものは誰もいなかった。
「ああ、よかった。正直なところ……わたし、恋愛とかよくわからなくて……。一緒にいて楽しいってのはわかるし実感できるけど、愛かって言われるとまあ違うよねって感じで……」
「まあ、緋乃君はまだまだ若いですしね。そういうことはおいおい知っていけばよろしいかと……。それではまあ、顔合わせも終わったということで今日はこのあたりで……」
「うむ、こちらの我儘に付き合わせてすまなかったな野中君。緋乃君も、できれば色よい返事を期待したいものだが――無理は言わん。嫌なら嫌とフッてやってくれ。さぁて、ではお開きと――」
「――待ちなさい!」
野中が持ちかけた会合の終了に一心が乗りかけたその時。
勢いよく部屋の扉を開け、一人の少女が乗り込んできた。
年頃は高校生ぐらいだろうか。黒を基調とした制服を身に纏い、長い黒髪を背中へとそのまま流した、赤い瞳の気が強そうな少女だ。
「おお、六花か。大声なんて上げて一体どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもありません! 話は聞かせて貰いましたが、何ですか一体! まあ確かに顔の出来はよろしいですが――こんなどこの馬の骨とも知れぬ、混ざりものの小娘を相手に求婚など!」
「まざりもの?」
その少女、六花は怒りを露にした様子で緋乃を指差す。
一方、指差された側の緋乃は不満げに眉を顰め、不機嫌そうな声を出すのであった。
BLタグがついてないということはまあ、アレです。