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キミは可愛い私の天使 【初恋シリーズ《思い付き置き場》】  作者: 神山 りお


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8/9

8 昼食会



 ハウルサイド侯爵家では、朝早くから慌ただしく家令達や侍女達が動いていた。

 昼食会を兼ね我が侯爵家で、娘シャーロットのお披露目があるのだ。

 だが、それは表向き。本来の狙いは、夫ルーフィスが事前に選定したシャーロットの婚約者候補を絞り込むため。

 まだ幼き子だけで資質は分からない。しかし、子は親の鏡である。

 親を見れば子がどう育っていくのか、過程が分かる。横柄な親であれば横柄な子に。暴力的な親なら、その子も拳を上げるのは至極自然になる。

 娘と結婚すれば、その親は親戚にもなる。見定めなければ、娘が不幸になるだけでなく、我が家にも害が及ぶというもの。

 子を見れば親が分かる様に、親を見れば子も分かるのだ。

 勿論、一概には言えないが、資質は引き継ぐ。見ておいて損はない。

 そんなハウルサイド家の思惑を知らずに、今日、幼い子を持つ者達が集まるのであった。





 ◇◇◇




 ただのお茶会ではなく、昼食会にしたのは当然意図がある。

 シャーロットのお披露目が主ではあるが、仲良く会食するだけの為のモノではない。

 親と子のマナーを見る為。

 フォークやスプーンなどのカトラリーの使い方から始まり、子供の行儀、食べ方、談笑する時の仕草。

 全てにおいて、家令や侍女達……そして、夫でありハウルサイド侯爵ルーフィスの目が光っていた。



「シャーロット様は、まだ赤子でありながら気品が溢れていますわね」

「フィーナ様。そのお召し物はマウルのドレスではありません?」

「あら、美味しいわ。このワイン」



 談笑をしている夫人をチラリと見れば、確かにルーフィスの言った事が良く分かった。

 口に物が入っているのに喋ったり、口を開いて咀嚼音が気になる者。そもそも、ちぎったパンが散らばったりよく溢し、挙げ句床に落とす者。

 見える所にいる我が子が、食べ物で遊び始めても注意しなかったり、隣の子の食べ物を取っても気付きもしない。

 食事が終わり、子供達は自由に庭で遊んでいいと許可を得れば、なお子の性格が分かった。



 侯爵家の庭園は、毎日手入れをし花々は綺麗に咲いている。その花を摘むのであっても、一言欲しいと言えばいいのに、草花を勝手に毟ったり垣根を棒で叩いて葉を散らしたりしている。

 これにはフィーナも苦笑いが漏れてしまった。

 後で庭師が知ったら、嘆きそうである。

 それだけでなく、何が楽しいのか同じ年頃の女の子の髪を引っ張り、泣かせたりしている子までいるではないか。

 いくら子供のする事とはいえ、泣く子を見て笑う者などフィーナは許せなかった。サド気質を持ち合わせた子など、我が子の夫に必要ない。

 フィーナはそっと、彼をシャーロット婚約者候補から除いた。


 

 親は他の夫人と楽しそうにしていて見てもない。

 さすがにその女の子が可哀想だ。フィーナは注意した方がいいだろうと、足を動かした所で可愛い声が聞こえた。

「やめなよ。泣いてるだろ?」

 しっかりした口調で止めに入っている幼い子がいたのだ。

 5歳くらいにしか見えないのに、やけに大人びて見える。まるで、我が夫の小さいバージョンの様な、似た雰囲気さえ感じた。




 ーールーフィス様の……??




