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40話 地獄の番犬

『GAAAAAAAAA!!』

「おっとォ! あめえんだよカスが! 食らいやが――ゲッ!?」


 その口を大きく開き、自身へ向かい駆け寄る虎太郎目掛けて火を噴くケルベロス。

 虎太郎はその火炎放射を横っ飛びで回避すると、ケルベロスの胴体目掛けて飛び蹴りを放つ――が。その蹴りが黒い巨体へと直撃する寸前にてケルベロスは大きくバックステップ。

 結果として、虎太郎はケルベロスの眼前にて大きな隙を晒す事となってしまった。


「やっべ!?」

『GRUAAAAAAA!!』

「させない……! てやぁ!」


 うかつに飛びあがったことで身動きの取れぬ虎太郎を噛み殺さんと、獰猛な唸り声を上げながらケルベロスが飛び掛かる。哀れ虎太郎はその牙の餌食に――と思われたその瞬間。

 緋乃の重力操作によりケルベロスの身体が地面へと叩きつけられ、そのまま駆け付けた緋乃によりその腹を蹴り上げられる。

 キャインキャインという鳴き声と共に大型のトラックに匹敵する巨体が宙を舞い――。


「ナイス緋乃ちゃん! いよぉっし、とっておきを食ら――」

「理奈っ!」

「――きゃあっ!?」


 カードを構え、特大の隙を晒すケルベロスへと追撃の魔法を叩き込もうとする理奈。

 しかし、理奈がそのカードへと魔力を込めるその直前。顔色を変え、猛スピードで駆け付けてきた緋乃が理奈へと組みつき押し倒し、一緒になって転がりながらその場を離脱。

 何事かと思い理奈が自分のいた場所へと目をやれば――。


「チッ。余計な真似を……!」

「ひぇっ……。あ、ありがと緋乃ちゃん……!」


 理奈のいた地点に、燃え盛る炎の剣が何本も突き立てられていた。緋乃たちがケルベロスに対処している隙に、フリーになっていた犬飼が魔法で攻撃してきていたのだ。

 もし緋乃が間に合わなければあれに串刺しにされていたと、身震いしながら礼を言う理奈。

 そして、緋乃が理奈を救出しているその隙に。地面へと降り立ったケルベロスが犬飼の横へと並び立つ。


「そういえば、理奈のお父さんとお母さんは?」

「二人は他の関係者と一緒に、一般人の避難誘導と保護に回ってるよ。私の方が魔法使いとしてはずっと強いから……」

「なるほどね」

「わりぃなあ。さっきは助かったぜガキ」


 理奈と話し合う緋乃の側にやってきた虎太郎が照れくさそうに礼を述べる。

 それに対し、緋乃は不満そうに唇を尖らせて文句を言う。


「ガキじゃない。わたしには緋乃って名前が――」

「メンドくせーなァ。あー悪かった、助かったぜ緋乃」

「ん。どういたしまして」


 頬を染め、人差し指でポリポリと掻きながら緋乃へと改めて礼を言うその姿を見て、怖そうな見た目に反して意外と優しいのかも――と内心で虎太郎の評価を上方修正する緋乃。そして、そんな虎太郎を嫉妬の籠ったような目線で睨む理奈。

 そんな三人に対し、パチパチと拍手をしながら犬飼が話しかけてきた。


「いやぁー、即席チームにしてはやるじゃねえか。すっかり忘れてたが、ちっこい嬢ちゃんはギフテッドだったなそういや。とてもじゃねえがCランクの念動力サイコキネシスには見えねえが……まあいい。どっちにしろ俺とコイツの敵じゃねえ」


 手近にあったケルベロスの頭の一つを撫でながら、ふんぞり返る犬飼。

 随分と機嫌の良さそうなその姿を見て、今なら何か情報を引き出せるかもと思った緋乃が声を上げた。


「異世界のモンスター……だっけ? 魔法ってそんなこともできるの? 異世界からモンスターを呼び出すなんて……」

「ククク、まさか。俺たち人間じゃどんなに魔法を極めたとこでそんな大それたことは出来ねえよ。これはな、俺たちの偉大なる主――次元の悪魔とも呼ばれるあのお方から、俺たちのご先祖様が授かったんだ」

「次元の悪魔?」


 緋乃の読み通り、機嫌の良い犬飼は得意げな表情でケルベロスの出所とそれをもたらした者の名を語ってくれた。

 内心でガッツポーズをしながら、さらに情報を引き出そうとする緋乃。しかし……。


「へっ。それを知る必要はねえ。話すと長くなるから面倒くせえし……ここで死ぬお前らに教えたところでなぁ! 殺れ!」

「来るよっ! それぇ!」


 犬飼は話を打ち切り、ケルベロスへと指示を下す。主の指示に従い、その巨体に見合わぬスピードで駆けるケルベロス。

 それに対し、理奈が鋭く尖った氷の塊を大量に撃ち込むが――。


「うそっ、無傷!?」

「たりめーだぁ! こいつはなぁ、日常的に魔法でドンパチやってる世界からやってきたんだぜ!? そんなしょっぺえ魔法なんて効くか! 死ねェ!」


 理奈の攻撃魔法はその黒い毛皮に弾かれ、ケルベロスに何のダメージも与えることが出来なかった。驚愕に目を見開き、隙を晒した理奈へと飛び掛かってくるケルベロス。その三つの口が大きく開き、中に生える鋭い牙が理奈へと襲い掛かる――。


「ひっ――!」

「――させないっ!」

『GYAN!?』


 ――その直前。理奈の前に割り込んできた緋乃が、その脚を振り上げてケルベロスの顔面を蹴り上げる。そして蹴りと同時に発動された重力操作により、その重量を半減されたケルベロスの巨体が宙を舞い――。


「せやあぁぁぁ!」

『――!?』


 重力操作が解除されたことにより、本来の重力に引かれて落ちてきたケルベロスの胴体へと向けて突き上げられる緋乃の足。

 上空の相手めがけて放たれたその蹴りはケルベロスの胴体へと突き刺さり――更にその巨体を磔にして固定する。

 まるで、地面に突き刺さる杭に向けて腹から落ちたかのようなその状態。その圧倒的なダメージから、声にならない悲鳴を上げるケルベロス。

 

「し、ねえぇぇぇぇ――!」

「させるかよぉ!」

「それはこっちの台詞だぜェ!」


 その状態から、トドメとばかりに自身の発揮できる最大火力――気の爆撃を叩き込まんと、ケルベロスを持ち上げる足裏に向けて文字通り全力全開の気を流し込む緋乃。

 渾身の叫びを上げる緋乃に対し、流石にこれは不味いとでも思ったのか犬飼が妨害の為に攻撃を仕掛けようとするが――それは横から飛び出してきた虎太郎によって阻止された。


「クソ、邪魔すんなやクソガキィ!」

「邪魔すんに決まってんだろォ! 決めてやれやァ、緋乃ー!」


 片や魔力で、片や気で。強化された肉体から繰り出される拳がぶつかり合い火花を散らす。

 犬飼がその動きを封じられた事で、もはや緋乃の行動を止めるものは何もなく――。


「やったぁ、勝った!」


 喜びの声を上げつつ、緋乃の必殺技へと巻き込まれないように距離を取る理奈の前で。

 白い閃光が全てを飲み込んだ――。

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