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14話 研究所内部にて

「敵襲、敵襲ー! 警備部隊、さっさと出――あべし!?」

「お、女の子ぉ!? 随分と可愛らしい侵入者だなオイ!」

「見た目に騙されるな! 相手は凄腕だぞ! 撃て、撃てー!」


 閑散とした森の中にある、ユグドラシルの秘密研究所。

 その内部は今、怒号と発砲音、そして爆音が断続的に響き渡る戦場と化していた。

 その元凶である侵入者は、見目麗しいたった二人の少女たち。しかし、その少女たち――緋乃と理奈の戦闘力は尋常ではなく。


「待て、撃つな! 俺たちは味方だ!」

「わ、悪い! おかしいな、絶対こっちに来たと――うがっ!?」

「なっ!? なんで――ぶべっ!?」

「ふっふっふ、チョロいね。どう緋乃ちゃん? これが私の幻術だよ」

「ナイスだよ理奈。惚れちゃう」


 外で遭遇した彼らの仲間同様に、コンバットスーツを着用し、突撃銃を構えた警備兵。

 彼らは理奈の幻惑魔法によって動きを止められ、その隙を突いて振るわれた緋乃の脚に吹き飛ばされ。


「敵はこの向こう――うひぃぃ!? ド、ドリル!? なんだよコレ!?」

「お、おい嘘だろ……!? 防爆仕様のシャッターだぞ……!?」

「きぃーこ、きぃーこ……はい開通。わたしの尻尾、甘く見ないでよね?」

「しゃぶるとほんのり甘くて美味しいんだけどねー」

「う……もうやめてよね? あの時は、本気で頭がおかしくなるかと思ったんだから……」

「とか言いつつ、期待して尻尾振ってる緋乃ちゃんでした」


 防災兼侵入者隔離用の防爆シャッターは、ドリル状に変形させた緋乃の尻尾であっさりと貫かれた挙句に、そのままワイヤー部分で斬り開かれ。

 

「撃ちまくれ! 弾幕を張れ! 近寄らせるな!」

「全然効いてねえ! 平然と歩いてきやがる!!」

「馬鹿だね……こんな玩具(オモチャ)で、理奈の補助魔法を受けたわたしを止められるわけないのに」

「いや、いくら私の補助込みとはいえ、平気で無効化してる緋乃ちゃんがおかしいと思うなぁ……」


 逃げ場のない通路にて待ち構え弾幕を張り、接近を封じようとすれば――純粋な防御力に物を言わせて突破されて蹴り飛ばされ。

 そうして気絶した警備兵に、理奈が麻痺の呪文を撃ち込んで、意識を取り戻しても動けないよう無力化し。

 しばらくの間、緋乃と理奈による蹂躙劇は続き。研究所の内部に、警備兵たちの悲鳴がこだました。


「……にしても、結局正面突破かぁ。いや、油断して見つかっちゃった私も悪いんだけどさ」

「仕方ないよ。まさか、森の方にも監視カメラが隠してあったなんて普通思わないし」


 地下に降りる研究所の階段を我が物顔で歩む緋乃と、身を縮めながらその後ろに続く理奈。

 つい先ほど研究所の外で警備兵に襲われた理奈は、町にさっさと逃げ戻るか悩んだ末に、緋乃の洗脳を解除。

 もうバレてしまったのなら、証拠を隠滅される前に制圧すべきだという緋乃の意見に押され――こうして今、研究所の地下に続く階段を歩んでいるのであった。


「ところでさ、いくら秘密の研究所とはいえ……やけに警備の数多くない? かなり倒した気がするんだけど」

「訓練された人だけじゃなくて、普通の研究員も混じってたんじゃ? 数合わせで。どう見ても、銃に振り回されてた人とかいたし」

「あー、なるほどね。言われてみれば、確かにそうかも」


 地下へと続く階段をのんびりと降りつつ、和やかに話し合う緋乃と理奈。


「ってこれは……」

「緋乃ちゃん危ない!」


 そうして意気揚々と地下に下りた緋乃を出迎えたのは、全体的にスマートな形状をした、四つ足の自動兵器。

 屋内用ということだからだろうか。そのサイズはかなり控えめであり、小柄な緋乃よりもさらに小さい。

 しかし四脚の上に乗った胴体部分には、地上にいた警備兵が持っていた銃よりも大口径の砲門が備え付けられており――突然の遭遇に面食らった緋乃に対し、容赦なくその牙を剥いた。


