表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

129/136

41話 小手調べ

「ぐおあっ……!? ベアトリス、てめぇ――!」

「――!?」


 突然、緋乃の眼前にて始まった仲間割れ。

 理由や事情は一切不明。もしかしたら、裏で何か確執があったのかもしれないし、単純に気に食わない奴をどさくさ紛れに始末しにきたのかもしれない。

 しかし、緋乃にとってそんな事はどうでもよかった。


(何が何だかわからないけど……とにかくチャンス!)


 とにかく今の緋乃にとって重要なのは、自分の目の前で敵が隙を晒していること。この一点のみである。


(このままあのハゲに追撃を食らわして、一対一(タイマン)の状況を作り出すか……それとも、あのクソ女に一発食らわしてやるか……)


 剣撃を放った直後の、いわゆる技後硬直状態に陥っているベアトリスか。それとも、ダメージを負って怯んでいる金龍か。

 どちらを攻撃すべきか、緋乃は自身の尻尾に妖気を巡らせながら、ほんの一瞬だけ思考を巡らせ――。


(決めた! まずはお前からだ……!)


 ロングソードを振り下ろした体勢のベアトリスに向かって、尻尾を勢いよく射出した。

 片腕を失って戦闘力が大幅にダウンした金龍など、もはや自分の敵ではない。ならば特にダメージを負った様子のない、ベアトリスに一撃を加える方が優先されるだろう。そう考えての行動だ。


(死ねぇ!)


 緋乃の意思に従い――主に先端の刃を中心に――妖気を纏った尻尾が伸びていく。狙いはベアトリスの体の中心部、すなわち心臓だ。

 あの体勢ではそう易々と回避はできないだろうし、もし無理矢理に回避したのならば、体勢は完全崩壊。圧倒的有利な状態を取れるので、適当に蹴りなりなんなりで追撃をして始末すればいい。


 もし防御という選択肢を取られたのなら、その衝撃で体勢を崩したベアトリスを追撃すればいい。なにせ、この自分が殺すつもりで、しっかりと妖気を込めて放った一撃なのだ。そう簡単には防げないし、なんなら防御を貫通して直撃してしまう可能性だってあるかもしれない。

 そうなったらそうなったで、肉体に突き刺さった尻尾経由で妖気を流し込み、完全爆殺――はベアトリスの着用しているバトルスーツの機能的に難しいだろうが、それでも大ダメージは狙えるだろう。


「チッ!」


 そんな緋乃の尻尾による攻撃を視認したベアトリスは、舌打ちをすると共に、その眉を歪め。


()った!)


 もはや防御も回避も間に合う段階ではないと、緋乃が勝利を確信した直後。尻尾がベアトリスの身体を貫く、その直前。ベアトリスの姿が、これまでに何度か見てきたときと同様に、フッと掻き消え――数メートルほど横にズレた位置に現れた。


「ぐおおぉぉ!?」


 標的が消えたことで空振りに終わった緋乃の尻尾は、その勢いのまま床へと着弾。

 練兵場を揺るがすほどの衝撃と共に、大量の瓦礫を周囲にばら撒き、それに巻き込まれた金龍が悲鳴を上げる。


「フン、無様ね。それにしてもまったく、油断も隙もありゃしない……」


 ベアトリスはそんな金龍の無様な姿を嘲笑いつつ、緋乃による更なる追撃を警戒しながら、ゆっくりと体を起こす。

 しかし緋乃はそんなベアトリスに追撃を加えることなく、険しい表情を浮かべながら、たった今ベアトリスに起こしてみせた現象について考えを巡らせていた。


(あの体勢からの高速移動……それに移動前後での体勢の変化の無さ……やっぱりこれは……!)


 緋乃が見咎めたのは、高速移動の前後における、ベアトリスの体勢についてだ。

 なにせ、緋乃からの攻撃を受けたベアトリスは、攻撃を受けた際の姿勢を崩すことなく、そのまま移動してみせたのだ。

 これは少々不自然な事だ。別に緋乃だって、別に絶対に移動できない状態だとは思っていなかった。

 少し無理のある体勢ではあったものの、移動するだけならばできなくもない。ベアトリスのとっていた体勢は、そういうものであった。

 しかし、そうして移動を終えた後に、わざわざあのような動きづらいポーズを再度取る必要性は、全くと言っていいほど存在しない。

 まあ一応、緋乃の油断や誤認を誘うという理由はあるかもしれないが、それにしてもリスクとリターンが釣り合っているとは思えない。

 以上のことから推察するに、ベアトリスの持つ異能は――。


(空間転移! きっとそうに違いない……!)


