凍花の世界 祈りの少女
すべての花が凍ってから、
もう一年の時が過ぎた。
人々は案外慣れたけれど
花に寄ってくる蜂たちは
ずうっとずっと 泣いていた。
氷点下しか出ない世界になって、
人々はずっと真冬を生きていて、
一年中暖房をつけることを余儀なくされた。
ある日突然こんな世界になるなんて
思ってもいなかった人間たちだけれど、
少しずつ順応していって、
いつしか異常は当たり前になった。
常識は簡単に流れていく。
常識は水のように変化していく。
凍った花の美しささえ
まるで目新しくなくなった。
凍った花びらは
ナイフのように
触る人間を傷つけた。
しんしんと全ての国に降り積もる雪と
永遠の真夜中のような暗さが
一年中続いていた。
花壇は冷たい祭壇のよう。
植木鉢は氷の玉座のよう。
どうしても暖かい日差しに戻れない。
ある日突然世界は真白の雪に覆われて
青空は全て漆黒の夜に変わってしまった。
もう、どうしてもあの頃に戻れない。
たくさんの人が 雪で死んだ。寒さで死んだ。
頭の良い人たちが 対策を講じてくるけれど
それでも 世界に太陽が戻ることはなかった。
暗い。冷たい。怖い。寒い。
どんなに苦しくても 奇跡は何一つ起きなかった。
ある日突然動かなくなる。
寒さが全てを奪っていく。
また人がひとり 動かなくなってしまったこと
人々は見飽きて 当たり前に流す。
外は氷の花畑と
アイススケートのリングのような道路と
屋根に積もった 白く重い絶望に
包まれている。
恐ろしく美しく雪は
一秒 一秒ごとに 人々の希望を奪っていく。
どんなに止めたくとも 止められない。
どんなに苦しんでも 止まらない。
昔は太陽が出ていたことさえ 今はもう信じられない。
こんなにも簡単に 当たり前が死んだ。
どうか どうか せめてこんな時に
人までが冷たくならぬよう
小さな少女が祈ってる。
低い体温の手のひら
指先を組み絡めて
祈っている。