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12話 路上試合

 三人が振り返って声の持ち主を確認すれば、そこには白い空手着に黒帯を締め、逆立てた髪をした見るからに暑苦しそうな少年が一人。

 少年といっても中学生である緋乃達よりも年上で、恐らくは高校生くらいの年齢はあるだろうか。

 当然ながらその体は大きく、身長に関しても170cm以上はあり、更にその引き締まった体には筋肉がしっかりと付いているのが見て取れる。


「やはりお前だったか。いや、人違いじゃなくてよかったぜ」

「……ああ、あの時の」


 どこか見覚えがあったのだろう。少年を見た緋乃は少し考えこんだ様子だったが、すぐにその正体に思い当たり、得心のいった顔をする。

 その緋乃の反応を見て、少年を初めて見る理奈が緋乃に対して質問を飛ばした。


「緋乃ちゃん知り合い?」

「ん。近くの空手道場のエース……だったはず」

「ああ、緋乃の被害者ね」

「被害者? ああ、なるほどー……」


 緋乃の口から少年の正体が語られ、明乃がそれを補足する。

 二人の説明を受け、理奈も納得がいったのか、少し同情したような視線を少年に向けた。


「ふん、確かに俺はあの時、お前に後れを取った。言い訳ならいくらでもあるが、それは男らしくないからな。言い訳はせん」


「ふーん。で、なにか用? リベンジ?」

「ふむ。その通りだと言ったら……どうする?」

「かっこわるい」

「なんだと?」

「ん。女子中学生に男子高校生がリベンジとか、かっこわるい」

「ひ、緋乃ちゃん。そんな煽らなくても……」


 左手を口元に当て、見下すような目線を向けつつ口元を歪めて少年を挑発する緋乃。その言葉を受け、少年の額に青筋が浮かんだ。

 二人の様子を見て、理奈が慌てた様子で緋乃を諫めるがもう遅い。既に少年はその身に気を纏い、緋乃に対して完全に闘いを挑む体勢を取っていた。


「ふん、下手な挑発だ……。今回は宣戦布告だけで済ませるつもりだったんだがな。だが、しかし! いいだろう! その下手な挑発、乗ってやろうじゃないか!」

「宣戦布告?」


 眉をひそめながら男の言葉を反芻する緋乃に対し、少年はゆっくりと構えを取りながらその疑問に答える。


「そうだ、お前も知っているだろう? 新世代……新世代……。……格闘大会のことだ! あれの年齢制限が引き下げられたからな。どうせお前も出るんだろう? 本当ならそこで進化した俺を見せつけてやるつもりだったんだが、予定変更だ」

「なるほど、そういうことか。ふふっ、いいよ。格の違いってやつを教えてあげる……。明乃、理奈。悪いけど少し下がってて。すぐ終わらせちゃうから」

「ふ、言ってくれるじゃないか」


 緋乃の徴発を受け、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる少年。そんな二人を見て、明乃は仕方ないわねとでも言いたげな様子でため息を吐き、理奈は驚いたような顔を浮かべる。


「ちゃんと手加減しなさいよー」

「え、本気でやるの? 今、ここで? 明乃ちゃんも止めないの!?」

「いやなんかもう止める雰囲気じゃないし仕方ないでしょ。誰かさんが挑発するから向こうもやる気満々だし」

「ふふん。あ、理奈。これ持ってて、お願い」


 緋乃は得意げな表情を浮かべると、未だに戸惑った様子の理奈にカバンを預け、構えを取る少年と向かい合うように前へと出る。

 自然体のまま、緋乃はその全身に気を纏いーーその余波でジャケットがはためく。

 構えこそ取ってはいないが、緋乃が戦闘態勢を整えたことを察したのだろう。最終通告とばかりに少年は緋乃に向かって口を開いた。


「以前の、お前にやられた時の俺と思うなよ。俺はお前に敗北してから毎日毎日、必死に鍛錬を積んできたんだ。お前が今日みたいに遊び惚けてる間にもな」

「む、失礼。ちゃんと毎晩トレーニングしてるし、日曜日は鍛錬の日にしてるんだから」

「…………そうか。…………それは悪かったな。では、いくぞ!」

「いつでもいいよ」


 緋乃の言葉に対し、何か言いたそうな表情を浮かべるも、結局口には出さず言葉を濁す少年。

 戦闘開始の宣言をした少年は一息に駆け寄るのではなく、じりじりと距離を詰める。そのままお互いの攻撃が届かないであろう、間合いの一歩手前で睨み合う。


(威勢がいいことを言う割には慎重。なるほど、何も考えず適当に突っ込むだけのあの時よりかは確かに成長してる)


 そのまま十秒ほどお互いに手を出さず、睨み合いが続いただろうか。焦れた様子で緋乃が口を開く。


「来ないの? わたし、早く帰りたいんだけど」

「ふん。そうやって手を出させたところをカウンターで沈めるつもりなんだろう? その手は食わんぞ」

「そう……。はぁ、仕方ない」


 緋乃は呆れたような表情と声色を作って少年を挑発してみるが、少年はそれに乗る気はないようだ。

 眉一つ動かさない少年を見て、このままではらちが明かぬと自分から攻め込むことを決めたのだろう。

 緋乃が小さくため息を吐いたかと思った次の瞬間。少年との距離を一瞬で詰めた緋乃が、その右脚を少年の頭部目掛けて振り上げていた。


「ふっ!」

「ぐぅ……!」


 文字通り目にもとまらぬスピードで仕掛けた緋乃ではあったが、少年はそのハイキックに対し、とっさに腕を掲げて防ぐことに成功した。

 しかし緋乃の攻撃はそこで止まらない。そのまま二発、三発と連続して蹴りを繰り出す。


「それそれぇ!」

「あぎぃっ!」


 二発目のミドルキックはギリギリ防御されてしまったが、三発目のローキックは少年の脚に直撃。

 少年はその蹴りの衝撃と痛みに悲鳴を上げると、その体勢を大きく崩す。

 そして当然、そのような大きな隙を見逃すほど緋乃は甘くない。

 緋乃はすかさずステップで距離を詰めると、そのまま追撃の膝蹴りを放ちーー少年の脇腹へ、その膝をめり込ませる。


「がはぁっ……!?」

「沈め」


 緋乃は少年がその意識を痛みに支配されている隙に、素早くその頭部へと右腕を伸ばして少年の頭を掴む。

 そうして掴んだ頭を勢いよく引き倒すと同時に、緋乃はその右膝を少年の顔面目掛けて振り上げた。


「ひぇっ……」


 鈍い音と共に少年の顔面へと突き刺さる緋乃の膝。その衝撃で飛び散る血。それを見て思わず声を出してしまう理奈。

 緋乃とよく行動を共にしてその闘いぶりを知っており、本人もまた闘う人間である明乃ならともかくーーあまり緋乃の闘いを知らない理奈には刺激が強かったのだろう。

 ほんの一瞬だけ声を上げた理奈の方に気を取られた緋乃であったが、まだ戦闘中だと即座に意識を切り替える。


(これでラスト……!)


 先ほどの膝蹴りが効いたのだろう。緋乃はフラフラとよろめく少年に対し、これでトドメだとばかりに強烈な後ろ回し蹴りを放った。

 少年の頭部目掛け猛烈な勢いで迫る緋乃の踵。大きく体勢を崩した少年にはそれを防ぐことも避けることもかなわず、緋乃の踵はそのまま少年の頭部へと直撃し――。

 しっかりと筋肉がついていて重いだろうその体を、豪快に吹き飛ばした。

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