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43話 新必殺技

「よし、これでケルベロスは撃破! あとは明乃ちゃんの援護に――え?」


 時間は少し戻り、緋乃がケルベロスへと気の爆撃を叩き込んだその直後。

 緋乃の必殺技がケルベロスに炸裂したのを見て、勝利を確信したかのような笑みを浮かべながら煙が晴れるのを待機する理奈。

 しかし煙が少しずつ晴れていくのにつれ、理奈の顔から笑顔が消え、まるで信じられないものを見たかのような驚愕の表情へと変わっていく。


「――う、嘘。なんで……」

「うん?――お、オイオイ!? マジかよ……!?」


 呆然とした様子で呟かれる理奈の声を聞きとめたのだろう。

 犬飼と激しい格闘戦を繰り広げる虎太郎が、打ち合いの隙をついて爆発の発生源へと目をやり――理奈と同様に驚愕の声を上げた。

 そう。煙が晴れたとき、そこに立っているのは緋乃ではなく――。


「う……ぁ……」

「ひ、緋乃ちゃん!? 緋乃ちゃんしっかり!」

「無傷だと……!?」


 血を流しながらケルベロスの大きな口に咥えられ、その右腕が曲がってはいけない方向へと曲がってしまっている緋乃の姿と。全身が煤けてはいるものの、特にこれといったダメージの無いケルベロスの姿だった。


