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閑話 能力検証

「よーし、じゃあ手始めに精神操作耐性の検証からいこっか。ゲルセミウムの魔力を吸い取った事で、多少の耐性はついてると思うんだけど……」

「うん、お願い理奈。頑張って耐えてみせるよ」

「ま、流石に多少の耐性ぐらいはついてるでしょ。なにせ伝説の悪魔のパワーを受け継いだんだからね」


 ある日の放課後、理奈の家に遊びに来た緋乃と明乃。

 いつものようにTVゲームに興じる三人であったが、ふとしたことからゲルセミウムの力を取り込んでパワーアップした緋乃の性能スペックの細かい検証をしようという話になり――手始めに、かつてはゼロにも等しかった精神操作に対する耐性からスタートすることになった。


「よーし緋乃ちゃんいくよー。私の目をよーく見てね……」

「ん……」

「幻惑の光よ、我が(まなこ)に宿りて我に仇なすものを欺き惑わせ――夢幻の瞳!」


 一分一秒を争う戦闘中ならともかく、これから行うのはただの検証だ。

 特に発動を急ぐ状況でもないのでそれなりに値の張る品であるカードは使わず、普通に呪文の詠唱を終えた理奈の瞳が薄いピンク色の光を宿す。


「ふにゅう……はっ!? むん!」


 それを真正面から見た緋乃の瞳がとろんと緩み、その精神が理奈の支配下に置かれる――その直前。緋乃は何とか我を取り戻すことができ、そのまま気合を入れて理奈の精神操作を防ぐことに成功した。


「おおー、耐えた耐えた。結構ギリギリだったけど耐えれたねー」

「やるじゃん緋乃。前は一瞬で理奈の言いなりになってたのに」

「あぶなかった……。こう、寝落ちする直前みたいな感じになって……そのまま持ってかれるところだった……」


 かつての緋乃では一瞬たりとも耐えることが出来なかった理奈の精神操作。

 今回、ギリギリではあるがなんとかそれを防ぐことに成功した緋乃に対し、理奈と明乃の二人は賞賛の拍手を送るのであった。


「うーん。耐性ゼロの状態から、一般人よりちょいマシくらいには上がったかな? まだまだ低いけど、これくらいの耐性があればアミュレットと組み合わせることで大体の精神干渉は弾けるようになると思うよ?」

「うーん。思ったより耐性低くて悲しむべきか、耐性獲得に喜ぶべきか迷うレベルだね……」

「素直に喜んどきなさいよ。かなりの進歩じゃない!」


 理奈からの自身の耐性に関する評価を聞いた緋乃は、喜びと不満の入り混じったような何とも言えない表情をする。

 しかし、そんな緋乃の背をバンバンと叩きながら嬉しそうに笑う明乃を見て気を取り直したのだろう。

 緋乃は明乃に向かい、ニッコリと笑顔を浮かべると――その尻尾を明乃の眼前に突き出しながら口を開いた。


「明乃、ちょっと痛いんだけど?」

「あはは、ごめんごめーん。で、次は何調べるの? さっき言ってた自動回復を調べるにしても、まさか緋乃に怪我させるわけにもいかないでしょ? やっぱその両手?」


 明乃は緋乃に対して笑いながら謝罪をすると、そのまま次は何の検証をするのかを尋ねた。

 その質問を受けた緋乃はしばらく迷った後――。


「いや、今なら回復魔法を使える理奈がいるし、それについて調べたいかな。どの程度の怪我ならどのくらいの時間で再生完了するのかを調べるのは重要。とても重要」

「え、マジでやるの緋乃ちゃん? いやまあ確かに重要な検証項目だけど、わざわざ自分の体を傷つけるってのはやめといた方が……。ほら、血とかが飛び散って大変だし、また今度にしようよ今度!」


