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45話 裏切り

「させない……」

「ふむ?」

「そんなことはさせない。わたしたちが絶対にさせない。わたしは魔法や儀式には詳しくないけど……今ここでお前たちを倒せば、それで解決するんでしょ?」


 緋乃が一歩前に出て、鷹野とその横に立つ鶴野を睨みつける。

 そして、啖呵を切る緋乃の姿を見て勇気づけられたのであろう。理奈と明乃の二人もそれに続いた。


「……そうだよ、緋乃ちゃんの言う通り! 裏にどんな大物が控えていようと、出させなければ何の問題もない!」

「そっちの仮面男はともかく、しょぼくれた爺さん一人くらい、あたしたちで何とかして見せるわ!」

「ほう……血気盛んなお嬢さん方だ。鷹野様、いかがいたしましょう? 私がまず――」

「よい、鶴野。下がっておれ……。犬飼や蛇沢程度を倒したくらいで調子に乗られても困るしの。儂が直々に相手をしてやろうじゃないか……」


 話が終わったということで、改めて構えを取る緋乃たち三人。

 それを見て、鷹野の横に控えていた鶴野が一歩前に出ようとするが――鷹野は腕を伸ばしてそれを制止。自ら相手することを告げた。


「へぇ、爺さん闘えるの? 大人しくその護衛の人に任せといた方がいいんじゃない? 腰とかやっっちゃっても知らないわよ?」

「ぬかせ、この小娘が。年季と格の違いというものをたっぷりと教えてやるわい……」

「言ってくれるねこの爺さん。……私たちは負けない! 勝ってこの世界を――みんなを守るっ!」


 ニヤリと笑いながら明乃の軽口を受け流す鷹野。それを受けて今度は理奈が啖呵を切る。

 その場にいる全員の間に、戦闘前特有の緊張感が走り――。


「よかろう。では見せてやろう……あのお方より賜りし最強の魔獣を! 人間では決して抗えぬ、究極の暴力というものを! 来たれ、我が僕たる大空の主よ! この小娘どもにその力――ぐふっ!?」


 鷹野がその右腕を大きく掲げ、自身の従える最強の魔物を呼び出そうとしたその瞬間。

 全員の注意が鷹野へと向かったその瞬間に、鶴野が動いた。

 戦闘に巻き込まれないよう下がるふりをして鷹野の背後へと回った鶴野が、隠し持っていた短刀でその背を突いたのだ。


「この瞬間を……待っていた!」

「ぐうぅ!? 鶴野、貴様――!?」

「えっ!?」


 目の前で突然始まった仲間割れ。それを目撃した緋乃たち三人から驚きの声が漏れた。

 敵のボスの取り巻き兼護衛役と思っていた男が、突如自分の主を刺したのだ。驚くのも当然であろう。

 急変する事態を前に、目を丸くする三人。そんな三人を無視して事態は進んでいく。


「確かにアンタは凄腕だが、それでも大物を呼び出す際中は完全な無防備になるからな……!」

「鶴野、貴様……貴様ァ――」

「流石に空飛ぶ魔物なんて呼ばれちゃ俺たちやそこのお嬢さん方の手には余っちまう! ……世界をどうこうなんてさせるかよ、アンタはここで終わ――何っ!?」

「――なぁんちゃって」


 鶴野が鷹野に対しとどめを刺さんとしたその瞬間。

 鷹野はそれまで見せていた怒りを急にひっこめたかと思いきや、まるで悪戯が成功したかのような茶目っ気に満ちた声を出す。

 そうしてそのまま気合の声を上げると、鷹野の肉体が急激に膨れ上がり――。


「ぐっ、これは……!? ――ぐあっ!?」

「フン、貴様の正体に気付いてないとでも思ったか! 貴様の正体など最初からお見通しよ、この機構の犬めが! こんなオモチャでワシに傷をつけられると思うたか!」

「い、一体何が起こってるの……!?」


 上半身が裸の、筋骨隆々とした大男へと変貌した鷹野が背後にいた鶴野を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた鶴野は勢いよく吹き飛び、何度も地面をバウンドした後にその動きを止めた。