 そうしてベアトリスの異能に当たりをつける緋乃であったが、しかし、確実に()()であるという保証はない。

 あのクラスの敵を相手に、読み違えをしたまま戦うというのは、あまりにもリスキー。

 だからこそ、緋乃は追撃をやめたのだ。ベアトリスの異能の、その正体を確実に暴くために。攻撃範囲の広さゆえに、仲間を巻き込んでしまう危険性から、先ほどの遭遇戦では使えなかった大技を使うために。

 緋乃は右腕を頭上に掲げるのと同時に、精神力を高めていき。


(念には念を。この一発で確かめてやる!)

「這いつくばれっ!」


 気合を込めた叫びと共に腕を一気に振り下ろし、異能を発動。練兵場の内部全てを飲み込むように、超重力のフィールドを展開した。

 ――無論。自分自身はそれに巻き込まれて潰されることがないよう、自身の周囲は台風の目のような安全地帯に設定して、である。


「ぐっ……ぬおぉ……!? クソ、これはやべえ……!」

「小賢しい……!」


 今回の技はこれまでのような、燃費を気にした極小範囲の重力反転とは違う。正真正銘、相手を圧し潰して殺すための、緋乃のとっておきの技だ。

 まあ本来は|格下の相手をまとめて始末するため《雑魚掃除用》の、もっと低出力で放つ技だったのだが、それはさておき。


(さすがにこの範囲はキツいね……! でも捕まえたよ、さあどうするクソ女。この状況から逃げるには、異能を使うしかないよ……?)


 はたして緋乃の目論見通り、超重力場に囚われたベアトリス(とオマケの金龍)は、襲い掛かる重力に対し、押し潰されないよう気を高めながら耐え忍ぶ状況に追い込まれた――かと思われた次の瞬間。ベアトリスの姿が再び掻き消え。

 この練兵場の中で唯一、超重力の魔の手が及ばぬ空間。即ち、術者である緋乃の上方へとその姿を現した。


(ビンゴ! また同じ体勢のまま現れたし――そもそもあの女はわたしの作った重力場に捕まってて、とてもじゃないけど動ける状態じゃなかった! つまり、あの女の能力は転移で確定!)

「死になさい!」


 渾身の必殺技から逃れ出たベアトリスを見て、緋乃は苛立たしげに目を細める――様子を演じつつ、内心では思惑通りに場が動いたことに対し、喝采の声を上げ。

 そんな緋乃の内心に気付いているのかいないのか、姿を現したベアトリスは、空気の壁を蹴ることで一気に加速。上空より緋乃目掛けて襲い掛かる。


「これでもくらえっ!」


 だが緋乃とて、何も考えずに自身の頭上にベアトリスを誘導したわけではない。

 素早い動きで腰裏にマウントされているアンタレスを手に取ると、そのままベアトリス目掛け発砲――ではなく、まるでブーメランでも投げるかのように、ベアトリスに向かって投げ付けた。


 これは別にふざけているわけではなく、単純に発砲するのよりも、こちらの方がより効果的だと緋乃は判断したからである。

 特殊合金をふんだんに使用され、さらに空間拡張の術式まで使われたアンタレスの総重量はおよそ70kg。極めて当然の事ながら、銃弾とは比べ物にならないほど重い。

 さらに速度に関しても、普通に発砲した銃弾よりも、緋乃が投擲したアンタレス本体の方が数倍以上は速いときた。

 故に――この後も続くであろう戦闘において、邪魔になって捨てるくらいならと――緋乃はアンタレスを撃つのではなく、投擲武器として使用したのである。


「なっ!?」


 銃で撃たれることは想定していても、流石に銃そのものをぶん投げてくるというのは予想外だったのか。高速で回転しながら飛んでくる大型ライフルを見たベアトリスは、驚愕と困惑の入り混じった声を上げる。


「――っくぅ!」


 それでもしっかりと対応し、投げ付けられたアンタレスを剣で弾いてくるあたりは敵ながら見事と言うしかないが――しかし強引にアンタレスを弾いたことで、宙に身を置くベアトリスに明確な隙が生まれ。


「貰ったぁ!」

「おのれ……!」


 その隙を突かんと、緋乃はベアトリスに向かって跳び上がりながら、妖気を纏った足を大きく振り上げ――その際に生じた衝撃波もとい斬撃波を以て、ベアトリスに痛打を浴びせんとする。

 円弧を描く緋乃の踵の、その延長線上に発生した真紅の斬撃が、ベアトリスの身体を断ち切らんと迫り寄り――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