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39話 新兵器

「あ、負け犬ハゲじゃん。元気してた?」

「だからこれは剃ってるんだって教えただろ……。っていうか、誰が負け犬だコラ」

「えー、だってオジサンってば逃げたじゃん? ほら、わたしが黒門会の事務所に殴り込みをかけた時――」


 目の前で行われる、金龍(上司)黒髪の少女()との緩やかな煽り合い。

 周囲の景色や状況を無視すれば、調子に乗った子供が、仲の良い大人をからかって遊んでいるように見えなくもない。そんな光景だ。

 まあそれも、二人が静かに発している殺気さえ無ければ、の話だが。


(この子が“造られし子供達”の最高傑作にして、後天的に悪魔化した肉体を持つ、極めて貴重なサンプル、か……)


 金龍の部下である男は、会話を装って互いの隙や情報を探り合う、そんな二人を両の眼に捉えたまま。少女に対し、最大限の警戒を向けたまま、脳の片隅にて思考を巡らせる。


(この子の捕縛こそが、俺たちに与えられた命令……。だが……)


 自分たちに与えられた命令を思い返した男の胸が、少女に対する罪悪感にズキリと痛む。

 結社の命令の元、幾人もの人間を手に掛けてきた男が、初対面の少女に対して、何故か強い罪悪感を感じてしまっている。

 男はこれが、少女の持つ“特性”によるものだと知っていたが――もし知らなければ、一体どうなっていたのだろうかと、背筋が寒くなる思いを抱いた。


(いかんな。いくら条件が整っているとはいえ、近寄っただけでこれとは。魔性の女ってのは、こういう娘の事を言うんだろうか……)


 肉体の活性化や興奮状態の持続に、戦闘時特有の高揚感や攻撃衝動の発露。

 特定の状況をトリガーにして、この少女が発するフェロモンの濃度は飛躍的に上昇する。

 相手の良心や思慕の心に働きかけ、戦闘を優位に運ぶための防衛機構……なんだとか。


 この情報もまた、事前のミーティングにおいて、あらかじめ知らされていたものだ。しかしまさか、これほどの効力(モノ)だったとは。

 恐らく、自分はよく()()側の人間なんだろうな……とぼんやり考えながら、男は少女に魅了されかかっていた自分自身の心に対し、活を入れた。


(落ち着け、冷静になるんだ俺。俺は金龍氏(この人)に着いて行くと決めただろう……)


 親から愛情を受けることなく、暴力やネグレクトなどの虐待を受けて育った男の青年時代は――控えめに言って荒れていた。

 当然の如く、そんな男に親しい友人なんてものがいるわけがない。

 周囲からは厄介者だと恐れられ、あるいは社会からの落伍者だと白い目を向けられる。そんなどうしようもない日々を送る男に、手を差し伸べてくれたのが金龍だった。


(あの人にとっては、組織への単なる貢献度稼ぎだったのかもしれないが……)


 昔、青年時代の男が、とあるヤクザ者の集団に囲まれて、死を覚悟していた時のことだ。

 そこにふらりと現れた金龍が、その集団をあっという間に始末してしまい。困惑する男を“未熟もいいとこだが、見どころはある”と言って結社に紹介してくれたのだ。

 後に金龍本人から聞いた話によると、そのヤクザ者たちの被害者から、報復の依頼を受けて動いていたんだとか。


「――にしても。女の子一人を相手に、この人数とはねー。……見たことない兵器まであるし、恥ずかしくないの? 人として」

「クク、なにせ正真正銘の魔人サマが相手だからな。これでも全然足りねえくらいだよ」


 そうして男が回想に浸っている間にも、少女と金龍の探り合いは、着々と終わりに向けて進行しており。

 戦闘開始の予兆を感じ取った男が、慌てて意識を切り替えた、その直後。


(馬鹿な――)


 一瞬たりとも、少女から目を離しはしていなかった。

 途中で少し回想に浸りこそしたものの、それでも意識の大本は常に少女へと向けていたはず。

 ――だというのに、いつの間に接近したのか。

 男の前には、凶悪な笑みを浮かべた少女が、その右脚を大きく振り上げた状態で立っていて。


「まず一匹……!」


 殺意の籠った声と共に、異常とも思えるほどの妖気を纏った踵が、真紅の軌跡を描きながら振り下ろされる。


(――いつの間に)