「母の妹の孫だよ」

 まさか、隠し子。実は前妻との間に子がいたのかと、勝手に勘違いする妻フィーナの背後から、苦笑いする夫の声が聞こえた。

 どうやら、声に出さなくてもフィーナの考えなどお見通しの様だ。

 となると、ルーフィスは母方の血筋が色濃く出ているのだろう。

「あら、シャーロットの再従兄妹ですか?」

「そうなるね」

 夕食会に呼んだのだが、早くに来たのかと、ルーフィスは小さく笑っていた。

 親族のお披露目会はこの昼食会が終わり、ひと息ついた夕食時にしてあったのだ。

 シャーロットの誕生を喜んでくれていたみたいだから、彼は先に来たのだろう。そうルーフィスは笑っていたのだ。



「んだよ! うるせぇな!」

 そんな話をしていると、シャーロットの再従兄妹にあたるカイルは、乱暴を働いていた子に絡まれていた。

「大丈夫? キミはお母さんの所に行くといい」

 しかし、カイルはその男の子を無視して、庇っていた女の子を母の元へ逃そうとしていた。

 先に女の子を逃そうという、その心遣いまでルーフィスに似ている。

 というか、これで本当に5歳なのか疑うくらいに、しっかりとしていた。

「は? お前、カッコつけんなよ!!」

「嫌がる女の子をイジめて、何が楽しいの?」

「うるさいな! お前にはかんけいないだろ!?」

「関係あるかないかはともかく、みすごすのは男のかざかみにおけないからね」

「はぁ!?」

 カイルが冷静なのはスゴいが、その冷静さが返ってイジメっ子を煽ってしまっている。

 大丈夫なのかと、フィーナがハラハラしていると、ルーフィスが「大丈夫」だと言う様な笑みを見せた。



 それでも、何かある前にフィーナは止めておこうと身構えていれば、カイルはそのイジメっ子の近くに顔を寄せ、何か口にした。

 ーーその瞬間、イジメっ子がカイルの頬を思いっきり殴ったのである。



「バカにすんじゃねぇよ!!」

 さらに、カイルに殴りかかろうとした所で、騒ぎを聞きつけた夫人達が走り寄って来たのであった。

「何をしているの、ボレス!!」

 その中には、イジメっ子の母の姿もあった様だ。

「やめなさい!! "2人とも"!!」

 そう言ってボレスを止めたボレスの母だったが、木の陰から見ていたフィーナは思わず眉を顰めてしまった。

 "2人とも"なんて、まるで殴り合いでも止めるかの様な言葉ではないか。カイルは一切手を出していなかったのに……だ。

 そこは2人ともではない。悪いのはボレスただ一人である。




「何しているの!?」

 ボレスの母が息子を困った様子で問えば、ボレスは母の手を振り払ってカイルを睨んだ。

「コイツがオレをバカにしたんだ!」

「なんーー」

「女の子をイジメるなって言っただけでしょ?」

 暴力を正当化するボレスに、カイルは口を拭いながら溜め息を吐く。

 ボレスの母が息子に何か言う前に、カイルは先に被せて消してみせた。

 母が庇って何か言えば、ヘタをしたら子供のした事だと揉み消されるのを分かって、先に誰か悪いのか言ったのだ。




「イジメてなんかいねぇよ!!」

「うん。正確に言えば"イジメ"ではないよね」

「ほら、みろ!!」

 ボレスは自分に殴られ、カイルもやっとどちらが悪いのか分かったのかと、顎を上げ鼻で笑った。

 だが、暴力で怯え屈した訳ではなかった。

 カイルは服の汚れを叩きながら、ニコリと笑いこう返したのだ。