守護結界(プロテクション)!」


 咄嗟に理奈が防御結界を張るものの――自動兵器より放たれたその砲弾は、理奈の張った結界をガラスのように粉砕。そのまま結界後方にいた緋乃へと襲いかかる。


「――!? このぉ!」


 迫りくる砲弾。それを目撃した緋乃の行動は早かった。

 大口径である為に拳では弾けない可能性があることを考慮し、素早く右脚を振り上げる。

 下から掬い上げるかのように放たれた緋乃の蹴りが、砲弾の軌道を無理矢理に変え――。


「てりゃあ!」


 それと同時に、自身が持つ唯一の遠距離攻撃手段である尻尾を、自動兵器目掛けて勢いよく射出。

 本気で放たれた緋乃の尻尾は、自動兵器のカメラ部分を的確に撃ち抜き。

 更にそのまま胴体部分をも突き破り、一撃のもとこれを沈黙させた。


「天井が……」

「対格闘家用の弾丸、だっけ? けっこうやるじゃん……」


 蹴り上げられた砲弾が天井を破壊し、パラパラとその破片が落ちてくるなか。

 予想以上の自動兵器の火力に驚愕の声を漏らす理奈。

 そんな理奈の声に対し、緋乃も同意を示していると――パチパチと小さな拍手の音が地下通路に響く。


「いやー、やるね君たち。P-73の主砲をかわすんじゃなくて弾くとか、正直ちょっと引くよ」


 緋乃たちが目を凝らすと、いつの間にか自動兵器の残骸の横に、金髪の少年が立っていた。

 見たところ15、6歳といったところだろうか。黒いボディアーマーの上からコートを羽織ったその少年は、興味深そうに破壊された自動兵器を観察しながら、緋乃たちに向かって声を投げかける。


「……!」

「おおっと! いきなり攻撃とか危ないじゃないか。躾がなってないねえ」


 金髪の少年に対し、緋乃は無言のまま尻尾を伸ばして刺突攻撃を繰り出す。

 だがしかし、少年はその一撃を軽快なステップで回避。

 勢い良く伸びた緋乃の尻尾は誰もいない廊下へと突き刺さり、コンクリートの床を粉砕するにとどまった。


「避けた!?」

「いやいや、こんだけ距離が開いてたら避けれるに決まってんじゃん。ちょっと僕たち舐め過ぎじゃ――いや、上の雑魚共を見てたらそう思っても仕方ないか」


 理奈の上げた驚きの声に対し、呆れ顔で反論する少年。


「僕はいわゆる、強化人間ってやつでね。パワーもスピードも、ただの人間とは比べ物にならないくらい引き上げられてるんだ。他の連中と一緒だと思って舐めてると……死ぬよ?」


 攻撃的な笑みを浮かべた少年が指を鳴らすと、通路の横に等間隔で並んでいた扉――恐らくは研究室への入り口だ――と、緋乃たちが降りてきた階段に隔壁が勢いよく落ちてきて、逃げ道を塞ぐ。


「――シャッターが!」


 退路を塞がれたことで、焦燥の声を上げる理奈。

 そしてそれと同時に、通路の奥の方から、先ほど緋乃が破壊した自動兵器。その同型機が2機、ガチャガチャという歩行音を響かせながら近寄ってきた。


「これで逃げ道を塞いだつもり? 言っとくけど――」

「まあ、君一人ならこの状況下でも逃げられるかもね? 君一人なら。でも今は、残念ながらそうじゃない」


 引き戻した尻尾をドリル状に変形させ、それを少年に見せつけるかのように高速回転させながら、口を開く緋乃。

 しかし、少年はそんな緋乃の強がりを見抜いたかのように、その整った顔に嘲笑を浮かべながら理奈へとその目を向ける。


「先に言っとくけど、地上の馬鹿連中を撹乱した小細工は効かないよ? この通路には多種多様なセンサーが設置されていてね。その情報は常に僕の脳内に――」

「ゴメンね緋乃ちゃん。私のせいで……」

「理奈のせいじゃないよ。地上の敵が弱いからって、調子に乗りすぎたわたしのせい」


 得意気な表情を浮かべながら、理奈の幻惑魔法は効かないということを語る少年。

 緋乃たちはそんな少年の自慢話を聞き流しつつ、反撃の機をうかがう。

 しかし少年だけならともかく、2機の自動兵器が追加された現在。そのような機会はそうそう訪れず――。


「さて、やり合うにしてもここはちょっと狭すぎる。もっといい場所が奥の方にあるから、そっちでやろうじゃないか……!」

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