4 我が主 〈使用人視点〉
やっと我が侯爵家ルーフィス様に新しい……いえ、本当の奥様を迎える事が出来た。
正直いうと、もう諦めていた。
夜会に行ったところで、楽しそうな素振りは全くない。
それとなく、ルーフィス様の両親が良家の令嬢や未亡人を屋敷に連れて来ても、相手が虜になるだけで我が主は涼やかにしていた。
女性の私共が言うのはいかがかとは思うが、侯爵家という立場なのだから、寧ろ適当に遊べばイイのに……と溜め息が漏れた事もある。
男色ではないとは思うが、女性の影が見えないのも怖い。
侯爵家の皆が完全に諦めていた時、1人の女性と親しくしているらしいと耳にした。
どうせ女性を近付かせないための、パフォーマンスだろうと半信半疑だったが、どうもオカシイ。
ならばと、ルーフィス様の父は、彼を兄と慕う従兄弟の娘サリーを使って調査した。
そして、最近常に一緒にいる女性の存在を確認したのだ。
わぁっと、ハウルサイド家が歓喜に沸いた。
だが、虫除けの可能性もあると、皆一様に静観する事にしたのである。
そんなある日の朝食時。
ルーフィスは紅茶を飲み終わり、仕事に行くついでの様にこう言った。
ーー再婚を考えている相手がいる、と
詳しく!! と皆が騒ぐ中、ルーフィスは手をヒラヒラさせて仕事に行ってしまった。
その後、我が侯爵家では、内心狂喜乱舞だったのはルーフィス様は知らない。
余り煩くすると再婚する気がなくなる可能性が高い。
しかし、聞きたいイヤ駄目だと皆はニヤけながらも我慢した。
耳にしたその夜、使用人達が集まって、ワインで乾杯したのも今思うと懐かしい。
ルーフィス様が自ら選んだ女性を楽しみに、皆が心躍らせていたのもあの頃だ。
前の奥様は、政略とまではいかないが、恋愛ではなかった。
素行が良く、あちらの親も問題ない方だった。
何より前奥様がルーフィスに一目惚れした。それ故の打診だった。少しばかり派手な女性ではあったが、貴族では普通の事。
ルーフィスは彼女に好意を持っている気配はなかったが、それも時間が変えるだろうと思っていた。
しかし、使用人の1人と消えた。
我が主ルーフィスは自分が愛せず歩み寄れなかったせいだと、優しい言い方をしているが、私共から言わせてもらえば、彼は彼なりに頑張っていた。
結婚前も後も贈り物は欠かさずしていたし、色々と気遣いもしていた。
確かに、そこに気持ちがあったかと言われれば確実に否と言える。
だからといって、男を作り逃げて良い訳がない。
ちゃんと話せば、驚くくらいにすんなり離婚出来ただろう。ルーフィス様は慰謝料など請求しないし、責めたりもしない様な方なのだから。
現に、妻が浮気していなくなったのにも関わらず、夫婦の問題だからだと、相手側の責任を一切問わなかった。
ルーフィス様の両親は憤慨していたが、それをも一蹴したのだ。
前奥様が無事に過ごせるのも、その家族や親戚が無事なのも、ルーフィス様のおかげだと彼女は知っているのだろうか。
愛情ではないにしても、責を問わないのもある意味では愛ではないだろうか? まぁ、無関心とも言えるのだが。
結局、ルーフィス様を愛していたと言ったあの方は、ルーフィスという1人の男を、何一つ理解していなかった。
ルーフィス様は基本、執着心がない。
それは、人や物に対してもである。
弟が生まれた時から、自分の持つモノを弟にすべてあげても良いと考えているフシがある。
弟が欲しがるのなら、私共使用人も熨斗を付けて渡していたに違いない。
爵位にしても、長子だから継ぐのはオカシイと思っている程だ。弟でも妹でも素質や気質がある方が継げば良い。
勿論、サポートはする用意はあると。
例え、長子が継がぬ事で、あらぬ噂も流れ小馬鹿にもされたとしても、基本的に気にはしないのが我が主。
それでも、少しくらいならルーフィス様は無視するだろうが、執拗となれば含み笑いを浮かべこう返すだろう。
『私が愚者かどうか、その身を以て試されるかな?』
実際は弟が爵位を継いだとしても、ルーフィスを知る人ならば、馬鹿にする輩はいない。
ルーフィスをただの優男だと思っている時点で、その御家などたかが知れている。笑ってあしらわれるのがオチだ。
大体、節度を知る彼だからこそ、首の皮一枚で繋がっている家も多々あるのだ。彼を知る周りの方が先に、苦言を呈するに違いない。
だが、そのタガを外す鍵を見つけてしまった人物がいる。
そのルーフィス様の鍵束を、いつどう使うかはその人次第だ。
その鍵を無意識に手にした奥様を、存外一番警戒しないといけないのでは? と密かに思う使用人達なのであった。




