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40話 乱入者

「遅いッ!」


 敵の二足歩行ロボット及び、その近くにいた戦闘員を始末した緋乃は、足を止めることなく、さらに床を蹴ってそのまま加速。

 お仲間の上げた絶命の叫びに、恐怖を煽られでもしたのだろうか。顔を引き攣らせている残りの男たちに、文字通り“目にも留まらぬ速度”で接近すると。


「貰ったぁ!」

「ガッ――!?」


 身体を捻りながら右脚を振るい、加速の勢いをたっぷりと乗せた後ろ回し蹴りを繰り出し。反応すら許さずに、その(ヒール)で一人目の胴体を横薙ぎに両断する。


(これで三匹! 残る雑魚はあと一匹だけど、あのハゲの反応は――)


 人型のロボットが一機に、部下の男が二人。計三体の敵を始末した緋乃は、ちらりと金龍の様子を伺う。

 先ほど金龍が使用した、新型バトルスーツの機能であろう、闘気のブーストを警戒してのことだったが……。


(むぅ、動きは……無し? なるほど、これは見捨てた系かな? よし、ならこのまま!)


 ほぼ壊滅状態の、微妙な練度の部下の救援に動くのよりも、体力の温存を優先したか。

 金龍は緋乃に対して警戒こそしていたものの、部下の救助に動くような素振りは特に見せず――それを敵の頭数を減らすチャンスだと判断した緋乃は、攻撃の続行を選択。


(これで取り巻きはおしまい! ボス戦のお時間だ!)


 緋乃はそのまま、振るった右足を素早く地に着けると同時に、尻尾を床に突き刺して体の支えとすると。今度は左脚を腰の高さにまで持ち上げ――。


「てりゃあぁー!」


 右脚と尻尾を使って床を蹴り、二人目の男に向かって飛び掛かると同時に。

 弓のように大きく引き絞った左脚を、真っ直ぐに解き放ち。砲撃のような蹴りを、その腹部へと叩き込む。


「うごぁ!?」


 緋乃の蹴りをまともに食らってしまった男は、その衝撃で内臓を破壊し尽くされながら吹き飛んでいき、部屋の壁面に叩きつけられ。


「ば、ばけもの……め……」


 口から血と共に呪いの言葉を吐いた後に、ガクリとその頭を垂れたのであった。


「ふふーん、これにて雑魚掃除かんりょーっと」


 最初にロボットが爆破されてから、ほんの一瞬。僅か一秒にも満たない、極めて短い時間。

 その僅かな時間で金龍の部下たちを一掃した緋乃は、その艶やかな髪の毛を手で払いながら、金龍に向かって得意気な笑みを浮かべる。


「まあ、人型のロボット兵器には驚かされたけど……性能自体は大した事なかったね」


 先ほどの戦闘において、機械特有の気配の無さからくる不意打ちをアッサリと受けた事を棚に置き、胸を張る緋乃。


「そりゃそうに決まってんだろ。なにせ、役割が違うんだからな」


 そんな得意げな様子を見せる緋乃に対して、金龍は軽く鼻を鳴らしながら反論を繰り出した。


「役割?」

「ああ、そうさ。アレの役割は、多種多様なセンサーを生かした戦場の把握と、瞬時の判断力を活かしたサポートや兵隊たちの指揮だ。戦場の主役として、切った張ったをするモンじゃねえ」

「ふーん」


 あのロボット兵器はあくまで支援兵器である、という金龍からの解説を受けた緋乃は、気のない返事をしながら、金龍に気取られぬようこっそりと周囲の様子を伺っていた。


(増援が来る気配は無いね。金龍(この男)一人で十分だと判断されたのか、それとも戦力を出し尽くしたのか。……流石に戦力切れってことはないだろうし、ここはやはり前者かな。ちょっとムカつくね)

「それにしても嬢ちゃん……随分とえげつねえ技を使ってくれるじゃねえか……」


 表面上は得意気な笑みを浮かべたまま。目の前の敵を片付けたことで、油断している様子を装いながら、緋乃が戦況を分析していると。何か気になる事でもあったのか、今度は金龍の方から緋乃に対し語り掛けてきた。


「えげつ……ない……?」

「心底不思議そうな顔すんじゃねえ。自分(テメエ)の気を敵の肉体に強引に浸食させてから起爆する確殺技とか、えげつない以外にどう表現しろって言うんだよ」


 金龍の言う“えげつない技”が一体なんなのか、理解できずに首を傾げる緋乃。

 そのような様子を見せる緋乃に対し、金龍は呆れ混じりの声でその技についての指摘をする。


「ああ、あの技ね。いいでしょ? 本来なら生命(いのち)を持たない無機物相手にしか使えない大道芸だけど、超天才であるこの緋乃ちゃんの手にかかれば、実用的な必殺技として機能しちゃうんだよね~」

「……お前がさっき消し飛ばした男な、結社の工作員って事で、当然のことながら拷問を受ける訓練とかも受けてるんだよ」

「うん?」


 それが何か? とばかりに首を傾げる緋乃を見て、金龍はため息を吐きながら口を開いた。


「手足を先端から切り刻まれたり、火炙りにされても――苦痛に呻きはするものの、決して自己は見失わない。そんな極めて我慢強い男を、一発で発狂させるとか……なあ?」


 おかげで他の連中までブルっちまったじゃねえか、さすがの俺様も引いたわ。という金龍の言い草を耳に、今度は緋乃がその眉を顰めながら反論を繰り出した。


「むう、別にいーじゃん。どうせ結果は変わらないんだしさ。殺しの技に綺麗も汚いも――いや、むしろド派手な爆発を上げて盛大に葬ってあげる分、わたしの浸食爆破こそ綺麗な技に分類されるはずじゃない?」

「いや、明らかにアウトだろう。そもそも他人の生命力()を流し込むだけでもアウトなのに、よりにもよって妖気を流し込むとか……論外だろ」


 しかし、そもそもの他者に対する共感力が引き下げられ、逆に攻撃性が引き上げられている緋乃と、一応は普通の人間として生まれた金龍の意見が噛み合うはずもなく。


「あーもう、ゴチャゴチャと面倒くさいヤツだね! そんなに言うなら、お望み通り、お前も爆殺してあげるよ!」


 困った時の暴力頼み。緋乃は戦闘体勢を取ると、真紅に輝く妖気を全身に漲らせながら、軽く膝を曲げて半身の構えを取り。


「何がどうなってその結論に至ったか知りた――いや、別に知りたくねえが……そいつはぞっとしないな……」


 戦闘体勢を取った緋乃を見て、金龍もまた薄い白光を纏うと、腰を落として右手を前に出した構えを取る。


「新型のバトルスーツ……。確かに、気の増幅機能は厄介だけど――でも、その程度の小細工で、このわたしは超えられない。超えさせない……!」

「なら試してみるかい? 凡才を秀才に、秀才を天才の領域にまで押し上げる、科学の力を。人類の積み上げてきた、叡智の結晶を……!」


 緋乃と金龍。二人の間に流れる空気が再び張り詰めていき、いざ決戦の火蓋が切って落とされる――その直前。


「引っ込んでなさい、三下」


 なんの予兆も前兆もなく。突如として、金龍の背後に――黒いロングソードを振り上げた状態の――ベアトリスが出現し。そのまま勢いよく剣を振り下ろして、金龍の腕を斬り飛ばした。

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