 その速度は、男の知覚をも遥かに凌駕する速度であり。男は訳もわからぬまま、頭部から股下にかけて両断されることになる――。


「させるかよ!」


 かと思われたその刹那。男の前に、急遽として金龍が割り込んできたかと思えば。

 こちらもまた、大量の気が込められた掌打を繰り出して、少女の蹴撃を相殺しにかかる。


「ぐおっ!?」

「なんて破壊力だ……!」


 金龍の掌底と少女の踵が激しくぶつかり合い。

 それによって発生した衝撃が爆風となって、巨大な地下練兵場の内部を駆け巡り。金龍の部下一同は、その爆風に煽られて、口々に驚愕の叫びを上げた。


「へぇ、思ってたよりやるじゃない……!」

「お褒めに預かり恐悦至極……ってなぁ!」


 踵と掌底で鍔迫り合いをしながら、少女と金龍が言葉を交わす。

 地に足をしっかりと着けて、安定した体勢で攻撃を受け止める金龍と、不安定な体勢で無理矢理足に力を込める少女。

 一見すれば、金龍の方が圧倒的に有利なように見える状況なのだが――実際にはその逆。

 余裕の笑みを浮かべる少女に対し、冷や汗を流しながら必死に耐える金龍という図が展開されていた。


(あの体勢から押し込むだと……!? どうする、援護すべきか……? いやしかし、あの人が着てる()()()()()のバトルスーツなら……)


 予想外の光景を目にした男が、金龍の援護に駆けつけるべきか否か、ほんの一瞬だけ迷いを抱き、その動きを鈍らせる。


〈――支援攻撃ヲ開始スル〉


 しかし男やその仲間たちが動きを鈍らせる中、迷うことなく行動を開始したものが一人……いや、一機いた。結社の開発した二足歩行型の戦闘用ロボット、スパルトイである。

 スパルトイは脚部のブースターを使ったホバー移動で、金龍と少女の側面に回り込むよう動きながら、右腕に外付けされた小型の機関砲を発砲した。


「そんな攻撃(モノ)……!」


 しかし少女はその射撃を、尻尾で作り上げた即席のシールドで、あっさりと防いで見せるのだが。


「大人を……舐めるんじゃねぇ……!」


 少女が尻尾の操作に意識を割いた、その隙を突くかのように。金龍の着用するバトルスーツに走る光のラインが、より一層強い輝きを放ち始めて。


「うおおぉぉ……!」


 それと同時に、それまで押されていたはずの金龍が、逆に少女を押し返す。

 これこそが、第二世代型バトルスーツの真骨頂。

 装着者の生命エネルギーを事前にチャージしておき、必要に応じて解放。短時間ではあるものの、絶大なパワーを得ることができるという新機能だ。


「急に気が……!?」

「今だ、かかれーッ」


 金龍の突然の逆襲に、戸惑いの声を漏らす少女。

 それを好機と捉えた男たちが、少女目掛けて左右から一斉に襲いかかる。


「はっ、そんな見え見えの!」


 しかし少女は男たちの一斉攻撃を確認すると、自身の立つ床の前方に向けて、尻尾を勢いよく射出。尻尾が床へと突き立つその反動を利用して、背後に離脱した。


「雑魚どもがウロチョロと……。まずはお前たちから――」

(なるほど、流石は新型。賢いな……!)


 そうして仕切り直しを図る少女であったが――しかし男はその少女の背後を見て、自分たちの勝利を確信する。


 (どこでもいい――この強撃が当たりさえすれば、必ず体勢は崩れる。一度体勢を崩しさえすれば、あとは第二世代型のハイパワーモードと、数の力でどうとでもなる……! 勝った、任務完了だ!)


 恐らく、初めに少女を射撃した時から、この状況に至るまで。全てが計算済みだったのだろう。

 少女の背後には、スパルトイが腰部にマウントされていた実体剣を左手に握り締め、大きく振りかぶった状態で立っており。


〈――!〉

「ぴゃーっ!?」


 こと剣が振り下ろされる段階に至って、少女も背後に回り込んだスパルトイの存在に、ようやく気付いたのか。眼前に迫った剣を目にした少女は、驚愕に目を見開くと、間の抜けた悲鳴を上げながら――振り下ろされる剣を、正確無比に()()()()()()


「――は?」


 そのあんまりな光景を目に、男は唖然とした声を漏らす。いや、男だけではない。男の仲間たちも同様に唖然としている。

 だってそうだろう。剣は既に振り下ろされて、少女に対し命中直前。さらに少女側も明らかに動揺していて、とてもじゃないが防御なんてできる余裕は無かったはずだ。

 そう。どう足掻いても、回避も防御も間に合わない、完璧な奇襲攻撃だった。だというのに――。


(こいつ……右手の指三本だけで、あの一撃を受け止めやがった! これが戦闘用の調整を受けた、人造人間の力か……!)

「あー、びっくりした。……鉄屑風情が、生意気だね」

 

 親指と人差し指と中指。三本の指でスパルトイの剣を受け止めた少女は、金龍や男たちが動き出すのより早く、スパルトイを破壊せんと。その右手から、大量の妖力を剣に向かって流し込み始めた。


〈GA――PI――〉

「させると思うかーッ!」


 少女が妖気を解き放つと同時に、スパルトイが異音を発し。またスパルトイが握る剣や本体のボディに、真紅に輝く光のラインが、大量かつ無秩序に刻まれる。

 それを見た男は、貴重な戦力を守るために。ここでスパルトイという戦力が欠けたら、あとは一方的に惨殺されるだけなのでは? という恐怖から逃げるために。

 全力で少女との距離を詰めにかかり――その男の動きに釣られたのか、他の仲間たちも少女に向かって接近し始めた。


(俺が動けば、少しなりとも、奴の意識はこちらに向くはず! スパルトイ(アイツ)や金龍さんなら、その隙を突いて攻撃するなり、なんとかしてくれるはずだ!)


