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13話 発見

「おー、必死必死。……まったく、なんで弱い奴ほどナマイキなんだろうね。理解に苦しむよ」

『あはは、もしかしたらその猪も、緋乃ちゃんの可愛さにやられてたのかもよ? こんなかわいい女の子ならオレでも倒せるぜー、って感じで』

「そっか、かわいすぎるのも考え物だね……。ふふふっ」

『ふふっ、なんか緋乃ちゃんツボってて草』


 猪を追い払った緋乃たちは、雑談をしながら探索を再開。

 しかしこれといって特に怪しいものは見つからず、先ほど緋乃が定めたタイムリミットも刻一刻と近づいてくる。

 さすがにここまで来ると、緋乃と理奈の間にも諦めの雰囲気が漂い始め――緋乃が「予定よりも少し早いけど、ここらへんで切り上げよっか」と口を開こうとした、ちょうどその時。

 上空より森を観察していた理奈から、念話が送られてきた。


『……見つけたよ緋乃ちゃん。あっち。今の緋乃ちゃんから見て、左斜め前方に、茶色い建物』

「え、左斜め前? ……何もないけど?」


 緋乃は理奈の言葉に従って、理奈が示した方向へと目を凝らす。

 しかし、いくら緋乃が目を凝らしてもそんな建物は見つからない。見えるのは木だけだ。


「だろうね。私も通常の視界には映ってないし。ちょっと信じられないけど、光学迷彩とかそういうので隠してるんだろうね……。それより、とりあえず目標は見つけたけど……次はどうするの?」

「そだね……。とりあえず、その偽装を見抜く魔法ってわたしにもかけれる? わたしも確認したい」

「うん、まかせてー」


 目標物を発見した以上、上空に留まる理由はないとばかりに、理奈は飛行魔法を解除して地面へと降り立つ。

 そうして自身の横へと降り立った理奈に対し、緋乃は自分にも看破の魔法をかけて欲しいと要求。それを受けた理奈が何言か呟くと、緋乃の視界にもその茶色い建物が映った。

 木々の間に隠れるように建てられた、長方形の建築物。

 世界樹と思わしき大樹のエンブレムが飾られた、正門と思われる場所には見張りや警備員こそいないものの、複数台の監視カメラが設置されている。

 思っていたのよりも小さいのが気になるが……恐らくは地下にでも続いているのだろう。


「おー、見える見える。ありがとね理奈」

「どういたしまして。それで、次はどうするの? もっと近寄ってみる? それとも帰って報告?」

「うーん、時間は13時27分。まだまだ余裕あるね。んで、入り口はあそこか……。ふむぅ……」


 理奈の言葉を受けた緋乃は、スマホを取り出して現在時刻を確認するとそのまま顎に手を当てて考え込む。


「……ねぇ緋乃ちゃん。私達の役目はあくまで偵察。研究所の場所を見つけて、その情報を報告するのが仕事だよね?」

「うん、そうだよ。今日の目的はあくまで偵察」


 研究所の入り口をじーっと眺める緋乃を見て、何か嫌な予感でもしたのか。

 理奈は緋乃の左腕を両手で掴むと、今日の探索の目的を再度問いかける。

 