「だって、"しょうがい罪"だもん」と。




「は?」

 傷害罪とは何か分からないボレスは、目を丸くさせていたが、周りはすぐに察したのか息を飲んだ。

 幼い子供が話す話ではないと。

「彼女の髪を引っ張ったのも、ボクを殴ったのもりっぱな"ハンザイ"だよ?」

「はぁ?? 何を言ってんだお前」

 子供なら、そう言われても分からないのが普通だ。

 何せ子供がやる事は、それが例えどんな犯罪行為だとしても、"イジメ"として片付けられてしまうからだ。

 髪を引っ張るのは勿論、殴る行為は傷害罪だし、人の食べ物を承諾なしに奪えば窃盗である。

 まぁ、食べ物に関して言えば、大人でも訴えたりしないけど。



「子供でも、やって良い事と悪い事ってあるのしってる?」

「……」

「人をなぐるのって、良い事だと思うの?」

 殴られてもなお、カイルの冷静な態度にボレスだけでなく、駆けつけた大人達も押し黙っていた。

「そ、それはお前が……」

「……子供同士のケンカでしょう? ボレスも悪いとは思うけど、ここは仲良く終わりましょう?」

 不味いとでも思ったのか、ボレスの母が2人の間に入り笑って誤魔化していた。

 子供同士のケンカなので、喧嘩両成敗にしましょうと。



「ふぅん。ボレス"も"なんだ?」

「えぇ、そうよ?」

 カイルの言葉が何を意味するのか理解出来ないボレス母は、何か可笑しな事を言ったのかと、小首を傾げながら苦笑いしていた。

 所詮、子供のした事だ。笑って済ませば良い事だろうと。

 だが、それは甘かった。

「なら、先にあやまっとくね?」

 とカイルが良い笑顔で笑ったので、ボレス母はホッと胸を撫で下ろした。

 のだが、カイルはボレスの頬を力一杯に殴ったのである。




「「きゃあぁ!!」」

 夫人達から、小さな悲鳴が上がった。

 まさか、カイルまでもが殴るとは思わなかったのである。

「な、な。ウチの子に何をするのよ!!」

 ボレス母は慌てて、吹き飛んだ息子に駆け寄り抱き締めた。

 何故、我が子をこの子は殴るのか理解に苦しむ。周りが見ているにも関わらず、カイルにもの凄い目を向けていた。

「何って、おばさんの子供と同じ事をしただけだよ?」

「は?」

「子供がした事なら、ゆるしてくれるんだよね?」

「はぁぁ?」

 ボレス母は、目を驚愕に揺らせながらも、カイルを再び睨んでいた。



「だって、おばさん。ボクは手を出してないのに、ボレス"も"悪いって言ってたよね?」

「そ、それがなんなのよ!」

「"が"なら分かるけど、"も"って言う事はボクも悪いって事なんでしょう? だから、同じ事をしたの」

「はぁぁ!?」

「子供のした事だから、ゆるしてね? おばさん」

 そう返して、カイルはニコリと微笑んだのであった。

 良識ある大人達は、カイルの言葉に黙ったままだ。

 どちらが悪いかなんで、見ていなくとも分かる。先程まで、カイルの顔は赤く腫れ、ボレスは無傷だったのだ。

 ボレスが一方的にカイルを殴り付けていたのは、一目瞭然であった。

 なのに、ボレス母はカイルも悪いと終わらせ様としていた。それにカイルが怒ったのだろう。



「は? 許す訳がないでしょう!? ウチの子を理由もなく殴っておいて、子供のした事で終わると思うの!? あなた確かホッチナー家の子供よね? たかが男爵家の息子が、子爵家の息子を殴って、ただで済むと思うの?」