 良く言えば、仲間を信頼しての突撃。悪く言えば、考えなしの自爆特攻。

 しかし結果から言ってしまえば。男の取ったその一手は、最悪と言ってもいいほどの、劣悪な一手であった。なにせこの無謀な突撃は、自分自身だけならともかく――他の仲間たちの死因にもなってしまったのだから。


「バカ、下がれ! ()()()()!」


 部下たちの勝手な突撃を見て、少女との交戦経験があり、また少女の戦闘データをも知る金龍は、大慌てで彼等を制止する声を上げるのだが……時既に遅し。

 自分目掛けて駆けてくる男たちを目にした少女の口元が、三日月状に吊り上がり。


「バカだね。自分から死ににくるなんて。――爆ぜろ」


 男たちが大きく距離を詰めようと、足に気を集中させ始めたその瞬間。

 大量の妖気を流し込まれていたスパルトイが、目も眩むような真紅の光と、激しい衝撃波を撒き散らしながら、盛大に弾け飛んだ。


「うわああぁーっ!?」

「ぐわあぁーっ!?」


 荒れ狂う暴風が、少女へと攻撃を仕掛けようとしていた男たちに襲い掛かり、その身を蹂躙する。

 少女が引き起こした爆発の威力は凄まじく、数々の死地を潜り抜けてきた男にとっても――紛争地帯において、至近距離での砲撃や空爆を受けた経験くらいはざらである――前代未聞の破壊力であった。


 しかし、よく考えればそれも当然だろう。なにせスパルトイという、通常の人間よりも一回りから二回りは大きい器に、これでもかと限界まで妖気を詰め込んで、それを一気に起爆したのだから。

 それはまさしく、妖気によって形成された爆弾。通常の火薬を用いて作られた爆弾とは、比べ物にならない程の威力を発揮する、凶悪極まりない抹殺兵器である。


「解っちゃいたが、とんでもねえ破壊力だな……」


 あまりの破壊力に、少女からそれなりに離れていた金龍でさえ――爆風に紛れた奇襲を警戒した、という理由もあったのだろうが――その足を止めてしまい。

 そうしてそれこそが、金龍を除く男たちの、敗北が確定した瞬間でもあった。


「せいやっ!」

「ぐもっ!?」


 爆風の煽りを受けて吹き飛ぶ男の腹に、いつの間にか接近していた、少女の膝が突き刺さる。

 金龍の危惧した通り、この大爆発を引き起こした犯人である少女は、爆煙と閃光に紛れながらの奇襲を狙っていたのだ。


「ふふ、つかまえた♡」


 男を悶絶させ、強制的に隙を作り出した少女は、その小さな手をめいっぱいに広げ。男の顔面を強引に鷲掴みにすると――スパルトイにした時と同様に、膨大な妖気を無理矢理に流し込んできた。


「ギイイイィィィィーッ!?」


 妖気を流し込まれると同時に感じる、全身を駆け抜ける激痛。そのあまりの痛みに、男が絶叫する。

 いや、これはもはや、痛みだなんて生易しいものではない。死ぬ。全身の細胞という細胞が、一斉に死んでいくのが理解できる。


 ――死にたくない。でも、この地獄のような衝撃から解放されるのなら、死んでもいいかもしれない。いや、やっぱり死にたくない。悪行の報いにしても、限度というものがあるだろう。

  死を目前とした男の脳内に、種々雑多な思考が次々と湧き上がってくる。


  なお、男が苦痛を味わっていたのは、時間にしてごく僅か。少女の流し込んだ妖気が全身を犯すまでの、ほんの一瞬の出来事である。

 しかし極限の苦痛を受けている男にとってみれば、それは永遠とも思えるほどの時間であり。


「消えてなくなれ」


 あまりの痛みに発狂する事すら許されず、ただひたすらに地獄を味わう男であったが――その終わりは、案外あっけなく訪れた。

 少女がトドメの言葉を発すると共に、痛みを含めたあらゆる感覚が消失し。男の意識は、深い闇の底に沈んでいくのであった。

バトルスーツについて

第一世代型:身体能力強化および動作補助。結社では数年前から実用化されていた

第二世代型:第一世代の機能を強化+余剰エネルギーのチャージ。最近開発された

って感じです。あと純粋に防具としても高性能だったり。

ちなみに表社会では(結社における)第一世代型が研究開発段階。

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