 緋乃の身に宿った新たな力。多少の怪我なら周囲の大気に満ちる気を吸収して勝手に治るという、いわゆる自動回復能力リジェネ

 その性能を詳しく検証したいと提案する緋乃であったが、明乃と理奈は目の前で緋乃の傷つく姿なんかを見たくないとそれを激しく拒否。

 当然、緋乃はあの手この手で二人を説得しようとするのだが――語彙の少ない緋乃では二人を説得することなどできる訳もなく。結果、自動回復能力についての検証はまた後日ということで後回しにされるのであった。


「はい、じゃあ次は両手の硬質化だね。今の緋乃ちゃんの両手は、元々あったけど欠損した器官を半精神体で補って――それが定着して実体を得たっていう、割と複雑な状態なんだよね」

「だから、尻尾みたいに出し入れしたり伸ばしたりと大きく形状を変化させることは出来ない。でも簡単な変化くらいならできる……って事よね?」

「うん。あとやったことはないけど、再生もできる気がする。たぶん」


 理奈から現在の緋乃の両手に関する説明を受けた明乃が、緋乃に向かいできることとできないことの再確認を行う。

 明乃からの確認を受けた緋乃は、自信なさげにではあるがそれを肯定。そうして、緋乃の次なる能力の検証が始まった。


「よし、じゃあ緋乃ちゃん両手を硬くして~?」

「ん、待ってて……。……むんっ!」

「おお、色が変わった……! まるで手袋でもしてるみたいね」


 理奈に促されるまま緋乃がその両手に硬くなれという念を送る。

 すると、緋乃の手首から先が真っ黒に染まり――思わずといった様子で明乃がその感想を口にした。


「うん、できた」

「どれどれ。うーん、カチカチ。これなら刃物も怖くないわね」

「ふんふん……。うん、これは金属くらいの強度はありそうだね。これにさらに気を乗せられるってことを考えると……うん、まさに凶器! ……緋乃ちゃん、間違っても一般人をこれで殴っちゃだめだからね?」

「わ、わかってるって。大丈夫大丈夫」


 硬質化した緋乃の手をつついたり指で弾いたりしてその硬度を確認する明乃と理奈。

 興味半分の明乃とは違い真面目な表情でその硬度を検証していた理奈であったが、一通り確認して満足したのだろう。そのまま笑顔で緋乃へと注意を送るのであった。





「いやー、それにしてもなんか一気に強くなっちゃったわね緋乃。なんか置いてかれちゃった感じがして悔しいなー」

『だよねー。うーん、ちょっと私も鍛え直そうかな……。ねえ明乃ちゃん、ちょっと一緒に特訓しない? 緋乃ちゃんに置いて行かれないようにさ』


 その日の夜。夕食を終えた明乃は自室にてスマホを用い、理奈とお喋りに興じていた。

 とりとめのない話をしているうちに話題が緋乃のことへと移り――気が付けば、理奈から特訓のお誘いが持ちかけられていた。


「あ、それいいわねー。ならちょっと魔法について教えてよ」

『うーん、別にそれはいいけど……。でも明乃ちゃんには念動力っていう武器があるんだからそっちを磨いた方がいいと思うな。ぶっちゃけ明乃ちゃんのギフトって下手な魔法より強いよ?』

「そっか……。まあ、理奈が言うのなら……。うん、じゃあ下手に手を広げるのはやめておくわ」

『うんうん、その方がいいよ。じゃあとりあえず今週の土曜あたりに一緒に特訓しよっか? ……緋乃ちゃんには内緒でね!』

「おっけーい。緋乃にはなんか適当に用事でっちあげとくわ。じゃあそろそろ切るわね? おやすみなさーい」

『はいはーい。おやすみ~』


 通話を終えた明乃は充電器へとスマホをセットすると、勢いよくベッドの上に飛び乗りそのまま仰向けに寝転がる。

 そうしてそのまま、天井に向かい手を伸ばし――。


「待ってなさいよ、緋乃。すぐにあんたの横に追いついてみせるんだから……!」


 決意の言葉を口にするのであった。

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