「うんうん、だよねー。……だったらさ、なんで、入口のほうに、歩いてるのかなぁ!?」


 しかし、理奈への回答とは裏腹に、緋乃は固く閉ざされた研究所の入り口へと、堂々と歩いていく。

 理奈はずりずりと引きずられながらも、緋乃に対し必死に抗議をする。が、緋乃はどこ吹く風といった様子で歩みを止めない。


「それはもちろん、偵察のためだよ理奈。せっかくここまで来たんだし、もっと情報を持って帰らないと勿体ないじゃん」

「嘘でしょ! ぜったい正面突破しようとしてるでしょこの脳筋! だめだって! 危ないから帰るよ緋乃ちゃん! ――それ!」

「えー、わたしなら大丈夫だよ。でも理奈は危ないから帰って――ふにゃ……」


 緋乃が本気で潜入という名の正面突破を行おうとしていることを察した理奈は、緋乃に対し精神操作の魔法を行使。

 左手に魔法受信体(指輪)を嵌めている緋乃は、理奈の洗脳呪文から逃げ出すことも出来ず。

 緋乃の表情がとろんと蕩けたようなものへと変化し――。


「――っは!? 危ない危ない! もう、なにするの理奈!」


 いざ完全に堕ちるという寸前で、なんとか踏みとどまることに成功する。

 魂が悪魔化した影響で、常人以下だった精神操作耐性が上昇した結果だ。


「ああ、無駄に上がった耐性が仇に! いいから、大人しくしててよぉ……!」

「あ、理奈やめ――ふにゅぅ……」


 ギリギリのところで理奈の精神操作を跳ねのけた緋乃であったが、それを確認した理奈は即座に次の手へと移行。

 素早く胸ポケットから魔法発動媒体であるカードを取り出し、これを発動。

 先ほどは緋乃の不意を打つため、精度の下がる無詠唱呪文を発動していたが今度は違う。

 きちんと正規の手順を踏んで発動した洗脳術は、十全の威力を発揮し――理奈の魔法を警戒して気を張っていた緋乃の意識を、一瞬で奪い去り完全に支配した。


「よしよし、上手くいったね。まったくもう……いくら緋乃ちゃんでも、正面から突っ込んでったら危ないに決まってるじゃん。さ、帰るよ緋乃ちゃん。ついてきて」

「了解しました」


 理奈の支配下に置かれた緋乃は、感情の宿らぬ声で理奈の命令に返事をすると、踵を返した理奈に従って歩を進め――ようとして、その動きを止めた。

 今まさに来た道を戻ろうとしていた理奈が、動きを止めて振り返ってきたからだ。


「……ねえ緋乃ちゃん、お姫様抱っこしてくれる? 道は私が指示するから」


 身も心も完全に理奈の支配下に置かれ、無表情のまま佇む緋乃。

 理奈はそんな緋乃を見つめ、数秒ほど考え込むと……そのまま緋乃に対し新たな命令を下した。


「了解しました。それでは失礼します」


 緋乃は理奈の命令に従い、理奈へと歩み寄るとその体を抱きかかえる。

 お姫様抱っこという体勢の性質上、緋乃の顔と理奈の顔との間が一気に縮まり――至近距離で自身の顔を見つめてくる緋乃に対し、理奈はその頬を赤らめる。


「おおぅ、すっご……。緋乃ちゃんの可愛くも凛々しいお顔が近くで見れるし、いい匂いもするし……最高だよ……」

「お褒めの言葉、ありがとうございます」

「ぐへへ……役得役得。よし、それじゃ町に向かってしゅっぱつしんこー! あ、ゆっくり丁寧に歩いてね? 時間かかってもいいから。いやむしろ時間かけていいから」


 理奈はそのまま、緋乃の胸元に顔をぐりぐりと押し付けると深呼吸。

 薄手の生地越しに緋乃の感触と匂いをたっぷりと堪能すると、緋乃に町へと戻るよう命令を出し――。


「いやいや、お楽しみのとこ悪いが……そういう訳にはいかねえんだよな」


 研究所の関係者と思われる、男の声に呼び止められた。

 

「――!? 緋乃ちゃん後ろ!」

「おっと、妙な動きはするんじゃねえぞ? 新しく開発された、特別製の弾丸だ。いくらなんでも、お姫様抱っこ(そんな体勢)じゃ避けれねえし防げねえだろ?」


 緋乃に振り返るよう指示する理奈であったが、緋乃がその命令を実行するよりも早く、もう一人の男が突撃銃(アサルトライフル)を構えたまま理奈の前方へと姿を現す。

 迷彩服を着こみ、フェイスガードとゴーグルを着用した特殊部隊風の男だった。


「あ、あはは……。は、初めまして? お兄さんたち……」

「ああ、初めましてだな」

「いいとこのお嬢さんだけあって、礼儀正しいじゃねーか。うちのクソガキ共にも見習って欲しいぜ」


 男たちの反応や目的を窺う為にも、とりあえず挨拶をしてみる理奈。

 すると以外にも、男たちは快く挨拶を返してくれた。どうやら、すぐにズドンと撃たれるわけではないようだ。

  圧倒的優位な状況からくる慢心か、それとも実験台として狙っている、緋乃に対する人質としての価値をこちらに見出しているのか。

 思っていたよりかは話の通じる様子の男たちに、理奈はほっと息を吐く。


「ねえ。も、もしかしてさ。もしかして……見られてた系だったり……?」

「ああ、バッチリとな。目の保養になったぜ、ご馳走さん」

「やはり、美少女同士の絡みは絵になるな」


 恥ずかしそうに呟かれた理奈の言葉に対し、男たちは笑いながら返事をする。

 もっとも、フェイスガードとゴーグルでその表情は見えず。

 なによりその銃口は、油断なく緋乃と理奈に向けられたままではあるが。


「出歯亀代として、見逃してくれちゃったりとか、そんな感じのアレは……」

「悪いが無いな。そんなことしたら、こっちがどやされちまう」

「ああ。それにあの程度じゃあ、見逃す代金にはならねえな。……さあて、怪我したく無けりゃ、俺たちに着いて――」

〈フゴォー!〉


 見逃して欲しいという理奈の要求に対し、男たちは当然のごとくそれを却下。

 銃口を理奈へと向けたまま、グリップを握っていた方の手で研究所を指し示した――その直後。

 理奈たちから少しばかり離れた茂みより、一匹の猪が出現。そのまま男たちに対し、威嚇行動を取り始めた。


「なんだァ? ずいぶんと生意気なヤツだな」

「チッ、この前の生き残りか? 面倒臭えな……」


 まるで男たちに対して恨みでもあるかのように、毛を逆立て、唸り声を上げる猪。

 そんな猪を見て、男たちは不快そうな声を上げる。


「まったく、こっちは忙しいんだよ。おねんねしてな――」


 そうして男たちの注意が猪へと逸れ。うち一人が威嚇行動を取り続ける猪を始末しようと、銃口をそちらに向けたその瞬間。


「うりゃぁぁぁぁ――!」


 理奈は自身へと銃を向ける男に対し、素早く腕を構えると渾身の魔力を解き放つ。

 理奈の掌に形成された魔法陣より、青白いエネルギーの奔流が放たれ――。


「グオァ――!?」


 圧倒的優位な状況だからと、油断していた男へと直撃。

 周囲に生える木々ごとその体を勢いよく吹き飛ばし、はるか後方に生えていた大木へと叩きつける。


「なっ! このガキ――ぎびっ!?」

「……排除、完了」


 仲間がやられたのを見て、もうひとりの男は大慌てで銃を理奈に向ける。

 が、しかし。男が発砲するよりも早く、勢い良く射出された緋乃の尻尾が男の銃を両断。

 その勢いのまま男の胴体を貫き、その意識を消し飛ばす。


「あ、危なかったぁ……。幻術に引っかかってくれる間抜けさんたちで、本当に助かったよぉ……」

ガバ耐性の緋乃にとって理奈は天敵。

精神支配以外にもありとあらゆる搦手がぶっ刺さるので、理奈vs緋乃は10:0の詰みダイヤ。

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