 そうしてそのまま、気を失いでもしたのか動かなくなった鶴野へと侮蔑の言葉を吐き捨てる鷹野。

 その一連の流れを見ていた理奈が、三人を代表するかのように困惑の声を上げた。


「ふぅ、いつ裏切るのかと思ってワクワクしてたが……こんなありふれたタイミングとはな。つまらん男じゃ。さあて、見苦しいところを見せて悪かったの。改めて続きと――」


 パンパンと手を払った鷹野が、改めてその腕を天に掲げた。

 鋭く細められたその目は緋乃たち三人をしっかりと捉えており、異能や魔法による不意打ちに対して最大限の警戒を払っている様子が見て取れる。

 そうして鷹野の右腕に魔力が集中したその瞬間。鷹野のその肉体を鈍色の鎖が縛り上げた。


「それだけは呼び出させん!」

「――ええい!? またか! ふざけるなぁ! こんな鎖など……!」

「お、お父さん!?」


 不意打ちのタイミングを窺っていたのであろう。魔法で鎖を生み出し、鷹野を縛り上げると同時に瓦礫の影に隠れていた樹が未だ発動中のカードを掲げながら姿を現した。


「今だ、理奈! やれぇー!」

「ぐぬぬぬぬっ!? やられてたまるものかぁ……! うおおおぉぉ――!」

「きゃああ!?」

「これは――攻撃じゃない、目くらまし!?」


 樹は娘の理奈に鷹野への攻撃を指示。理奈は突然の出来事に驚きつつも、それに答えようとする。

 しかし、理奈がポケットからカードを取り出すのとほぼ同時。自身の窮地を悟った鷹野が無詠唱魔法を放ち、自身の目の前の地面を爆発させた。

 爆発で土埃を巻き上げ、目くらましの煙幕とすると同時に自分を吹き飛ばすことで離脱する逃げの一手。


「ぐうぅ……! おのれ水城……! じゃが、これで奴らの手札はもうないはず……。今度こそ――」


 拘束状態で一斉攻撃されるという窮地を見事に脱出した鷹野は、己の巻き上げた土煙に紛れながら今度こそ己の切り札の召喚を行おうとその右腕を掲げる。

 そうして鷹野の右腕に魔力が集中し、ぼんやりと薄い光が宿ったその瞬間。


「――がっ!?」

「おっとぉ、油断大敵だぜ爺さん?」

「貴様、犬飼!? 何故お前が――!?」


 度重なる不測の事態に苛立ち、更に緋乃たちからの追撃を恐れて慌てていたがために周囲への警戒を怠っていた鷹野。

 その背後へといつの間にか忍び寄っていた男――樹との戦いの後に逃げたとされていた犬飼が、その胸に貫手を叩き込んだのだ。

 胸を貫かれ、口の端から血を漏らしながら困惑の叫びを上げる鷹野。


「見つけた! あそこ――え?」

「ま、また仲間割れ……?」

「一体どうなってんのよ……」


 鷹野の叫びを聞きつけた緋乃たち三人がそちらへと目を向ければ、視界に映るのは敵の親玉である鷹野がその配下である犬飼に胸を貫かれている姿。

 先ほどから続く予想外の連続に、思わず困惑の声を漏らしてしまう緋乃たち。


「何故かって? へっ、いいぜ爺さん。教えてやるよ……。俺はな――ゲルセミウムとか言う野郎を復活させんのには反対だからだよ」

「馬鹿なッ――何故!? 貴様、永遠の命が欲しくないのか!? 絶大な力が欲しくないのか!? 世界の支配者として君臨したくはないのか!?」


 犬飼の返事を聞いた鷹野が、思わずといった様子で疑問の叫びを口にする。

 鷹野のその叫びを聞いた犬飼は、その顔を呆れに歪めながら何故反対なのか、その理由を口にした。


「いやあ、俺だってそれは欲しいさ。世界の頂点にだって立ちてぇ。でもよぉ……俺が支配してえのは、俺が君臨してえのは……『この世界』なんだよ」

「なっ……なんじゃと……?」

「俺は、生まれ育ったこの世界で全てを跪かせてえ。いけ好かない世界中の権力者をボコボコにして、全ての富を手に入れてえ。世界中の芸術品を俺のものにして、俺専用の博物館を作りてえ。この地球という星の歴史を全部手に入れてえ。……だからよ、異世界なんて貰っても嬉しくねえんだよな」

「うわぁ……強欲……」

「でもわかる。わたしもよくわかんない異世界なんかよりも、この星の支配者になりたいもん」

「まあ、確かにそう考えればわからなくも……?」


 大げさに手を振り回しながら、自分の野望について語る犬飼。

 その演説を聞いた緋乃たちが三者三様の反応を見せる中、鷹野の顔は怒りからか徐々に赤く染まっていく。


「貴様……そんな下らぬ理由で水城と組んで……このワシを……」

「俺、こう見えて郷土愛とか強いんだぜ? 流石に故郷が消えて無くなっちまうってのはなぁ〜。それに、樹先生がこっち側につけばそれなりにいい地位は保証してくれるって言うし? ちゃんと魔法遺物アーティファクト使って契約結んでくれるし、なんか色々と根回ししてお偉いさんの紹介状くれるし? こりゃもうこっち側につくしかねえだろって。へへへ、色々と世話にはなったが悪いな爺さん」

「うわぁ……お父さん……」

「うん、みんなを守るためにパパ頑張ったよ。褒めてもいいんだよ?」


 自らの与り知らぬところで暗躍していた父親へとドン引きの視線を向ける理奈。

 その視線の意味に気付いているのか、あえて気付かぬふりをしているのか。どちらかは不明だが、樹は誇らしげな笑みを浮かべつつ胸を張ってそれに答えていた。


「お、おの……! おのれえええぇぇぇぇぇ!!」


 出血多量でもはや立つこともままならなくなったのだろう。鷹野が膝をつき、ゆっくりと倒れていく。

 しかし、それでも土壇場で裏切ってくれた犬飼と、それを教唆した水城への怒りの方が痛みや朦朧感を上回ったのであろう。

 怒り狂う鷹野の叫びが、荒れ果てたスタジアムに木霊した。

100時間後に死ぬほど怒られるパパ

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