「おっとぉ! 隙ありだぜ!」

「しまっ――がああああっ!?」

「虎太郎さん!?」


 予想外の光景を見て、思わず固まってしまったのだろう。

 格闘戦の際中だというのに、その動きを止めて大きな隙を晒してしまった虎太郎。そして、その隙を見逃してくれるほど犬飼は甘い敵ではなかった。

 虎太郎の顔面へと拳を叩き込むと、そのまま腹に膝蹴りを加える。更に、胃液を吐き出しながら苦しむ虎太郎へと追撃の上段回し蹴りを叩き込み――。

 まるで交通事故にでもあったかのように、虎太郎は吹き飛ばされた。


「へっ、何を驚いていやがる水城のガキが。てめえ人の話聞いてなかったな? 俺言ったよな? アイツは魔法に対して高い耐性を持つって……」

「……ッ! そうだ、魔力も気も似たようなものだから――」

「そういうこった。あの嬢ちゃんの必殺技――気を用いた爆破技はアイツにゃあ効かねえ。残念だったなぁ!」


 ケルベロスが大してダメージを受けていなかった理由を得意げに明かされ、悔しそうに唇を噛む理奈。

 そんな理奈に対し、圧倒的優位な状況に立った犬飼はゆっくりと歩み寄り――。


「……さて、じゃあお別れの時間だ。まあ安心していいぜ? お前が懸想してるあのガキも、儀式の贄に使われてすぐそっちに行くことになっからよ……」

「ぐっ……! そんな事……!」


 近寄ってくる犬飼の姿に怯えた様子を見せながらも、気丈にそれを睨みつける理奈。

 この状況をひっくり返さんとポケットからカードを取り出そうとする理奈であったが、しかし理奈がカードを取り出すよりも早く犬飼がその距離を詰め――。


「じゃあな……! ――おごぁ!?」

「えっ――!?」


 理奈を殴り倒さんとその腕を振り上げた瞬間。突如として現れた人影が犬飼を吹き飛ばした。


「無事か、理奈!」

「お、お父さん!?」

「テメェ……水城樹!? クソ、邪魔すんじゃねえ!」

「ぐっ……! それはこちらの台詞だ!」


 その人影――自身の父である樹を見て、驚きの声を上げる理奈。

 突然現れた樹に妨害されたことで怒りを露にした犬飼がその顔を殴りつけるが、樹はそれに耐えるとお返しとばかりに殴り返す。


「チィ……! この野郎……!」

「こう見えても鍛えている方でね……! 魔法はともかく、殴り合いなら負けはせん! ――理奈、今のうちに!」

「――うん! 癒しの光よっ!」


 樹に促され、我に返った理奈が緋乃へと指輪を経由して治癒魔法をかける。

 緋乃の身体が優しい緑色の光に包まれたかと思うと、その身を苛む怪我を消し去り――。


「!? 離せ、このぉ!」

『――――!?』


 意識を取り戻した緋乃がケルベロスの目へと貫き手を放ち、眼球という弱点を突かれたケルベロスが悲鳴を上げる。

 緋乃は自身へと噛みつく力が弱まったその隙をついてケルベロスの口から脱出し――理奈の横へと飛びずさり並び立つ。


「クソが! ――ぐっ!?」


 その一連の流れを見ていることしか出来なかった犬飼が悪態をつくが、その直後に樹の蹴りが叩き込まれて大きく吹き飛ばされた。


「ヤツは任せろ! 君たちはあの魔物を頼む!」

「任せて! お父さんこそ負けないで!」

「任された……!」


 緋乃と理奈に声をかけた樹は、二人の返事を聞くと満足気に頷き、吹き飛んで行った犬飼を追いかけるかのように跳躍。

 そのまま緋乃たちより少しばかり離れた地点にて、犬飼と格闘戦を行い始めた。


「緋乃ちゃん動かないで。もう二枚くらい使って怪我全部直すから」

「ありがとう、助かる」


 唸り声を上げつつこちらを睨んだまま動かないケルベロスを見て、治療のチャンスだと言わんばかりに理奈は先ほど使った治癒魔法の込められたカードを取り出す。

 そうして全ての怪我を癒して貰った緋乃が、ケルベロスへと挑発的な笑みを向けつつ理奈へと礼を言う。


「緋乃ちゃん。あいつは気の通りが悪いから、打撃技でなんとかして欲しいんだけど……」

「ん、痛い目見たばかりだからわかってる。でも困った、流石にあの巨体を殴り殺すのはちょっと手間。なんか回復速度やけに速いし……」

「うん……。多分、空気中の魔力を吸って自己再生してるんだと思う。一気に仕留めないとジリ貧だね……。でも私の魔法も通りが悪いし、どうしたものか……」


 既に何度も緋乃が蹴りを叩き込んでいるというのに、ケルベロスは倒れるどころか動きが鈍る様子すら見せない。

 それを見て、理奈がそのカラクリに――即ち、再生能力リジェネ持ちだと――目星を付け、一息で倒すことを提案する。


 しかし、蛇のような柔らかい生物ならともかく、全身が毛皮と筋肉で保護されたケルベロスを短時間で始末するのはかなりの手間だ。

 これといった有効手段が思いつかず、困ったような顔を向け合う緋乃と理奈。

 そしてその瞬間。緋乃の目線が自分から外れたのをチャンスとでも思ったのか、ケルベロスが一気に二人目掛けて駆け出し――。


「はい残念。――そらっ!」

『GYANN!?』


 緋乃へと飛び掛かろうとしたその直前。緋乃の重力操作により、重力を反転させられたことで大きく体勢を崩したケルベロス。そして、緋乃はその横っ腹へと強烈な飛び蹴りを叩き込んでその巨体を吹き飛ばした。

 悲鳴を上げながら吹き飛び、地面を転がるケルベロス。

 その姿を見て、新たな必殺技を閃いた緋乃が理奈へと向かい声を上げる。


「理奈。もう一回私がダウンさせるから、拘束お願い。その隙に大技叩き込む……!」

「うん、わかった!」

「よし、じゃあ行くよ!」


 手短に作戦会議を終えた緋乃は、ケルベロス目掛けて一気に駆け出す。ケルベロスは自身へと向かい駆け寄る緋乃を見て一瞬怯えたような表情を浮かべるもの、その表情はすぐに怒りのそれへと切り替わる。


『GAAAAAAAAAA!!』

「甘いっ……!」


 一つ目の首から緋乃目掛けて勢いよく火を吐くケルベロス。緋乃はそれを跳んでかわすが、ケルベロスもそれに合わせて首を動かして二つ目の首から空中の緋乃目掛けて二発目の火を吐き――。


「無駄っ!」


 ケルベロスの放った火炎放射が直撃するその寸前。緋乃は重力操作を発動して自身の落下速度を大きく上げた。緋乃が地面へと罅を入れながら着地すると同時に、何もない空中を炎が駆ける。


「はああぁぁぁ!」

『――!?』


 着地した緋乃はそのまま素早くケルベロスへと接近。噛みつき攻撃をかわすと、その勢いのまま胴体側へと回り込み――その足裏を天空に向けて全力で突き上げる。

 緋乃の踵がケルベロスの胴体へとめり込み、ズンという衝撃が響くと共にその巨体が軽く宙へと浮く。その一撃がよほど効いたのか、血を吐き、のたうち回りながら苦しむケルベロス。


「今っ!」

「わかった! ――戒めの鎖よ!」


 理奈の魔力により編み出された鈍色の鎖が、ケルベロスを縛り上げてその動きを封じる。

 それを見た緋乃は、理奈へ礼を言う時間も惜しいとばかりに重力操作を発動。自身の周囲の重力を反転させ、大きく跳び上がる。

 膨大な気に物を言わせて強化した身体能力と重力操作の組み合わせは凄まじく、一息で雲よりも高く跳びあがった緋乃。

 そうして緋乃はそのまま空中にて、胡麻粒よりも小さくなったケルベロスを見下ろしながら――これから自身が行う攻撃について考えを巡らせる。


(このまま重力を倍加させて、私の身体を砲弾代わりにあの犬に着弾させる……!)


 重力操作を利用した、超高高度からの急降下踏みつけ攻撃。それこそが緋乃の思いついた、気を用いた技の通りが悪い相手に対する一撃必殺。

 問題は着弾までに時間がかかることだが、今回は大ダメージを与えてダウンを奪ったのに加えて理奈の拘束まであるのだ。絶対に上手く行くに違いないと緋乃は考えていた。


(落ち着け、落ち着いて狙って……うん、ここだ)


 思いついたばかりの技を、練習もなしに実戦投入しようというのだ。緋乃は早鐘を打つ心臓を抑えながら、慎重に狙いを定め――。


(そうだ、両足で踏むより片足で踏みつけた方が狙いも絞れるし威力も高くなるはず……。えっと、脚を上げて……よし。後は気を纏えば……むんっ!)


 緋乃はその右脚を大きく掲げ、右腕で抱え込む姿勢――俗に言うI字バランスの体勢を取ると、バリアを貼るかのようにその全身に気を纏う。体や服の凸凹による空気抵抗を無くすためだ。

 そして、準備を終えた緋乃は改めて重力操作の能力を発動。超高速での落下を開始した。


(うっ、怖い……! でもなんか気持ちいい……。これが……鳥の気持ち?)


 全身に気を纏うことで空気抵抗を大幅に軽減した上に、重力操作で重力を数倍に引き上げているのだ。

 緋乃の落下速度には凄まじいものがあり、見る見るうちに地面と、重力と魔法という二重の鎖で縛り付けられたケルベロスの姿が迫り――。


(見えた――! くらえっ!!)


 そのまま巨大な一本の杭となった緋乃はケルベロスへと着弾。

 直後、轟音と衝撃波がスタジアムの内部を駆け巡るのであった。

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