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19話 事後処理

「……という訳でして、研究所は自爆。突入した協力者の少女たちと、またその少女が確保した戦闘員の少年は無事でしたが……他の研究員は爆発に巻き込まれ、全員死亡したものと思われます」


 緋乃たちが突入した秘密研究所。それが自爆してから、数日後の午前。

 研究所の跡地は秘密結社に繋がる情報が残っているかもしれないということから、立ち入りが禁止されたものの――日頃から面白おかしいネタを嗅ぎ回っているメディアが、人気のない山奥にて突如起こった謎の大爆発という美味しいネタを放っておくはずもなく。

 隕石の激突やら、不発弾や天然ガスの爆発といった説をはじめ、地底人の目覚めやUFOの墜落といった珍説まで。

 TVや動画サイトがさまざまな説を挙げて大賑わいを見せる中。恭二はオフィスの会議室にて、直属の上司である金髪の少女へとモニター越しに今回の件に関する報告をしていた。


『なるほど……つまり貴方は、民間人の子供に対し協力要請を行い、かの犯罪結社の秘密研究所に突入させたと?』

「ああいやソニアさん、一応、一人はライセンス持ち。もう一人も仮ライセンスを持っていてですね。そして強行突入の件につきましては、あの子たちが勝手に……」


 不機嫌さを隠そうともしないまま、刺々しい口調で恭二を責め立てる少女。

 そんな少女――ソニアに対し、言い訳を述べる恭二であったが……。


『ええい、言い訳しない! 聞けばまあ、その子たちは13歳と12歳だそうじゃない! そんな年頃の! しかも才能に満ち溢れた子たちが! 自分より弱い相手の指示を、素直に聞いてくれるわけないでしょう!?』

「は、はい……うかつでした……」


 当然のごとくその言い訳は切り捨てられ、落ち込む恭二。

 格闘家というのは総じてプライドが高く、特に自身より弱い相手に対しては、素直に従わない傾向が強い。

 職業柄、そのことは恭二もよく理解していた筈であったが――師である刹那が間に挟まったことや、また緋乃の幼い容姿が組み合わさった結果。ついうっかり、そのことを失念してしまったのだ。


『まったく……。まあ説教は後回しにするとして、封鎖と跡地の調査の方はどうなの?』

「はい、そちらに関しては実行済みです。残念ながら電子機器の類は全滅しており、他の研究所の位置やメンバーについての情報は得られませんでしたが……代わりに、彼らの装備を一部回収できました」

『どれどれ……。へぇ、新型の銃火器に特殊弾頭ですか。気を打ち消す特殊な金属? うわぁ、厄介な……。それに小型の多脚戦車に機銃搭載型のドローン……相変わらずレベルが高いわね……』


 恭二は追及が止んだことに、とりあえずほっと一息を吐くと、研究所跡地に送った調査班が得た情報をソニアへと転送する。

 ソニアは恭二より送られてきたデータに目を通しながら、その感想を述べていく。

 そうしてソニアが一通り資料に目を通したタイミングを見計らい、恭二は報告を続ける。


「また、確保した戦闘員の少年が着用していた新型のバトルスーツに関してですが……この少年曰く、通常の身体能力向上と防護服としての機能の他、近接戦闘用のデータもインストールされているんだとか」

『なんですって? じゃあつまり、そのスーツを着れば……』

「はい、素人でも達人級の動きをできるようになるとか。もっとも、電気信号で体を無理矢理動かす訳ですからね。負荷が大きかったりと問題点も多々あるらしく――更に肝心のスーツは破損してしまっているのですが」


 ソニアの上げた疑問の声に対し、あくまで理論上ではありますが、と前置きしつつ回答をする恭二。

 そんな恭二の回答を受け、ソニアはため息を吐きながら別の疑問を口にした。


『まあ、あっさりと情報を渡してくれるわけはないわよね……。それにしても、ずいぶんと口が軽いのですね。その戦闘員の少年とやらは』

「彼らによって改造手術を受けた強化人間らしく、身体能力こそ非常に高いものの技量は未熟。また扱いもあまり良いものではなかったらしく、他者とのコミュニケーションに飢えている様子でした」


 お喋り好きらしく、軽く誘導したら断片的な情報を次々と語ってくれましたよ、と語る恭二。

 そんな恭二の言葉を聞き、ソニアは頭を押さえながら、報告が始まってから何度目かのため息を吐いた。


『なるほど、使い捨ての戦闘員と言うわけですか……』

「そのようですね。既に脳内に埋め込まれていたマイクロチップは除去済みで、また本人の同意も得たので、更生プログラムの手続きを進めていますが……」

『構いませんわ。そのまま続けるように』


 恭二の発言に対し、少女はそのまま手続きを続けるようにと指示を出すと、ゆっくりとその目を閉じた。


『あっちで問題が起きたかと思えば、今度はこっちで……。はぁ……時間が足りない……』

(うーん。ソニアさんも疲れて余裕なさげだし……緋乃ちゃんのお母さんが怪しいってことは、まだ黙っておいた方がよさそうかな……?)


