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38話 束の間の平和

 窮地に陥った緋乃を理奈が救い出した翌日の朝。

 朝食を摂りに来た客で賑わう、ホテルのバイキング会場に緋乃たち三人の姿があった。


「うん。うんうん……。わかった。うん、お父さんも気をつけてね。……ふぅ」

「理奈。お父さんはなんだって?」


 会場の隅、周囲の喧騒から少し離れたところでスマホを耳に当て、父親と連絡を取り合う理奈。

 その通話が終わったと見るや、明乃が食い気味に話しかける。

 昨日の深夜に緋乃が遭遇した魔法関係者について、理奈の父――樹が尋問を行ったその結果を知りたがっているのだろう。

 理奈はそんな明乃に対し、たった今得たばかりの情報を整理しながら述べていく。


「うん、昨日緋乃ちゃんを襲ったのは蛇沢家の下っ端中の下っ端で、大した情報は握ってなかったって。なんでも買い出しのパシりをやらされてるとこを緋乃ちゃんに見つかって~って話らしいよ」

「……はぁ。まあ、そりゃそうよね。緋乃に見つかるような奴が重要なポジションにいるわけないわよね……」

「むっ……」

「あら、何か言いたいことでも? 一人で勝手にホテル抜け出して深夜徘徊した挙句、敵の下っ端から精神操作を食らって大ピンチだった緋乃ちゃん?」


 明乃がふと漏らした言葉に不満げな声を上げる緋乃だったが、それを耳ざとく聞きつけた明乃に小言を貰った結果、気まずそうに目を逸らす羽目になるのであった。


「ちなみに緋乃ちゃんが食らった精神操作の魔法は一般人でも普通に抵抗レジスト出来るレベルだそうです。……ま、幹部ならともかく、下っ端ならそんなもんだよね。でもホント、なんで緋乃ちゃんってこんなに精神操作への耐性低いんだろうね。普通は気を使える人間は高い抵抗力を持つもんだけど……」

「そういえば前も言ってたわよね、それ。なに? 緋乃の抵抗力ってそんなに酷いの?」

「うん、まあね。ぶっちゃけちゃうと緋乃ちゃんのこの耐性の無さは異常だよ。正直言ってありえない。意味不明」

「うぐぅ……」

「緋乃ちゃんの場合は気だけじゃなくてギフト持ちでもあるしね。ギフトはどちらかというと魔法寄りの力だから、強力なギフテッドは高い抵抗力を持つの。だから、気とギフトっていう二重の耐性を持つ緋乃ちゃんは本当なら並の精神操作は受け付けないはずなんだけど……」

「ふえぇ……」

「ああうん、緋乃がヤバいのは分かったからその辺で勘弁してやって……。ほらほら、朝食の続きと行きましょ?」


 理奈の言葉を聞いた緋乃が涙目になりながら情けない声を漏らし、それを聞いた明乃が慌ててフォローに入る。

 緋乃と理奈は、樹からの連絡が来たことによって中断状態になっていた朝食の再開を促す明乃の提案に頷くと、再び会場の中央へと向かうのであった。





「うーん、これ美味しいわね~♪ 流石はお高いホテルなだけなことはあるわねー」

「うん、かなりイケるよコレ……! 油断してた、こんなに美味しいなら主食は控えておくべきだった……!」


 朝食を終えた明乃と理奈が、その身体のどこにこれだけの量が入るんだというほどの大量のデザートを机に並べてその感想を述べあう。

 二人とも大変満足しているようであり、満面の笑みを浮かべながらケーキを頬張っている。

 ――そして、そんな二人のすぐ側で。


「うわぁ……」


 水の入ったグラスを手に、二人のその食いっぷりに少しばかり引いた様子を見せる緋乃であった。


「――あ、ごめんね緋乃ちゃん。私たちだけはしゃいじゃって……」

「あちゃあ、ごめん。忘れてたわ、緋乃の前で――」


 その緋乃の様子を見て、急に申し訳なさそうな顔を緋乃へと向けながら謝罪の言葉を口にする明乃と理奈。

 二人が勘違いしていることを悟った緋乃は、面倒くさそうに小さくため息を吐くと、その勘違いを正すために口を開く。


「いや、そうじゃないそうじゃない。赤の他人ならともかく、二人が美味しそうにしてる分にはわたしも嬉しいから。ただ、よくそんなに食えるなって……」

「ああ、なんだそっちか……。よかったー」

「チッチッチ。甘いわね緋乃。本当に甘いわ。ほら、よく言うでしょ? デザートは別腹だって」

「そうそう。そういう事だよ緋乃ちゃん」

(いや、それにしたってこの量は食いすぎ……)


 得意げな笑みを浮かべながら反論する二人。

 しかし、そんな二人に向けて思わず白い目を向けてしまう緋乃であった。



「あー食った食った。満足っ!」

「う~ん、美味しかったね~。特にあのモンブランが……」

「あたし的にはチョコレートケーキね。甘みと苦みのバランスが丁度良くて……」

「二人とも凄い食べたね……。見てただけなのにこっちまで胸やけしそう……」


 自室に戻った緋乃たちは、正午から始まる試合に備えて英気を養っていた。

 ベッドの上に寝転がりながら駄弁る三人であったが、ふと何かを思い出した様子の理奈が真剣な表情を浮かべて緋乃へと語りかける。


「緋乃ちゃんは今日で準決勝だよね? 敵の目的はまだわからないけど、明日の決勝になったら絶対動き出すはずだから、怪我とかには細心の注意を払ってね? できれば余裕をもって決勝に勝って、決勝後に何があってもいいようにするってのが理想なんだけど……」

「うん、任せて。今日の相手、虎太郎選手について軽く調べたけど、特に問題はなさそうだったし」

「浪花の喧嘩師、藤堂虎太郎。ボクシングとか空手とかを色々好き勝手に組み合わせた、拳主体の喧嘩スタイルが特徴ね。喧嘩師を名乗るだけあって、かなり荒い闘いが得意みたいよ」

「喧嘩師とかチンピラみたいな異名だね……」


 明乃の解説を聞いた理奈が嫌そうな顔をし、明乃もその意見に同調する。


「まあねぇ。実際見た目もそんなんだし、マニアックなファンはついてるけど一般受けは悪いっていうか……。でもまあ、緋乃の相手じゃないわよ。緋乃が倒した翼さんや結さんよりランクは下だしね」

「ふーん、そっか。なら安心だね……。今だ、隙ありぃ〜! むふふー」

「ひんっ……!」


 明乃の解説を聞いた理奈は安心した様子で笑顔を浮かべると、真横に伸ばされていた緋乃の太ももへとその顔を擦り付ける。

 そのこそばゆさから小さな悲鳴を上げ、抗議の意を込めて理奈の頭をぺしぺしと叩く緋乃。

 しかし、理奈は緋乃のその抗議を無視して、顔を擦り続けながら緋乃へと語り掛ける。


「気をつけてね、緋乃ちゃん。昨日みたいな無茶はしちゃ駄目なんだからね……」

「むっ……。うん……。わかってる……」


 理奈のその心配そうな声を聞いた緋乃は昨夜の自身の行いを改めて反省。

 理奈の頭を叩くのをやめ、優しく撫でるのであった。

緋乃(次からは初撃で仕留めよう)

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