「「貴女ねぇ!」」

 自分の子供のした事は棚に上げまくって、カイルは悪いと罵るボレス母に、見兼ねた者達が反論しようと口を開け掛けたその時ーー。




「ただでは、済ませないって何かな? ゲイツ子爵夫人」

 それまで物陰で静観していたルーフィスが、歩み寄って来たのである。

「それは、勿論ーー」

 家から抗議だけでなく、と言い掛け青褪めた。

 カイルの父が来たのかと鼻で笑っていたが、来たのはハウルサイド侯爵だったからだ。

「勿論、何かな?」

「……」

 男爵なら身分を嵩に掛けれるが、侯爵は完全に分が悪い。

 常識がないボレス母にも、それは分かる様だった。



「カイル君が殴ったのは悪くて、貴女のご子息がこの子を殴った事は良いと?」

「……」

「それではまるで、身分の高い者は低い者に暴力を振るっても良い事になるけど、そういう解釈でいいのかな?」

「……い、いえ、あの」

「となると、貴女より身分の高い者達は、ご子息を殴る権利が発生するのだけど……この先、ご子息は大丈夫なのかな?」

「ひっ!」

 ルーフィスの良い笑顔に、ボレス母は悲鳴を上げてしまった。

 こんなに恐ろしい笑顔を見た事がなかったからである。




「「「……」」」

 ルーフィスの正論と笑顔に、皆は固まっていた。

 身分を嵩にしていた者達は、自分の息子を心配して震え上がり、身分の低い者達は目に涙を溜めていた。

 息子や娘が同じ目に遭ったものの、この親の介入に泣き寝入りした者もいたらしい。

「ゲイツ子爵夫人」

「は、はい」

「子供だろうと大人だろうと、人に怪我を負わせれば罪に問われる。それを今日、改めて知ったよね?」

「……ぅ、あ、はい」

「あぁ、それは良かった」

 "キミの息子が犯罪者になる所だった"と、ルーフィスはボレス母にだけ聞こえる様に口にし微笑んだ。

 ボレス母は色んな意味で、唇を噛んでいた。

 我が子だけが悪いみたいで悔しいのと、侯爵家を敵に回したと言う事実に噛まずにはいられなかったのだ。




「ボレス君。まずはアナ嬢に言う事があるよね?」

「はぁ?」と言い掛け、ルーフィスの笑顔にボレスまでもが震えた。

 ルーフィスが髪を引っ張られてしまったアナを側におき、ボレスにニコやかにもう一度訊いた。

「……わ、悪かったよ」

 ルーフィスだけでなく、周りの大人達の冷たい視線に耐えきれず、さすがのボレスも諦めて口にする。

 だが、それは強制であり反省はない。

「何が悪いか理解出来ているよね?」

「か、髪を引っ張ったことだろ」

「うん。今は子供だから許してもらえたけど、それは傷害罪という罪なんだよ。キミは"頭の良い子"だから、次からは"人間の屑"みたいな事、勿論しないよね?」

「……と、当然だろ」

 頭の良い子と言われ、悪い気のしないボレスは最後は素直に頷いてみせた。

 ボレス母の矯正は無理かもしれないが、まだ息子には余地がありそうである。但し、この母次第な気がするが。




「ボレス。ボクも悪かったよ」

 それを見ていたカイルは、自ら誤りボレスに握手を求め右手を出したのだ。

 皆は、その姿勢に驚愕していた。

 自分だったら絶対に出来ないし、恨みを抱く可能性しかない。

「……」

 その手をジッと睨み、一瞬叩こうかとボレスは悩んだ。

 だが、母の複雑そうな目より、上から妙な圧がある事に気付くと、ボレスはその手を嫌々ながらに握った。

「カイル君に何かーー」

 言う事は? と更に圧が掛かり、吐き捨てる様にボレスは口にしていた。

「悪かったよ!!」

 ボレス母は息子が謝った事に驚くと同時に、不納得そうにしていた。

 ここまでの騒ぎになったのだが、殴り付けた息子は悪くないと、まだ思っているのかもしれなかった。




「さあ、皆様。子供の"些細な"なケンカはありましたが、どうぞ私の顔を立てて見逃して頂きたい」

 ルーフィスがそう言い、フィーナと共に頭を下げれば、皆は笑って何もない事にしたのだ。

 何故なら、身分の高い者が低い者に頭を下げる事は絶対にあり得ない。

 しかも、自分の子供のした事でもないのにである。

 侯爵夫妻が頭を下げているのに、それに異を唱える者がいる訳もなく、その身分に胡座をかかない低姿勢のハウルサイド夫妻の株と、カイルの株が爆上がりしたのだった。

 逆に、ゲイツ子爵夫人の株は地に落ちたのは言うまでもなかった。





 皆の帰り際には、お詫びの品まであったのだから、ますますハウルサイド家の評判は上がっていた。

 あんな事があったにも関わらず、皆は晴れやかな笑顔で帰路に向うのだった。

 後日、アナの家には、それとは別にルーフィス夫妻直々の謝罪の手紙と品が。

 そして、ボレスのゲイツ子爵家には、釘を刺す意味も込めたルーフィスからの手紙と品が送られれば、憤慨していたボレス母ももう黙るしかなかったという。





 ちなみに、カイルの両親は後からその事を知り、夕食会でルーフィスに謝罪する姿が。

 カイルは赤ちゃんというモノを早く見たくて、親の許可を得て先に一人で来ていたのである。




 そんな騒ぎがあったのにも関わらず、シャーロットは泣きもせず、皆を笑顔にする姿があったのだった。







大変、お久しぶりでございます。

シャーロットが誕生した時に完結させれば、まとまっていたのになと苦笑いしたのは私めでございます。^_^


まだブクマが付いている事に驚き、背中を押して頂きました。

お読み頂き感謝しております。


しかし、糖分が欠けた話になってしまった。

 反省 _| ̄|○


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