 疲れを露にするソニアを見て、恭二は師匠である刹那から得た情報について。

 緋乃の母親である優奈についての情報を伝えるべきか迷い……結果、また別の機会に報告することを決めた。

 確証の無い情報を伝えるべき時ではないと判断したためだ。


(不知火優奈という人間の経歴は、ほぼすべてが嘘だった。親や親戚も存在しないし、また学生時代の彼女を知る人間もいない。まるで人間が一人、突然生えてきたかのような……)


 本来なら、緋乃への救援要請の際に、親である優奈への説明と許可を取るのは必要不可欠。

 しかし、恭二は刹那からの指示があったとはいえ――その過程をあえて飛ばした。もしこの事実がソニアに知られれば、大目玉を受けることは確実。

 報告を先延ばしにしようとした理由に、それを恐れたのではないかと問われれば……まあ、確かにそれもなくはない。


(特に仕事をしている様子も無いのに持ち家があったり、異様にある貯金といい……まあ、やっぱり裏の人間なんだろうな。師匠はやけに例の結社(ユグドラシル)との関係を訝しんでいたけど……)

『あら、もうそんな時間? わかりました、すぐ行きます――すみませんが、時間が無いので今回はこれまでとします。とりあえず、今後はその少女たちには危険な依頼をしないこと! 相手は何でもありの犯罪結社。事が起こってからでは遅いのですよ!』


 恭二がぼーっと思索に耽っていると、ちょうど画面の向こう側で誰かがソニアに話しかけたようだ。

 ソニアはそのまま慌てた様子で恭二に指示を出すと、恭二の反応を確認することなく通信を切断。

 恭二は通信が切れた画面を見ながら、静かに一人ごちた。


「いや、そうしたいのはこっちも山々なんすがね……。人手と予算が……ハァ」


 ――またあの子に仕事頼んだら、多分怒られるよなぁ。

 でも俺らの戦力じゃ、今回の少年みたいな戦闘員に出会ったら即殺されるのがオチだし……どうしたもんか。


 年端も行かない少女に頼らなければいけないという現状には、確かに恭二も思うところがある。

 特に戦闘能力は確かだが、人の話を全く聞かない上に、ガバガバな自己判断で勝手に突き進んでいく緋乃に頼るのは、あまりよろしくはないだろう。

 しかし悲しいかな。せいぜい二流程度の腕前しか持たない恭二やその同僚たちでは、彼らの尻尾を嗅ぎ回ることが精一杯。研究所への突入など、夢のまた夢だ。

 

「愚痴っても仕方ない、か……。とりあえず、武闘派で協力してくれそうな人間を探さないとな。しかし奴らとやり合う可能性も考えると、やっぱり達人級の腕前は欲しいが……そうすると報酬がな……」


 恭二はブツブツと独り言を呟きながら、パソコンを操作して国内の強者をリストアップしたフォルダを開く。が、そのリストにある名前の大半は赤文字で書かれていた。

 説得、或いは勧誘の失敗を意味する色だ。

 いくら腕自慢とはいえ、得体の知れない犯罪結社と命がけで戦ってくれる人間は希少なのだ。

 まあ一番の原因は報酬の安さなのだが。


 恭二たちが嗅ぎ回っている、このユグドラシルという組織。極めて高い技術力を擁する割に、あまり表舞台に上がってこないのだ。

 どこどこの紛争の黒幕だとか、テロ組織やマフィアに武器を卸しているだとか、どこぞの国の闇の支配者だとか。

 黒い噂は絶えないのだが――肝心の証拠は滅多に残してくれない。残りそうな場合があっても、自前の戦闘部隊が出張ってきて、証拠を物理的に消し去ってしまうのだ。

 そんなわけで、ユグドラシルという組織に関しては、実はその正確な規模や目的はよく解っておらず――そんな組織の対策に大きな予算は裂けない、というのがお偉いさんたちの言い分らしい。


(でもこうして他の人間と比べると、やっぱり緋乃ちゃんのスペックって異常だよなあ……)


 パソコンを操作しながら、恭二が思い浮かべるのは緋乃という少女のことだ。

 一見すると小柄で細身な美少女だが、秘めたる力は最上級――いや、肉体が悪魔化していることを考慮しても、それでもやはり()()()()

 やはり師匠である刹那の言う通り、彼女自身が知らないだけで、実は改造人間なのかという考えが頭をよぎる。


「ま、とりあえず師匠の報告待ちだよな。本業のついでに監視してくれるって事だし……」


 娘である緋乃に対し、関係が疑われるユグドラシル関連の依頼を投げ――親である優奈の反応を窺うという、極めて単純な作戦。

 緋乃が勝手に研究所に突撃したことで、予想よりも大事になってしまった作戦だが……まあ最終的に誰も大怪我はしなかったので、結果オーライだろう。

 というかなんであの規模の爆発に巻き込まれて無傷なんだろう。外に逃げてた理奈ちゃんはともかく、緋乃ちゃんは爆心地にいたはずだってのに。超人かよ。いや悪魔だったわ。


「どっちにしろ、緋乃ちゃんママに殺される覚悟、しておかないとな……」


 リモート会議用の小さな会議室の中にて、恭二はため息を吐くのであった。

追い詰められたら自爆というコテコテのムーブが緋乃ちゃんにウケた結果、戦闘員くん生き残る。

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